国語力強化のためのデジタル教科書の活用
~本文提示で「考え抜く」「説明し抜く」力を伸ばし、「考え方」を手に入れる
仙台城南高校 国語科 中里加奈子先生
本校では、数研出版のデジタル教科書を採用しています。生徒用は、一人一台持っているiPadに入っており、私は教員用のデジタル教科書をノートPCにインストールして、プレゼン機能でスクリーンに映して使っています。
書き込みは、書き込み可能なスクリーンに直接ホワイトボード用のマーカーペンで行っています。実は、電子黒板機能付きのプロジェクターで映しているのですが、電子黒板についている電子ペンは、高校生の授業にとってはスピードがちょっと遅いかな、と感じています。
デジタル教科書導入で、授業の「効率化」「思考の可視化」「共有化」をはかる
デジタル教科書を使う目的の1つ目は効率化です。これによって、授業スピードがいい意味で早くなりました。2つ目は思考の可視化。本文全体を提示して、それを見ながら根拠を明らかにしつつ答えを探していくということを行っています。3つ目が授業の内容の共有化です。生徒の前に本文を提示することによって、おのずと生徒の顔が上がります。そうすると、自然に生徒も指をさしながら、あそこじゃないかここじゃないかと言いながら皆で答えを探す、そういう共有化を図ることができるというメリットがあります。
昨年(2014年)の秋に、従来の授業とデジタル教科書で本文を提示する授業のどちらが理解しやすいかということについて、生徒にアンケートを取りました。146人中、「従来の授業の方がわかりやすい」と答えた生徒が50名、「本文提示の授業の方がよい」と答えた生徒が90名、「どちらでも同じ」という生徒が6名という結果でした。
ここで「従来の授業がよい」と答えた生徒の中には、今使っているプロジェクターの光源が弱くて見えづらいので、今までの黒板の方が見易くていいという人がいました。この1年で見易くなるよう照明の工夫をしているので、具体的な数字は出せませんが、今はこの人数はかなり減っていると思います。
その他の理由として、「もともとデジタル教科書を使わない授業を受けてきたので、今までの授業の方がいい」「(紙の教科書に書き込みをすると)教科書が汚れるので書き込みたくない」「進むのが早い」というのがありました。本校には、学力サポートが必要な生徒もいますので、授業のスピードが上がると負担感が大きくなるという面もあると思います。これらの課題を改善していくことが必要になってくると思います。
デジタル教科書の方がいいと言う理由には、学習サポートの意味があると思います。口頭の説明だと、ボーッとしていると聞き逃してしまいますが、本文を提示してあげれば、生徒が自分で今どこの話をしているかがわかります。やはり一長一短があると思います。
授業中、生徒とのコミュニケーションが格段に活発化
私自身が教員用のデジタル教科書を使ってみた感想として、やはり生徒とのコミュニケーションが格段に増えました。私だけでなく生徒も話す量が増え、授業のやり取りが活発化したということ。そして、生徒は適当に答えるのではなく、本文を見て根拠を探しながらきちんと答えるトレーニングができるということ。そして、意味をしっかり理解して、さらにそこから先に進めるので理解度が深くなったということを感じます。
さらに、何回も再現ができるので、授業の最初に前回行ったことを見せることができ、復習がスムーズです。私は一日に同じ授業を3回行いますが、どのクラスにも同じ授業の提供が可能で漏れがないということ、これらは大きなメリットだと思います。
逆にデメリットの方は、やはりクラスによって照明や教室の採光によって見えにくい環境があるということです。それから、デジタル教材が合わない生徒もいるということを知って教えなければいけないということ。また、機械なのでどうしても不具合があり、機械の機嫌が悪い時は思い切って使わないで授業をすることも大事です。使えば便利だけど、なくてもいいよね、と気楽に考えてやっています。あとは電子黒板機能ですが、アニメーションはちょっと遅いので、あまりこれは使わずに、本文提示を中心にシンプルな使い方をしています。
どのようにデジタル教科書を使うかということについては、私から「このように使いなさい」ということは言っていません。使い方を選ぶのは生徒で、こちらからは強制はしていないのです。紙媒体の教科書とデジタル教科書を使い分けるということで、生徒はだいたいこのスライドに載っているような使い方をしているようです。
中には、私の「根拠を明らかにして答えなさい」という発問に対して、「ここにこう書いてある」という説明に必要な資料を全部キャプチャーして、自分専用の資料を作ってしまった生徒もいました。こういうところは、さすがにデジタル世代ですね。
いろいろ試してみて感じたICT活用の効果的な条件としては、スライドの見やすさという点では、30人くらいが理想かと思います。本校は40人クラスなので、その点はけっこう厳しいです。また強固なWi-Fi環境があることは必須です。これも、現状では時々つながりにくいこともあるので、ここも重要なポイントだと思います。それから、ICTを使う時は必ず自作のワークシートをプラスすることで、その先生のオリジナルの授業ができると思います。
大事なのは「デジタル教科書を何のために使うか」という目的の明確化
私自身は、いろいろな先生がおっしゃるように、ICTはあくまで手段であり、『何のために使うか』という目的が第一である、という考えのもとで使っています。
私がICTを使う目的は、まず国語力の強化です。国語力は、学問のすべての基本となります。そして、ただ考えるのではなく、「最後まで考え抜く」ということ。そして、だらだら説明するのではなく、効率的にきちんと説明し抜く力。さらに、いろいろな発想の仕方・考え方を手に入れるということ。この3つのポイントに時間をかけるためには、どうしても効率的な授業の進め方が必要になってくるので、そうなるとICTが必要だ、ということになります。
現代文では、本文を提示します。私のノートパソコンでは、あらかじめ40人クラスの後ろの席の生徒も見えるように設定した状態で見せています。
行間の調整ができるようになっていますが、現代文の場合は、あまり行間は広げなくてよいと思います。字の大きさも、クラスの大きさと人数によって調整していきます。行送りと段送りは、形式段落ごとに送られていくので、いちいち待たなくてもいいという便利な機能があります。そこで、ある程度段落で区切って生徒のiPadで段落毎に読解プレゼンをさせ、それをWEBサーバーにあげ、クラスごとに読み比べをする、ということにも使っています。
古文の授業でも活用しています。古文の場合は、説明をいろいろ書いていきますので、行間をかなり大きく空けて提示をしています。
また、マーカーを引く機能もありますが、マーカーは最初から引いておいた方がよい時とそうでない時とがあるので、作品によって変えています。最初に引いておくと、生徒は教科書を開いてもすぐに書くのに夢中になって授業を聴かなくなってしまうので、作品によっては最初は一切マーカーを付けないこともあります。問いを最初に教えてしまうと、生徒が先回りしてしまって「何が問題なのか」というメタ認知の機能がなくなってしまいます。逆に、問題としたところについては、プレゼン機能で記録して残しておくことができるので、たいへん便利だと思っています。
このように古典と現代文、そして作品によって使い分けができ、教材研究もとても楽なのがデジタル教科書の最大の利点だと思います。また、あらかじめ問いの設定をできるので、私は「何を問うか」をまず考えた上で使っています。生徒は、紙の教科書の方に書き込みをしていくので、テスト勉強の時は教科書を読めば学んだことが全てわかることになります。理想としては、教科書に載っている作品を全部授業で取り上げたいと思っているので、ICTを利用して多読しながら、テストでは新しい教材に挑戦させたいというのが理想なのですが、そこはまだ途中段階というところです。
このように、デジタル教科書は毎日使ってはいますが、50分間の授業中全部は使いません。生徒も疲れてくるので、最初の10分間は出欠確認をしたり、小テストで振り返りをしたりして、間の30分間だけ使います。最後の10分間はその知識の定着ということで、ワークシートやワークテキストを行う、という授業構成にしています。
◆仙台城南高校全体としての実践報告はこちらから
大阪府高等学校情報教育研究会 第12回「ICT・デジタル教材勉強会」(2014年3月14日)講演より