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全国高等学校情報教育研究会 全国大会 第6回京都大会
教科「情報」11年目の進展~情報教育の深化~
全国高等学校情報教育研究会の第6回全国大会が、2013年8月9日(土)・10日(日)の2日間、京都大学(百周年時計台記念館・学術メディアセンター)で開催されました。
全国高等学校情報教育研究会は、各県で高等学校における情報教育を研究・推進する目的で設置された高校情報科教員の研究団体です。全国大会は、全国の情報教育関係者が一同に会し、講演、研究発表、ディスカッションや情報交換を通して、これからの教科「情報」のあり方を考えたり、課題を共有して解決の方策を探ったりすることで、実践的に指導力の向上を目指すことを目的に2008年に始まり、今年6回目となります。
北は北海道から南は沖縄まで、全国からのべ320人の先生方が集まり、猛暑に負けない熱い議論が繰り広げられました。
全国高等学校情報教育研究会 http://www.zenkojoken.jp/
<プログラム>
◆第1日 8月9日(金)
・総会
・開会行事
・開会のことば
川浪重治氏(京都市高等学校情報教育研究会会長・京都市立堀川高等学校校長)
・会長あいさつ
牛来峯聡氏(東京都高等学校情報教育研究会会長・東京都立大崎高等学校校長)
・大会実行委員あいさつ
能城茂雄氏(事務局長・東京都立三鷹中等教育学校主幹教諭)
・来賓祝辞
喜多一氏(京都大学国際高等教育院 副教育院長・学術情報メディアセンター教授)
砂田浩彰氏(京都市教育委員会事務局指導部学校指導課主任指導主事)
・基調講演
西垣通氏(東京経済大学教授・東京大学名誉教授)
・ライトラングトーク
・ポスターセッション・企業展示
・教育懇談会
◆第2日 8月10日(土)
・分科会
・講評講演
永井克昇氏(文部科学省初等中等教育局視学官)
・閉会行事
基調講演
「文と理を結ぶ情報教育」―基礎情報学からのアプローチ
西垣 通氏(東京経済大学教授・東京大学名誉教授)
開会行事に続いて、東京経済大学教授・東京大学名誉教授の西垣通先生の基調講演が行われました。文系の情報学と理系の情報学を結ぶ「基礎情報学」の視点から、情報技術と人間の生き方・社会のあり方の望ましい関係について話されました。
生命体である人間にとっての「情報」と、コンピュータで機械的に処理される「情報」は同じものではありません。しかし、その違いを踏まえた上で情報技術を活用することで、人間の持つ力を確実に大きくすることができます。人間と機械の理想的なコラボレーションとはいかにあるべきか。そのために教育では何をするべきか。ビッグデータ時代を目前にした今だからこそ、考えるべきなのです。
ライトニングトーク
今大会で初めて取り入れられたライトニングトークでは、2日目に開催される分科会の発表者を中心に、20人が登壇し、1人3分の持ち時間で講演内容を次々に発表しました。日頃の授業で鍛えられたプレゼン技術を駆使した、講演の要旨のわかりやすい説明に、会場は大いに盛り上がりました。
ポスターセッション・企業展示
ポスターセッションは、前半(12組)と後半(13組)に分かれ、日頃の教育実践や研究成果を来場者に直接説明する形で行われました。実際に生徒が使う教材を使って授業の流れを体験したり、旧型のパソコンを使ってコンピュータの構造を説明したり、10年後の情報教育がどうなっているか、来場者が投票したり…とユニークな展示が多く、どの展示でも活発なディスカッションが繰り広げられました。企業は16社が展示ブースを出展しました。
◆あえて図書館貸出記録を用いたデータベース教育の提案
~情報社会とプライバシーを意識させることができる格好の素材
和歌山大学附属図書館 特任助教 岡田大輔先生(元 情報科非常勤講師)
◆今どきの中高生のスマホ・ソーシャル利用実態調査報告
~和光中高生1074人に聞きました
和光高等学校 小池則行先生
◆高等学校における大学生主体のネットリテラシー訪問授業
デジタルネイティブの先輩だからこそ教えられる! インターネットの光と影
学生団体UniX 中山裕介氏(横浜国立大学 工学部電子情報工学科 UniXでの役職は渉外)
分科会
2日目の分科会は、第1~第5の5つのグループに分かれ、各グループ6人、計30人の発表が行われました。日頃の授業での工夫や試行錯誤を、実例を挙げて発表される先生が多く、どの会場も戸外の暑さに負けない熱気に包まれていました。
分科会は下記の5つです。
第1分科会 システムの活用
第2分科会 情報の科学
第3分科会 情報モラル
第4分科会 情報活用の実践力
第5分科会 教育課程・評価
◆スマートフォンの活用法 高校生熟議 in Osaka&Tokyo
~内閣府、文部科学省、総務省で高校生がリアルにプレゼンテーション
羽衣学園高等学校 米田謙三先生
<第1分科会>
◆普通教科情報におけるプログラミング学習カリキュラムの開発
~ArduinoによるフィジカルコンピューティングとiBook AutherによるiPadデジタルテキストの活用
京都光華中学校/高等学校 竹中章勝先生
<第2分科会>
◆中学・技術での「計測と制御」を高校・情報の科学での「アルゴリズム」につなげる
~ライントレースカーの走行プログラム作成で理解を深める展開へ
千代田区立九段中等教育学校 田崎丈晴先生
<第2分科会>
◆話し合う情報モラルの授業実践
~生徒の主体的な取り組みを引き出し、自らの情報発信を見直す行動へ
聖母被昇天学院中学校高等学校 岡本弘之先生
<第3分科会>
◆情報を活用し情報社会に参画するためにデータベースを科学的に理解する学習
~「社会と情報」でもぜひデータベースの授業を!
近江兄弟社高等学校 長谷川友彦先生
<第4分科会>
◆21世紀型スキル育成に向けた高校情報科での授業実践と授業評価
-著作権授業におけるCSCLを活用した授業の取り組み-
早稲田大学高等学院 荒巻恵子先生
<第5分科会>
講評講演
「これからの情報教育」~情報教育を支え、担っていただく皆様へ~
永井克昇氏 (文部科学省初等中等教育局視学官)
閉会に先だって、文部科学省初等中等教育局の永井氏の講評講演が行われました。今回の大会で共有したいキーワードとして「わかる⇔できる」「経験知⇔理論値」「個業⇔協業」などを基調講演や分科会発表等に即して話されました。
これらのキーワードは、「もし小中学校で情報教育のために今よりもまとまとった時間を取ることになり、高校でスキルやリテラシーの指導に時間を割かなくてよくなった際に、高校の教科『情報』で何をすべきか・何ができるか」という、教科情報自体の存在意義に関わる問いにつながります。次の学習指導要領の改訂に向けて、エビデンスを蓄えておいていただきたいと思います。