取り組み4

スマートフォンの活用法 高校生熟議 in Osaka&Tokyo

~内閣府、文部科学省、総務省で高校生がリアルにプレゼンテーション

羽衣学園高等学校 米田謙三先生


米田謙三先生
米田謙三先生

ICTカンファレンスを目指して、高校生熟議というものを始めて今年で3年目になります。デジタル化社会の中で情報にどう対処し、コミュニケーションスキルをいかにして身につけていけばいいのかを考えてみようということです。「熟議」とは、非常に熟した活発な議論ということです。

 

この高校生熟議には、二つの側面があります。一つは「熟議」を通して初対面の人と話し合うという経験をして、段階的に「考える、まとめる、話す、見せる、伝える」という技術を修練すること。もう一つは、携帯電話やインターネットを安全に、安心して使うために、高校生として情報モラルについて自ら深く考え、将来のよりよいインターネット環境の構築の一助とすることです。

 

表1 スケジュール
表1 スケジュール

昨年度(2012年度)は、急速に普及しているスマートフォンについて、高校生のその問題点への向き合い方の熟議を実施しました。高校生、教員だけでなく企業関係者も含め100名以上が参加しました。

 

 

表2 企業の講演テーマ
表2 企業の講演テーマ

第1回リアル熟議 in Osaka

 

リアル熟議では、まず第1部でスマホに関連する企業の方に、それぞれ10分程度のプレゼンテーションをしていただきました。やはりスマホに直接携わる企業の方を巻き込んでそこから大切なことを学ぶことが必要と考えたからです。

 

第2部は、高校生がグループに分かれて活発な論議と発表を行いました。学校も学年も異なる初対面の高校生と熟議をスムーズに運営するために、グループにはファシリテーター(中立的な立場での議事の進行役)、専門的な質問があったときすぐに対応できるサポーター、熟議の模様を記録する書記が加わりました。ファシリテーターは大阪私学教育情報科研究会のメンバーが、サポーターは第1部でご講演いただいた企業の方が、そして書記は以前の熟議に参加したOB・OGが務めました。

 

高校生たちは、付箋にスマホの良い点・良くない点をメモしながら意見を出し合います。各チームで、歓声が上がるほど活発な意見が出ていました。そして、書いた付箋を模造紙に貼り付けながら意見を分類・整理して、第3部で行う各グループの発表をまとめました。グループごとに3分程度の発表をしましたが、各グループとも工夫を凝らした発表ができました。

 

第2回 大阪×東京 リアル熟議

 

第2回リアル熟議では、大阪と東京の会場をTVでつなぎ、まず第1部でお互いに学校紹介と質疑応答をしました。質問のやり取りでは、地域の特性が出てとても盛り上がり、場も一気に和やかになりました。


第2部の熟議では、模造紙での発表ではなく、パワーポイントにまとめて発表をお願いしました。(1)「スマートフォンって何」(2)「スマホのトラブルにどう対処する」(3)「スマホ世代の高校生の主張」の内容で論点をまとめていきました。


第3部のグループ発表も、グループごとにスライドを使って発表しました。

 

ネット熟議~高校生熟議サミット~提言発表


第1回リアル熟議を受け、大阪と東京の参加者と合同でネット熟議も開催しました。「ガラケー派、スマホ派?」をテーマに、2012年9月9日0時~10月14日24時までの間で、スマホの課題について、文部科学省の「熟議カケアイ(※1)」のサイトを使い、ネット上で熟議することにより、スマートフォンの理解を深め、課題点をより明らかにすることを目的に実施したのです。

 

そして、12月には東京・大阪それぞれ3名の高校生代表(計6名)が、それぞれの熟議の結果を持ち寄り、最終提言をまとめる熟議を開催しました。この提言は「高校生の意見を中央に」と考え、2013年1月に内閣府、総務省、文部科学省にてプレゼンテーションも実施しました(表1参照)。
 ※1 文部科学省 政策創造エンジン 熟議カケアイHP

 


高校生ICT熟議がめざすものは


なぜ高校生ICTの熟議が必要かというと、3つのポイントがあります。


まず、当事者である高校生自身の気づきを促すこと。デジタル世代の今の高校生は、われわれ大人世代とは全く違う発想をしますので、大人の押しつけでない、彼ら自身の気づきが重要になってきます。面白い話があります。駅で切符を買って自動改札を通るとき、切符を取り忘れる高校生が非常に増えたそうです。ICOCAなどのICカードでタッチすれば改札を通れることに慣れてしまっているのです。これがデジタルネイティブの今の高校生です。やはり今の高校生自身が気づかなければならない、情報のリテラシー(お互い共有できる教養)というものが必要なのです。

 

それから、自己責任を持った行動のできる高校生の育成です。今、スマホをやっている子どもたちのフィリタリング(有害サイトアクセス制限)率は大変下がっています。安易にネットを利用する高校生に、モラルの提供を行っていかなくてはならない。

 

そして、次世代の親や保護者の育成です。いよいよスマホを持って育った子たちが親になる時代が来ました。この子たちのさらに親の世代は実は、すべてスマホは子ども任せで、ネットへの対応がわからないという人が多いのです。


一方で、今の高校生は操作能力が高い分、安易にネットを利用します。さらに彼らのもっと下の世代には小・中学生がいる。この子たちは知識・経験が不足しているからトラブルに巻き込まれてしまう。ネットへの対応のわからない保護者、安易にネットを使う高校生、もっとわからない小・中学生…という負のスパイラルですね。

 

そうならないためには、リテラシーを持って子どものネット利用に目を配ることができる保護者、情報モラルを持った高校生を育成していかなければならない。高校生自身が情報モラルを獲得して、小・中学生の相談に応じるということをやっていかなければいけない。そういう連環を作っていくことが、正のスパイラルへと転換することにつながるわけです。

この辺りの高校生ICT熟議のめざすものについては、EMA(モバイルコンテンツ審査・運用機構 ※2)というサイトに書かれていますので、ぜひご覧ください。
 ※2 EMA(モバイルコンテンツ審査・運用機構

 

https://www.ema.or.jp/education/events/hicof/hicof_torikumi.pdf
https://www.ema.or.jp/education/events/hicof/hicof_torikumi.pdf

学校間格差、地域間格差を乗り越えるために


高校生熟議の一連の取り組みは、「情報モラル教育」の啓発活動の一助になったと確信しています。高校生が学校や家庭でいかに取り組むべきかを提案できたこと。それが一番の成果だと考えます。

 

今後の課題としては、たとえばスマホについても、すでに高いリテラシーを持つ高校生もいる一方で、いまだスマホを所持していない生徒もいて、ばらつきがあることです。学校によってはスマホ所持を禁止しているところもあれば、まったくオーケーという高校もある。スマホはだめでもiPadはいい、というところもありますが、ネットはどちらからでもつながりますから、いずれにせよ高校生のICT熟議は必要です。

 

最近、うちの大阪の高校生と隠岐の島の中学生の間で、ネット熟議をやりました。実は、隠岐の島の中学生のスマホ率は非常に高いのです。隠岐の島にはコンビニがないので、彼らはスマホをショッピングに使っているのです。そういう地域とはスマホの使い方も違うし、大阪の高校生とはこういう点が違うよね、という熟議をやることも大切ではないかと思います。
 

隠岐の島の生徒とネット熟議
隠岐の島の生徒とネット熟議

3年目を迎えた高校生熟議は、少しずつエリアを拡大し、今年は大阪、奈良、札幌、大分、東京と、全国5か所で開催します。お近くの学校で興味のある方は、ぜひご参加ください。

 

※本記事は、全国高等学校情報教育研究会 第6回全国大会(2013年8月9日・10日、京都大学にて)でお話しされた内容です。