事例55
情報モラルと合意形成
「自分で考える→グループで話し合う→グループで合意形成をする」を通して生徒自身が情報モラルを考える
千葉県立八千代東高校 谷川佳隆先生
情報モラルとは何でしょう。文部科学省のサイトの「情報モラル教育とは」では、このように書いてあります。モラルなので、善悪の判断だと思うのですが、もっと難しい言い方をしています。
情報モラルには5つの柱があります。倫理、法の理解と遵守、安全への知恵、情報セキュリティ、公共のネットワーク社会の構築です。
そして情報モラル教育の内容は、「情報社会における正しい判断や望ましい態度を育てること」と、「情報社会で安全に生活するための危険回避の理解やセキュリティの知識・技能、健康への意識」となっています。
スマホが生活に欠かせない生徒が多くいる状況で情報モラルを指導するにあたっては、危険なことややってはいけないことを教えるだけでは十分ではありません。これからも使っていかなくてはいけないスマホやネットとどう付き合っていくかを生徒に考えてもらいたい、ということがこの実践のきっかけです。スマホやネットの良い点と困った点をグループで意見交換し、グループごとに合意形成をしながら行動宣言ということで発表し、お互いに評価し合う、という授業を行いました。さらにその成果をコンクールに応募しました。今回はこの授業実践を紹介します。
コンクールはIPA(独立行政法人情報処理推進機構)「ひろげよう情報モラル・セキュリティコンクール」(※)です。今年で12回目。数年前にはまもるくんというゆるキャラまで作っています。
※https://www.ipa.go.jp/security/event/hyogo/
第12回の募集要項です。「標語」「ポスター」「4コマ漫画」に加えて、3年前からは小学生にも参加できるように「書写」が入りました。
また、中高校生向けに「私たちの情報モラル・セキュリティ行動宣言」も募集しています。このコンクールには個人でも団体でも応募できます。授業では、この行動宣言をグループで作ることにしました。
毎回テーマが設定されていて、今年は「ことばの力」です。
どのように行動宣言を考えてもらおうかというところで悩んでいたところ、「スマホトラブルの原因とその解決に向けてのリテラシー教育の提案」(※)という、子どもたちの気づきのワークショップの実践事例のサイトを見つけました。付箋を使ったグループワークで、良い点・悪い点を考えて解決策を考え、生徒に目標を作らせるというものです。
この方法からヒントをいただき、目標というところを行動宣言に変えてやってみたのが、今から紹介する実践内容になります。
※http://documents.tips/education/556a585cd8b42a7a138b4cba.html
情報機器は使わず、ワークシートと話し合いで進める
活動のねらいがこちらです。情報モラル・セキュリティについて、私が教えるのではなく、生徒が考えること。グループ内で情報を共有する、つまり自分だけで考えるのではなくて友達ときちんとすり合わせをすること。そして、そのグループで行動宣言を作成し、発表する。それをまたクラスで共有して、発表についての相互評価を行うことです。
今年、私が持っている1年生9クラス(360名)で実施しました。時期は5月の下旬から6月上旬、ちょうど中間テストが終わった後です。コンピューター教室を使わず、オフラインで教室と第2会議室で行っていました。グループは座席の近い人同士5人で1クラス8グループ作りました。男女が極端に偏らないようにチェンジはしますが、基本的には座席でグループを決めました。
授業の内容がこちらです。
1時間目は、授業の流れの説明をした後、各自でネットやSNSの良い点・困っている点を書き出しました。次に机を合わせてグループを作り、リーダーや書記などを決め、各自の意見を共有します。そして困っている点の対応策をまずは自分で考えて、これもグループで共有します。
2時間目は、対応策を共有した後各自で行動宣言を書き出します。そしてグループとしての行動宣言を作り、スライド作成用の紙に油性ペンで作成します。ここまでの活動は教室で行います。
3時間目は第2会議室で発表と行動宣言の共有、相互評価を行います。発表はグループ内で分担し、自分が作ったスライドを担当します。発表が終わったら黒板に行動宣言を書き出し、各自のプリントに書き写しました。また、今年はクラスでいちばんよかった行動宣言を選ぶようにしました。
繰り返しになりますが、この活動の目標は「自分で考える」「グループで話し合う」「グループで合意形成をする」です。書いたものを話し合っているのを見ると、短時間でたくさん書いているのだということがわかります。
各時間の活動を詳しくご紹介します。
1時間目でスマホやネットの良い点・困っている点を挙げる活動です。付箋でやると残すことがたいへんになるので、私は全部プリントで行っています。まずは生徒にアンケート形式で依存度チェックをしました。高校1年生の5月下旬なので、まだそれほどスマホ中毒という生徒はいませんが、中にはちょっと危ないな、という生徒もいます。
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次に良い点・困っている点をアンケートで聞きます。アンケートをするのは、各項目に挙げられた問題点が意識できているかどうかをチェックするためです。どういうことで困っているかを自分で考えて書き出すことにつなげてほしい、というのがここでのねらいになります。
そして次に自分の言葉で良い点、困っている点を書く。そしてグループで共有する。困っている点について対応策を考えてグループで話し合い、グループとして「これでいこう」というところまでもっていきます。コンピューター教室は机が動かせないので、この活動は教室で行います。
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2時間目は行動宣言とスライド作成です。
「困っているところ」までは前回終わっているので、「私たちはこうやってスマホと付き合っていこう」ということを自分で考えて、グループでまとめていきます。こう言った作業がスムーズに進んでいる班は、自分で考えて、グループで考えて、という手順がきちんとできています。
スライド8枚も5人で手分けして作ります。スライドは、以前はB4の紙を使っていましたが、B4は机で書くのがたいへんなのでA4にしました。時間があればスライドを見せ合って、わかりやすいかどうかという話もします。
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3時間目は発表と相互評価です。気分を変えるために第2会議室で行います。発表順はくじで決めますか、遅そうなところにはわざと順番が遅くなるようにします。今年からは書いたものをカメラに写して、テレビモニターを使って発表させました。
発表、相互評価、行動宣言の投票を行います。相互評価のプリントには、各班の評価を3項目で書き込んだり、各班の行動宣言を書いたりします。自分が気に入った行動宣言の番号も書きます。そして皆の発表への感想・評価を書かせます。生徒自身が文字にして起こすというのは大切なことです。
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最後にこのプリントを回収します。このプリントが評価の基準になります。授業の指導はとても楽しいです。準備をしっかりして、評価にも時間がかかりますが時間を見つければよいだけです。
情報モラルで3時間は重いが、活動内容は充実
行動宣言は、どううまく付き合っていくのか書いてくれています。行動宣言なので、本当は「私たちは〇〇します」とか言ってくれるといいのですが。授業は「歩きスマホをしないでね」という話をしたことを覚えていて宣言に入れたクラスもあります。だから、私はあまり言わない方がいいだろうな、でも必要なことは言いたいなとか、その辺が悩ましいところです。
生徒の感想がこちらです。
1学期にやったことがどこまで持続してくれるのか。1回だけのやり切りというが悩みどころです。今年変わったところは、スマホの料金体制が変わったので通信制限に触れている生徒がいました。それから視力が低下することからの「スマホ老眼」や肩が凝るといった健康面、そしてスマホでばかり会話をしていて自分でしゃべらないというコミュニケーションの問題に触れてくれた生徒もいます。
今後の課題としてはやはり授業時間の確保です。週2時間しかない情報の授業で3時間かけることは、他の内容を速く進めたり省略したりする必要があります。ただ、情報モラルについて生徒自身が考えることは非常に意義があるので、これはやはり続けていきたいです。
さらにフィードバックの時間をもっと設けたいのですが、どう時間を設けたらよいのか。デジタルのスライドを作る時間をきちんと確保した方がいいのか。使い方を教えることが情報の授業ではできていないと思うので「スライドはこういうふうに作って」と1回型を教えておくと、それだけでも十分かなと思っています。こういった点を改良しながら、今後も続けていきたいと思います。
まとめです。情報モラルと合意形成ということで、思考して出力する・共有して合意するという体験ができました。
個々の情報のとらえ方やモラル感覚の相違点、例えば「私はこれがいいと思っているけれど他の子はダメ」といったことがあることをわかってもらえたと思います。
グループでプレゼン体験をできる。また、プレゼンの相互評価も振り返りもできるということで、3時間でも非常に充実した内容になったと思います。
※八千代東高校は、第12回 ひろげよう情報モラル・セキュリティコンクールの「情報モラルに関する賞」を受賞しました。
https://www.ipa.go.jp/security/event/hyogo/2016/awd_imoral.html
※全国高等学校情報教育研究会第9回神奈川大会