高校教科「情報」シンポジウム2014秋
教員免許更新講習を担当して 1
~情報教員の「働き方」とさらなる学び
放送大学 辰己丈夫先生
多様な情報教員の課題
私は講習では、「情報社会と情報倫理の現状」について話しましたが、本日は、今回の講習の大前提になっているところをお話します。情報処理学会会誌『情報処理』の連載記事「ぺた語義」に「高等学校情報科教員の現状」という記事があります。これは、高校の情報教育がどのように行われているかについて、電気通信大学の中山泰一先生と神戸市立科学技術高校の中野由章先生が調べた上で、まとめたものです。
※これは下記のサイトで皆さんに読んでいただけるようになっています。
『情報処理』の連載記事「ぺた語義」
http://www.ipsj.or.jp/magazine/peta-gogy.html
「高等学校情報科教員の現状」(2014年7月15日)
http://www.ipsj.or.jp/magazine/9faeag0000005al5-att/5508.pdf
例えば、ある県の臨時免許授与状況は情報だけが飛び抜けていて、ある県の免許外教科担任数は、これも情報だけが突出しています。
そこで、そもそも高校の「情報」の教員免許はどのように出ているのかをまとめてみました。
まず、1999年度から3年間実施された「認定講習会」があります。これで一部の他教科の教員が情報の教員免許を取得しました。同じく99年度から3年間実施された、「情報免許認定試験」に合格した人。そして、大学の教員養成課程で勉強した人です。実際、大学の教員養成課程で免許を取った人ではなく、免許教科外担当の手続きを経た他教科の教員免許保持者、「臨時免許状」・「特別免許状」、そして特別非常勤講師が相当多いのです。
また、担当科目についてみると、先生は、他の免許を持っているかもしれませんが、通常は自分の担当教科だけを担当しているはずですよね。しかし、「情報」だけでなく他教科、特に元担当していた教科も一緒に担当しているケース、あるいは新卒の最初から「君、数学の免許も持っているなら、数学も一緒にやってね」というケースがあるわけです。こういう状況は、やはりよろしくないです。
さらに雇用状況もひどく、学校では非正規雇用の講師が増えています。例えば1年契約で毎年契約更新されるケースなどですが、情報科の教員には、こういう人が非常に多いのではないかと危惧していて、きちんと調べてみなければいけないと思っています。私の知り合いにも、本拠地となる学校がなく、複数の学校を渡り歩く先生もいます。また、塾・予備校などで数学や理科の先生をしているという非正規の情報の先生も何人か知っています。
情報の教員は、学びつづけてほしい
情報の教員には様々なケースがあり、一般的な「学校の先生」に当てはまらない人が多いのです。ですから、情報科の先生に学んで欲しいことは、認定講習で教員免許を取った人、大学の教職課程で教員になった人、それ以外の状況で情報を教えている人、みなそれぞれに「こういう事を学んで欲しい」というものがあると思っています。
学校の教科というのは、本来複数の教科を担当することができないほど細かく分かれています。基本的には教科・科目というわかりやすい専門性があり、それだからこそ免許制度があり、その教科の免許を持っているわけです。それなのに、認定講習で自分の元々の教科ではなかった情報の免許を取って教えているのですから、本来的には望ましくない状況が発生しているのです。
そして、元教科も担当しているケースと、完全に情報科教員になったケースがあります。「元教科から足を洗って情報の先生になるんだ!」と言って情報の先生になった方は、非常に頑張ってすばらしいと思います。一方で、現状では仕方がないという状況はあります。情報科以外の元教科から足を洗えない状況がある場合でも、元教科との関連も含めて、情報科・元教科どちらも生徒にわかりやすいように教えておられる先生方がいらっしゃいます。でも、両方やらされて忙しくてしかたないという先生もいらっしゃいます。現実的には困難ですが、できれば情報科だけの担当になっていただく方が望ましいと、個人的には思います。
一方で、大学の教職課程で教員になった先生方は、一通り専門的な内容を教育できることになっていますが、実際、大学は専門的な知識や技能をまんべんなく教えているわけではなく、その内容は大学により異なり、大学の得意な内容に偏っています。高校側も、新卒の先生が全ての知識を持っているとは期待していませんが、その先生が不得意な所、他の先生と比べて手薄な部分は、現場で教えながら自分で勉強してほしいのです。「教員免許を持ったから、もう勉強しなくていいんだ!」ということはいけません。常に勉強し続けなければダメです。
高みを目指して
情報の教員に関係のある資格や免許には、情報処理技術者試験、ITパスポート試験などがあります。ITパスポート試験は、高校生・大学生対象ですから、情報の教員はやはり基本情報処理技術者試験の方を受けていただきたいと思います。教える側のバックグラウンドとして、授業で教えることより遙かにレベルの高いことができていないと、中高校生にきちんと教えるための自信につながらないと思います。生徒達の最高峰よりもさらにできる先生でないと、内容に自信を持てないと思います。
また、学部卒で高校の情報の先生になった方には、ぜひその修士や博士の学位を取っていただきたいと思います。放送大学では修士も取れますし、中には博士を取る人もいます。
学び続けるということは、教員だけではないと思います。どんな職業の人も、常に自分から学ぶ姿勢を持っていなければならないと思います。仕事というのは安定しておらず、変わっていく。教えることのプロには、人から教わるのはイヤだとか恥ずかしいとかいうプライドが原因の、「学ばない姿勢」みたいなものがあり、それが良くないのではないかと思います。教えることのプロだからこそ、学ぶことのプロであってほしいなと思っています。
※高校教科「情報」シンポジウム2014秋での講演より