New Education Expo2016
となりの学校ではICT活用どうしてる、何してる
iPadをフル活用して課題探求・グローバル教育の可能性を広げる
山梨英和中学校・高等学校 近藤美和先生
本校は、少し前のNHKの朝ドラの主人公、村岡花子さんが英語を教えていた学校で、現在、私も英語を教えています。今年で127周年を迎えた、キリスト教主義の中高の一貫女子校です。私は今年度、中学2年の担任で、中学2年生の英語と高校3年生のリスニングの授業も担当しています。
私は校務分掌では、ICT教育の推進を担当するiProjectというチームのリーダーをしています。本校では中学2年生からiPadを個人所有し、それの前段階として中学1年生から学校のiPadを徐々に使っています。
それから保護者と生徒の両方にICTリテラシー、モラルなどの啓蒙活動なども行っています。全学年の利用促進を働きかけるのも任務の一つだと思っていますので、校内で他の先生から、例えば「iPadで撮った写真をクラウドに移したいんだけど全然移らない、どうするの?」という電話がかかってきたら、自分の仕事の手を止めて、笑顔で答えるように心がけています。笑顔で、というのがポイントです(笑)。
また、生徒たちの情報委員会の顧問をしており、iPadを活用するためのワークショップなどを生徒と企画して、少し遊びの要素も入れながら行っています。今回は、本校がSSH指定校であり、またユネスコスクールにも加盟認定されておりますので、その取り組みについてもご紹介します。
本校のiPadの導入は5年前に始まりました。オーストラリアの学校との姉妹校締結式の時に、そこの生徒が一人1台iPadを持つという話を伺ったのがきっかけです。2013年度に中学3年生が姉妹校に7週間滞在することになっていたので、当時の3クラスのうちの1クラスをiPad個人所有の先行クラスと位置付け、彼女たちが中学2年生になる2012年度に保護者負担で個人所有を始めました。
続く2013年度には先行クラスと同学年の他の2クラスと、1学年下の中学2年生が個人所有となりました。その後は、中学2年生の年初にiPadを購入してもらっています。今年度、2016年度は先行クラスの学年が高校3年生になったので、ようやく完成年度になりました。卒業学年なので、進路がどのようになるのか、ちょっと期待しているところです。
校内には、12年度に先行クラス以外の生徒も使えるように、コンピューター室にiMacを入れ、またiPad教室という教室を設けて、そこにiPadを揃えました。今も当時と同じiPadを使っています。
校内のWi-Fi環境も整備しました。また、iPadの画面を生徒たちがスクリーンに映し出すプロジェクターやApple TVを整備したのですが、問題点もあります。まず、プロジェクターやモニター、Apple TVは予約制なので、持ち運びや手間がたいへんです。授業の間の休み時間が5分しかないので、設置や片付けに時間がとられることがネックとなって、諦めてしまうこともあります。また、バッティングが重なると、導入に積極的でない先生方には、さらに面倒だと思う気持ちにつながってしまうことはあります。
SSH・ユネスコスクールの教育活動で
本校は、2013年度にSSH指定校になりました。SSHの研究テーマは、国際性を高めるプログラムの開発、ICTを活用したプログラムの開発、環境への意識を高めるプログラム、それから課題探求型カリキュラムの開発、キャリア教育プログラムの開発、そして本校は女子校ですので、女子に特化した指導方法の開発、大学や研究機関と連携したプログラムの開発の7つのテーマです。この7つに関しては、もともと取り組んでいたものを、SSH指定を受けたことでさらに強化したという形です。
また、2012年にユネスコスクールに加盟認定されましたので、英語教育や国際交流を通して、文化の多様性を尊重する姿勢を育む努力をしてきました。ボランティアや環境教育により、持続可能な開発のための教育・ESDにも取り組んでいます。ESD (Education for Sustainable Development)とは、生徒が環境や貧困、人権、平和、開発といった諸問題に身近なところから取り組むことによって、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動です。本校では、SSHの研究・開発テーマに加えて、ESDも教育の大きな柱として、高校生でグローバルスタディーズという授業を開設しています。
生徒たちがiPadを使っている使用事例です。これはSSH指定クラスの生徒が、物理の現象を小学生にもわかるようにプレゼンするという授業の時、シャルルの法則を説明したKeynoteの画面です。iPadで撮影した実験動画を入れるなど、工夫を凝らして準備をしました。
こちらは現在高校2年生の生徒が、今年4月に Apple Store銀座でプレゼンした時のものです。彼女はSSHの課題研究として、自己相似性を持つフラクタル図形の中の、充填ジュリア集合について研究をしており、Mathematicaというソフトを使ってプログラミングをしています。彼女は、「自分の思考力を頼りに試行錯誤をした時の喜びは最高です」と本当にうれしそうに伝えてくれました。
ラズベリーパイでプログラミングの学習も
山梨英和大学から先生に来ていただいて、小型で自由度の高いパーソナルコンピュータのラズベリーパイ(Raspberry Pi)を使用して、自分たちの教室の環境を測定して、暖房や冷房の使い方をすぐに見直すことができる装置の作成にチャレンジしました。高校2年生の生徒は「一から始めたラズベリーパイで、自分が作ったプログラムがうまく動いた時はとてもうれしい」と言っています。昨年の12月のコンピューターサイエンス教育週間に合わせて実施したHour of Codeでは、学年を超えて、課題解決に向けて時間を忘れるほど集中している生徒たちを見て、感心しました。ここでは、スフィロという小さなボール型ロボットをiPad上のプログラムで動かしています。2個しかないので、チームに分かれてボーリングしたり、障害物競争したり、踊らせたりしていました。
iTunes Uを教材配信に活用
本校では、iTunes Uを様々な授業で活用しています。iTunes Uというのは、iPad上で日本を含む世界26カ国の大学の講義・講義資料を閲覧できる無料のアプリで、教員や生徒が自分でコースを作ることができます。本校では、これを授業の教材配信に活用しています。
iTunes Uのメリットとして、文書や音声、写真、pdf、動画など、さまざまな形式の授業を配信できることがあります。また、生徒が自分に合った方法で理解をさらに深めるための教材として、さらに一部の授業では反転授業の手法としても取り入れています。課題の提示や課題の提出もコース上で完結しますので、iTunes Uコース自体がマルチメディアポートフォリオとして機能しているとも言えます。
iTunes Uのアプリを開くと、登録したコースの一覧が出てきますが、昨年は試験的にSSH報告会のコースを作って案内図やタイムスケジュール、成果の発表などの資料などの配布物を載せ、iPadやiPhoneなどのiOS端末をお持ちいただいた来校者に見ていただけるようにしました。もしかしたら、ペーパーレスで来校者をお迎えする日も遠くないかなと感じています。
本校独自のグローバルスタディーズという授業でも iTunes U を利用しています。グローバルスタディーズでは、高校1年生と2年生が週に1回授業を受けていますが、批判的思考(クリティカルシンキング)を身に付けるための課題研究を行っています。
これは、グローバルスタディーズの授業でゲストスピーカーをお呼びして、それから学びを深めた時の様子です。モンゴルで環境教育を行っているNGOからゲストの方をお招きし、お話を聞いたところ、モンゴルではゲームを使って環境教育が行われているということを知りました。では、自分たちならどんな工夫をしたら小学生に環境のことを教えることができるのかを考えて、カードゲームをしようということになりました。それで、カードゲームの案もすぐに作りました。Keynoteで、ぱぱぱっとカードの絵と原稿を作ってしまいました。
相手を思いやるコミュニケーションを通して国際理解の姿勢も育てる
本校では国際理解教育にも力を入れており、留学生を送り出すとともに受け入れるなど海外にネットワークを築いています。2011年度に姉妹校プロジェクトと連動して導入したiPadが、生徒たちに英語や英語以外の外国語をより身近な存在に感じさせていると思います。またコミュニケーションを取るにも、単なるQ&Aではなく、相手のことを想像し、配慮することができる姿勢を育てることに役立っていると感じています。
時差がほぼないオーストラリアの姉妹校の生徒たちと、iPadにあるテレビ電話アプリのFacetimeを使って会話もしています。教員に対しては見せてくれない、いい笑顔をして話しています。「今日はこれで終わります」と言った時に、「先生、もう1回やりたい。次はいつ?」という反応が必ず返ってくるのがこのFacetimeの授業です。
Facetimeでは、ただ話をするだけで終わりではなく、自分が話した内容を記録しています。これをクラウドで共有することで、友だちの記録も見られるので、会話のスキルもどんどん上達しています。
オーストラリアの姉妹校に研修に行く際は、事前だけでなく、研修の最中、それから終了後もiPadをフル活用しています。これは、オーストラリアの独特な言い回しに慣れるために、YouTubeで言い回しを学んでいるところです。生徒たちは、現地でも体の一部のように使っていました。
現地では研修日誌を書きますが、これもクラウドにアップロードしますので、日本にいる教員がリアルタイムで読むこともでき、現地での楽しい瞬間も、涙が出そうな瞬間も共有できました。終了後のレポートも、現地での記録を元に作成しています。
高校2年生のSSH指定クラスでは、ドイツへの研修旅行もあります。環境先進国であるドイツへ行き、環境への取り組みや政策を学ぶことで、環境に対する興味、関心、知識が大きな成長を遂げていることを感じます。報告会でも画像を含めて、データが一元化されているiPadを使用しながらプレゼンテーションをしていました。ドイツ研修前は、担当の教員がiTunes Uでドイツ語会話の基礎を入れておいたもので練習して、ホストファミリーとドイツ語での会話をするのに役立てていたようです。
先日高校3年生のリスニングの授業では、オバマ大統領の広島スピーチを扱いました。まずCNN Student NewsがPodcastになっているものがありますので、それでオバマ大統領が広島に来るというニュースをリスニングして、その後、YouTubeでスピーチを聞きました。話に出てきた単語にチェックを入れるとか、ディクテーションするという活動をしました。これは、時間をかけてじっかりと理解を深めたいなと感じたスピーチでした。
部活動でも活用しています。美術部の生徒がストップモーションいうアプリを使ってアニメーションを作ったり、語学部の生徒は台本の作成を行ったり、複数の運動部が練習や試合の様子の撮影に活用しています。
関西大学中等部高等部の理科の先生から、授業の様子をiPadのiCloud写真共有で共有しているというお話を伺いました。教員は忙しくて、同じ校舎内にいてもなかなかお互いの授業を見に行くということができませんので、生徒のいい表情とかノートとか、生徒の「わかった!」という瞬間がわかるようなものを共有できるように、どんどん投稿していきたいと思っています。「いいね」ボタンやコメントも付けられますので、こういった写真共有から教員の中で何かが始まるような気もしていますので、これから仕掛けていきたいと思っています。
◆となりの学校ではICT活用どうしてる、何してる
羽衣学園高等学校 米田謙三先生
<実践報告>
Google Classroomを活用し、個に応じた学びの環境を実現
鎌倉学園高等学校 小林勇輔先生
徹底したインフラ構築とオープンソースのシステムとで、ICT利活用の理想郷を作る
佐野日大中等教育学校 ICT教育推進室室長 安藤昇先生
羽衣学園高等学校 米田謙三先生
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