高知大学インタビュー

国公立大学で唯一、一般入試で情報入試を続行
~情報科学に強い関心を持つ学生の受け入れ方法を検討し、2011年より実施


高知大学理学部情報科学コース長 豊永昌彦先生

現在、国公立大学で唯一、一般入試でも「情報」入試を実施しているのが高知大学理学部です。歴史の浅い教科情報で入試問題を作ることは大学側にとっても難しいとされていますが、その中で高知大学は2011年から情報入試を開始し、2016年春からも「情報の科学」での実施が決まっています。高知大学理学部情報科学コース長の豊永昌彦先生にお聞きしました。

――貴学が2011年春に情報入試を始められた際に、どのような学生の入学を期待されましたか。


情報科学に強い興味と素養を持つ学生を期待し、情報入試を始めました。もちろん、本コースで専門科目を学ぶ際に、数学や理科の基礎学力が重要ですが、情報科学の知識や素養に重点をおく情報試験を通じて「大学で情報科学を学びたい」という学生を受け入れることを期待しておりました。

――情報入試を実施するにあたって、作問の方針決定や体制作りなど、どのような準備をされましたか。


上記の主旨から、1) 教科情報の基本知識の理解、2) 基本から発展的な内容までの知識の理解、これら2点を判断できるような問題を作問方針としました。そのため、情報入試開始当時はほぼ全てのコース教員が作問に関与いたしました。問題作成における準備としては、出身高校による不利が生じないよう配慮するため、文部科学省の高校指導要領、全国の主な高校で採択されている教科書、他大学の情報試験の過去問題の調査等を行っております。

――2003年に教科情報が必修となって以降、国公立大学でもいくつかの大学が情報入試を実施しましたが、現在は実施されていません。その中であえて2011年春から情報入試を始めたことへの思いをお教えください


本コースは、1995年より本学理学部に設置され歴史も長く、その経験から専門科目の学習において情報科学への興味や関心の高さ、基礎的な素養が、修学意欲で重要と理解しております。2003年に教科情報が必須となったことで、「情報科学」に強い関心を持つ学生の受け入れ方法を検討し、2011年より導入いたしました。

――情報入試実施にあたって、高校の情報の先生方との情報交換などはなさっていらっしゃいますか。


情報試験の開始前に、その準備段階として普通科高校・工業高校等の先生方、また教育委員会との情報交換を行ってきました。また、高校生への周知も兼ねて「情報科学コース」としての高大連携授業等も、積極的に実施しております。

――貴学が情報入試を継続できるのは、どのような要因があると思われますか。


本学で情報入試を行うことができるのは、理学部長はじめとして、高知大学の先生方からの本コースに対する信頼とご理解の賜物です。また、情報入試を継続することができるのは、「情報科学が好きな学生を育てたい」というコース内の教員の熱意である考えております。

――スマートフォンの普及に伴い、インターネットに触れる環境は拡大し、かつハードルが下がっていますが、一方でキーボード操作の経験不足や情報リテラシーの低下などが指摘されています。今後教科「情報」で特に重視するべき点はどのようなことであるとお考えになりますでしょうか。

 

大学における情報科学を学ぶためには、数学的素養に基づく論理的思考力だけではなく、基礎アルゴリズムなど計算機の技術面の知識が欠かせません。高等学校において「教科情報」を専門にする教員を拡充いただき、アプリケーションソフトウエア利用の知識に加え、情報科学の技術面の教育まで充実されることが望まれます。

――貴学の情報科学教室の学位論文の題目を拝見すると、実用に近い分野での研究が多く、たいへん興味深く思いました。情報科学教室の教育の特色をお教えください。また、その中で情報受験の学生の特徴がありましたら、お教えください。


小規模な教育コースですが、様々な教員による多彩な分野の卒業研究が選択できるよう工夫し、具体的で実践的な応用を通じて情報科学専門科目が卒業研究で役立つことが実感できる内容を目指しております。情報受験の学生も「ソフトウェアやインターネット、コンピュータとして何かを具体的に作りたい」という意欲を持つ学生が多く、情報化社会のものづくりで活躍したい学生が多い点が特徴です。

――今後、小中学校でのプログラミング教育が必須となっていくとした場合、高校の教科情報、および大学での情報の専門教育はどのように変わっていくべきであるとお考えになりますか。


数学や理科同様に、コンピュータを扱う能力(コンピュータスキル)に小中学より馴染むことは、大学教育者としても大変よいことだと考えます。また、科学原理に基づく計算機の仕組み等について高校でより詳しく理解することも大切です。これらが充実した際には、大学の情報専門教育では、「メディアリテラシー(適正な情報利用能力)」、専門家としての「倫理」の教育、さらに、様々な分野に浸透する情報科学技術(例えば計算機物理、計算機化学、計算機生物、計算機経済学など)への広がりに応じた専門教育の充実へ変わっていくべきと考えております。

高知大学理学部情報科学コース長 豊永昌彦先生

1982年、松下電器産業株式会社入社、半導体設計、支援計算機システムの研究開発に従事。2000年、半導体産業研究所(SIRIJ)への出向、半導体ビジネスモデル研究に従事。2002年4月より高知大学理学部教授、理学部数理情報科学科にてコース長、学科長、高知大学総合情報センター(図書館)センター長を歴任し、2014年4月より同応用理学科情報科学コース長。工学博士(大阪大学)。