中高生のネット依存やトラブル
2014年4月の消費税増税に伴って、スマホ(スマートフォン:以下同)への買い替えや通信端末・ゲーム機などの駆け込み購入などが起きました。子どもを取り巻くネット環境が大きく動いた中で、ネット依存やトラブルはどのような状況にあるのでしょうか。情報教育アドバイザーの遠藤美季さんに聞きました。
第1回 子ども達から空白の時間が奪われ、トラブルへのハードルが下がっている
■自撮り画像が子ども達をトラブルに巻き込む
スマホを持ち始める年齢が低下していて、中学生でも半数近くが持っています。小学生高学年で持ち始める子もいます。そして、年齢が若い方がトラブルに遭いやすくなっています。
最近顕著になっているのが、児童ポルノの問題です。「児童ポルノ」というと、小学生以下のことと誤解されている方も多いのですが、法律(※)の上では「18才に満たない者」を指します。子ども達が「キミの裸の写真が欲しいから送って」とネットを通じて『彼氏』に言われて、安易に送ってしまい、それが深刻なトラブルや犯罪につながるケースが増えています。リアルな関係では、LINEなどのソーシャルメディアでシェアされてしまって不登校や転校に追い詰められたり、SNSなどを通じて知り合った相手に送った写真で脅されて関係を迫られたり、ということが年々増加しているのです。
以前は児童ポルノのわいせつ画像は、無理矢理撮られたものが多かったのですが、最近はスマホのカメラの「自撮り」機能で自分の裸を撮って送ってしまう、というケースが急増しています。平成26年度上半期の警察庁の調査では、児童ポルノ事件の被害者として、全国の警察が2013年に身元を特定した18歳未満の子どもは646人で、前年より22%増えていますが、そのうち42%は「自撮り」でした。これは摘発された件数だけですので、実際はもっと多いと考えられます。
※児童ポルノ禁止法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号))。児童買春・児童ポルノの取締りなどを目的とした日本の法律。平成26年改正。「児童」とは18歳に満たない者を指す。
特に、性的な被害に遇ってしまうケースは『彼氏』と言ってもリアルな交際相手ではなく、ネットで知り合った人という場合が多いので、ことは複雑かつ深刻です。スマホを持っていない小中学生であっても、PC、携帯ゲーム機や音楽再生機(iPodなど)などのネットに繋がる端末から、知らない人と出会うことができます。子どもたちはそこで出会った人に言葉巧みに誘導されて、自分の写真を送ってしまいます。中には同年代を装い相手に恋愛感情を抱かせて誘導するという、なりすましを利用した卑劣な手口もあります。さらにネットで知り合った正体のわからない人に実際に会いに行ったりして、トラブルに巻き込まれることもあります。
少し前に「出会い系サイト」が問題になった頃は、そういったものに好奇心がある子が自分から求めてアクセスする、という傾向がありましたが、最近はオンラインゲームやSNSで知り合った人とLINEなどのチャットアプリの2ショットチャットで親密につながったり、見た目では有害サイトとはわからないURLを誤ってクリックしてしまったりして、そのままズルズルとのめり込んでしまうケースが多く、危険へのハードルが非常に下がっています。女子だけでなく、男子児童や生徒が被害に遭っている例もあります。
■タブー視せずに伝えることで、自覚を促すことが必要
学校の講演で子ども達にこういった話をすると、まさに興味津々で聴いています。ふざけているのではなく、そんなことは初めて聞いた、知らなかった、もっと教えてほしいと思っているのです。講演後のアンケートでも「親がネットを危ないという意味が分かった」「実際のトラブルや回避方法をもっとしりたい」と書く生徒もいます。
性の問題はデリケートな部分もあり、家庭でも学校でもなかなか教えにくいかもしれません。ですが、ネットには偏った情報が氾濫しています。そうなると子ども達は、興味本位でアクセスしネットでいろいろ検索して知識を得ていきます。きちんと性教育を受ける以前に、ネットの嗜好的な映像・画像に触れその情報を鵜呑みにしてしまいます。問題は性に限らず、彼らの話を聞いていると、ネットに載っているものは全て正しい情報と思い込んでいたり、自分の思考に近い情報を集めて確信したりしていることがうかがわれます。ネットに依存している子はさらに新聞やテレビは情報を操作してあるから正しくない、とすら思っている子もいます。
軽はずみな行為が招く事態を予測させ、それがどれだけ自分にとって危険か、ということを知っていれば、あえてやろうとする子は確実に少なくなるし、自分で危険を回避しようとするでしょう。性の話や性犯罪をタブー視せずに、きちんと子どもと向かい合って話し、正しいこと、危ないこと・してはならないことをしっかりと伝えて、子ども達に自覚を促すことが、大人の役目であり、最大の抑止になると思います。
■空白の時間を作りたくないので、見ず知らずの「友達」とつながろうとする子ども達
中高生と話をしていると、スマホのヘビーユーザーの子は、そうでない子と比べて見ず知らずの人と気軽に『友達』になっていることがわかります。「たくさんのいろいろな人と知り合うのは楽しい」「深刻な相談でも、知らない人の方が気軽にできる」などというのがその理由です。また、それらの『友達』が話しかけてくれたら反応しないと悪いと考える傾向も強いので、結果的にますますスマホをいじっている時間が長くなり、常に誰かとしゃべっていないと不安になる、という依存傾向に陥るようです。
今、中学校や高校では、ネット依存の問題に取り組もうとしている学校も増え、子ども達も「視力が下がる」「成績も下がる」などリスクについてある程度知っていますが、それでもつい手が出てしまってやめられない、というジレンマに悩む子が多くなっています。
依存の相談に来る人に話を聞いてみると、課題や毎日の勉強にしても、誰かとの約束事や家の手伝いなど、一つひとつその場で片づけて行かなくてはならないことを後回しにし、ゲームがしたい、友達にメッセージを返したいという気持ちをコントロールすることができずオンラインの状態を続けてしまっていることがわかります。その結果、やらなければならないことがさらに溜まってしまって、手が付けられなくなってしまう。その事実と向き合うのが嫌で、そこから逃避するためにもっとはまり込んでしまう、という負のネットスパイラルに陥ってしまっている様子がうかがえます。子どもだけでなく、大人にもそのような人が増えてきています。
高校生がSNSを使う理由として、「友達や知り合いとコミュニケーションを取るため」「学校・部活などの事務的な連絡のため」というコミュニケーション手段と並んで、「ひまつぶしのため」という回答が目立ちます。絶えず誰かとつながっていないと不安になるのとともに、何もしていない、することがないという隙間をネットで埋めているのです。しかし、それは将来につながるものではなく、現実逃避でしかありません。ぼーっとしている時間は、時に新たな発想につながるひらめきを生むということを、子ども自身が自覚することも重要です。その貴重な時間すら皆無という現状を改めて問題とし、考える必要があります。これは、先ほどの性犯罪の問題と同様に、「情報モラル」という教科単元の話ではなく、学校や地域、社会全体で取り組まなければならない問題だと思います。