特集 学習目標を意識した指導と評価

事例6 学習意欲向上とコミュニケーション能力育成のため

英語科でパフォーマンス課題と評価を実践

京都府立園部高等学校 田中容子先生(英語科)、遠山晶子先生(理科)


京都府立園部高等学校では、2006年度から3年間にわたり文部科学省のスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)の指定を受けたことを契機に、英語科でルーブリックを作成・導入し、パフォーマンス課題とその評価を通して生徒の学力向上に取り組んでいる。「生徒を育てる」ためのルーブリックとパフォーマンス課題について、英語科の田中容子先生と、理科の遠山晶子先生に話を伺った。

CEFRを参考に、英語を使ってできることに応じて

習熟度を設定した長期的ルーブリックを作成

田中容子 先生
田中容子 先生

京都府中部の南丹市に位置する京都府立園部高校は、(1)通学区域は南丹市のみ(ただし定員の10%を超えない範囲で他市町村から生徒を募集)の普通科、(2)京都府全域を通学区域とし、難関大学への進学を希望する生徒が多い普通科中高一貫コース、(3)京都府全域を通学区域とし、国際的な視野を持つ人材の育成をめざす京都国際科、からなる高校である。さらに(1)普通科の生徒は、入学後に基礎学力アップを図り多様な進路をめざす「ソノベベーシックコース(SB)」と、確かな学力を身につけ国公立大学・難関私立大学への進学をめざす「ソノベアドバンスドコース(SA)」に分かれてそれぞれのカリキュラムで学ぶため、4つの科またはコースが併存することになる。

 

英語科では2006年度からSELHiの指定を受けて「学習意欲を効果的に高める指導を通して、豊かなコミュニケーション能力とグローバルな視野の育成に資する指導・評価方法の研究開発」に取り組んだ。主にSBコースの生徒たちに焦点を合わせたものだ。

 

「SBコースには英語に苦手意識の強い生徒が多かったため、学習意欲を向上させ、英語を活用できる力をつけるための指導方法を考えることにしました」(田中先生)

 

そこで、まずどのような力を身につけさせたいのかを、質的側面から文章にした、長期的ルーブリック(注1)の作成に取り組むことにした。このとき参考にしたのが、「CEFR(セファール)」である。CEFRとは、Common European Framework for Reference of Languages(ヨーロッパ言語共通参照枠)の略で、ヨーロッパで、外国語の熟達度を測る共通の指標として使用されているものである。これは言葉を使って何ができるかを6段階に分けて具体的に記したもので、NHKが英語講座に導入したことをきっかけに、日本でも広まりつつある。

 

長期的ルーブリック作成について、「当初、SBコース向けの3年間のものを作成する予定でしたが、CEFRが基礎から高いレベルまで幅広く設定されていること、ちょうど中高一貫校になったことなどから、中高一貫コースの生徒にとっては6年間、その他の生徒にとっては高校3年間で使うルーブリックを作成することにしました。内容はCEFRをもとに、本校の生徒に合わせて調整しています。ルーブリックの内容設定の際に最も重視したのが、『生徒にとって真正性を持つ内容を』ということでした。学ぶ内容が生徒の生活の中で生かされ、そのことを通じて生徒が学習内容を具体化していくことをめざしたのです」(田中先生)

 

長期的ルーブリック<図表>を見ると、コースに応じて各習熟段階をめざす学年を変えることで、全コース共通して同じルーブリックを使うことを可能にしている。また3年間もしくは6年間を見通したルーブリックであるため、レベルが上がることで、教員も生徒自身も、学力向上の手応えを感じながら、学習を進めることができる。

 

「英語のルーブリックは、『何ワードで何ができる』というように単語数が示されていることが多いのですが、本校のルーブリックは『辞書があれば何ができる』という記述が多く、単語数にこだわっていません。単語は覚えられないけれど、辞書があれば英文を作ることができる生徒もいます。単語や文法にとらわれずに、できるところから伸ばしていこうという考えです」(田中先生)

 

なお、大学進学をめざす生徒に対しては、単語や熟語は別途指導している。

 

またレベル6のReadingが「辞書を使って専門的な論文が読める。英字新聞や英語サイトを読める」であるなど、最終到達目標を大学入試を超えた難度の高い内容に設定しているのも特徴だ。「レベル6は、あえてCEFRの習熟度をそのまま採用しました。海外メディアを読み解ける生徒を育成したい、ひいては、日本からの見方だけでなく、海外の視点も獲得してもらいたいというのが目的です。目標に掲げたからには教員も生徒がその学力を到達できるよう頑張らなければなりませんので、我々教員の覚悟を示したものでもあります」と田中先生は言う。

<図表>2013年度版 英語教育6年間 Assesment Grid(長期ルーブリック)

目標到達のために、生徒に応じた指導法を考案

1学期に2~3のパフォーマンス課題を実施

長期的ルーブリックに記した習熟度への到達をめざすために、授業ではさまざまな工夫を凝らしている。例として「Reading」の力を育てるための取り組みを紹介する。


基礎学力の定着が必要なクラスでは、入学直後はまず「つまずきを回復する」ことが最初の課題となる。


「英語が苦手な生徒は、たいてい英語の語順を理解できていません。そこで英語の語順で書いた日本語を英語に置き換えるワークシートを作成して、まず、英語の語順に慣れてもらいます」(田中先生)


この際、語順に集中させるために、使用する単語はワークシートに示しておき、問題文も内容が生徒の生活に根ざすものにするため毎年改訂している。「高校でまたbe動詞の活用から学び直すと生徒はうんざりしてしまいますが、英作文から始めると新鮮で、生徒は前向きに取り組んでくれます。そしてbe動詞やdoとdoesの使い分けはできないけれど、語順は間違えないという状況を作ることで、生徒に自信と英語に対する学習意欲を取り戻すことを狙いとしています」(田中先生)


このほか、教科書やその他の教材を読ませるにあたっては、どのコースでも、文章の意味のかたまりごとに縦線を入れ、さらにSVOCなど要素を表す記号をつけたプリントを作成して、生徒の読解を助けている。「縦線の量は、高い習熟度をめざすクラスほど少なくなります。また3年生になるとプリントの裏には縦線を入れない文章を掲載して、英語が得意な生徒は何もない状態で読解に取り組めるようにしています。コースや個人の到達目標に合わせて力を伸ばせるようにしています」(田中先生)


授業は長期的ルーブリックの到達目標を意識して行い、定期考査でも、各学年で目標とする力を意識した出題をしている。


こうした日々の授業に加え、1学期に2〜3のパフォーマンス課題(注2)を行う。パフォーマンス課題については長期的ルーブリックをもとにした、短期ルーブリックを作り、それに基づいて評価する。例えば、附属中学校の3年生では、教科書に掲載されている「『葉っぱのフレディ』の物語の続きを書く」というパフォーマンス課題を行った。中学校3年生では長期的ルーブリックのレベル3、レベル4の生徒が多いため、その目標を意識して、より具体化した短期ルーブリックを作成した。レベル1の「単純なS+V構造の文を使って、少なくとも2つの事実を書くことができている」から、レベル5の「S+V構造の文に場所や時を表す副詞句を使って多くの英文が作れていて、それらがひとつのお話としてまとまっている。また、名詞が形容詞や後置修飾で豊かに表現されている」まで、5段階の短期ルーブリックを作成した。


「短期ルーブリックのレベルは、長期的ルーブリックのレベルと一致しており、多くの生徒がレベル4の評価を受けました。短期ルーブリックは予め生徒に示し、ルーブリックで求められていることを達成できるよう意識させ、励まします。めざす目標が明瞭なことで生徒は課題に取り組みやすくなりますし、評価することがはっきりしていますので、教員による評価のぶれもありません」(田中先生)


また「短期ルーブリックは課題によって簡単なものから精緻なものまで使い分けることが導入の秘訣」と田中先生は言う。「例えば、英作文で現在進行形が使えているかをチェックするだけのルーブリックもあれば、毎年行っているスピーチコンテストのように約1カ月かけて自分の意見を約500ワードの文章にまとめ、それを発表するという課題もあります。難しく考えすぎず、まずはパフォーマンス課題を導入するだけでもよいと思います。生徒の意欲が高まるのでその様子を見て、徐々に評価も行っていくとよいのではないでしょうか」


なお、パフォーマンス課題は、授業中に活動を行わせる課題のほか、定期考査の一部として行うこともある。


一方で、パフォーマンス課題は活動に時間がかかるため、大学進学者の多い進学校などでは導入しづらいという声もある。しかし田中先生は「教科の本質を貫くような内容の課題を積み重ねれば、自ずから難度の高いものに挑戦することになり、大学入試で求められる以上の力をつけることができます。例えば2年前には、3年生の10月に南スーダンの独立に関する海外メディアの記事を皆で読んで要約するという課題を出しました。これは国立大学の二次試験対策につながるような内容です。また、どのコースも1、2年生の時には毎年、英文スピーチ作成あるいはレシテーションを行っています。これまでの教科書では3年生にキング牧師のワシントン大行進のスピーチ全文が掲載されていましたので、その暗唱にも取り組んできました。この内容豊かなスピーチを一部でも暗唱できればかなり力がつきます。ちなみに昨年、暗唱に取り組んだクラスでは、1年生はセヴァン・カリス=スズキさんの国連での演説を、2年生は佐藤真海さんの東京オリンピック招致のためのプレゼンテーションを暗唱しました。これらは成績向上にもつながっていると思います。実際に外部試験を受けるとライティングのスコアが高く、英作文が得意な生徒が多いです。また学習意欲が高まることで下位層の生徒が減っていますし、難度の高い課題も行うので上位層の伸びも感じられます」と話す。

理科でもパフォーマンス課題を導入

研修旅行での活動を各教科での導入のきっかけに

遠山晶子 先生
遠山晶子 先生

このような英語科での取り組みを受け、パフォーマンス課題の導入は、他教科にも広まりつつある。いち早く取り組んでいるのが物理の遠山先生だ。中高一貫コースの高校1年生を対象とする理科の授業で課題研究を行っている。評価する点を予め提示した上で、生徒に研究テーマの設定から研究、発表という一連の課題に取り組ませている。他のコースでも普段の実験にパフォーマンス評価(注3)の視点を導入して、生徒の力を多様な視点から評価するようにしているという。

 

そしてパフォーマンス評価を取り入れることの一番の良さは、「生徒の多様な力を評価できるようになったこと」と遠山先生は言う。「パフォーマンス評価を取り入れて評価の観点を増やすことで、ペーパーテストの点は低いけれど、課題研究に積極的に取り組む生徒、プレゼンテーションが上手い生徒、実験の作業をするのが得意な生徒など、生徒のさまざまな力が改めて明確になり、良い点をしっかり評価してあげられるようになりました」

 

なお理科のルーブリックについては、物理のほか、化学、生物で作成し、運用・改善に取り組んでいる。

 

さらに2013年度からは、生徒にとっては習得した教科内容が活用できるようになること、学校としては多様な教科でパフォーマンス課題を導入するきっかけとすることをめざし、2年生の研修旅行を「探究・協働・表現—学びを深める」と名付けた課題学習の場と位置づけて実施している。なお、研修旅行は、毎年SBコースとSAコースのクラスは北海道に、京都国際科と中高一貫コースの生徒はシンガポールとマレーシアに行く。

 

具体的には、4〜5月は事前学習として、2年生各クラスを担当する教員全員が、研修旅行先に関係することについて、自ら興味のあるテーマについて講義をした。「私は、昨年は、シンガポールは日本と同様に資源に恵まれない国であることから、シンガポールのエネルギー政策と、シンガポールの省エネの工夫について話しました」(遠山先生)

 

そして生徒は教員の講義を通して同じ場所でもさまざまな視点があることを学び、自らの研究テーマを持って6月の研修旅行に行き、帰国後に論文を書く。論文の指導は国語科が担当し、講義をした教員も生徒の相談役となって支援する。全教員が探究的な活動の指導を経験するきっかけを作り、ゆくゆくはこうした活動をパフォーマンス課題として各教科の授業でも実施したい考えだ。

 

そして、どのパフォーマンス課題でも田中先生が大切にしているのが、どのような力が求められているか、どんな作品を製作してほしいかを明示した上で生徒に取り組ませ、「全員でレベル4以上をとりましょう」などと励ますことだという。「どんな形の学習もその評価も生徒を育てるために行っていることを忘れないことが大切です。そして目標を示した上でパフォーマンス課題に取り組むことは、生徒が学習活動に能動的に取り組むことにつながりますし、何よりも学校での学びを単なる知識の受け取りから、生徒自身が自らの判断力を獲得していく過程へと変える有効な方法論だと考えています」(田中先生)

京都府立園部高等学校

◊所在地 : 京都府南丹市園部町小桜町97番地
◊沿革 :

1908年 船井郡立高等女学校となる

1926年 京都府立園部中学校となる

1948年 学制改革により京都府立園部高等学校に改称

1998年 京都国際・福祉科設置

2006年 附属中学校が併設される

2008年 京都国際・福祉科、京都国際科に名称変更

◊学級編成 :  [全日制]各学年普通科3クラス、京都国際科1クラス、中高一貫コース1クラス
◊生徒数 :  547名(男子238名、女子309名)2014年4月1日現在
◊特色 :  普通科ソノベベーシックコース(SB)、ソノベアドバンスドコース(SA)、中高一貫コース、専門学科の京都国際科と多様なコースを併設し、それぞれの学力・進路希望にあった指導を展開している。「健全」「誠実」「明朗」の3つを教育方針とするとともに、国際的感覚や視野をもち、福祉マインドを兼ね備えた生徒の育成を目標としている。
◊卒業生の進路 :

 2014年3月卒業生 171名

  • 進路:4年制大学 101名、大学校 1名、短期大学 11名、専門学校 29名、
    就職 16名、その他 13名
  • 合格者の内訳(現役生、延数):国公立大学 34名、私立大学 213名


(注1)ルーブリック...学習者が何を学習するかを示す評価規準と、学習者が到達しているレベルを示す具体的な評価基準をマトリックス形式で表示したもの。事前に明示した目標に準拠した観点について、何ができればどの段階にあるのか具体的に記述されているところに特徴がある。例えば大阪府教育センター、京都府立園部高校のようなものがある。


(注2)パフォーマンス課題...知識やスキルを応用・統合して使いこなすことを求める課題。例えばレポートや論文、プレゼンテーション、作品、実技などのできばえを評価する。ペーパーテストと並行して行うことで、より幅広い資質・能力を測ることができる。


(注3)パフォーマンス評価...実験や研究といったパフォーマンスのできばえを見るパフォーマンス課題などを通して、知識やスキルを応用・統合して使いこなす力があるかを確認する評価方法。

※Kawaijuku Guideline 2014.9より

(本文中の所属・役職などはすべて取材時のものです)