report 「高校生ICT Conference 2013」
~考えてみよう! 情報モラル・情報リテラシーの5W1H~
=== 熟議の手法を活用し、高校生視点で情報教育を提案===
2011年に「高校生熟議」として大阪でスタートした「高校生ICT Conference2013」は、今年で3回目。高校生同士が身近なケータイやインターネットの問題を、ともに考え、議論し、まとめ、発表し、コミュニケーション力とプレゼンテーション力を育むことを目的としたイベントで、全国5会場で2回ずつ「リアル熟議」が行われました。
さらに、ここで出た高校生自身の意見は、提言としてまとめ、各会場から選出された高校生によって、インターネット政策に関わる内閣府、総務省、文部科学省で発表されます。
熟議は、発信力や傾聴力、思考力などの能力育成にも有効ですが、知識を伝えるだけの授業では取り上げることが難しいテーマであっても、生徒自身が理解や気付きを深めていくことができる手法です。情報の授業でもぜひ活用していただきたい手法として、「高校生ICT Conference 2013 in大阪」(第2回 10月5日実施)の模様を紹介します。
■高校生ICT Conference 2013 in大阪 (於: 大阪ユビキタス協創広場[(株)内田洋行大阪支店内])
今回のテーマは、「高校生だからできる『情報モラル・情報リテラシー教育』」。第1回にインターネットやケータイ関係の会社の方の話を聞いて議論した「何が知りたい?! 情報のモラルとリテラシー」をもとに、2回目の今回は、高校生自身が「こうあってほしい」と考える『情報モラル・情報リテラシー教育』について話し合いました。
「高校生ICT Conference 2013 in大阪」には、高校生(11校、37名)、教員・企業関係者なども合わせて70人以上が集まりました。
◆参加高校◆
【大阪府】
羽衣学園高等学校、大阪学院大学高等学校、大阪成蹊女子高等学校、大阪市立東高等学校、
関西学院千里国際高等部、大阪府立布施高等学校、金光八尾高等学校
【兵庫県】
兵庫県立須磨東高等学校、兵庫県立姫路飾西高等学校、兵庫県立姫路別所高等学校
【奈良県】
関西中央高等学校
議論を深めるには、基礎知識や追加情報となるインプットが必要です。
熟議に先だってまず、近畿総合通信局通信事業部電気通信事業課長の古田和則氏から、「総務省にインターネットリテラシー向上に関する取り組み」と題して、急速に変化するインターネット環境に総務省としてどのように取り組んでいくかについてお話をうかがいました。
次に、KDDI株式会社障害・広報本部 渉外部マネージャーの渡邉昭裕氏から、「ケータイ・スマホの変遷から見るネットセキュリティとモバイルの未来」と題して、ケータイからスマホに移行したことによって、セキュリティの在り方がどのように変わったか、さらに今後のモバイル機器の進化について説明がありました。
■熟議開始
今回は、まず各学校がバラバラになるように7~8人の5つのグループに分かれ、熟議を行い、その後グループごとに、全体の前で提案内容を発表するという流れで行います。ディスカッションの時間は1時間50分。この中で自分たちの意見をまとめ、各チーム5分のプレゼンの内容とパワーポイントを作ります。
初めて会った人同士だからこそ、本音をぶつけ合って議論が深められる
各グループには、ファシリテーターとして高校の情報担当の先生が1人と、書記が1人つきます。書記は、これまでの熟議に参加したOB・OGの大学生・高校生です。
簡単な自己紹介の後、ディスカッションに入ります。いきなり「情報モラル教育の対象を誰にするか」という議論を始めたり、本題に入る前に「自分が今気になっていること」を出し合ったりと、口火の切り方はさまざまですが、すぐに活発な意見が始まりました。
対象についての議論で印象的だったのは、小中学生のうちからきちんとモラルやリテラシーを教えていかなければならない、という意見がどのグループでも出ていたことです。「小さい子が、ネットの危険性やルールを知らないで使うことは怖い」「小学校・中学校にも情報の授業を作って、高校まで段階を踏んで教えていかなければいけないと思う」という声に、デバイスやアプリを気軽に使いこなしているように見える高校生達自身も、その危うさを懸念していることが感じられました。
話し合いは、付箋紙を使ってKJ法でまとめていきます。ディスカッションである程度意見交換をしてから付箋紙に書くグループもあれば、最初に付箋紙に意見を書き出し、書いたものについて説明をするところもありましたが、観点のまとめ方は基本的に生徒が決めていきます。
ファシリテーターの先生が適宜言葉かけをしていますが、初めて会った人同士がほとんどとは思えないほど、活発に意見が出てきました。意見がぶつかる場面があっても、相手の意見はきちんと聞こうとするのが、「熟議」の流儀。活発な議論が成り立つのは、どんな意見も受け止めてもらえ、言いたいことが言える場が用意されているからで、それが熟議の良いところです。多くの生徒が実践できていました。後で聞いてみると、「初めて会った相手だから、その点は遠慮します」「同じクラスのメンバー同士だと、正論ぽいことを言うのは恥ずかしいけど、知らない同士だからかえって言いたいことが言えた」という声があり、生徒が真剣にディスカッションするための「場」の設定にはある程度の緊張感が必要であることが実感できました。
自分たちの経験をもとに、情報モラルやセキュリティで何を教えるべきかを考える
対象が決まってくると、「何を」教えたらよいか、「いつ、どこで」「どのように」教えたらよいか、と5WIHに沿って、議論が進みます。
高校生が日常感じている問題に関して、どのグループでも話題になっていたのが、LINEの『既読ブッチ(既読無視)』問題です。「自分ではもうやめたいと思っているのに、相手から大したことのないレスが来るといらっとする」「『寝落ち(=寝てしまってトークが続けられなくなること)した』というのは、『もうやりたくなかった』という言い訳だと解釈してあげるのがマナー。自分がやった時は、翌朝はいつもより明るく『ごめんね!』と言うなど気を遣う」など、「既読ストレス」にさらされる生々しい発言がありました。
さらに、ネット依存にはどのグループも高い関心を示していました。また、個人情報や誹謗中傷、「バカッター」など、不用心に一度ネットに流出させた情報によって、他人や自分自身を傷つける結果を招くことに対しても、「なぜこのようなことをしてしまうのか」「どうやったら防止できるのか」を、若者自身や周りの大人、企業などさまざまな立場から考えていました。ディスカッションの過程で、ファシリテーターの先生だけでなく、ゲストの総務省やKDDIの方にも加わってもらい、企業や官庁では実際にどのような取り組みが行われているかを聞くグループもありました。
議論の中で印象に残ったのは、「大人にもっと教えてほしい」という言葉です。「アプリやデバイスを知らないからと言って、逃げないでほしい。どうやったら既読ストレスや依存から抜け出せるのか。スマホを使うからダメだなんて決めつけずに、一緒に考えてほしい」という声が、いくつものグループからあがっていました。
議論のまとめから発表へ
終了30分前になると、プレゼンの準備で生徒達の動きがあわただしくなってきます。ファシリテーターの先生はほとんど口を出さず見守り、生徒同士で、プレゼンのシナリオを作る、パワーポイントを作る、プレゼン時の動きを決めるなど役割を分担して作業を進めていきます。
プレゼンは、寸劇仕立てあり、アニメーションを工夫したパワーポイントあり。関西の高校生らしく、必ずボケと突っ込みが盛り込まれ、見ている人を飽きさせない工夫もありました。ディスカッションが始まった時点ではいったん退けられていた観点が復活したり、議論の中では反対していた意見を自分の言葉に置き換えて説明したりと、2時間足らずの中で自分達の意見を出し合い、考え抜いて一つの解に導く経験ができたことが感じられました。
あるグループは、高校のような教科「情報」を小中学校から設け、段階的な情報教育を行っていくことを提案。その中では、「薬物中毒の危険性をアピールした『ダメ!絶対』のように、実際にネット依存になった人に生徒の前で話をしてもらい、依存の恐ろしさをじかに伝える」という方法を紹介していました。
また、別のグループは何気なくツイッターに悪口を書き込んだ少年Aと、同じ状況で考え直して書き込みをしなかった少年Bの人生をコントで紹介しました。就職活動で少年Aはその書き込みを会社の人に見られてしまって入社することができず、一方少年Bは入社できて大活躍…を熱演し、大きな拍手をよびました。
プレゼン後、さらに知識や考えを深める機会を
プレゼン終了後、京都大学法学研究科の曽我部真裕先生から講評がありました。ここで興味深かったのは、「情報モラルの問題は、同時に法律問題であることが多い」という指摘です。「小さい子のネットセキュリティのために、未成年のスマホには契約時にフィルタリングをONにすることを義務付ける、という提案があったが、インターネット上の憲法で保障された人権(表現の自由)であり、フィルタリングを義務付けることは憲法違反の恐れがある」というお話に、期せずして会場から「ええっ?!」というざわめきが起こりました。終了後に話を聞いた生徒からも、「危険なものを見せないためにフィルタリングを厳しくするのは当たり前だと思ったのに、ちょっとびっくりした」という声がありました。議論を重ね、フィルタリングの有効性を提案しただけに、自分達がいかに良い方法であると思っても、慎重な議論が必要であったり、実際には不可能なこともあったりするということが実感できたことでしょう。
こうしたフィードバックは、彼らにとって、法律も含め、より深く学んだり、情報収集したりすることの重要性や、さらに議論を重ね考えを深めたりすることの必要性を知る機会となったと思われます。「熟議」は、丁寧な場の設定によって、より深い学びへのきっかけを作ることができると改めて感じました。
高校生ICT Conference in 2013 HP
http://www.ema.or.jp/education/events/hicof.html
→各会場の実施記録や熟議録を見ることができます
熟議を終えて
これからのネット社会をつくるために
羽衣学園高等学校 3年 永冨亜衣さん
「高校生ICT Conference 2013 in大阪」(第2回 10月5日)に参加し、東京へ行くことが決定しました(高校生ICT Conference2013 サミット11月3日)。
「高校生ICT」は、現代のネット社会について私たち高校生が議論を重ね、より良いネット社会を築くための提案をするものです。毎回、google、DeNA、LINEなどの企業の方々が来場して、講義をしてくださいます。その後に、私たち高校生が各グループに分かれて意見を出し合い、一つのプレゼンテーションを作り、発表し合います。
私がこの高校生熟議に参加するのはこれが二回目になります。前回は、ネット社会の危険性を実感しました。それとともにその危険性を知ることによって快適にインターネットを利用できるということも学びました。
今回参加して、ネット社会が急激に発展し続けているということを実感しました。話した内容も前回とは違うことばかりでした。今回のテーマは“モラル”でした。インターネットのトラブルが増えている原因として悪質なものがたくさんありますが、それらを避けるために最良な方法は、利用者である私たちが、ネット社会を理解するということです。最近のネット使用者はマナーに欠けた行動が多々あるように思われます。また、しなければならないことを実行しない人たちも多いように思います。例えば、インターネットの巨大さに気づかず軽率な行動をとってしまう、アプリをインストールする際に出てくる利用規約を読まないなどです。これらは私たちが日常から危機感を持っていないから生じて問題です。
私たちはこのような問題を解決するために、「誰に」「何を」「どのように伝えるか」ということに気をつけて考えます。そして、それぞれの意見をポストイットに書いて大きな模造紙に貼って意見を整理します。
「誰に」という面では、「これからスマートフォンを利用する人たちに」「現在利用する人たちに」「ネットを提供している人たちに」が主です。「何を」では、「インターネットの危険性について理解する」「常日頃から危機感を持つ」「利用規約を持つ」などの意見が出ました。最後に、「どのように」は、「広告を利用する」「ネットの危険を体験できる疑似体験アプリを作る」「掲示板を作る」などのアイディアが出ました。この「どのように」が一番力に入るトピックでもあります。広告一つにしても、どのように広告を利用するかなどたくさんの意見が出できます。CMを流す、アプリを利用している際に上や下に出てくる広告を利用する、電車の広告を使うなど様々な意見が出ました。これらの意見もポストイットに書いて分類して模造紙に貼っていきます。最後にその模造紙を参考にパワーポイントにまとめて、約5分のプレゼンテーションを完成させます。プレゼンテーションでは、全員が意見を述べるように気をつけました。
私のグループは「危機感を持つ」ということについて考えましたが、「インターネットの依存」「インターネットでのいじめ」などを発表しているグループもありました。各グループのプレゼンテーションを見ることによって、自分のグループになかった考え方などを知ることができ、より理解を深めることができます。
スマートフォンが普及すればするほどインターネットも発達していきます。インターネットが快適になっていく裏でトラブルの数も増えていきます。私たち利用者は、インターネットを使う際に危険性についても必ず考えなければなりません。インターネットは便利なものですが一歩使い道を間違えることによって、取り返しのつかないものにも成りえます。そのことをしっかり理解し、常に危機感を持っていれば、私たちはインターネットをより安全に、より快適に利用することができます。高校生である私たちが意見を出し合い、学び合うことが、これからのネット社会を作るうえで大切なことだと思います。
熟議を終えて インタビュー
羽衣学園高等学校 2年生 永冨亜衣さん
---熟議に参加したきっかけを教えてください。
学校ではボランティア部に所属しています。ボランティア部の活動は、地域のお年寄りへのお弁当の配達を手伝ったり、献血の呼びかけをしたり、といったことから国際支援活動まで幅広く行っています。このボランティア活動を通して、人前で話す経験を積んできました。熟議もこのボランティア部の活動の一つです。
ボランティア部は高校からですが、中学生の時から始業式や終業式で先輩たちが表彰されたり校内で活動したりするのを見て、ずっと自分もやりたい!と思っていました。
---熟議のどんなところがおもしろいと思いますか。
活動を通してプレゼンは大事だと強く感じるようになりました。昨年、2年生の時に韓国であったAPECの青少年会議に日本代表として参加しました。その時は、地元の高校生と組んで、慶州の歴史や文化を紹介しました。初めて会った相手の国の人と話し合うのはたいへんでしたが、このことがとても刺激になりました。いろいろ経験を重ねるうちに、初対面の人と話し合うことにも慣れ、熟議のような場面がとても好きになりました。
熟議がおもしろいのは、即興のようにその場でいろいろな意見が出てきて、どんな方向に進むのかわからないことです。そこでいろいろな意見を聞くと、視野が広がることを感じます。
---熟議でスマホの使い方を話し合うことでどんなことが学べたと思いますか。
昨年もこの熟議に参加していろいろな話を聞くことで、自分が知らなかった使い方やリスクを知ることができ、使ってみよう、気をつけよう、という気持ちになりました。今年4月にスマホに買い換えましたが、その時はちゃんと規約まで読みました! 学校の授業で「情報モラル」を勉強しても、実際に自分達が使っているスマホやインターネットは、教科書に出てくるよりもずっと複雑なので、役に立つと思えません。でも、このように話し合ってみると、教科書に書いてあることが「そうだったのか!」と納得することができます。
※永富さんは、大阪地区の代表として11月3日に東京で開催された「高校生ICT Conference 2013 サミット」に出場しました。
羽衣学園高校 2年生
寺岡奈々子さん・田中瑠美子さん・森穂乃香さん・細井優香さん・林姫穂さん
■熟議に参加してみて、よかったことを教えてください。
林さん : いろいろな人の意見を聞けて、視野が広がることです。また、専門家の人の話が聞けるのもすごくいい経験です。自分達が「こうすればいい」と思ったことでも、専門家の意見を聞くと法律的にダメだったり、技術的に無理だったりすることがわかり、それもまた勉強になります。
細井さん : ふだん考えないことを真剣に考える機会になることです。学校の仲間だとダレて話せなかったりすることでも、「熟議」の場では、初対面の人だからこそ真剣に話し合えるのもいい経験になると思います。
森さん : スマホに換えてまだ3か月なので、専門的なことも含めていろいろな使い方が聞けてよかったと思います。友達同士で話しているだけでは、便利なことはわかっても危険があることまではわかりません。頑張ってしゃべることで、いろんなことが学べることが熟議のいいところだと思います。
田中さん : 身近ではない人だから話し合えることがあると思います。このあいだ隠岐(島根県)の高校生と熟議をした時は、スマホの使い方が私達とは違うのでびっくりしました。隠岐にはコンビニがないので、買い物はネットショッピングをふつうにするのだそうです。そんな話を聞けるのも、熟議のすごいところだと思います。
寺岡さん : 学校の授業では、このようなプレゼンをすることはありませんが、ボランティア部の活動で海外の子と会うと、同じ年なのにプレゼンがすごいんです! そういうのを見ていると、とても刺激になりますね。熟議では、話し合うこととプレゼンすることの両方ができるので、勉強になります。
■学校の授業で熟議を取り入れるとしたら、どういう形でするのがいいと思いますか。
寺岡さん : 今日のようないろいろな学校から来て行う熟議は、意識の高い子が多いのでやりやすいと思います。学校の授業で、いつも顔を合わせている子同士でやると、発言する子とそうでない子がどうしても決まってしまうので、よくないと思います。テーマは、いろんな意見が出やすいもの、例えば「電車の中でパンとか食べることをどう思うか」などにして、ふだんの授業ではなく、イベント的にやるのがいいかと思います。
細井さん : 私もクラスの中ではやらない方がいいと思います。知らない同士だから真面目な意見が言えるけど、知っている同士だと「そんなこと言っても自分はどうなん?」みたいなことがあって話しにくいと思います。知らない同士で、1グループ5人くらいでやるのがいいと思います。
森さん : みんなは知らない子同士の方がいいと言うけど、私は知っている同士の方が話しやすいですね。でも、1グループは6人くらいにして、ふだん発言しづらい子に対しても、まわりの人が意見を聞いてあげるようにするのがいいと思います。
田中さん : 私も6人くらいがちょうどいいと思います。発言する子・しない子に分けるのでなく、みんなが平等に話すルールを作ってあげるのがいいと思います。
林さん : クラスでやるなら、全員でやるのは絶対ダメで、グループに分かれてやるのがいいと思います。1グループは今日の8人くらいがいいかな。ポストイットに書いて貼るのは、自分の意見を形にして残すことにもなるし、書いた意見を読むことで必ず発言することになるので、とても大事だと思います。