センター試験国語で出題『キャラ化する/される子どもたち』筆者、筑波大土井隆義先生、入試を語る

~入試問題では問えなかった、若者と教育をめぐる「宿命主義」

vol.4 教育が格差を再生産しているのではないか~学ぶ意欲にも「宿命主義」

2月2日の大阪・羽衣学園高校での学問オーサービジットにて
2月2日の大阪・羽衣学園高校での学問オーサービジットにて

現在の日本の大学入試の仕組みは、社会学的に見てどのようにお考えになりますか。

 

土井先生:日本の社会は、特に第二次大戦後階級社会ではなくなってフラット化して、その中で今の大衆教育が出来上がってきたわけですよね。よく「フランスの大学入試には、哲学のようにものすごく思考力を問う試験がある。あれを参考にすべきだ」という話もありますが、まだヨーロッパは階級社会で、フランスで大学に行くというのは、今でも特定の層の一握りのエリートです。だから、試験の成り立ちが全く違います。

 

社会学で議論になることで「文化的再生産」という話があります。例えば、フランスの社会学者ブルデュー(Pierre Bourdieu)が非難・指摘をしたのは、「教育というのは本来格差をなくすはずのものなのに、実は格差を再生産している」ということです。文化的再生産ですよね。なぜそういう問題が成り立つかといえば、それは彼らの大学入試が日本のような一律のペーパー試験ではないからです。

 

例えば、面接試験で「あなたはこれまで外国に行って、どういう経験を積んできましたか」と聞かれる。外国へ行くことができる子とできない子がいるわけで、そこでさっそく差がつけられるのです。試験というふるいを通したように見えて、実は階級が再生産されていることになるのです。

 

日本はペーパー試験という、ある種匿名性のある選抜ができてきたわけで、教育の機会の平等が担保されたのですね。

 

でも、現状はペーパー試験であっても、進学校や塾に通える生徒と通えない生徒の間に格差が出てきていますよね。そこでさらに、ヨーロッパ型の試験を入れるとなると、更に格差が加速するのではないでしょうか。

 

土井先生: 確かに、アクセスが平等に開かれていないという問題はあります。でも一方には、ネットがあるから、接しようと思えば接することができるじゃないか、という話もあるのです。大学に行けなくても、MOOC(※)もあるよね、と。

 

※ ムーク:Massive Open Online Course インターネット上で誰もが無料で受講できる、大規模な開かれた講義。代表的なプラットフォームとしては「Coursera」「edX」や、日本版としてはJMOOCが提供する「gacco」「OUJ MOOC」があり、条件を満たせば修了証が交付される。[Wikipediaより]

 

 

しかし、それを利用するかどうかは、本人にインセンティブ(意欲向上や目標達成のための動機づけ)があるか、どうかにかかってきます。実は、そのインセンティブ自体が格差によって再生産されているのが現状ではないでしょうか。今でも学力トップは、頑張って入試のために勉強して上を目指そうとしますけれど、それは一部です。大半は適当にやって適当な大学などに入ればいいと思っていますから、仮に塾に行ったとしても、ただ席に座って、講義映像を見ているだけという生徒も多いのではないでしょうか。そこが問題なのです。物理的には、ネットなどもあり、学びに対するアクセスがいろいろできる環境は整っているけれども、そこにアクセスしたいと思う欲求をどのように起こすかを、何とかしていかなければいけないのです。

 

これもまた、宿命主義の問題だと思います。「僕はこういう人間だから…」と思ってしまっているから、もっと上を目指そうというインセンティブが生まれないのですよ。そう決めてしまうのは、自分の周りの人間を見ているからです。つまり、自分と同じような環境にいる人たちだけで固まっていて、その中で関係を閉じて満足をしているから、その環境をよしとしてしまうわけですよ。そして別の環境に置かれた人を排除しようとする。

 

排除するというのは、何も豊かな階層が貧しい階層を排除しているだけでなくて、逆に言えば下の層の人たちも上の層を排除しているのです。自分たちの似通った環境だけで関係を閉じているので、周りに似通った人ばかりだから、インセンティブが生まれないのです。ネットが発達し、時間と空間の制約を超えて自分と同じような価値観の人と出会い易くなってきていますから、より一層人間関係の分断化が生まれているのです。その意味では、今の新テストなども、さらに格差を強めていく方向に向かわせる懸念はあります。

 

◆2016年度 大学入試センター試験 国語

問題

正解

分析<河合塾>

 

◆2015年度 大学入試センター試験 国語

佐々木敦さんの評論文の出た国語問題

正解

高校2年生向けの解説速報講義 動画<河合塾〜菊川智子先生>

分析<河合塾>

 

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ももクロ映画『幕が上がる』を観て

人と人とのつながりこそが、人生の幕を上げる

~日常知としての社会学

⇒本での分析に続いて、実際の行動について「みらいぶプラス」読者の高校生に向けて書いていただきました。

 

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その他、土井先生のこれまでの記事から

 

【みらいぶ・連載】 AKBから読みとく今日の人間関係

第1回 AKBの人気と現代社会

第2回 フラット化する人間関係

第3回 多元化した価値観の交差

第4回 当事者主義の時代の到来

 

【今こそ学問の話をしよう〜東日本大震災 復興と学び 応援プロジェクト】

SAVE IBARAKI~機能停止の大学で学生が起こした奇跡