事例68
人物調査の総まとめを「NEVERまとめ」でまとめさせてみた
東京都市大学付属中学校・高校 神藤健朗先生
理系生徒が多い中高一貫男子校
本校は、中高一貫の私立の男子校です。高校からの募集は一切なく、中学からの6学年を6クラスの体制でずっと持ち上がっていきます。年によって多少の違いはありますが、だいたい6割前後の生徒が理系を選択します。中学で理科実験に力を入れている関係で、理系の生徒が若干多めなのが本校の特徴です。
中学2年で行う技術家庭科の「情報」に関する部分については、情報科が週1時間担当しています。そのあとは、高校1年で「情報の科学」を、さらに文系の必履修科目として、高校2年で「情報デザイン(学校設定科目)」を開設しています。そして、高校3年の選択科目で「社会と情報」を設置しています。
文系の生徒が「情報デザイン」を学ぶ理由
文系生徒に向けて、「情報デザイン」という科目を設置したのには、いつかの理由があります。
先ほども申し上げた通り、本校はどちらかというと理系色の強い学校なので、数学ができないから、あるいは、理科ができないからという理由で文系を選択している生徒が多くいます。ということは、文系を選んだ生徒たちの中には、進路の目標が定まっていない子が非常に多いわけです。そういった生徒たちの視野を広げ、著名人の生き方から何かを学び取り、進路を考えるきっかけとしてもらいたいという思いでこのテーマを設定しました。
また、情報をデザインするという位置付けから、「本当に伝えたいことは何か」を明確にして構成を練る、そして、デザインの手法について理解する、ということを二本柱にして授業を行っています。
映画製作のように進める「情報デザイン」授業
この著名人を選ぶという部分に関しては、TWICE PLAN(※1)が提供している『人間ドキュメンタリーワーク』という、様々な分野で活躍した人の人生を題材に、「人間ドキュメンタリー」をつくるワークを教材として使っています。リストに掲載されている著名人の中から対象とする人をグループで1名決めて、1年間でドキュメンタリーを制作することを通して、様々なことを学んでいくという流れになっています。
(※1) http://twiceplan.jp/work/life-01/
私から、TWICE PLANの方にお願いしたのは、海外の偉人をなるべく多く入れてほしいということです。文系選択の生徒たちなので、日本語でいろいろと資料が出てきてしまうと、英語を学ぶという能動的な部分が減ってしまうと思ったからです。
情報デザイン自体のカリキュラムとしては、映画の製作をイメージするような流れを取っています。1学期の最初に人物を決めたあと、グループワークとして予告編を作ります。本編につながるような内容、そして、多くの人に興味を持ってもらえるような内容で資料をまとめ、プレゼンをするのです。
そのあと、映画館に置いてあるチラシのようなイメージで、B5サイズのチラシを作るという作業を個人ワークとして行います。2学期には、いよいよ本編の制作を行い、3学期で実際にキュレーションサイトを使ってまとめる、という流れになっています。
例年は、最後に三つ折りチラシを作っていたのですが、Webからのコピペが非常に多かったということ、また、自分の意図を持って編集することがうまくできないという問題がありました。
そんな中、そのころちょうど話題になっていたキュレーションサイトを使ってみよう、という流れになりました。
キュレーションを利用した理由
たまたま1月に、都高情研の研究会で、富士通の技術について学ぶ機会がありました。そこで、大学の授業では、閉じた環境でキュレーションサイトを使って学習しているという話を聞き、自分の授業にも取り入れられるのではないかと思ったのが始まりでした。
生徒に期待したのは、自分が記事を作る立場になると、ものの見方が変わってくるのではないかということです。商用サイトで実際に記事を公開すれば、リスクも含めて生徒自身がいろいろなことを考えてくれると思ったのです。
また、NAVERまとめを利用したのは、ブラウザベースで作成が容易にできる上、記事の数が一番多かったからです。記事数が多ければ、その中に生徒の記事が入っていてもあまり目立たないのではないかという意味もあり、NAVERまとめを利用することにしました。
生徒は、一人の人物について1学期からずっと書籍やWebサイトなどを利用して情報を蓄積し、資料を整理して本編発表に結び付けていきます。その中で、多くの資料の中から取捨選択してまとめを作っていくこと、また、同じ資料でも編集の仕方によって様々な切り口があることを学べるのです。
キュレーションの知識を深めた上で実習へ
3学期はもともと授業数が少ない上、学校行事などの関係で、授業数は6~7回ぐらいが限界というような状況だったので、6回のスケジュールで内容の割り振りを考えました。
特に意識しなければいけないのは、キュレーションサイトの問題点です。ちょうど医療系のキュレーションサイトが、不正確な記事や、著作権を無視した転用を行っていたという問題が話題に出ていた時期だったので、まずはキュレーションについて調査をすることを目標にしました。
中学生でもわかるように、キュレーションの概要と問題点、作成するに当たって注意すべきことを、発表をイメージしながらまとめるというのがその課題です。
そのあと、実際にキュレーションの記事を3時間かけて作りました。
「ログイン」をクリックしてアカウントを作り、「まとめ作成」というボタンを押すと、タイトルと概要説明文の入力画面が出てくるので、そこでタイトルと概要を記入します。
次に内容の入力です。例えば、下図の操作スライドはNAVERまとめのサイトにあるスティーブ・ジョブズに関する記事から作ったものです。見出しを選んでいくと、こういうふうに見えるよ、あるいは、引用を選ぶとこういうふうに出てくるから、というように確認しながら進めることができます。
A、B、Cの項目は必ず入力するなど、編集画面と実際に出来上がる画面を照らし合わせながら、生徒に作業をしてもらいました。
できあがりを相互評価する
生徒たちは各自で自分のアカウントを登録しているため、個人が特定されてトラブルが起こる可能性もあります。そこで、最終的にはランダムに連番を振って誰の作品かわからないようにしました。
その上で、興味を持ったものを三つ選ぶという形で相互評価を行いました。評価が高かったのは、やはりコメントに、自分の考えをきちんと整理してまとめている作品です。時間が少なかったせいもあり、文章の引用と写真を貼り付けただけになってしまった作品もあったので、しっかりコメントが書けているものは、生徒から見ても評価が高かったのでしょう。
取り組みについての生徒の感想
最後に、この取り組みの是非について、生徒に具体的に記入をしてもらいました。生徒の書いたコメントをいくつか紹介していきます。
取り組みの是非についてということでは、引用のコメントの必然性や画像の盗用の禁止など、悪い面を理解するには非常に良かったと書いている生徒がいました。
また、素人でも簡単に記事を作れることがわかり、情報を簡単に加工することができるため、情報が正確ではない可能性があるということに気付けた生徒もいました。これは、とても大きな気付きだったと思います。あるいは、ある生徒がほかの生徒の作品を発見して、悪意を持ってそれを拡散し、炎上させる可能性もあるのではないかということを指摘する生徒もいました。
さらに、世界中の人に見られるということに対しての恐怖を感じたというコメント、同じようにサイトやSNSに何かを投稿するときには、しっかりと大丈夫な内容か確認しなければいけないというふうに、今後の行動について考えるようなコメントもありました。
「何かを作るということは自分に責任が生じることなので、著作権などには注意した」というコメントについては、こちらのほうから「著作権は大事だよ、大事だよ」と言うよりも、こうやって具体的に取り組ませたほうが、しっかりと意識をするものだという印象を非常に強く持ちました。
また、「公開することへの緊張感を知った」、「実際にまとめを作成するという立場に立ってものを見られたことは新たな学びになった」、「適当に他のサイトから引っ張ることで簡単にサイトができることがわかった」など、この授業を通して得た自分の気付きを書いてくれたコメントが多くありました。
「著作権について教科書で学ぶよりも、実際に作業しながら学ぶことができたので、とても良い経験になった」「作成のプロセスから客観的に情報の真意を見極める能力を付けることができた」など、こちらの期待している通りに感じてくれた生徒もいて、私としてはやってよかったという気持ちになりました。
私のほうでチャレンジしてやったことが、子どもたちの中にうまく響いてくれたということが、非常にうれしかったです。
改善すべき点~環境整備、作業時間、内容チェックのしくみ
反省点をいくつかまとめてみました。一番苦労したのは、校内ネットワークのトラブルです。というのは、フィルタリングサービスの影響で、Chromeを使うとセッションがつながらなくなり、待ちの状態になる端末が多数発生してしまって、時間をずらさないとうまく反応が返ってこなかったということが多発しました。
そのせいで、作成時間が3時間だとかなりきつかったということがあります。今年度は、ネットワークの状態を改善し、作成の時間を4時間に増やして行いますので、そこでどういう結果になるかを見極めたいと思います。
また、先ほどのコメントにもある通り、生徒は著作権への配慮や、情報の信ぴょう性への配慮など、緊張感を持って作業に取り組めました。これはやはり、リアルな世界に発信すること、その重みというものを、子どもたち自身が考えてくれたのだと感じています。
それから、内容的に少し偏ったまとめ記事を書いてしまった生徒がいたのですが、それを公開したところ、NAVERまとめのほうから公開の差し止めを受けてしまったということがありました。事前にそういう対応をしてもらえたので、こちらとしては助かりましたが、やはり、そういった偏った記事を作ってしまう生徒は、少なからずいるという点については注意が必要です。
この問題に対しては、きちんと「こういう項目を満たしていますか」というチェックリストをこちらで用意する必要があったと思います。例えば3人の生徒に項目をチェックしてもらって、合格点が出たら初めて公開する、というように、生徒同士の相互チェックができるしくみをうまく授業の中で取り入れられればよかったと考えています。
相互チェックの手法を発展させると、引用しているだけのような作品についても、事前に生徒同士でコメントをもらい合いながら、もう少し中身を良くしていくこともできるのではないかと思いました。
最後になりますが、科目「情報」の目標の三つの柱の一つに「情報社会に参画する態度を育成すること」がありますが、実際に学校現場の授業でリアルな世界に飛び込んでいくことは非常に少ないといえます。
今回は、生徒たちに「もしトラブルに巻き込まれたらまず私のところに相談にきてね」と、あらかじめ伝えた上で、ある程度、私もリスクをかぶる覚悟を持って実施しましたが、やはりリアルな世界に情報発信したことによって、生徒自身も緊張感を持ってやれたと思います。今回は、かなりチャレンジングな内容でしたが、得られたものは大きかったと感じています。
[質疑応答]
質問(高校教員):著作権の指導についてですが、ほかの画像を引用するときに、その画像を公開している人に、一回連絡を取って許可をもらってから載せる必要があるかと思いますが、出典元を明らかにしたら、もうそれでOKとされていたのでしょうか。
神藤先生:NAVERまとめの提供しているまとめ作成ツールを使用しました。画像の検索と引用はそのツールを利用して行っています。したがって、ツールの中で検索された使っていいものだけを引用するという形でしたので、許可を取る必要はありませんでした。もちろん、他のサイトから画像をダウンロードして、それをアップロードするという行為は固く禁止しました。
※第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)(2017年8月8日・9日)の講演より