事例69

変化する社会への適応力を涵養する著作権法の教育実践

京都市立西京高校 大西洋先生

絶えず変化する著作権に関する法律の条文が読める=理解できるようになるために

本校では、著作権の授業を高校1年5月に「情報学基礎」(学校設定科目)2時間連続の授業1回プラスαで実施しています。

 

この授業を行う上で最も大切なこととして、法律は日本の国のルールであり、これが読めないといけないのだ、ということを徹底します。これが生徒と教員の共有すべき大前提です。本来は、国の定める義務教育を終えたら法律くらいは読んで理解できるべきですが、実際にはそれは理想論にすぎず、法律を読む・理解するということはあまり実践されていないと思います。

 

著作権法については教科書に書いてあり、また、情報の授業でその都度説明もします。しかし、著作権法というのは頻繁に変わってしまう法律なので、授業で一生懸命具体的に教えても、生徒が社会に出る頃にはルールが変わっている可能性があります。しかも、違法ダウンロードなど、生徒の一番身近なところにあるルールがどんどん変わりますから、授業でやったことを覚えていても仕方ありません。教科書に載っている解説が、数年で通用しなくなったり、これまでなかったような新たな知財の問題が発生したりするのに対処しなければならないのです。

 

授業ではスライドを見せますが、難しすぎる文章に図解をつける以外は、ほとんど条文をそのまま紹介しています。ただし、単に見せるだけではうまくいきません。そこで、先ほど述べたように、なぜこの授業をするのかを最初に説明します。

 

原理原則はわかった上で、最終的にはその時々の法律の条文そのものを理解できるようになってほしい、ルールが変わったとしても、それを読んだら理解できること、つまり「社会の変化への対応力を涵養する」ための授業なのです。

 

こういったことを最初にきちんと共有できれば、条文の説明にもけっこう食いついてきてくれます。

 

同じ演習を個人とグループで2回考える

授業は、演習を挟みながら、説明を中心にして展開します。最初に、著作権の権利の保護と著作物のトレードオフの関係について説明し、著作権法の目的が文化の発展に寄与することであることを理解させます。

次に、いろいろな行為が著作権に違反するかどうかをクイズ形式で考える演習を行います。ここでは、短時間で個人で考えさせ、自分自身の考えを持たせます。ここまでが1時間目です。

 

 

2時間目は、はじめに著作者人格権や著作財産権など、著作権の内容について1時間目よりも踏み込んだ説明を行います。その後、1時間目に行ったのと同じ演習を、今度はグループワークで考え、その問題は条文のども部分に関係しているかも考えてもらいます。これによって、1時間目に自分が考えた内容を客観的に見直すことができます。そして、これらの事例に対する解説を配布し、自分たちが話し合った内容と比較させます。その上で、差止請求権や罰則等、著作権に違反した場合の規定について説明します。そして、総括として二次創作や文化の発展への寄与、さらにTPP等の話をします。

 

この授業は4年間行っていますが、生徒たちには「将来トラブルに巻き込まれるのを予防できる」「情報が早く行き来する今の社会には必要な知識だ」「きちんと学べてよかった」など、概ね好評です。

 

授業の評価として学年末に実施した授業アンケートでは、1年間に実施した内容別に、生徒からみた評価を尋ねました。著作権を含む「知的財産権」では、「4:大変有意義である」や「3:どちらかといえば有意義である」と回答した割合が9割を超えています。

 

複雑かつ長大な著作権法の条文読解という内容は、高校1年生の授業としては決して簡単とはいえません。他の内容と比べても難しい単元ですが、それらと比べて遜色ない結果となっており、生徒には十分に授業の意義が伝わっているといえます。

 

今後は、校内での活動を題材として、グループで行う演習の部分の比重をより高めること、また条文の読解そのものの効果を測定する評価の実施を検討していきたいと考えています。

 

※第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)(2017年8月8日・9日)より