ネット依存の予防は「知ることこそ護身術」

<ネット依存相談の窓口から>

第3回 逃げられない同調圧力。集団の外側からの助けも必要


子どもたちがLINEにはまるのはなぜか。そのわけをたずねてみると、第1回でお話したとおり、おしゃべりが楽しいからとか、メッセージや画像のやり取りに便利だからというのが一番の理由のようです。しかしそれだけで、LINEに依存する子どもたちの数が社会問題となるほど膨れ上がるものではないでしょう。問題の本質は、前回指摘した「みんながやっているから、自分もやらないわけにはいかない」という心理的プレッシャーの存在ではないでしょうか。ひとつ事例を挙げましょう。

 

 

夜通しのLINEがやめられない

 

【事例3】
高校3年生のDくんは、いつもLINEをしている数人の仲間と一緒に、「オール」の記録づくりに挑戦していました。グループで夜通し(=オール)トークして、それを何日続けられるか、チャレンジしていたのです。途中で「寝落ち」したら、翌日はみんなの使い走りとしてパンを買いに行くなどと罰ゲームも決めたりして、これはかなり楽しい遊びでした。

 

ところがそのうちに、Dくんは連日の徹夜がたたって体調を崩してしまい、それに伴って部活の成績も低迷。結果的にレギュラーの座から補欠に落ちて、高校生活最後の試合で活躍するチャンスを逃してしまったのでした。

 

そして部活の引退後には本格的な受験勉強が待っているわけですが、この時期になってもまだDくんはトークで夜更かしを続けています。今度は、勉強に関して質問したり、答えたりすることで、グループ内で自分の存在が認められるのがうれしくて、そして、ある意味、優しさや責任感からやめられないのです。また、なにより、もしやめたらグループのみんなはどう思うだろうと考えると、抜け出すことができない…。彼らにとってはLINEのつながりは、そのままリアルでの人間関係。地雷を踏むとそれがきっかけでリアルでも仲間外れになってしまうのでは、と想像して不安になり、やめようという意思など掻き消えてしまうわけです。

 

Dくんは、部活と同様、学業の成績も低迷しています。

 

 

同調圧力から逃れることは簡単ではない

 

「みんながやっているから」というプレッシャー、すなわち「同調圧力」が、子どもたちのLINE依存に拍車をかけている一因であることは明らかです。グループ内の子ども一人ひとりがそれぞれに「周囲の意見に合わせなくてはいけない」「仲間外れになりたくない」と思えば思うほどやめにくくなるわけです。

 

Dくんたちにとって、オールをやっているグループが一緒に遊んで楽しい場所であり、そこに所属していたいと強く思うほど魅力的な集団だということは確かでしょう。しかもオールで記録をのばすと、グループ内の友達や、他の同級生からも注目され、リアルな場で自分の存在を誇示できます。友達が「お前すごいな」と言えば、その言葉は快感となり、それもやめにくい気持ちにさせていきます。

 

今の子どもたちは強い孤独感がゆえに、SNSでつながりたがります。ところがつながることで、さらに孤独に対して弱い自分になっていくという、マイナスの連鎖をひき起こしています。学校生活において、どこのグループにも属さない、いわゆる「ぼっち」になるというのは心理的に不安定なものですから、絶対にそうなりたくないと思うのです。

要するに、Dくんにとって、またおそらくはDくん以外のメンバーにとっても、くだんのグループは自分を認めてほしいという欲求を十分に満たしてくれる居心地のよい集団なのです。同調圧力の強さも相当なはずです。彼らがその強力な同調圧力から逃れられなくても、それは不思議なことではありません。

 

 

不安を生み出す状況が問題

 

もしかしたら「みんなに合わせてLINEをやらない程度のことで仲間外れになるものだろうか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし実例を挙げると、これは子どもたちから聞いて驚いたのですが、文化祭や体育祭の役割をLINEのグループの中で決めてしまうということがあるのだそうです。LINEをやっていない子や、そもそも携帯やスマホを持っていない子はそっちのけで、実際のクラスでの話し合い以前にすべてが決まってしまっている。また、部活の朝練の待ち合わせ時間を夜のうちにLINEのトークで決定、そしてLINEをやっていない子が朝起きて他の仲間からの連絡に気づいたときはもう遅刻だった、ということもあるそうです。

 

こういったことが日常的に身の回りで起こっているのですから、子どもたちが「LINEをやめる、イコール仲間外れになる」「情報から取り残される」という観念にとらわれるのも仕方ありません。

 

実際に仲間外れにされるかどうかではなく、「LINEをやめたら仲間外れになるかも」という不安――この不安を生み出す状況がすでに子どもたちのあいだに出来上がっていることも大きな問題なのです。

 

 

グループの外側から助けの手を

 

「みんながやっているから」という同調圧力は大人が思う以上に強く子どもたちに働いています。そしてDくんのような状況にある子どもが、自分の意思でその強い心理的拘束から逃れることは大変困難です。だからこそ前回述べたように、周囲の大人が、同調圧力の働いている集団の外側から、助けの手を差し伸べることが必要です。

 

たとえばその一歩として、知識として、LINEなどのSNSツールの活用方法や「振り回されることで心身共に疲弊してしまう」というリスク面を、学校で子どもたちに教えておくほうがいいでしょう。疲れの原因がデバイスやアプリ(ソフト)にあることは子どもたちもぜひ知っておくべきです。それからスマートフォンやSNSを快適に利用するためにはどうすればいいのか、子どもたちに議論の場を与えて、ルール作りにまで話を進めることは少なからず効果的です。「深夜のLINEは相手も迷惑かもしれない」「長時間のトークは相手の貴重な時間を奪っているのかもしれない」と相手の目線に立つ姿勢や状況に応じた会話、デバイスとの距離のとり方について、教師と生徒でともに考える機会を持つといいでしょう。

 

取材などで中高生にいろいろ話を聞いてみると、最近のネット依存傾向にある子どもたちは、時間の使い方に関して何を優先すべきか、自分でもわからなくなっているケースが目立ちます。主体的に使っているつもりでも、実はまわりに振り回されている、そのことに気づいていない場合も多いようです。ですから、子どもとの話し合いの中ではまず、スマートフォンやSNSの適切な利用について、頭ごなしに注意したり大人の考えを押し付けたりするのではなく、ある程度の方針や目安を示すのがいいと思います。

 

◇プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー