report
日本情報科教育学会 第6回全国大会
~「情報科」スタート10年目、新学習指導要領施行の年に考える『新たな情報科教育の発信』
日本情報科教育学会の第6回全国大会が、2013年6月29日(土)・30日(日)の2日間、東海大学 高輪キャンパスで開催されました。同学会は、「情報」の教科教育を専門とする初めての学会で、2007年の発足以来、高校情報科を中心に、中等教育と高等教育の接続性も踏まえた情報教育分野を研究対象としており、情報科教育に携わる多くの教員、研究者、企業関係者の参加・発表を集めています。
今年2013年は、学会設立5年にして、高等学校「情報科」がスタートして10年、さらに新学習指導要領が施行されて「社会と情報」「情報の科学」の年次進行でスタートした節目の年でもあります。今回第6回は、『新たな情報科教育の発信』というテーマで、71件(研究発表56件、ポスター10件、デモンストレーション発表5件)の熱気あふれる発表が行われました。また、招待講演として、1日目には文部科学省生涯学習政策局参事官の新井孝雄氏と慶應義塾大学環境情報学部長の村井純先生の講演が、また2日目には、「情報科の役割と社会で求められる基本的な力」と題して、産・官・学それぞれの立場で情報教育の実践に関わる方々のパネルディスカッションが行われました。
<プログラム>
◆第1日 2013年6月29日(土)
・研究発表(口頭発表)
・総会
・開催校挨拶
土屋守正氏(東海大学情報科推進本部本部長)
・基調講演
岡本敏雄氏(日本情報科教育学会会長・京都情報大学院大学/
電気通信大学eラーニングセンター)
・招待講演
新井孝雄氏(文部科学省生涯学習政策局参事官)
村井純氏(慶應義塾大学環境情報学部学部長)
◆第2日 2013年6月30日(日)
・研究発表(口頭発表)
・デモンストレーション発表
・ポスター発表コアタイム
・パネルディスカッション
研究発表
研究発表は、6月29日・30日の2日間の午前中、3つの会場に分かれて「カリキュラム・教材」「教員養成」「プログラミング」「情報科の考察・評価」等12のグループに分かれて行われました。小学校から大学、教育支援団体など、さまざまな学校で行われているさまざまな情報科の教育の工夫について、熱のこもった発表が行われました。発表が終わってからも、会場のあちこちで自分たちの学校の事例を取り上げながらの質問やディスカッションが続きました。
~生物基礎とのコラボ例
山口県立岩国高等学校 山下裕司先生
◆「コンピュータの計算原理」を理解させる体験的な学習法と教材の考察
~ビット列が理解できる「01カード」と加算回路が理解できるソフトウェアを開発
神奈川県立柏陽高等学校 間辺広樹先生
◆アルゴリズム要素の利用制御が可能なビジュアルプログラミング環境 「AlgoTool」
~プログラミング言語を使わずにアルゴリズムを学ぶ
信州大学工学部 香山瑞穂先生
信州大学大学院理工学研究科 小林慶先生
信州大学工学部 國宗永佳先生
信州大学工学部 新村正明先生
基調講演
教科「情報」とデモクラシ
岡本敏雄氏(日本情報科教育学会会長・京都情報大学院大学/電気通信大学eラーニングセンター)
基調講演では、同学会会長の岡本先生が、教科「情報」の持つ意義について話されました。
イギリス、ドイツなどヨーロッパの「情報」の教科書には、必ず「democracy」の項目が含まれています。彼らが長く困難な時間をかけて確立したdemocracyの概念は「情報」と密接に結びついています。情報科が導入されて10年目の今、あらためて「情報」が持つ意味を考えるべき時にきています。
招待講演1
情報科教育と教育の情報化について
新井孝雄氏(文部科学省生涯学習政策局参事官)
文部科学省生涯学習政策局の新井氏から、教育の情報化の現状の報告と、「情報活用能力」を高めるための様々な取り組みについて、さらに、2013年1月の政権交代以降、教育の情報化がどのように進んでいくか、についてのお話がありました。
教育再生会議(2013年4月8日)では「グローバル人材育成のための3本の矢」として『国家戦略としてのICT戦略』が掲げられ、「21世紀型スキル」としての情報活用能力の育成を行うこと、また「日本再興戦略-JAPAN is BACK」(平成25年6月14日閣議決定)では、日本産業再興プランの施策として『産業競争力の源泉となるハイレベルIT人材の育成・確保』が挙げられています。これには、2013年度から始まる工程表が付記されており、まさにICTを軸とした教育改革に大きく舵が切られたことが表れています。
招待講演2
サイバースペース時代 : 情報教育の役割
村井純氏(慶應義塾大学環境情報学部学部長)
慶應義塾大学の村井先生からは、「After Internet」社会における情報教育はいかにあるべきか、というお話がありました。
6月14日に、「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定されました。IT戦略が閣議決定されたのは初めてあり、全ての分野でIT戦略にコミットするという宣言は、大変大きな意味を持ちます。もちろん情報教育についても言及されています。インターネットの登場で社会は大きく変わりました。近い将来、世界のインターネット利用率が30%から80%になり、世界中が日本と同じような状況になっていきます。その世界で活躍する子ども達をどう育てていくか。情報教育の責任はすごく大きいと思います。
デモンストレーション発表(ブリーフプレゼンテーション)・展示
2日目の午後には、実際の教材の操作を体験できるデモンストレーション発表が行われました。5件の発表は、いずれも簡単な操作で生徒の興味を高め、理解を深める工夫がなされたもので、時間いっぱいまで熱心なディスカッションが続きました。
◆デジタル情報の伝達と復元のしくみを体感!
iPadを用いた「デジたま講座」教材・教具の開発
九州大学大学院システム情報科学研究院 竹田正幸先生
ポスター発表 コアタイム
初日から展示されていたポスター発表のコアタイムが2日目の午後に行われました。10件の展示にはいずれも多くの参加者が集まり、活発な議論が続きました。
◆問題解決の流れを意識させた統計グラフポスターの制作
~統計グラフ全国コンクール パソコン統計グラフの部で入選
千葉県立柏の葉高等学校 滑川敬章先生
尚美学園大学 小泉力一先生
◆情報科における「観点別学習状況の評価」の評価方法
~eポートフォリオを活用し、『何が・どのように役立つか』が実感できる授業を
東京学芸大学 森本康彦先生
◆新課程における情報プレイスメントテスト
~学生の能力の実態を把握し、きめ細かな指導につなげる
帝塚山学院大学人間科学部情報メディア学科 高橋参吉先生
◆ワンコインサーバを利用した教科「情報」の授業
レンタルサーバ「ロリポップ」とNetCommonsで環境を構築
石川県立金沢二水高等学校 鹿野利春先生
パネルディスカッション
学会の最後をしめくくったのは、産・官・学それぞれの立場のパネリストによる、「情報科の役割と社会で求められる基礎的な力」という大きなテーマのパネルディスカッション。会場からの質問も活発に飛び、情報科教育の重要さを改めて考える場となりました。
●パネリスト
・永井克昇氏 (文部科学省)
・駒谷昇一氏 (株式会社NTTデータ)
・片岡晃氏 (独立行政法人情報処理推進機構)
・坂田圭司氏 (東海大学情報教育センター)
・遠藤陵二氏 (東海大学付属浦安高等学校)
●進行
・小泉力一氏 (尚美学園大学)