事例110
体感でわかる!パケット交換と回線交換を実験して比べよう
~パケット交換方式と回線交換方式の深い理解を目指して
神奈川県立生田東高校 大石智広先生
専修大学ネットワーク情報学部 望月俊男先生
ネットワークの授業に問題解決を取り入れる
この授業では、ネットワーク通信が始まろうとしていた1960年代を想定して、回線交換方式とパケット交換方式の特徴と、どちらが優れているかということを発見的に理解することを狙いとしました。
教科書を読んだだけでは穴埋め問題を解かせるくらいで終わってしまうネットワークの授業に問題解決を取り入れ、探究的な授業にしたいと考えました。実験結果の比較・考察から科学的な性質を発見し、そして科学的な根拠に基づいてどちらが優れているかを説明できることを目指しました。
授業はこちらの3時間で行います。1時間目に、これから紹介する実験で2つの通信方式の仕組みを知り、特徴を考察します。
次の時間には、「次世代のために2つの通信方式のどちらを採用すべきかを提案する」という設定で、それぞれの通信方式を推す文章を読み、違っているところを指摘した上で、どちらを採用すべきかを根拠をきちんと述べた上で提案します。ここでポイントになるのは、ネットワーク通信が爆発的増大したらどうなるか、ということを踏まえているかどうかということです。
そして、3時間目にコンピュータネットワークの基本的な仕組みと、インターネットで使われるプロトコルを学びます。
雨樋とカプセルを使って通信方式の違いを体感的に学ぶ
1時間目の実験の授業の流れがこちらです。
回線交換方式のモデルがこちらです。各グループは8人で、6人がこの図の〇の一つひとつをそれぞれ担当し、2人が計測係をします。
実際の通信回線(=パイプ:雨樋を切ったもの)は1.8mあります。
ここにデータを流します。データは「17×31」のような、素数同士の掛け算などわざと時間がかかる処理をさせるものとします。
回線交換方式では、「17×31」を1枚のカードに書いて、重しのクリップをつけて送信PC役の生徒から受信PC役の生徒に向けて雨樋の通信回線の中を流します。受信PC側では計算をして送信PCに戻します。この時かかった時間(データを流してから処理[計算]して答が戻ってくるまで)を計測します。これを1対1(処理1回)と2対2(処理2回)について行います。2対2の場合は、最初の送信PC1と受信PC1が送信して計算して答えを戻すという全ての通信が完了してから、ようやく交換機役の生徒が回線を切り替えて、送信PC2と受信PC2の通信を開始します。
こちらがパケット交換方式のモデルです。この時は、先ほどの「17×31」の式であれば、「1」「7」「×」「3」「1」を1枚のカードに書いて、1枚ずつバラバラのカプセルに入れ、送信PCから受信PCに流します。それぞれのカードには並び順も書かれています。「交換機」の役の生徒は、赤のカプセルは赤のPCへ、青のカプセルは青のPCへ行くように流れを整理します。受信PC役の生徒は届いたパケット(カプセル)を、正しい順番に並び替えてから、計算を行います。計算が終わったら、答え(527)を「5」「2」「7」と1枚ずつのカードに順番とともに書き、バラバラのカプセルに入れ、回線に送り出します。
これも1対1、2対2について行います。パケット方式ではあて先の違うパケットを同時に通信回線に流すことができるので、回線交換方式のように、他の通信が終わるのを待つ必要がなく、いつでもパケットを流すことができます。
実験結果をもとにそれぞれの通信方式の特徴を説明する
こちらが実験結果です。1対1の場合は、当然回線交換方式の方が速いですが、2対2では回線交換方式は1対1のほぼ2倍の時間がかかっているのに比べて、パケット方式では1対1とさほど大きな差は出ていません。
生徒の考察を見ると、回線交換方式では回線が占有されてしまうため待ち時間が長くなりますが、パケット方式では一度に複数の通信を行うことができるので、回線を無駄なく使うことができることに気づいているのがわかります。
通信するコンピュータの数が増えてもパケット方式の所要時間があまり増えないことを実感させるために、いくつか実験の工夫が必要です。まず、受信PCに素数×素数の計算をさせるなど、受信してから返信するまでに時間が必要な処理をさせます。これは、回線に「空き」ができるようにする必要があるということです。また、交換機役の生徒がスムーズにデータを振り分けられるようにするために、カプセルの色を変えてわかりやすくしました。カプセルにフタをすることも考えましたが、パケット方式ではフタの開閉に時間がかかるので、紙を折って入れるだけにしました。
この結果をもとに、大統領に未来の通信方式としてどちらの方式を採用するべきか根拠を持って提案する、という活動に次の時間に取り組みます。その授業の最初に、「実験結果からわかったそれぞれの特徴を書こう」という問いを、「3対3、5対5など通信するコンピュータが多くなったらどう?」というヒントとともに考えさせます。「通信するコンピュータの台数が少ない時は回線交換方式が有利で、多くなってくるとパケット交換方式が有利になる」という正しい記述をしている生徒が多くいました。実験を行ったことで、それぞれの特徴と比較したときのメリット・デメリットを、体感的に深く理解することができたと考えています。
神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018 講演より