ICT導入のための教育設計と授業の見直しの実践

タブレット導入2年目を終えて 仙台城南高校

仙台城南高校 ICT推進室室長 千葉俊哉先生


デジタル教科書や電子黒板、タブレットなど授業内のツールだけでなく、校務全体へのICT導入を図る学校も増えて来ています。そこで重要になるのはICTを導入することによって何を目指すかという
目標設定であり、それを個々の授業に落とすための授業設計です。2年前に「一人一台タブレット」「全館にWi-Fi設置」「先進的なホームルーム教室」を軸にICTを本格導入した、仙台城南高校(宮城県)の実践報告をご紹介します。

千葉俊哉先生
千葉俊哉先生

本校は、工業高校としてスタートしました。そこに普通科が設置され、2年前に現在の校名になりました。その時、教育目標を『ICT教育とグローバル教育』の2本の柱としました。特進科・探究科・科学技術科の3学科があり、生徒数は1000人弱です。現在の体制になってまだ2年目なので、3年生は学科が新しくなる前の普通科と電子科の2学科編成です。進路は、大学進学希望が多いのですが、就職や専門学校進学の生徒もおり、どちらかと言えば進路多様校という状態です。また、本校は同一法人に東北工業大学があり、3分の1はそちらに指定校推薦などで進学しています。   

 

「情報基盤社会を担う生徒を育てる」という目標のもとに

本校が学校全体でICTをどのようにとらえ、どんな環境整備をして取り組んでいるかについてお話します。


まず本校のICT教育の狙いです。2年前の学科改編の際に、ICT教育を導入することで何を狙いとするか、ということを考えました。情報基盤社会を担う生徒を育てていこう、というのが根本にありました。これからは情報を頭で蓄積していくのではなく、常に手元に情報があるという社会になっていきます。そのためにどんな生徒たちを育てなければならないのかということで、「知識を伝えるのではなく使えるような指導をしよう」「自分で情報を選び、知識として獲得していく姿勢を育てよう」、そして最後に「情報のモラルを育成しよう」という3つの狙いを決めました。

 

そして、ここが1つのポイントなのですが、情報端末を「持たせない」「やらせない」という規制ではなく、端末は既に皆が持っていることを前提として、そのベストな使い方を見せたり、何か問題が起きた時には、そこは違うんだよときちんと対話することが大事であると考えています。高校ではがっちり規制をしていて、社会に出たり大学に行ったりで規制がなくなったとたんに歯止めがきかなくなるというのは教育ではないという考え方です。

そもそもこのような方針を作ったきっかけは、「探究」という授業を作る時に「探究活動をさせよう」「ゼミや論文作成をさせよう」という目標を出しましたら、先生方から「生徒がそもそも話せないからプレゼンテーションなんてできない」「ゼミなんかやっている暇あるの?授業とのつながりは何?」「彼らは整理力がないから、資料とかすぐに失くしてしまう」「そもそも調べ学習をするパソコンのある部屋が1つしかない。学科全部でできるのか」等々、様々な問題が出てきました。

 

その時、一人一台iPadを持たせればよいのではないか、と思ったわけです。プレゼンテーションもできるし、中にデータも蓄積される。パソコン教室がなくても調べ学習ができるし、そもそもiPadを持つことで、生徒に積極性や協調性も生まれるのではないか。さらに、制作したものをiPadに蓄積して、面接や小論文の素材に活用できるのではないか、という話をしたのが始まりです。そして、それならばデジタル教科書を入れて教科指導にも活用していこうということでICTの本格導入に入りました。

 

ハード面は「一人一台タブレット」「全館にWi-Fi設置」「先進的なホームルーム教室」を軸に

本校のICT教育の特徴ですが、大きく5つの特徴があります。まずは探究活動のために、一人一台タブレットを持たせました。そして、この探究活動のデータの蓄積共有のために、校内に専用のサーバーを設けて、そこにデータを置いてやり取りできるようにしました。また、全館をWi- Fi化して、どこにいても調べたいと思ったらすぐに調べられる環境を作りました。さらにホームルームの教室は、ストレスをかけずにプレゼンテ―ションができる環境を整えました。そして、SNSや学校支援システムも導入しました。

 

それでは、探究科でどのようにiPadを使っているかを紹介します。探究活動が主ですので、調べ学習でマインドマップを作ったものをWEBノートにまとめたり、大学に行ってインタビューを録音したりという形で使っています。また、クラス内でプレゼンテ―ションし、その中でよかったグループを体育館で全クラスの前で発表したりします。ポスターにまとめてポスターセッションも行いました。

今年度からは、科学技術科でもiPadを一人一台持たせています。科学技術科には探究活動の授業はないので、実習の中の先生方の細かい作業を動画で提示したり、検定の問題をPDF化してiPadの中に入れたり、授業の動画を撮って生徒に配信したりといったことで使っています。

全館Wi-Fi化ということで、ホームルーム教室には、80台アクセスできるアクセスポイントを1つずつ用意しています。大体40人クラスですが、容量が倍くらいのものであればストレスなく使えます。一つ一つのアクセスポイントがバラバラではなく、全部がクローンのような形になっているので、干渉し合うことは起きません。


今のところ、アクセスポイントは主にホームルーム教室に入れていますが、その他はだいたい廊下に付けていて、全館をある程度網羅するような形で置いています。来年は体育館にも入れて、体育館でのプレゼンテ―ションでApple TVを使うなど、さらに広範囲で活動ができるように徐々に広げていこうと考えているところです。

 

ホームルーム教室の設備ですが、ここに行きつくまでにはいろいろありました。現在は、生徒と共有できるiPadのデータを、天井についているWi-Fi ルーター経由でApple TVに飛ばし、Apple TV HDMIのケーブルを経由してプロジェクターで投影されます。スクリーンは、黒板に貼り付けるホワイトボード型のものを使っています。余談ですが、全面に貼り付けるスタイルのスクリーンは、貼り付ける時空気が入りやすく、面倒なんですね。本校で使っているのは巻き取り型のもので、好きな長さに引き出して使えるもので、貼り付けや巻き取りが簡単です。半分だけ映像を映して半分は空けておくこともできますし、プロジェクターもその分だけ拡大率を下げれば好きなように使えるので、便利です。

Apple TVを使っているのは、生徒のiPadのデータを映す時、いちいち前に出て来て接続させることをなくしたいと思ったからです。それぞれの机の上からApple TVに接続して、着席したままで皆がそれぞれの画面をみることができるようにしました。

 

校内サーバーの活用で、学習の可能性を拡大

また、Wi-Fiルーターはそのまま校内サーバーにつながっていて、無線で学校のサーバーのデータを引っ張ってきたり、逆に自分のデータを置いたりすることが可能です。ですから、生徒たちがプレゼン資料を作る時、グループ内で分担して作ってそれぞれが校内サーバーにアップしたものを、代表の生徒が合体させてダウンロード、ということもできます。

 

そのため、PC教室は様相を変えました。もともと調べ学習にパソコンは必要ではないと思っていたので、今は2つのPCゼミ室を用意しています。1つは『Jゼミ室』(Jは城南のJ)で、話し合い活動を主体としたゼミ室です。この教室では、40台のノートパソコンが保管されていて、全部がWi-Fiにつながるようになっているので、必要な台数だけ持ち出して使います。可動式の机、いす、モニターを置いて、自分たちで好きな分のテーブルを集めてグループ活動ができるようにしています。


もう1つが『JCR』(城南クリエイトルーム)といって、主に制作活動をするためにiMacを40台入れています。iPadのデータをサーバーにあげたものを、ここでプレゼンテ―ションスライドなどに加工します。この教室は、先ほどの探究科だけでなく、科学技術科の中のデザインコースの生徒たちが使うこともあります。

校内サーバーにアクセスできるのは校内だけです。中は生徒用と教員用に分かれていて、生徒用はさらに教科別に分かれています。そこでデータのアイコンをクリックすると、そのデータが自動でダウンロードされるので、家に持ち帰って見ることができるのです。本校ではけっこう動画配信もしているので、動画もサーバーに置いておき、ダウンロードして家や通学時間に見る、という形で使っています。

このシステムは、先ほどお話したグループ学習のプレゼンテ―ション資料作成や、先生方が入れた問題の解き方の解説動画を見る時に使います。また、生徒が提出(=アップロード)したものを、有線LANでつないだ先生方のパソコンで見ることもできます。


この他、市販の学校支援サービスもここに入れて、生徒の成績もここで一元管理しています。Webテストもここから行えるようになっています。

 

教育委員会・大学と連携してICT教育実践の試行を行う

このように環境を整えたら具体的に何をするのかという話になります。探究活動としてはかなり進歩しましたが、一方で普通教科の授業の中でどのように使うか、ということで、まず宮城県教育委員会、宮城教育大学、本校の系列の東北工業大学と連携して、「宮城のICT教育研究専門部」を立ち上げました。そして、それらの大学の先生方と連携して、いろいろな教育実践を試行していくことにしました。

 

その中で5つの柱を打ち出しました。まずは「授業」、これはタブレットを授業の中でどのように使うかという研究です。「教材」は、デジタル教科書のより有効な使い方の研究です。「指導」は、学校支援サービス等を使った学校内外の指導やSNSによる指導でどのようなことができるかの検討。「家庭学習」は、家庭でどのような学習をさせられるか。そして「PDCA」は評価のことですが、このようなICTを使った際の生徒の成長というのは、数字に表れる成績だけでは見えなかったりするので、どういうところに効果があって、どのように評価をすれはよいのか、ということを検討します。

この5つを柱として、本校の教員と大学の先生方がそれぞれのチームに入り、共同で研究をしています。デジタル教科書に関しては、この後報告しますので、それ以外の部分でどのような成果があったかを報告します。

国語科におけるデジタル教科書の活用例はこちら

 

まず、タブレット活用です。これは数学の先生の授業ですが、Keynoteに問題の解き方が順番に入っています。ボタンを押すと、ヒントが一つ出てくる。さらに押すと、次のヒントというふうに、順番にヒントが出てきます。この先生は、ただこれを説明用だけでなく提案学習に使っていて、ヒントを見ながら「ここまでわかっているんだけど、ここからわからない」というところで、なぜそれがわからないのか、ここからここに行くのに何でわからなかったのか、ということを隣の子と教え合います。お互いにわかったところ・行き詰っているところを話し合うことで、わかった子は「この次はこうやればいい」と教えてあげられるし、わからない子は、何がわからなかったのかということがわかるというメタ認知ができる、というものです。

国語の先生は、iMovieで宮沢賢治の『永訣の朝』という詩を映像化するという活動をしました。その中に、例えば「てっぽうだまのやうに(鉄砲玉のように)」という表現がありますが、この部分を映像で表現して、なぜこのような映像にしたのか、というところからその読解を話し合うという授業をしました。


物理の先生は、実験の授業で、データを全部一括に集めるリアルタイムアンサー機能のアプリ『pingpong』を使い、自分たちの実験データを先生に送って共有し、それに対してのやり取りをするという授業をしています。

その他、本校で今進んでいるのは自作の動画教材の活用です。内容は、板書を進めながら解説したり、ちょっとおもしろい実験を見せたり、と先生によっていろいろですが、生徒が見て理解を深めるような取り組みが増えているような気がします。

 

ICT活用により探究活動が進路研究にも。さらに教員の授業力の向上へ

ICTを活用したことによる変化を考えると、以前はこのスライドのように、タブレットを使うのは探究活動がメインで、その中で言語活動とか情報リテラシーのことを考えれば十分、授業では誰かが使ってくれれば大丈夫、というイメージでした。

それが、今年になって次のように変わりました。探究活動は、言語活動以外に進路研究の活動の場でもあるということ。また、学校支援サービスを使って、校内・校外の活動を含めて情報リテラシーの育成をしよう。また授業は「誰か使ってください」という状態から、皆が授業力の向上というところを含めて考えるようになりました。さらに、WEBを使って家庭学習支援を行う、という流れもできました。異文化交流でスカイプで海外とやり取りするというものもあります。このように、2年間いろいろやっている間に少しずつ変化してきたかなと思います。

実はこの評価・学習効果の評価を研究するグループからの報告で、本校の生徒の学習意欲を高める項目としては大きく3つあることがわかりました。


1つは「メタ認知」です。メタ認知を刺激していくと、学習意欲の高まる生徒が多いようです。それから「有意味理解」。意味がわかるように解説をして、ただ覚えるというのでなく「こういう意味があるんだよ」とか、「身近なところでこういう活用されているよ」といった意味を持たせると、生徒は理解して意欲も高まる。あとは「援助提供」。これは、援助をしてあげる、教えてあげる、教えてあげる機会を作ってあげると学習意欲が高まるということです。


それらを促すためにはこんな項目があるのではないか、というものを挙げてみました。例えば、メタ認知と有意味理解で言えば、先ほどの数学の例にあったような「わからない理由を書く」などです。あるいは、動画で解説動画を作って弱点の克服方法を教えたり、学習の目標をきちんと教えたりすることも効果があります。


援助提供というのは、教え合いですね。こういったことが今後の授業づくりにアプローチしていけたらということに、探究活動からアプローチできたら面白いかなと考えているところです。

タブレット活用グループのメンバーが生徒にアンケートを取ったところ、生徒が効果的だったと答えたのは、「授業の理解度」です。タブレットを用いて作業したり考えたりすることが、探究活動を含めて非常に効果的だったと言っているのですが、一方で家庭学習ではあまり効果的ではなかったようです。


授業での活用方法についていえば、成績にあまり向上が見られないので、本当にこの活用方法がよかったのか、と思っているのだと思います。


また学習意欲も、タブレット自体に関して意欲や面白味はあっても、勉強自体に意欲が向上したかといえばそうでもない、という具合で、マイナスだったというよりは、あまり今と変わらないという結果が出ました。

ICTは「生徒同士で話し合う授業づくり」を促し、先生同士が生徒の未来を考えるきっかけに

これらをまとめた私なりの展望をお話します。


1つが、ICT教育を軸にして教員の授業力向上をはかる。その中で、先生方にどのように授業力向上を伝えていくかということを、教務の先生方と話を進めているのですが、そのキーワードは「生徒同士で話し合う授業づくりをしましょう」ということです。先ほど述べた援助提供を行って、生徒同士で話し合える授業にしていけばいい。そのためにICTをどう入れていきますか、という話をしていく方が、先生方にはより具体的にわかってもらえるかと考えています。

そして、今後は学校全体としての取り組みの進化を考えていきたいと思います。今は、やはり先行している先生方がずいぶん先行していて、学校側は、全員一歩以上お願いしますという感じになっています。この一歩「以上」と言うところが、ICT推進室長としては苦しいところなのですが、それができる体制作りまで行けたらと思っています。

ICTを入れたことは、職員室で先生同士が未来について話し合うきっかけになりました。今までは、「生徒の服装が…」とか「また勉強してこない」といった会話ばかりで、他教科の先生が何をやっているのかも知らなかったのですが、ICTを入れた途端、教科間で関係なく授業の話をするようになりました。また、タブレットを使う時に、いったい生徒に何を伝えたくて、どこを伸ばしたくて紙なのか(あるいはタブレットなのか)、生徒の未来を考えた時に本当にそれが必要なのか、ということを話すようになった結果、今の生徒たちが大学に行ったらたぶんこうなるだろうね、ということを考えながら授業を作るようになってきたと思います。その結果、ポスターセッションやプレゼンテ―ションでいい顔をしている生徒が増えたなというのが嬉しいところです。

 

大阪府高等学校情報教育研究会 第12回「ICT・デジタル教材勉強会」(2014年3月14日)講演より