【授業事例9】
話し合う情報モラルの授業実践
~生徒の主体的な取り組みを引き出し、自らの情報発信を見直す行動へ
聖母被昇天学院中学校高等学校 岡本弘之先生
教え込むよりも、実際の失敗や工夫の経験を共有し、「学び」の場を作る
現在の高校生は、早くからケータイやインターネットが身近にあり、今もスマホやSNSといったツールも工夫しながら使いこなしています。その中での実際の失敗や工夫といった経験を、話し合いや発表の中で共有させ、教え込むのではなく、生徒同士の「学び」を重視した情報モラルの授業実践をお話しします。高校2年生の情報C(旧課程)の1学期の授業で、3時間を使って実施するものです。
この授業では、以下の3点を意識しました。
1.経験交流や話し合いによる学びを取り入れる
2.話し合いを活性化するためKJ法やブレーンストーミングの手法も取り入れる
3.影の部分(注意事項)を知るだけでなく、賢く活用するところまで考えさせる
このような授業をするようになった理由は、私自身、情報の他に社会科(世界史)も担当しているのですが、世界史の授業は、どうしても私がしゃべりっぱなしになってしまうので、情報ではできるだけ生徒達に話し合いをさせたい、というのが一つ。もう一つは、スマホやSNSのマイナス面を教えるのは簡単ですが、「賢く使う」ということまで考えさせたい、ということもありました。
生徒達は、SNS等で気軽に発信していますが、発信した情報は誰でも見ることができること、一度発信した情報は簡単に消すことができないことをあまり意識していません。だからこそ、仕組みをきちんと知る必要があります。授業の流れは以下の通りです。
(1)知識の整理をする(1時間)
・インターネット上で個人が情報発信に用いるweb、ブログ、SNSのそれぞれの特徴について、更新のしやすさ、双方向性、公開範囲といった視点で整理する講義を行い、生徒はその話をワークシートにまとめる。
授業では、私自身のフェイスブックの画面を見せて、それぞれのアイコンを見せながら、公開の範囲や位置情報について解説したり、制限のかけ方を説明したりしました。今年の生徒は、これらを使いこなしている生徒が多かったのですが、それでも「知らなかった!」と驚く子がたくさんいました。自分のSNSの画面を見せ合うことは意外に少ないので、実際の画面を見て初めて知る子が多いのです。
今年は、LINEの仕組みについても説明しました。ほとんどの生徒が使っていますが、電話帳データがLINEのサーバーに提供されることなど、仕組みについてはよく知らないことがわかりました。
(2)利点と注意点をKJ法で整理する(1時間)
・自分の経験や聞いた話で、個人がブログやSNSで情報発信する際の注意点や、便利な点をワークシートや付箋に書かせる。知っていることだけでなく、新たにインターネットで調べて知ったことも同様に書かせる。このあと、4人ずつのグループで、KJ法の手法で注意する点・便利な点を画用紙上でグルーピングさせる。整理した画用紙をもとに、各グループ1分程度で、便利な点・注意する点を全員の前で発表する。自分のグループ以外の発表についてワークシートにメモする。すべての発表後、生徒があげた項目をまとめたスライドを使って、先生が解説・補足説明を行う。
グループの中には、使いこなしている子とそうでない子がいます。それらを生徒同士で情報を共有させるようにしました。みんなで持ちよった知識を考察し、共有する中での学びに重点を置きます。
(3)得た知識をアウトプットする(1時間)
・情報発進する際の注意点・便利な点を整理した上で、まとめとして情報モラルへの注意を促す標語・ポスターを作らせる。具体的には、
[標語] ケータイ・スマホ・ネット・SNSの利用ついて、気を付けること、こう使おう、ということを中学生に呼びかける標語を作る
[ポスター] プレゼンテーションソフトを使って、標語とその説明+画像で簡単なポスターを作る
・標語は授業終了後、IPA(情報処理推進機構)主催の「情報セキュリティに関する標語コンクール」に全員応募した。また、ポスターは全員分掲示し、併設中学生への啓発を呼びかけた。
ここまでの学びでインプットしたことを、標語・ポスターという形でアウトプットします。作成する際に、応募や掲載について明示しておくことで、生徒のモチベーションは非常に高まりました。
生徒の体験を取り入れることで、より現状に近い情報モラルの授業ができる!
授業後の生徒の感想からは、様々な学びがあったことがわかりました。まず、話し合う前にインターネットで検索さたことで、現在利用している生徒にも新しい発見があったこと。次々に新しいものが出てくるネットの世界では、知識を教えるだけでなく調べ方を教えておくことで、将来新しいものが出てきても対応できることにつながります。
また、生徒に発表させることで、スマートフォンで撮影した写真に位置情報が残ることや、SNSのプライバシー設定の方法など、具体的で新しい注意事項が出てきました。生徒の発表に解説を加えることで、より多くのことを教えることができました。
さらに、活用している生徒から、プラス面について多くの意見が出され、マイナス面に偏らないバランスのよい授業ができました。情報モラルの授業はとかく「べからず集」になりがちですが、生徒からも「使い方を間違えなければいいものになる」「守らなければならないマナーもあるが、コミュニケーションが広がる」といった感想が多く見られました。
そして生徒達は、積極的に意見を出し合ったり調べたりと、「友達の意見が参考になった」
「KJ法は楽しかった」という意見が多く見られ、主体的な取り組みができました。情報モラルの授業では、生徒の利用の方が先行している、という実態がありますが、その中で生徒の体験をうまく取り入れることで、より生徒の現状に近い情報モラルの授業ができるとがわかりました。教師から知識を与えるだけでなく、生徒同士の経験や知恵を共有する学びを重視することが大切であると感じています。
※本記事は、全国高等学校情報教育研究会 第6回全国大会(2013年8月9日・10日、京都大学にて)でお話しされた内容です。