事例91

大阪府立高校のICT現状と課題

大阪府立今宮高校 広田高雄先生

今日は、話の途中でもどんどん質問してください。知りたいときが質問したいときですから、どんどん質問してください。コンピューター系のある研究会では、皆さんがビールを飲みながら、勝手に質問したり、周り同士で議論したりしています。ですから、堅苦しく思わずどんどん聞いていただきたいと思います。

 

過去2回の学習指導要領の「キーワード」

最初に少し真面目な話をします。学習指導要領の話です。先生方は、どうしてもこれに縛られます。さらに解説書などにもいろいろ書いてありますが、それでも解釈は千差万別だと思います。

 

まず、これが平成11年の学習指導要領、あの「ゆとり」のときの総則です。私流の解釈として、ここでのキーワードは「生きる力」「自ら学び自ら考える力の育成」というもので、皆さんももう耳にタコができるほど聞いておられると思います。他にもいろいろ書いてありますが、この学習指導要領ではここだけ頭に残っています。

 

こちらは、平成21年に出た現行の学習指導要領です。やはり「生きる力」と「思考力、判断力、表現力」「言語活動」というのが出てきています。私は自分に都合のいいところだけキーワードにしていますが、これから教員とか指導主事とかになろうとする方は、よく読んでおきましょうね。試験で聞かれますから(笑)。

教科情報スタート時のチャレンジが、結果的に「アクティブ・ラーニング」「eポートフォリオに」

教科「情報」は、今から16年前に始まりました。2020年度より小学校に「プログラミング」として入ろうとしています。小学校の英語のほうはさらに1サイクル先を行っていて、現行の指導要領で「外国語活動」という形で入っているものが、次の学習指導要領では、5・6年生で正式に教科になります。

 

これは、現場の皆さんはかなりしんどいと思います。特に「情報」に関しては、小・中・高の全てで初めての内容が出てきますので、何をどうやって教えていったらいいのか、見当もつかない方もいらっしゃると思います。我々は、教科「情報」が本格的に始まる10年くらい前から研究会で考えていましたが、その時は、まずどこの学校でもできる標準仕様でどうかしないとあかんね、というところから始めました。当時は、今ほどいい物はありませんでしたし、公立高校は本当にお金がありませんでした。基本的に現状も変わっていません。

 

まずは、当時手持ちのカードに何があったのかと言えば、WindowsのPCとMS Officeだけです。Mac、ありません。一太郎もありません。これだけでやらないといけないわけです。アプリもポツポツ出始めていましたが、まだまともに使えそうなものはあまりなく、あるもので何とかしようと思ってやってきました。

 

次に、教科書です。これも初めてできたもので、出版会社さんや高校・大学の先生方を巻き込んで、本当に一生懸命、ご苦労されながら作られたと思います。でも、どれも自分の考えているイメージと違いました。でも、正式な必修の教科ですので、生徒に買わせなければなりません。そこで私が選んだのは日本文教出版のものでした。なぜかというと、カラーコードが付いていたからです。この色を出すために、コンピューターは2進数で256色の色がこのように表すことができるという表があったので、それだけで選びました。それを授業で使う予定でしたから。正直、他の内容ほとんど参考になりませんでした。

 

昔、野球の有名な審判で、「俺がルールブックだ」と言った方がいましたが、あの感覚です。「教科書は俺だ」と思ってやっています。ですから、教科書は持たせていますが、ほとんど使えませんでした。自分はこんな授業をしたい、こんなことを教えたいという、そのイメージでやりました。

 

その際に授業のキーワードは三つです。まず「様々な方法での表現」。私は、情報を学ぶ初期の段階では、結局プレゼンテーションが一番大事だと思っています。それと「協働(共同)学習」。これもよく聞く言葉ですね。そして三つ目が「問題解決(シミュレーション)」です。この三つをどうかしたいな、ということで授業を組み立てました。

 

私が行ったこととして、まず、黒板に書きながら進める講義形式はやめました。これをやると、生徒は確実に寝ます。そこで、授業は実習中心でやりました。当時、教科情報に関しては、2分の1以上を実習に充てろというお達しがありましたが、私は100%実習です。

 

その中にこの四つ、「考え・調べ・発表・評価」を入れました。よく「調べ学習」というのがありますが、私は、その前に「考え」を入れています。生徒はわからないことはすぐに調べますね。それは決して間違ってはいないですが、私の授業の調べ学習では、まずはコンピューターを使わず、自分たちで考えて、話し合いをさせます。その次にやっと、「じゃあ調べていいよ、PCを使っていいよ」という許可を出します。調べる前に、まず考えるという前提が大事なのであって、これは全ての教科で同じだと思います。

そして発表をさせ、最後に必ず評価まで行います。この四本立ての中には、PDCAサイクルも当然入ってきています。

 

するとこの授業が、結果的に最近よく聞く「アクティブ・ラーニング」になってくるんですね。当時はアクティブ・ラーニングなんて言葉は聞いたことがなかったですが、自分の授業を思い出すと、「前からやってるやん。今さら何を」という感じです。普通にやってきた結果が、おのずとそうなっていたのですね。

 

板書に関して言うと、ICTを利用して従来と異なる形態にしてみました。教科によっては、先生方はいっぱい板書をされます。そして、生徒は一生懸命写しますが、先生は次のこと話しているのに、前の字句を写しているんですね。

 

でも、やはり説明したその場でタイムリーに考えてほしいし、いちいち書かせていたら時間がかかります。もちろん、書かせることも大事だという方もいらっしゃいますが、時間のロスが大きい。ですから、私は授業の内容を全部事前に電子メールで生徒に送っています。そうすれば、それを見たらいつでも振り返りができるし、もし授業を欠席しても、あとからそれを見れば何をやったかがわかるという利点もあります。

 

今は電子メールを使っていますが、たぶん来年度の途中からは、クラウド上の共有フォルダに置いて、いつでも自分で取りに行きなさい、という形にしようと思っています。電子メールを全員に送るのはすごい手間がかかりますが、クラウドに置いたら一発で終わりですし、事前に見ておくことも、後から見ておきなさいということも可能になります。こういったことで、かなり作業時間が確保できると思います。

 

生徒への課題や作品も、原則として電子情報で提出させます。十何年前から、「〇〇のフォルダに△△の名前でいれておきなさい」という形でやっているのですが、これが最近話題のeポートフォリオになっているのです。十数年間の生徒の取り組みの過程を、全て電子情報で保存できています。ですから、特定の生徒の成長過程を見ようと思ったら、最初から取り出すことも可能です。

 

eポートフォリオなんて言葉が話題になったのは、ほんの数年前からですが、私が授業改善のために十数年前からやってきたことは、結果的に今文科省が言っているアクティブ・ラーニングやeポートフォリオそのものだったわけです。

 

今宮高校のICT環境改善~府からの援助がなくてもここまでできた

今度は施設改善のお話です。本校は、府立の中でも結構恵まれていると思います。民間出身の校長先生ですが、もともとエンジニアの方なので、私の言うことをけっこう聞いてくれます。大阪府からは一切特別な補助は出ていません。本校創立110周年記念事業の中で、同窓会の方にお願いして、ちょっとずつ改善しました。

 

具体的にどんなことをしたのか、説明していきます。まずは、普通教室です。大阪府標準仕様は、スクリーンと情報コンセントです。そこに3年ほど前から、プロジェクターとApple TVを配置しました。

 

プロジェクターは、天井から吊るタイプのものもありますが、本校ではこの写真の真ん中あたりにある電子黒板機能付きのものにしました。工事費を考えると、こちらのほうが安かったかなというところです。

 

ただ、私はずっと前から、「黒板は時代錯誤だからホワイトボードにしてほしい」と言っているのですが、なかなか実現しません。約10年前に、語学研修でニュージーランドに生徒を連れて行ったとき、向こうの学校は普通にホワイトボードでした。先生に、いつ頃ホワイトボードになったのかと聞いたら、もうだいぶ前だというお答えでした。日本はそこが遅れているんですね。スクリーンがないよりはましですが、やはり、特に理科とか社会のような、画像や映像が大事になる教科ではホワイトボードで写した方が絶対きれいです。それに、ICT機器にチョークの粉は天敵です。そんなこともあるのですが、まだここは実現していません。

 

この写真の真ん中に置いてあるのがプロジェクターで、この上にApple TVを置いているので、iPadとかiPhoneがあればその場ですっとつなげます。特に若い先生は、自分のiPhoneを接続して見せたりしています。これは徐々に広がっています。

 

下図が、教室棟全体のICT環境の整備計画です。これは今まさに工事をしているところで、このあとシステムを組んでいくことになります。

※クリックすると拡大します

 

1フロアーに8教室あって、両端の教室は理論上200台までつなげるアクセスポイントを置いて、1人1台デバイスを持って調べ学習等ができるという環境にしました。真ん中教室は、廊下に3台のアクセスポイントを置いて、各教室でインターネットを使ったグループ学習ができる程度になっています。これは、文科省が出しているICT環境整備計画で言えば、大体ステージ3(下図)ぐらいのところの設備になると思います。 

※普通教室のICT環境のステップ(イメージ)~「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」最終まとめ(案)概要」より

BYODを視野に入れることは必ず必要になる

これからこの環境で具体的に何を・どうやって使うか考えなければいけません。公立高校で1人1台のiPadは無理です。何度も言うようにお金がありません。でも、生徒の99%はスマホを持っているので、そこで、BYOD(Bring Your Own Device)をやればいいのですが、するとまた一部の人が、「スマホを持ってない子どうするんだ」と言ってきますので、その対応も考えなければいけません。

 

さらに、皆さんは生徒のスマホ利用の実態は十分ご存知と思いますが、大体生徒は、月のうち最初の7日間くらいはいいのですが、その後はほとんどが10ギガ以上使い切って、速度制限を食らっています。それが校内でWi-Fiが飛んでいるとなったら、当然それを利用しにくるわけです(笑)。そうなるとWi-Fiが授業中に使えなってしまいますので、その辺りのルール作りも含めて、今後どうするかというのは大きな問題として考えなければならないと思います。おそらく、単純に自由に使わせるということにはならないでしょう。

 

また、先ほどBYODについてお話ししましたが、基本的にはBYODの方向に進まざるを得ないと思います。現在、本校全体でiPad miniが約20台しかありません。これは全部、校長裁量のマネジメント予算で買ったものですから、この台数しかなく、今後増設も難しい。ということになると、やはりBYODを視野に入れなければならないでしょう。

 

LAN教室の整備~アクティブ・ラーニングとプレゼンに合わせて

次に、LAN教室の整備です。ここも設備の更新のときに、ちょっと業者に無理を言って、いろいろ変えました。最初は全員が正面、私の方を向いていましたが、机の向きを変えて横向きにしました。こうすることで生徒のようすがよく見えるようになりましたし、やはりアクティブ・ラーニング等をしたいので、ワークスペースを確保するようにしました。

 

そして、プレゼンテーションに使いやすいレイアウトにしようと、こんなふうにしてみました。右の写真が教室の前方の様子です。教室全体から見やすいように、スクリーンを教室の前方の真正面よりも少し横位置にして、少し斜めに向けました。そして、左の写真が前から見たところですが、このように生徒の様子がよく見えます。

 


 

話は少し脱線しますが、生徒がピースしていますよね。これは第1回の授業の時に、「さあ皆さん記念撮影をしましょう。みんなピースして!」とやって撮ってから、「はい、君たちのiPhoneは先生が乗っ取りました」とやったときのものです。指紋でiPhoneが乗っ取れるという有名なやつですね。皆「えーっ」とか言っていました。こうして、最初の授業でセキュリティの話題も提供しています。

 

LL教室の改修~様々な場面で使えるスペースに

次にLL教室です。今日のご参加は英語の先生が多いと思いますが、先生方も学校でLL教室をいろいろな使い方をされていると思います。これも発想の転換をして、こんなふうに変えてみたらどうかな、という一つの例をご紹介します。

 

以前は、昔ながらの、全員が前を向いて、大きい机があってテレビが埋め込まれているという、典型的なLL教室です。単にちょっとしたスクリーンがある程度の普通の教室として使っていました。英語の先生方は、CALL(※2)教室にしてくれ、とずっと言っているのですが、改装にざっと2000万円くらいかかるので、「そんなお金はない」と言われており我慢されていました。

※2 Computer Assisted Language Learning

 

こちらがBeforeです。昔ながらの、全員が前を向いて、大きい机があってテレビが埋め込まれているという、典型的なLL教室です。単にちょっとしたスクリーンがある程度の普通の教室として使っていました。英語の先生方は、CALL(※2)教室にしてくれ、とずっと言っているのですが、改装にざっと2000万円くらいかかるので、「そんなお金はない」と言われており我慢されていました。

※2 Computer Assisted Language Learning

 

今回改装したAfterがこちらです。まず教室の前後と左右を変えました。このほうが広く使えます。そして、この写真のように、プロジェクターを3台置いて、同時に壁に映せるようにしました。さらに、もとからあったプロジェクターも横にもう1台生きていますから、合計4台です。テーブルと椅子も可動式です。これに関しては、1人1台のテーブル付きの椅子にするのは私として絶対に譲りたくないということで、押し通しました。

 

実はこの教室は、本日の会場の内田洋行さんの「フューチャークラスルーム」を参考にしています。ちょうどこの教室と同じ広さなので、こんなんできたらいいな、ということで内田洋行さんにたいへんお世話になって、作ってもらいました。この部屋は、テーブル付き椅子を当初40セット、あとからさらに20セット追加して60人でも活動ができるようにしました。この改装をしてからは、いろいろな場面で使えるようになりました。

 

もともとLL教室は英語科の管轄にあったので、英語の授業で使っているですが、単に物理的な場所として使っている先生もいらっしゃいましたので、他の教科にも使わせてあげてくださいとお願いしています。

 

この三つ並んだスクリーンのメリットは、演劇とか学園祭等でおもしろい使い方ができるんです。三つ別々に映してもいいですし、ソフトさえ入れれば、実物大のクジラをバーンと映すこともできます。「フューチャークラスルーム」といいますが、まさに未来へ向かってこんなんできるんちゃうかなと、設計させてもらいました。

 

環境整備の次に何をするか

そして、これからが肝心です。

 

この3月に出る新しい学習指導要領について、初めにやったようにキーワードをチェックしていきましょう。まず「言語活動」には、「批評・論述・討論」というのが明記されました。そして「外国語教育の充実」「職業人としての教育」、それから「情報教育」あたりがメインかなと私は思います。そして、これからわれわれはそれに対応すべく、何を・どのように教えるかを考えていかなければと思っています。

 

最後に、特定教科だけに限らず、いかにして全ての教科で授業にICTを使っていくか。ここがなかなか大変です。特に、若い20代・30代の先生方を何とか応援してあげて、組織として取り組んでいくことが必要です。どのような教育ができるか、ということについて言えば、私は「教育・指導」というキーワードで引っ張るのでなく、どちらかというとエバンジェリスト(伝道者)として伝えていく方を考えています。そして、日本の、世界の皆さんが何十年先までも幸せになれるように、そういったことを担えるような子どもたち、大人たちを作っていきたいと思っています。

 

大阪私学情報化研究会 第18回大会「デジタル教材勉強会」(2018年3月17日)講演より