第2回情報入試全国模擬試験解説
辰己丈夫先生 放送大学 教養学部 准教授
1.情報教育改善の切り札としての情報入試
最初にご理解いただきたいのは、情報処理学会や、私が関わっているいろいろな研究グループ等で情報入試関係の活動をしている一番大きな目的は、情報教育が重要であることを世の中、特に高校の先生方に伝えることです。初めに情報入試ありきではなくて、「情報教育をきちんと行わないと日本が駄目になる」という危機意識があり、それを解決するにはいくつかの手段がありますが、情報入試はその選択肢の一つであるということです。
実際に情報教育の改善のために、先生方は授業の工夫をされたり学会に参加したり、あるいは教科書や副読本の執筆に関わったり、と様々な活動をしています。授業であれば、「情報を勉強すると、将来こんなことに役立つ」ということが、先生から生徒・学生に伝わっていると思います。また、情報処理学会をはじめとする様々な学会や自主的な研究会で、研究や調査も行われています。しかし、最近この情報入試という選択肢を進めるのが一番の近道ではないかと自分なりに思っているところです。
2.2016年の情報入試実施に合わせたスケジュール
情報入試研究会の活動は、入試スケジュールを鑑みながら行っています。現在の高校の学習指導要領は2013年からスタートしていますが、この課程の教育を受けた生徒が大学入試を受験するのが2016年の1月、2月です。そうすると、2014年3月には各大学が「情報入試を実施する」という表明が欲しい。そのためには、2013年6月には、入試に関する基本データを持っている必要があります。ということは、遅くとも2013年6月には最初の模擬試験を実施していなければならないということで、昨年(2013年)6月に第1回の模擬試験を行いました。ただ、模擬試験をいきなりするのは大変なので、その前に試作問題を2012年の10月に発表公開しました。この試作問題(#001)は、模試として実施はしませんでしたが、このような問題を出題したいということで、高校の先生方や大学の研究者の方などいろいろな方に意見をうかがいました。ここでいただいたご意見をもとに、実際の模試でどのような問題を出題すれば受験者の能力を測ることができるかを検討しました。
第1回模擬試験(#002)は、2013年6月に実施しました。この結果については、秋のジョーシン(2013年10月26日、早稲田大学)で公開しました。この時は、全国5つの会場と団体受験で約80人の受験者がありました。実施した時期が6月ということもあり、高校1年生で受験した人は、高校の情報をまだ1~2か月しか勉強していないので、成績はよくありませんでした。このことから、模試は年度末に近い2~3月に行った方が良いということがわかりました。
3.第2回模擬試験(#003)実施概要
第2回模擬試験(#003)は、2014年2月に実施しました。高校では「社会と情報」と「情報の科学」のどちらか一方を履修しますが、情報教育の目標の3観点(情報活用の実践力,情報の科学的理解、情報社会に参画する態度)のうち、「社会と情報」では「情報社会に参画する態度」が、「情報の科学」では「情報の科学的理解」が重視されています。つまり3観点のうち、2つは重点的に行っていても、もう1つはあまり行われていない可能性があります。しかし、模擬試験では3つの観点の全てをカバーするように出題して、受験した生徒がどのように理解しているか、していないのかを見ました。ここまで難しい問題を出したら全く答えられない人が続出するかもしれない、ということも想定しました。さらに、どのような問題を出すと得点が良い散らばり具合になるかとか、どのような内容や出題の方法は避けるべきなのか、ということについても感触を探りました。
今日は、今お話したような点について、第2回模擬試験の問題を解説します。問題は情報入試研究会のホームページに掲載しています。
(模試の解答用紙、正解と配点、採点基準を掲載しています。)
第2回模擬試験の参加は920人でした。第1回は80人でしたから、10倍以上ということになります。さらに、今回は、団体受験で高校が15校参加してくださったので、受験者のうち約900人が高校生となり、高校生の実態を反映したデータを取ることができました。
4.第2回模擬試験(#003)各問題の解説
第2回模擬試験は、前回の試験で「高校では連続して90分の時間は取れない」という意見をいただいたことに対応して、高校の授業内で受験しやすいように出題問題を半分ずつに分け、各45分のセットA ・セットBの2セットで実施しました。セットA・セットBのどちらも、「情報の科学」と「社会と情報」の両方を領域の問題を出しました。
【セットA 解説】
■第1問
第1問は「情報の科学」「社会と情報」の共通問題で、小問4問から成ります。
問1は、二進法の問題です。「情報の入試といえば二進法」と思われがちですが、最初にあるとどうしても目立ってしまいます。しかし、基本中の基本であり、できてほしい問題です。
問2は、サンプリング周波数と量子化ビット数の計算問題です。
問3は、ウェブサイトのボタンやリンクの位置、ナビゲーションデザインに関するものです。高校生は良く出来ていました。
問4は、TCP/IPの知識問題です。これは知識があれば解けますが、知らなければ解けない典型的な知識問題です。
■第2問 プログラミング
第2問ではプログラムを書かせます。まず例として、この4行を表すプログラムが、解答群を使用して、ア、ク、セ、コ と示してあります。
問1では、正の整数Aを入力した時に、1からnまでの2乗の出力するプログラムを、解答群から選んで作らせました。これは整数の2乗の和を計算することを、手順を追って組み立てられるかを訊いています。
問2は、1、22、3、4444、5、・・・のように、表示する数字の個数の規則を奇数と偶数で変えて表示する数列を作るプログラムを作る問題です。
別解がたくさん出ると、採点が大変です。そこで、以下の注意事項を付記して、別解を封じる工夫をしました。
上記に則って、第2問の問1・問2の解答欄には太線が入っています。
つまり、こちらが想定した解答であれば、選択肢の個数は太線の中に納まります。この太線を超えても良いですが、それは別解になって部分点になります。
問1
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問2
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■第3問 アンケート実施に関する問題
第3問は「情報社会に参画する態度」を扱うもので、典型的な「社会と情報」の問題です。問題作成にあたっては、何をテーマにするかを議論しました。情報を使って社会学的な活動をする時に起こる、様々な問題を訊こうというものです。
問1の3つの選択肢の立て方は、どこが不都合なのでしょうか。これはMECE(ミーシーもしくはミッシー、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの 略)と言われる、重複なくすべてをカバーできるように選択肢を作っていくという考え方とモデルの問題です。
問2は、アンケートの質問の仕方に関する問題です。これは、質問の仕方にバイアスがかかっていて、「中毒」という言葉を見てしまうと、回答者があまり長時間の選択肢を選びにくくなりますので、この解答例は、「『ネット中毒』に言及すると、実際より時間を少なめに回答するおそれがあるから」になります。
問3は、アンケートで集めたデータがどのように解釈できるかを問う問題です。
問4では、アンケートを紙ではなくwebで行うとすると、どのような問題があるかということを訊いています。
これらがアンケートに関する問題です。
「社会と情報」を入試問題で扱う際には、単なる知識問題ではなく、考えて解く問題の一つのやり方として、実際の活動を記述して活動の問題点を指摘したり、改善案を訊くというものがあると思います。
【セットB 解説】
■第1問
第1問は「情報の科学」「社会と情報」の共通問題で、小問3問から成ります
問1は、パスワードの強度です。
問2は、情報伝達媒体(メディア)の特徴の分類です。これは、メディア自体を知っているかということと、それを明確に分ける観点があるのかということを訊いています。
問3は、数学のパズル系で、手数をビット数で表す問題です。
■第2問
第2問は、航空会社のポイントサービスをテーマにしていますが、データベースのフィールドをいかに選択するかという、データベース設計に関する問題です。
■第3問
緊急地震速報のシステムに関する長い文章があり、その中に線を引いたり穴をあけたりして、それについて線の理由を訊いたり、穴埋めをしたり、間違いを直させたりするという問題です。これは、センター試験の政治経済や倫理社会で出されている出題形式をほぼ取り入れています。この形式は、第1回の試作問題でも似たような出題をしています。
「情報社会に参画する態度」ですので、「社会科」のような知識・理解も必要です。実際、こういう問題がないと受験生は得点を稼げないという認識があります。政治経済や地歴公民で訊いている方法が情報の模擬試験の中に入れば、受験生が抵抗なく、しかも正確に能力が測れるだろうと想定しました。結果的に、良い成績でした。
問1の解答の選択肢では、この選択肢を読むだけで答えられるものもありますが、社会常識的な知識を知らないと答えられない部分もあります。ですから、単に文章を解釈しただけでは満点にはなりません。知識と思考力の両方を問う問題です。
問3、問4、問5は、穴埋め問題や具体的に記述する問題です。緊急地震速報のシステムがいかに運営されているかを40字以内で述べるものです。
5.受験者や参加大学を増やすために
情報入試模試の受験者には、「受験証明書」が発行されます。いくつかの大学では、これをAO入試の提出書類に添付することで、「情報」についての成績の証明と見てもらえることになっています。
今後は、情報入試に参加する大学がもう少し増えて欲しいと思いますが、現状では、それほど加速度的に増えるという感じではありません。しかし、最近いくつかの大学から情報入試研究会に問い合わせや資料集送付依頼のメールが来るのですが、それが教員個人からだけでなく大学の入試課事務担当の方からも来ています。つまり、その大学が組織的に情報入試を検討し始めて、資料を欲しいと言っているのではないかと思います。こういった大学が、「うちもやろう」と言っていただけるようになれば、参加する大学もどんどん増えてくるのではないかと思っています。