情報処理学会第77回全国大会

砂場遊びの延長線上に、コンピュータでの情報教育を

田邊則彦先生 清教学園中・高等学校特任教諭


田邊則彦先生
田邊則彦先生

私は1975年から教員をしております。最初は慶應義塾幼稚舎(小学校)に着任しました。当時、パソコンはまだ教育の現場には入り込んでいませんでした。NECのPC8001が出てきた時に、ポケットマネーでワンセット買って教室に持ち込んでみました。子ども達はBASICでゲームを打ち込んで楽しんでいましたが、その時の子ども達は、今もう40歳を過ぎています。

 

その後、ちょうど情報教育の始まった頃、1992年に慶應義塾湘南藤沢中・高等部の教員になりました。大学の村井純先生にいろいろとご指導いただいて、中学生・高校生にインターネットを使わせようじゃないかということになり、高校生にはE-mailのアドレスを全員に配布しました。ただ、E-mailを書いてくれる相手が日本にはいなかったので、イギリスやアメリカの高校生と結んで情報をやり取りするという授業を行いました。当時WebページはNASAのページとホワイトハウスのページくらいしか見るものがなくて、日本語のページは、からきし使いものになりませんでした(笑)。それが、今やインターネットで発信されている情報が学校の授業で教材として使えるようになったというのは、本当に様変わりです。

私はこの2-3年、eポートフォリオのシステム開発に注力しておりました。大学ではeポートフォリオのシステムがいくつか出回っていますが、それを初等・中等教育にも使えるようにしよう、ということです。

 

これがその画面です。自分の担当している教科に対して、1年間でどんな授業を行い、その授業の中で子ども達がどんなパフォーマンスを示したかということが一覧でき、評価も付けられるようになっています。プロトタイプからいよいよいろいろな学校で使っていただけるような段階にしようと思っていますので、興味のある先生方がいらっしゃいましたら、ぜひ声をかけてください。


初等教育では表現ツールとして、中学生には発想支援ツールとして

今、初等中等教育において情報教育を活性化しなければいけないと言われているのですが、実際には、あまりうまく展開していません。初等教育では、各教科に情報教育を埋め込むという形で動いています。そして中等教育の前期、つまり中学校では技術科の時間に行われているのですが、非常に中途半端です。これについて、私の意見を述べたいと思います。


まず小学校の場合は、これはやはり教科の中に埋め込むのがよいと思います。「わかる授業」「楽しい授業」をデザインし、「調べて→まとめて→伝える」学びの展開でICTを道具として位置づけることが重要です。デジタル・ネイティブである子ども達は、機器の操作はスイスイとできます。情報の探し方や、情報の扱い方を身近なテーマ設定を通して学べるようにしたいものです。

 

こちらのスライドは中学生です。生徒二人は試験勉強をしています。紙に印刷された音楽鑑賞会のプログラムのようなもので、作曲家とその代表的な曲を覚えてくる、という課題が出たようです。一人は紙を使っていますが、もう一人はiPadで写真を撮って、覚えたものから消していくという、情報機器を利用した勉強をしています。子ども達は、こうしなさい、ああしなさいと言わなくても自由な使い方をする時代に入ってきているのです。


オーストラリアのコルベ・カソリック・スクールでは、当たり前のように一人一台のコンピュータあるいはタブレット型端末を使って授業を行っていました。むしろ紙媒体のテキストはほとんどないという状態です。そういう中で、本当にソフトウエアの使い方を教えてもらうという情報教育で良いのでしょうか。プレゼンテーションも大事ですが、論理的思考力を育てるためにもっと上手に情報教育を使っていくべきなのではないか、というふうに思います。

 

先ほどお話した慶應幼稚舎の子ども達は、私が教室に持ち込んだPC8001で「Hello World」が出た時、大喜びしました。その感動はいつまでも大事にしてやりたいと思います。問題解決能力を培うためには情報の授業が一番適していると思うのですが、初等教育ではやはり表現ツールとしてコンピュータを使っていけばいいのではないかなと思います。そして中等教育の前期(=中学校)には発想支援ツールとしてコンピュータを使い、高校時代はもうコミュニケーションツールとしてガンガン使っていくということを想定して、情報教育をもう一度体系化してもよいのではないかなと思います。


一番大事なことは、砂場遊びの延長線上に、コンピュータでの情報教育を置いてもらいたいということです。子ども達にとって、コンピュータは新しい道具です。そして優れた表現ツールでもあります。その特性を活かすために、そして道具に振り回されないように、子ども達が砂場で大きな山を作りトンネルを掘り、その中に電車を通してたっぷり遊ぶように、コンピュータでもそんな実感を伴った遊びから学びにつなげていくような、そんな背景をうまく作っていかなければならないのではないかと思っています。

 

情報教育でつけたい3つの力を挙げます。1つはコンピュータのリテラシー、もう1つはネットワークのリテラシー、そして一番おざなりにされているのはデータリテラシーです。現在の情報教育では、データをどう読み解くかということが非常にお粗末です。もちろんそれ以外にメディアリテラシー、あるいは、総体としてのインフォメーションリテラシーなどもあるのですが、データリテラシーは数学の統計のところに委ねられています。ところが、大学の受験でデータを読み解くような統計の問題は扱っていないので、高校では非常になおざりになっています。データリテラシーをもう少ししっかりやった方がいいのではないかと思っています。


こちらは、関西大学初等部の2年生の児童に「オリジナル電卓を作るとすればどんなものがいい?」と聞いたときのアイデアを紙に書いてもらったものです。『きらきら電卓』という名前にして、音楽のマークのボタンを押すと『トイレの神様』の曲が流れてくるものがいいと。そして、どんな使い方にするのかがまとめられ(要件定義そのものですね)、それを実際にプログラミング言語Scratchで作り上げました。『歌』を押すとちゃんと歌いますし、「7+9=」と入れると答えも出る。こんなプログラムを作るのが、子ども達には楽しくてしかたないのです。   


そして、こういった経験をたくさん積ませて、コンピュータというのは表現の一つの道具なのだということを実感させます。その中に「プログラミング」という考え方を入れて、物事を論理的に考えていき、自分が実現したいことがうまくできない時には、どこが引っかかっているのかを突き止めて解決していくという、そんな活動をたくさん盛り込んでいければと思っています。


プログラミングを学ぶというのは、プログラムの言語を勉強するのではなく、お作法を身につけると考えたいと思っています。