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「情報」入試宣言

2020年、ビッグデータの時代を生きる高校生のために ~待ったなしの改革が、今まさに動き始める

村井 純 (慶應義塾大学 環境情報学部長、情報入試研究会共同代表)



ビッグデータこそ、地球を救う! ~日本人は、データを扱う力を持てるのか

 

慶應SFC(慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部)では、2016年から、入試に「情報」を導入することをめざしていますが、その年に入学してくる彼ら彼女らが、大学を卒業する2020年はどういう年になるでしょうか。


現在は世界人口の約30%が、インターネットユーザーです。ちなみに日本は約80%です。これまでの推移を見ていると、このあとは、世界的にも一気に普及が進むはずです。世界人口も、現在は70億人強ですが、2020年には80億人を超えているでしょう。そのうちの80%はインターネットを使っているだろうと私たちは予想しています。


インターネットを使うということは、世界のあらゆる人々、あらゆる情報とつながっているということなので、どんなことでもたいてい調べられるということです。私は今、内閣関係の会議で、「データを全部オープンにして、世界中で利活用できるようにしてください」と一生懸命働きかけています。この面で日本はかなり遅れています。日本におけるデータの利活用を早くできるようにしていきたいと思いますが、同時に世界中がそれをしていく必要があります。


そうすると多くのデータは、インターネットを介していつでも入手できるわけですから、そのデータを引き出して、どう分析して何がわかるか。こういった作業を通して、世界に貢献できることがものすごく増えてくる。我々の国を良くするのも、これだと思います。


日本人は、このあたりに関する秀でた力を、2020年までに持つしかない。


この国が生き抜く上でも必要ですし、地球全体としても必要な力です。既に地球の北極の氷は融け始めています。北極の氷が融けているのは、グローバルに地球環境を計算できていないことが、大きな要因です。しかし、近いうちに、誰もがそういうデータにアクセスできるような世の中になります。そういった時代を生きる高校生のための話を、私たちはしているのです。


つまり、今、申し上げたような力を、彼ら彼女らがつけられるようにしないといけないのです。そのための改革は、待ったなしで進めていかないといけないのです。

 

「情報」の大学入試こそ、教育改革へのメッセージ

 

皆さんが、おっしゃっているように、現状では、その力を上げていく体制を作るのは、いろんな困難があるかもしれません。そしてそのための初めの一歩をどう進めていくかということについては、いろんな方法があるとも思われます。ただ、その中で入試というのは1つの社会メッセージです。ですので、そこで何をしていくか、については、やはり問題意識を共有している人が、連携して力を合わせ、前に進んでいってほしいと思います。


ここでは、逆算の発想こそ、必要です。


では、今何をやるのかということですが、今日のコンセンサスは、「メッセージ」です。高校に伝えなければいけないさまざまなメッセージがあります。何を教えるのか、どのようなキャリアパスがあるのか、どういった問題を解くのか、どういう力を日本人は持つべきなのか、どういう教育を実行するべきなのか等々、いろいろな点での課題があります。

 

しかし、本日この場では「入試の問題で何を表現するか」が共通メッセージなのです。つまりこの試みが、1つのメディアだと言えます。


私たちの「こういう問題を作りたいと思う」という発信。これは、塾・予備校にとってはどういうメッセージになるのか、ぜひお伝えください。


また、高校は、こういう入試の内容を、授業で教えるためには、高校教育はこうじゃないといけないと、言ってください。


私が聞いている限りでは、文部科学省は、大学入試センター試験なのか別の試験なのかはよくわかりませんが、現在「試験のあり方を考える」と言っています。一方で、高校のカリキュラムの変更も検討が始まっています。「10年後の高校の情報のカリキュラムをどうするか」というような議論がすでに始まっています。

 

これからの数年間は、歴史を超える時

 

ですから、この改革の動きを、何とかして良い方向に持っていかねばなりません。

 

そのために、この「情報入試研究会」で、取り組みたいのは、入試問題のあり方やそれへの対応に関して、それぞれの立場で「どういったことを表現できるのか」について、考えていただきたいのです。共通の目的のもと、それぞれの想いを込めた議論を交わすことで、状況は前に進んでいくと思います。


経験の蓄積がとても大切です。ただし、数学や英語の入学試験の歴史とは違い、「情報」は非常に短い時間の中で、経験をしていく必要があります。つまり、圧縮して経験をする。それも情報らしくていいじゃないですか。短い間にものすごく圧縮して、大きな成果を挙げていければいいと思います。


夢を大きく持ち、挑戦し続けていけば、必ずいろいろな扉が開くはずです。国の政策面に関して、できることは私自身も含めて全力で働きかけていきましょう。「次の世代にはどういう力を持ってほしいか」という我々に共通する想いを、ぜひ一つにし、形にしていっていただきたく思います。


※本メッセージは、2013年3月3日に筑波大学東京キャンパスで行われた情報入試研究会の閉会の挨拶として話された内容です。

 

●村井 純先生プロフィール

むらい じゅん。1955年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部学部長、同学部教授

 

1984年、東京工業大学総合情報処理センター助手時代に、東工大と慶應義塾大を接続した日本初のインターネット「JUNET」を設立。以来、インターネットの技術基盤や活用の発展に関わり続け、「ミスター・インターネット」と呼ばれる。英語中心だった初期のインターネットを、日本語をはじめとする多言語対応へと導いた。1990年の慶應義塾大学環境情報学部(SFC)創立から、従来の大学教育の枠を超えて、最先端のサイエンス・テクノロジー・デザインを駆使し、人文・社会科学との融合をはかる教育の実現に尽力。教育哲学者、音楽史学者を両親に持ち、そして自らが情報工学を学んだという、幅広い、独自の視野のもとで、後進を育成、サービス系の新たな産業も含め、時代を切り拓く優れた人材を数多く輩出している。