高校教科「情報」シンポジウム2015春
第3回大学情報入試全国模擬試験問題解説
佐久間拓也先生(情報入試ワーキンググループ/文教大学)
情報処理学会/情報入試ワーキンググループでは、第3回大学情報入試模擬試験を2015年2月21日(土)に実施しました。その実施概要と、出題された問題について解説します。
受験方式としては、個人受験と団体受験で実施しました。個人受験は2月21日、会場は東京が明治大学、名古屋が名古屋文理大学、大阪は大阪電気通信大学の3会場で、受験者は13名。団体受験は、2月7日から3月14日の間に実施していただき、全国24団体、約2000名が受験しました。
団体受験は2月7日から始まっていますが、本試験の2月21日までの間は問題を公表しないという確約を取って実施してもらっています。
試験は、前回第2回模試と同様に、45分×2回の問題セットで行い、それぞれをAセット・Bセットとしました。45分としたのは、第2回の時にもご説明したように、団体受験を高校の授業の中で実施しやすくしてほしい、という高校の先生方からの希望からです。
試験範囲は、Aセット・Bセットともに、(1)「情報の科学」「社会と情報」の共通問題、(2)「情報の科学」、(3)「社会と情報」の3カテゴリーからとしました。学習指導要領では、「情報の科学」「社会と情報」のうち1科目を必履修としていますが、なるべく多くの人のデータを集めるために、全問を必答としました。
今回、問題を作成する上でいくつか議論をしました。まずプログラミングは情報で入試をするなら絶対に必要だ、ということで出題しました。ただ、プログラミングの問題は毎回非常に出来が悪く、二極分化というよりほとんど全滅ですので、問題構成でバランスを取って、セット内の他の問題の比重を少し軽くして、調整することにしました。
次に長文読解、長文を読んでそこから情報を読み解く力があるかどうかの問題です。長文と言っても、国語の長文に比べれば相当短いですが、今回もやはり読み解く力は重要だということで、出題しました。ただ、国語の問題と同じようなものにならないように配慮しました。
また「情報の科学」で、プログラミング以外に何か一つということで、これまでは毎回データベースに関する問題を出していましたが、今回は他の分野から出してみようと、「モデル化とシミュレーション」から出題しました。
それでは、具体的に一つひとつの問題を見ていきます。
※第3回大学情報入試全国模擬試験 問題・解答・採点基準はこのページの一番下に掲載。
ダウンロードできます。
セットA・セットBともに共通問題は、基本的に超小問・小問をいくつか出すという形です。共通問題ですから、情報の科学・社会と情報のどちらの選択であっても理解しておいてほしい内容を題材としています。このあたり、なかなか難しいところではありますが、まさに基本的な部分として確実にできるようになってほしいものを出しています。
【セットAの第1問(共通)】
セットAの第1問の問1は、基本的な2進法および16進法の計算問題で、第1回・第2回でも出しています。簡単すぎる、と思う方も多いかもしれませんが、意外にできないのです。高校生だけでなく、私の大学でも第2回の問題を1年生にやらせたのですが、かなり出来が悪くて泣きたくなったことがあります。そのくらい、理解できていないです。
問2は、データ量に関する問題で、こちらも第1回・第2回の模擬試験でも出題しています。今回はあるファイルのデータ量を計算させて、それがある容量の記録メディアにどのくらい入るかを考えるものです。意外に答えを四捨五入して間違えた人がいました。小数点は切り捨てですので、気をつけてほしいと思います。
問3は、情報システムの目的について問う問題を出してみました。問題を見ていただければわかると思いますが、目的が何であるかの理由がわかれば解ける問題です。ただ、意外に「効率化」と「省力化」で悩むような問題になってしまいました。答えは(1)が効率化、(3)が省力化です。(1)と(3)を逆に答えた人がけっこういましたが、よくよく考えれば違いはわかると思います。
問4はセキュリティに関する問題です。第1回・第2回でも出していますが、情報セキュリティについて、正しい知識を身につけているかを問いました。
【セットAの第2問(情報の科学)】
セットAの第2問は、プログラミングの問題です。基本的には今までと同じように、短冊の並べ替え問題にしております。今回はプログラミングをするだけでなくて、アルゴリズムの構成を見る問題も出しました。
第2問の問1はプログラムが書けるかどうかを見る簡単な問題にしてあります。そして、プログラミングするには、アルゴリズムの考え方で、こういう手順で考えていくということが理解できているかどうかを問2で聞いています。
なぜ、このような問題にしたかと言えば、先ほどお話ししたように、今までのプログラミングの得点分布が、二極分化どころかほとんどがゼロで、途中がちょこちょことあり、あとごく少数が上の方にいる、という状態だったからです。
確かに、ここでできる人とできない人が明確に分かれるので、入試としてはこの問題ができる人を取ればいい、ということかもしれませんが、それでもこれはひどすぎますね、ということで、今回は易しめのプログラムができるか、アルゴリズムの構成ができるか、という問題を作りました。そのためボリュームが大きくなってしまったことは否めないかと思います。このような形で出題した結果として得点分布がどのように変わったかについては、下記のページで解説いたします。
→第3回大学情報入試全国模擬試験実施結果(谷聖一先生/日本大学)
なお、このプログラミングの出題の仕方、つまり短冊の並べ替えは、駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部が2015年度入試に実施された情報入試で、同じような形式で出題されています。情報入試研究会の問題を参考にして作られているということでしたので、研究会でいままで問題を公表したことが役に立っており、うれしい限りです。
【セットAの第3問(社会と情報)】
セットAの第3問は「社会と情報」の問題です。これは、報道機関の記事を通して情報の内容について吟味できるかどうか、という問題です。発信された情報を正しく理解するために注意すべき点・自分たちが情報を発信するときに気をつけなければいけないことを理解しているかどうかを問います。
こちらは、第1回模擬試験はグラフを読み解く力の問題、第2回がアンケートの質とその結果としての情報をどう見るか、という問題でしたが、今回も情報を扱うときに考えるべきこと、注意すべきことを問う問題としました。
【セットBの第1問(共通)】
セットBの第1問の問1は、キーボードのホームポジションを問う問題です。スマホにどっぷりの今の高校生が、キーボードの配列をちゃんと知っているかどうかを見たいということで、私たちにとってはすごく当たり前の問題ですが、あえて出してみました。私たちもいきなり出されたら一瞬どこだろうと思いますが、よく見るとFとJにマークがあるので、わかるかと思います。
問2は記録メディアの方式について問う問題です。こちらは知っているかどうか、という知識問題です。情報入試研究会の問題は、基本的に考えて解く問題を出していますが、基本的な知識がないのも困りますので、この問題を出しました。
問3も同様に知識問題で、こちらはデータのファイル形式を問います。ただ、画像とか音声、映像には形式がたくさんあるので、高校の先生で全て教えられるのかな、というのが悩ましいところでもありますが、この程度のファイル形式は知っておいた方がいいだろうということで出しました。この程度と言っても、BMPやPNGを、高校の先生はご存知でしょうか。JPEGやGIF程度なら教えていらっしゃると思いますが。MP3は音声ファイルですから、高校生の方が知っているのではないかと思います。
問4は、情報システムの一つであるGPSの仕組みについて問う問題です。GPSを活用するとどういうことができるかは、割と知っている人は多いと思いますが、それがどういう仕組みで実現できているかを問う問題です。見ていただくとわかりますが、「GPS受信機」と書いてあります。受信機と言っておきながら、発信もできると思ってしまう人も結構いるようです。選択肢(4)「GPS受信機は人工衛星に電波を送って自分の位置を特定している」というのがありますが、これが正しく理解できるかどうかを見るポイントです。あくまでもGPSは、人工衛星からもらった電波を自分の位置として決めるだけで、実際それがどこの住所であるかわかるとか、相手に知らせることができるのは別の仕組みであることが理解できているかどうかを、この問4で問うてみました。
次の問5ですが、これはURLのパス(いわゆる相対パス、絶対パス)、今回は相対パス(起点となる現在位置から、目的のファイルやフォルダまでの道筋を記述する方式)の問題です。
問6は、符号の作成ルールを与えて、ルールからある条件下の計算ができるかどうかを問うています。これは、問題の量としては小問というより中問で、数学の要素が強い問題です。
【セットBの第2問(情報の科学)】
セットBの第2問は、情報システムを導入した時の、データ設計と画面設計に関する問題です。状態の変化を画面で表せるか、ということを問題にしました。
問1は情報のビット数、問2が画面遷移、問3が状態の変化の問題です。前にも言いましたように、第2問は今までの模擬試験ではデータベースを出題していましたが、今回は別のものを出そうとこのようにした経緯があります。本当はもう少し、モデル化とシミュレーションらしい問題にしたかったのですが、高校生にわかるようにということを考えるとなかなか作問が難しく、このあたりに落ち着いた、というところです。
【セットBの第3問(社会と情報)】
セットBの第3問は長文読解です。今回は、「コミュニケーション」の様々な意味を文章から読み取らせるという問題です。長文読解はどうしても国語の問題に近くなりがちですが、基本的には情報を読み解くということは、国語力と情報活用力の両方に共通した問題なので、ある程度国語っぽくなっても仕方ないかと思います。
新たに情報入試を実施する大学は?
最後にまとめというか、私の感想をお話します。まず、来年第4回の模試は、行う予定です。来年の2月27日を予定していますが、詳しくはホームページを見ていただければと思います。もちろん今回も団体受験を予定していますので、団体受験を考えている高校の先生方、よろしくお願いいたします。また、毎回採点がけっこうたいへんなので、実は一部マークシートにするかという議論もあります。そこのあたりは、これから問題を作る上で考えていきますので、今後の解答様式は今までと少し違うかもしれません。
来年新たに情報入試を行う大学は、慶應義塾大学SFCがありますが、それ以外については確認できていません。今年(2015年)の一般入試で駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部が情報入試を実施しましたが、それ以外に新しい動きは聞こえてきません。京都産業大学は、一般入試ではなくAOの中で情報の筆記試験を行うそうです。これは新しい試みですね。
実際に情報入試を始めるのは本当にいろいろと難しいです。ここからは私の個人的な意見ですが、TEAP(Test of English for Academic Purposes)をご存知でしょうか。上智大学と英検(公益財団法人
日本英語検定協会)が共同で開発したテストで、「大学で学習・研究する際に必要とされるアカデミックな場面での英語運用力(英語で資料や文献を読む、英語で講義を受ける、英語で意見を述べる、英語で文章を書くなど)をより正確に測定する」ことを目指しています。基本的に高校生を対象として、TEAPのスコアを一般入試の英語の成績に流用しよう、というもので、今年上智大学や立教大学などで始まり、来年からは青山学院大学や立命館アジア太平洋大学(APU)なども参入するようです。
こういった形で、どこかの団体が情報検定のような問題を作って、それをさらにそれぞれの大学に合う問題にして使うということにすれば、もっといろいろな大学で情報入試を取り入れることができるようになるのではないかと思います。問題集や参考書もぜひほしい。作らなければいけませんね、というところで私の話はおしまいにいたします。
※高校教科「情報」シンポジウム2015春in関西(2015年5月23日)講演