高校教科「情報」シンポジウム2014秋
教員免許更新講習を担当して 2
千代田区立九段中等教育学校 田崎丈晴先生
現場の教員として、教育施策にいかに向き合うか
私は、九段中等教育学校で、前期課程(中1~3年)の技術・家庭科の技術分野と、後期課程(高1~3年)の情報科を担当しています。私が担当したのは、研修1日目の2時間目「学校教育の情報化と情報活用能力」というところです。教務主任という立場、現場で教える立場、九段中等教育学校のICT整備に関わり提案するメンバーの一員としての立場を経験して参りましたので、講習では、行政の施策に教員としてどのように向き合うのかということも、取り入れてお話しました。
自治体のICT教育に関する施策にも関心を
公立学校の現場でICTが整備されるとき、ICTをどの教科で何時間使ったのかということ等をまとめるよう求められることが多いです。当然学校にとりましてはそのような数字を作ることが目的ではありません。ですから、講習ではそもそもなぜICTが整備されたのかということを理解していただきたいと思いました。そして、受講者が所属する自治体や学校の方々も共有してください、ということも伝えたいと考えました。
公立学校に関する施策は、地方自治体のウェブサイトで公表されています。九段中等教育学校の施策については、千代田区のウェブサイトの中の「予算の概要」というところに載っています。これは、ICT環境整備のための予算を整備するにあたって、「なぜ必要か、何が目的なのか、どのような効果を見込んでいるのか」ということが、掲載されています。私も関わった事例ですので、講習会ではこの資料を紹介しお話をさせていただきました。
ですから、先生方にはこのような自治体の施策を確認していただき、自分の自治体では何を意図してICTを整備しようとしているのか理解していただきたいと思います。九段中等教育学校では、「生徒が学習活動において情報や情報手段を主体的に活用する能力を育成することができること」、そして「集団討議による課題解決型授業に適するように」ということを目的として挙げています。
教員の主体的に判断するためには情報収集が大事
自治体の施策がわかったら、ご自身の教育の情報化に対する理解と、自治体の施策の内容をつき合わせて、どちらが先を行っているのか知恵比べをするような感じで見てください、というようなことをお話ししました。自治体が時代の最先端を行き、先見の明を持ってICT導入に取り組んでいるか評価し、また教員がどのように工夫を凝らすかことを考えることが必要なのです。
その際に、自治体の施策に関する資料だけでなく、学習指導要領、学びのイノベーションなど公的な資料もいろいろありますが、それらとともに、21世紀型スキルやOECDのPISA型学力など、いろいろな能力観・学力観に関する報告がありますから、それらも合わせて調べた上で施策を評価するという姿勢は必要です。
なぜなら、公的機関の情報だけでなく、幅広く情報収集した方が、これから世の中で何が求められていくかということを把握することができるからです。ここで訴えたかったのは、教育委員会が言うからではなく、何のためにICTを使うのかということを、先生方が主体的に判断するための情報収集をしてくださいということです。
ICTがある教室環境でどんな学習活動ができるかを考える
教育の情報化に関する施策がいろいろな自治体で進められていく中で、先生方には、教室にICTが整備されているということを前提とした指導モデルをご自身で確立していただきたいと考えております。授業でICTを無理矢理使うよりは、ICTがある教室環境でどのような学習活動ができるのか考えて授業設計した方がスマートかと考えました。
そこで参考として、私が個人的に考えているものを講習でお話ししました。学習活動ABCDと段階に分けてみます。例えば、課題解決型の学習には、A=「知識の伝達・収集」という段階においては教科書や先生の説明だけでなく、より幅広い情報収集をしますよね。そして、収集した情報を使って考えるという活動(=B)があります。考えた後には、学習成果を表現します(=C)。思考力・判断力・表現力を発揮しますね。さらに表現したものは、やりっ放しにせずフィードバックします(=D)。
例えば、生徒達がBの段階に行こうとしている時、教員はインプットが十分だろうか、もう少し補足説明したほうがいいか、ということをその場その場で判断をして、やはり補足説明しようとか、考える時間をもう少し与えようとかいうことを決めて進めます。さらに授業の場にICTがあるとき、どのようにしてより効率的に理解を深められる授業運営ができるか、と考えていくわけです。
私の普段の授業はいつもタブレット使っています。先ほどのモデルの中にICTの文言はありませんが、情報環境があることは前提になっています。
中・高6年間を通して養うスキルを決め、他教科とも連携できるようにする事例
教員免許講習では、本校で「総合的な学習の時間」と「技術・情報科」の授業で連携して、情報活用能力を育てるカリキュラムを整備しています、ということも紹介しました。「九段自立プラン」とよんでいますが、この指導目標自体は学習指導要領の「総合的な学習の時間」の目標と重なる部分が多いです。年度毎に、プロジェクト形式で体験活動をする際、各学年でどのような活動をさせて、そこでどんなスキルを身に付けさせるかということを、意図的に決めて指導することにしました。
1年生では、パソコン操作の基礎から始まって情報の収集・整理・表現、PDCAサイクルを回すところまでやりましょう、2年生では新聞形式のポスターを作成して、ポスターセッションをやってみましょう・・・と6年生(高校3年)まで通して決めていきます。そして、5年生から6年生にかけて卒業論文を書く時には、今まで積み上げてきたスキルを生かすということにしました。学年ごとのスキルの積み上げのプランは主に私が決めて、全校で実践しています。
さらに今年からは、いろいろな教科について、どこの学年の・どんな活動で情報活用能力を指導している(いますよね・実はいるでしょう)という実践事例を拾い上げてマトリックス化して、各学年の情報の収集・分析・表現活動がどのように関連しているかを見られるよう担当者で試みています。そうすると、実はどの教科でも情報活用力のトレーニングをしているということが明らかになりますので、先生方は「他の授業でこういうことをやったよね」と生徒に確認することができる。そして、「今までやったことを使って、今回の総合学習ではワープロで資料を作ってみよう」というような指導ができるようになると考えています。
講習では、以上のような話をさせていただきました。今後のICT活用は、まず教育活動で何をするかというところから考えて、そこにICTが活かされるというイメージが受講者に伝わればと思います。
※高校教科「情報」シンポジウム2014秋での講演より