【授業事例26】
情報モラル絵本のテーマの変遷
情報モラルを高めるとともに、生徒の情報に対する興味や悩みを映し出す鏡として
大阪府立寝屋川高等学校 野部 緑先生
教材づくりで、生徒自身の理解も深まる
「情報モラル絵本」は、インターネットトラブルの事例や失敗談を通した情報倫理の教材を作ってみよう、小学生ぐらいに説明するつもりだとわかりやすくなるのでは、というところから始めたものです。
教科「情報」が始まって2年目の平成16年から始めました。現在、いろいろな教科書会社が出している副読本に載っている4コマ漫画の紙芝居版のようなものですが、漫画がいろいろ使われているのをみると、方向は合っていたのだろうなと思っています。
当時はインターネットをしている生徒も少なかったので、「情報モラル」というものを教師の話を聞くだけでなく、自分の言葉で書くことで、高校生自身が情報モラルのトラブルを身近なものとして感じてもらうことが当初の目的でした。さらに、紙芝居風にすることで具体的なシチュエーションを考えたり、小学生向けに平易な言葉で表現したりすることで、理解をより深めることも狙いました。この時の取り組みについては、2005年の教育情報システム学会(JSISE)で報告しています(※)。
※教育情報システム学会 2005年「校種間交流を通した情報倫理教育の実践~高校情報科における小学生向けの教材制作」:野部緑、阿濱茂樹、下倉雅行
一方、最近では教員よりも生徒の方がスマホを使うなど、ネットトラブルに敏感ですが、個人差も大きくなってきていることを感じます。ですから、作成後の作品を見ることで、生徒達の関心がどこに向いているかを知る手掛かりになります。また、相互評価という形で生徒達同士で鑑賞をしますので、他人の作品を見ることで理解を深める「学び合い」につながっています。
この授業は現在の学校では、2年生の「情報の科学」の授業で行っています。後期の11月~12月頃に行い、1コマ65分×7~8コマで1人1作品を制作します。この時間は、ソフトウェアの使い方の基本の授業やストーリーの作成、絵コンテの作成も含んでいます。
紙芝居としての動きについては、パワーポイントのアニメーション機能を利用しています。絵については、Windows付属のペイントを利用しています。中には別のフリーソフトを使いたいとかペンタブレットを使用したいという生徒もいますが、それも許可しています。逆に絵が描けないという生徒はオートシェイプを利用したり、顔文字で人物を描くといった工夫をしています。鑑賞するときは、サーバーに作品をおいてスライドショーで見ています。
ただ、絵を描くことやお話作りのオチを考えることに時間をかけてしまうと、目的である「情報モラル」を考えることがおろそかになってしまうので、最後に「なぜこうなったか」「どうしたらよいか」を必ず入れるという条件をつけています。言葉は知っていても、内容は理解していない生徒が多いので、きちんとした知識を調べるきっかけになります。さらに、調べた言葉をまとめることで、理解につなげていきたいと思っています。
生徒の選ぶテーマは、インターネット環境の変化を如実に反映する
10年この活動を行ってくる間に、生徒を取り巻くインターネット環境も大きく変わりました。それに伴って、題材も変化しています。題材は、「自分や友人の体験」あるいは「新聞やネットの記事」から考えましょうとしています。当初はどこかで見たという題材が多かったのですが、最近は自分や知人の体験談が増えてきています。特にスマホやLINEが急速に普及したここ2年の変化は著しいので、2011年度と2013年度の題材についてまとめてみました。
まず、「ネットショッピング・オークション」は大きく減っています。これは、先ほど言ったように、生徒の実体験ではないことが影響していると思われます。「コミュニケーションの問題」が増えているのはLINEの影響が大きいのでしょうね。2011年度に「チェーンメール」が多かったのは、この年の3月に起きた東日本大震災の際に、実際にチェーンメールを受け取った生徒が多かったからとメールのやりとりも減っているからだと考えられます。
注目したいのは、「肖像権(無断アップロード)」の増加です。これは、スマホが増えて、実際に迷惑な経験をした生徒が増えているからでしょう。「著作権」については数そのものに大きな変化はありませんが、内容として2011年度は違法アップロード・ダウンロード関係が多かったのに対して、2013年は自分の写真や記事を勝手に使われることが題材になっているものが増えています。時間ができたらもう少し細かく調べてみたいですね。
自分で問題だと感じていることを表現することを通して、生徒の情報モラルへの意識を高めると同時に、ネット社会がどんどん変化する中で、教師の側も生徒がどんなことに悩んでいるかを知るきっかけなります。今後も続けていきたいと思っている授業の題材です。また、特別な機材やソフトウェアも必要としないので、どこの学校でも取り組みやすいと思います。
【生徒作品 Twitterのダイレクトメッセージには気を付けて(一部抜粋)】
※作品はパワーポイントで作成。アニメーション機能で動きもはいっています。
※全国高等学校情報教育研究会全国大会 第7回埼玉大会(2014年8月12日・13日) ポスターセッション発表より