第71回ICTE情報教育セミナーin東京

共通教科「情報」におけるプログラミングの位置づけ

大阪電気通信大学 兼宗進先生

vol.1 中教審で審議中の共通教科「情報」の学習指導要領改訂

今日は、現在中央教育審議会(中教審)で審議されている共通教科「情報」の指導要領の改訂がどのように進んでいるか、ということをお話しします。指導要領の話だけでは、なかなか具体的なイメージがわかないと思いますので、指導要領関係の話に続いて、次期指導要領から必修になるプログラミングが、現在高校などでどのように行われているかという事例をいくつか紹介させていただこうと考えています。

 

私は現在、大阪電気通信大学の教授をしています。教育系ではなくて工学系の学科です。もともと、大学では電子工学を専攻して、コンピューターを専門にしていました。卒業後は、企業でプログラマーを15年ほどしていました。それから一橋大学で商学部の学生に5年間コンピューターを教え、大阪に移ってからは医療福祉工学や情報、電子機械工学といった学科の学生を7年間指導しており、現在はロボット関係の研究と授業を担当しています。また、情報オリンピック日本委員会の仕事や、国の中教審の情報ワーキンググループの仕事もしています。

 

今までいろいろな分野の学生にコンピューターを教えてきましたが、実に多くのところで、コンピューターが役に立つことを実感しています。例えば医療機器で言えば、今は電子カルテをはじめとして、コンピューターがなければ動かない機械がほとんどです。商学部でも、Eコマースはじめとして、オンラインの通信がなければ商売が成り立ちません。もちろん、ロボットの頭脳もコンピューターで動きます。今日は高校の情報の先生がたくさん来てくださっていますが、先生方が今教育されている内容は、生徒さんには将来にわたってずっと役に立っていく有用な知識なんだなと、改めて感じているところです。自分はプログラムが好きなので、大学の教員として、その面白さをどうやったらわかりやすく楽しんで理解してもらえるか、いうことを研究しています。

 

下図は、次期学習指導要領の高校共通教科「情報」の「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の内容案です。


次期学習指導要領の改訂は全体で1年以上かけて行っていますが、情報のワーキンググループに関しては、去年10月から始まって現在は最終段階に来ています。情報は高校には「情報」という教科がありますが、情報教育はモラルやセキュリティーに関係するため小学校でも必要ですし、中学校の「技術・家庭」に情報の内容が入っていますので、高校だけに特化せず、小・中・高の内容を全て扱う前提で議論を進めてきました。

 

議論の内容は公開されていますので、興味のある方はホームページ(※1)をご覧になるとよいと思います。

※1 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/059/

 

 

小学生からプログラミング。2017年3月には小中の新指導要領が確定

先日、総理大臣から「初等・中等教育でプログラミングを必修にする」という発表がありました(※2)。続いて、どうすれば小学校からプログラムができるのかを検討する有識者会議も始まったところです。こちらは初回の会合が昨日にありまして、私も出席しました。昨日は顔合わせ程度の内容でしたが、今後議論が深まっていくにつれて、資料が毎月のように更新されていくと思います。こちらの情報は、「小学校 プログラミング有識者会議」(※3)で検索していただけると出てくると思います。

 

※2 第26回産業競争力会議 新成長戦略(2016年4月19日)

※3 小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/

 

現在中教審で検討している各教科のワーキングからの方針のまとめが、5月末には文部科学省に提出されると思います。それを基にして、来年3月までに小学校と中学校に関しては次の学習指導要領が確定し、高等学校については1年遅れですので、来年度ということになると思います。さらに、その2、3年後には教科書検定が終了する、というスケジュールですね。ですから、今から4年、5年後には確定していることになります。高校で実際の授業が始まるのは今から6年後ぐらいなので、今後いろいろと変わってくるところがあっても、現場での対応は可能だと思います。小学校に関しましては、先ほどご説明したように、2020年度からプログラミングをやることが決まっていて、2年後に教科書検定、4年後に完全実施になりますので、けっこうあわただしいのではないかと想像しております。

 

高校改訂のポイント。必履修の情報I、選択の情報II

ご存じのように、共通教科情報が導入されたとき、「情報A」「情報B」「情報C」のどれか1つが必履修になり、それが現在、「社会と情報」と「情報の科学」で2つになりましたが、今後はそれが1科目にまとめられます。教科名は仮称ですが、「情報Ⅰ」という名前で進んでいます。今までの「情報の科学」と「社会と情報」の内容からどのように変わるのかは興味があると思いますが、一応両方の内容が残るような検討が進められています。

 

ただ、最初に「情報A、B、C」が始まったときには、小中学校ではほとんどコンピューターに触ってないという前提で高校の内容が始まったので、高校ではマウスの使い方やキーボード入力いう初歩のところから教育を行いました。今は中学校ではコンピューターの操作を習っているという前提でやればいいですね、という議論はしています。

 

具体的な内容を見ていきますと、「情報Ⅰ」に関しては4つに分かれています。まず、「情報社会の問題解決」と「コミュニケーションと情報デザイン」があります。このあたりは、今まで「社会と情報」で扱われていた部分が含まれていますので、「社会と情報」が消えるわけではないということで安心していただければと思います。

 

その次が「コンピューターのプログラミング」。ここは検討していくと、やはりプログラム抜きではモデル化とシミュレーションは難しいとかいろいろあり、重なるところが多いので、最終案としては1つにまとめて、「コンピューターとプログラミング」の中で「モデル化とシミュレーション」を扱うことになりました。最後に「情報通信ネットワークとデータの活用」が入ることが予定されています。

 

この必履修科目に加えて、もう1つ、選択科目の「情報II」が予定されています。こちらは学校がこの科目を開講するかどうかを含めて選択ということになりますが、開講した場合にはこの内容を扱うことになります。5番目の「課題研究」はグループワークですが、他の4つは、大まかには「情報Ⅰ」のそれぞれの内容を発展させたイメージをしていただければ分かりやすいと思います。やはり1番目は「情報社会の進展と情報技術」という社会的な側面ですね。2番目は今までもあったコミュニケーションと情報コンテンツの話が残っています。特徴的なところとしては、「情報I」の4番目に「データの活用」というものがありましたが、「情報II」の3番目には「データサイエンス」という言葉が含まれています。情報に限らず、政府が主導する産業政策がありまして、技術者育成という産業界での必要性も意識されています。今、日本の産業界が競争力を付けるために必要なことはいろいろありますが、人工知能を制するかどうか、ネットワークでつながれた大量のデータをどう処理するのか、というあたりも重きを置かれているイメージがあります。それを高校の「情報」でも扱うことが、この構成にも見られると思います。

 

確かに今は先端のAIの技術者、それから先端の大量のビッグデータを扱える技術者は世界的に不足していて、本当に力のある人なら世界各国から引く手あまたという状況です。ただ、今から高校で教育をして、5年後10年後にそのブームがまだ続いているかというのは若干わからない。専門家でも予測は困難です。ただ重要な要素ではあるので、扱うことは歓迎したいと思います。

 

先ほど、中教審でいろいろな教科のワーキングが走っていると説明しましたが、数学のワーキングでは統計の内容を充実する話があるようで、「情報I」の『データの活用』や「情報II」の『データサイエンス』が意識されているそうです。もしかしたら、今後こういった教科を横断する活動も考えられていくのかもしれません。

 

小学校でのプログラミングは、外部から先生を招く可能性も

今日のお題がプログラミングなので、「では小・中・高でどういうプログラムを組むのか」という話をしようと思います。小学校でプログラミングを習うようになれば、高校では、小・中学校でプログラムを学んでいるという前提で教育を受けることになります。

 

ただ、小学校ではそれほど深いことはできないだろう、とは考えています。その理由としては、大まかに言って、だいたい中学校では各学校に1人は技術の先生がいて、高校には1人ずつ情報の先生がいるという形なので、全国の学校数だけ教員の研修をするという準備をすれば何とかなるだろうと見ています。特に高校については、実際に授業が始まるのが6年後ぐらいですから、その間に教材の準備が可能だと思います。

 

一方小学校は、情報がご専門の先生を各学校に配置するということはできず、結果的に全ての学年の全ての先生が情報教育を行う、プログラミングを教える可能性が出てきます。とは言っても、全ての先生が十分な教育ができるわけではないので、英語をネイティブの先生が支援して教えるようなイメージで、プログラムを教えられる先生を外部から支援する可能性はあるのではないかと考えています。

 

ですから、小学校でプログラミングをやると言っても、高校のように「情報」の中で年に10時間も20時間もやることは考えられず、せいぜい、中学年から高学年ぐらいで、年に数時間できれば十分ではないかと思います。ただ、これは私の私見なので、これからどうなるかを見守る必要はあると思います。

 

技術・家庭科での情報の扱い。ゲームやアニメーションもできるようになる

下図は現行の中学校の技術科の教育内容です。赤で囲まれている部分の左は現行、右は改訂の方向性です。中学校の先生は本当に大変で、内容が実に多岐にわたっています。

「材料と加工」は物づくり系、「エネルギー変換」、それから「生物育成」では栽培やメダカを飼ったりなどがあり、最後が「情報」の部分になります。ご存知と思いますが、今中学校の技術・家庭の「情報に関する技術」の領域には、「情報通信ネットワークと情報モラル」「ディジタル作品の設計・制作」「プログラムによる計測・制御」の3つが入っています。5年後の改定でもほとんど変わりません。順番は変わっていますが、材料、生物、エネルギー、情報の大枠は変わりません。ただ、授業日数などの全体は変わりませんが、情報の比率が多少上がるのかなという推測があります。

 

高校の教科情報に関連するところでは、「コンピューターネットワークと問題解決」は残りますが、プログラミングが2つに分かれます。今までは、中学校の技術では「計測・制御」、つまりプログラムはロボットやライントレースなどでしか扱えませんでしたが、今回は「プログラミングによる動的コンテンツ作成」というものが入ってきます。この「動的コンテンツ」というのはアニメーションやゲームといった、自由なプログラムを組んでもよいということになりますので、中学校段階で自由なプログラムを組むことができるようになるということが大きいです。そして、そのような教育を受けた生徒さんが、いずれ高校に進学して来ることになります。

 

小学校はさらにその前段階で、先ほどご説明したように時間も割けないだろうということで、予想としては、文字を打たなくてもよい、ブロックを置いていくようなものや、アイコンやキャラクターを描いて置いていけば動きが生まれるといった易しいものが使われるのではないかと勝手に想像しています。キーワードとしては、ビスケット、スクラッチ、ドリトルなどですね。

 

先ほどご紹介した小学校のプログラミングの有識者会議のホームページには、文科省が全体説明に使った資料のPDFが置いてあります。教育課程の改善に向けた検討状況です。教科によらず全体の説明になっていますので、お時間があればホームページからご覧になってください。簡単に言うと、「もう教え込む形は駄目。全ての教科でアクティブラーニングをやりなさい」ということを、去年8月に論点整理の取りまとめとして、打ち出しています。ここで小・中・高校の全てでこういう教育のやり方に変えなさいと示しています。

 

プログラミングに関しては、去年の5月に文科省から小学校・中学校・高校のプログラミング授業の事例集が公開されています(※4)。ネットにも授業の進め方のPDFが置いてあり、これはかなり参考になると思います。今年度版も小・中・高の5校ずつの授業事例を今準備しています。今年の特徴は、去年公開されたものは、全て先生が単独で行っている授業の紹介で1時間、つまり45分と50分の授業事例です。今回は、単元に拡張されていますので、3回から5回分の授業がどのように展開しているかということが紹介されています。また、企業やNPOや大学などの外部と連携した授業になっていることも特徴です。たぶん7月頃には公開されると思いますので、ぜひ参考になさってください。

以上、最新の次期学習指導要領、高校の教科「情報」を中心にご紹介をさせていただきました。

※4 http://jouhouka.mext.go.jp/school/programming_zirei/

 

[質疑応答]

質問者1:この方法で情報を扱う上で、プログラミングは言語でなくてはならないものなのでしょうか。

 

兼宗先生:今回は「プログラミングをやりなさい」ということだけで、例えば高校で、先ほどご紹介したような小学生用のブロック型のプログラミングを使っていいのかとか、やはりコードを書かなければいけないのかといった、そのような細かい点は示されていません。ITの進化は早いというお話をしましたが、プログラミング言語に関しても、今後たぶん大幅に変わる可能性があります。しかも指導要領は10年間使われるので、指導要領レベルでは、そういう具体的なことには一切触れられずに作られると思います。

 

私自身は、教科書を見ながら授業する先生が多いと思うので、各教科書がどういうプログラム言語を採用するかということが大きいのではないかと考えています。

 

 

〇質問者2:先ほど「高校の情報では、中学校でパソコンの操作を習得していることが前提」というお話がありましたが、その中にキータッチは入っているのでしょうか。

 

〇兼宗先生:プログラムだけでなく、情報教育を小・中・高と積み上げていくことを考えると、やはり小・中学校ではでここまでやっておいてほしい、という前提の例としてお話をしたのですが、具体的に何を・どこまでいうのはかなり難しい議論です。

 

例えば、今日は私はパソコンでプレゼンをしていますが、フルキーボードがついていますよね。ただ、個人的には今後、小中高で両手のブラインドタッチを教えるかどうかということさえも、まだ明らかではないのではないか、と考えています。今はまだ会社に入ったら、もしくは大学入ってレポートを書くのであれば、キーボードが必要と言えると思いますが、5年後・10年後に、大量に入力する人は別として、普通の人が日常生活でキーボード入力が本当に必要か、というのは怪しいところがあります。現に大学でも、1本指で打っている学生も結構います。「キーボードをやりなさい」と言えば、彼らは先生に言われたから練習はするかもしれませんが、そのような機会がなければもしかしたら一生キーボードを使わなくても過ごしていけるのではないか、という気もするわけです。

 

〇質問者3:今、情報の授業は標準では2単位で、週2時間しかやっていない状況で、さらにプログラミングをやったり、いろんな内容が変わったりするわけですよね。現状でもいっぱいいっぱいというか、むしろ足りないぐらいだと感じているのに、単位数や時間数の話はどうなっているのか、ちょっと気になっているところです。

 

〇兼宗先生:今回の改訂では、「情報」などの既存の教科については時間数などは一応そのままが前提という形で始まっているようです。ですから、「情報I」などについては、今後無理のない形で指導要領に落としていくことが必要と考えています。

 

※第71回ICTE情報教育セミナーin東京(2016年5月14日(土)@早稲田大学)での講演