連載! 緊急interview

今、なぜ情報入試か

10月26日 秋のジョーシン(@早稲田大学)に寄せて

今の高1生から、既に始まっている!! 教育の新時代(第3回)

~「受験中心ではなく、社会につながる、人を育てる教育」が

早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部/研究科 情報理工学専攻 教授、

情報入試研究会共同代表、情報処理学会 情報処理教育委員会委員長

筧 捷彦先生


筧 捷彦先生
筧 捷彦先生

今、なぜ教科「情報」入試なのか。社会を動かし、仕事でも生活でも不可欠な「情報」の知識やスキル。高校の必修科目となっているにもかかわらず、受験教科の知識と比べて、その知識・スキルは、劣っているようです。


情報入試研究会が2013年5月から実施した「第1回大学情報入試全国問題#002」を解説する、情報処理学会主催のシンポジウム「高校教科『情報』シンポジウム2013秋」(通称ジョーシン)が、2013年10月26日早稲田大学で開催されました。次回の学習指導要領への展望をも持つ、日本の情報系分野の中心的な有識者として、早稲田大学の筧 捷彦先生に、「なぜ今、情報入試なのか」を中心に教育改革への強い思いを語っていただきました。(全5回連載)

 

【special】ジョーシン(10月26日)でのオープニング講演はこちらから
  教科「情報」スタート10年目 節目の年に
  ~2023年の学習指導要領改訂の準備も見据えなければ!


第3回 第1回模試の内容~「常識」の理由や仕組みを問う問題を中心に

■共通問題


試験問題は、5問です。問1は「情報の科学」「社会と情報」の2つの科目の区別のない共通のものです。

 

まず、2進法、16進法で表現された数値に関する問題と、あるサイズでスキャンした画像を設定変更した際に画像データのサイズの大きさを問う問題を出題しました。データの単位や大きさについて、基礎的な知識が身についているかを試す問題です。実際の計算は、コンピュータがしてくれますが、その計算がどういう原理で行われているかを理解しているかを問うています。

 

共通問題として、セキュリティも取り上げています。「必要なセキュリティアップグレードは通知されたら必ず実施する」「電子メールでパスワードを平文で送らない」といった文章があり、これらの文章に書かれた措置が必要な理由として最も適した文章を別群から選ぶという形式です。ここで挙げたようなセキュリティの措置は、常識と考えられているかもしれませんが、では、それが必要な理由をきちんと理解しているかを問います。

 

さらに、共通問題には記述式の設問も取り入れました。「温度計を例にして、数値のデジタル表現の利点・欠点をそれぞれ30字以内で説明せよ」というものです。数値のデジタル表現がどういうものかはわかっていても、それにどのような利点や欠点があるかということを理解できているか、また、それを短い文章で的確に説明できるか。デジタルという単語はよく使われますが、その意味を正しく理解できているかを問う問題です。

 

 

■「情報の科学」


「情報の科学」からは2問。

 

1問は簡単なプログラムに関する問題です。プログラミングのテクニカルな技量ではなく、教科「情報」で学んだことを問うものです。


プログラムとは、入力された数値から求める解を計算する手順を書いたものですが、このことを理解しているか、また、実際に具体的な問題についてその解を計算する手順をきちんと書き下せるかを問いました。その具体的な問題そのものは中学校の数学で解けるものでした。
もう1問は、データベースシステムで使う基本的なテーブルに関する問題です。情報を整理して、どんな情報を得たいのかを考えた上で、テーブルの項目をどのように設定するかを考えさせます。

 

■「社会と情報」

 

「社会と情報」からも2問です。1問は、「情報の表現」で、適切なグラフ表現を選択するものと、グラフ表現の意味するところを理解しているかを問うもの。

 

もう1問は「権利と保護」に関するもので、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示を例にして、さまざまな略号の組み合わせで表現されるライセンスの内容を読み取れるかや、著作権の意味するところを理解しているかを問う問題です。

 

「グラフ表現」では企業の売上高と利益を、「ライセンス表記」では「著作権」を、既に知識があるものとして登場させています。このように、他の教科で学ぶ概念を登場させることが、今後も増えていくでしょう。高校の先生方には、そのあたりのさじ加減、つまりどのあたりまでを「既に知識があるもの」としてよいか、という線引きについて、ぜひ模擬試験を実際にご覧いただき、ご意見をいただきたいと思います。

 

また、「情報」入試では、問題解決をどのように出題するかが課題ですが、今回は、取り込んだ抽象化された情報を、どのように整理・加工したらよいかを問うことにしました。例えば、プログラムやアルゴリズムについては、単純な穴埋め問題ではなく、動作の組み合わせを問う形式にしました。このような工夫を随所でしていますので、問題解決の授業でも参考にしていただけると思います。

 

いずれの問題も学習指導要領に忠実に作成し、逸脱はしないようにしています。基本は、教科書をきちんと学んでくれば十分解けるように作っています。

 

この模試の結果の分析も含め、検討し、次の模試の試験問題を作っていきますので、さらに次回2014年2月の模擬試験では、より良問で実施できると考えております。つまり、良い「情報」の学習のきっかけにもなるはずですので、どうか、多くの高校生、特に新学習指導要領で学んでいる高校1年生に、受けていただけましたらと思います。

 

次回は、IT教育の必要な背景や、今の教育での取りこみ方などについてお話しします。

【連載】

◆高校教科「情報」シンポジウム2013秋(ジョーシン)が開催されました 
【主催】情報処理学会情報処理教育委員会・初等中等教育委員会
【日程】2013年10月26日(土)東京都新宿区 早稲田大学西早稲田キャンパス
【内容】「第1回大学情報入試全国模擬試験」の解説、パネルディスカッション 「情報教育の重要性と情報入試」、萩谷昌己(東京大学)、辰己丈夫(早稲田大学)先生方の講演も。
 

→シンポジウムの詳細はこちら:高校教科「情報」シンポジウム2013秋

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