シグマ(Σ)もプログラミングも初心者の高校生が、教科書にも載っていない新たな公式を発見!
三項間におけるシグマ関連公式 ~新公式発見に挑戦!~
山口県立岩国高校
山口県立岩国高校理数科の皆さん
左から 森本竜成くん、 高木望波さん、 武林悠天くん、 森岡大喜くん(全員2年生)
プログラミングを使うことで、手ごわい数式がぐっと身近に!
数学Bの「目玉」の一つが「数列」です。この数列の和を求めるシグマ(以下、Σ)の計算は、センター試験をはじめ毎年多くの大学入試でも出題されますが、実はけっこう苦手にしている人も多いのではないでしようか。
Σ にはいろいろな公式がありますが、高校数学の教科書に載っているのは、Σk、Σk2、Σk3までで、2項間の関係のものだけです。
岩国高校理数科の皆さんは、「課題研究」の授業のテーマとして、プログラミングを使ってこの手ごわい Σ の公式に取り組み、Σk7まで用いた3項間の関係を表す新しい公式を発見しました。研究を始めた時には、まだ数学でΣについては学んでおらず、しかも全員がプログラミングはほぼ初心者だったので、プログラムの書き方を勉強しながらのチャレンジだったそうです。
3項間の関係を表す公式を作る手順
研究に必要な Σk~Σk7 のシグマの公式を用意して、スライドの(1)の等式を満たす a1、a2、a3、b1、b2、b3 を見つけ出すプログラムをVBAで作成しました。
具体的には、条件を満たすa1~a3、b1~b3が見つかったらエクセルのセル上に示す、というものです。
次に、p、q、r に1~20を代入して、特定の項nで等式を満たすa1~b3 を、先ほどのプログラムを用いて探します。
ここで得られた関係に、(1)で準備した公式を使って、全ての自然数nで成立することを証明します。ここからの証明は手計算で行いました。
結果を整理すると、赤い枠で囲んだ三つの公式が導かれました。
1≦p,q,r≦20 ではこれ以外の関連公式はなく、また見つかった関連公式に規則性は見られません。これらのことから、この三つが新たな公式であることがわかりました。
今回、プログラミングを使うことになよって膨大な組み合わせを処理することができ、これは文字で表した公式の集団から吟味して結果を予想して指数をあてはめていくよりも手順が少ないことがわかりました。また、この方法は他のΣの式や、数式で公式を発見する際にも役立つことが期待されます。
この研究に取り組んだ皆さんに聞きました。
■皆さんの研究について教えてください。
私たちは、3項間におけるΣの関連公式(→あるΣkn を2つの異なるΣkl とΣkm を用いて表す)の発見に挑戦しました。見つける方法として、
a1(Σkp)b1 + a2(Σkq)b2 + a3(Σkr)b3 =0…(1)
を満たすa1~a3、b1~b3が存在したらエクセルのセル上に表示し、存在しない時は表示されないようなプログラムを作成しました。そうして出てきたa1~a3、b1~b3、およびp、q、rを(1)に代入して、それが本当に成立するか否かを自分たちで計算して、3つの公式を発見しました。これらの3項間にの公式は、規則性がほとんどないということがわかりました。
従来の公式は (Σk)2 =Σk3 のような2項間もののみでしたが、私たちの研究では、2項間のものと関連公式を組み合わせて、全ての自然数で成り立つ別の関連式を導き出そうとしました。
Σkの式をたくさん使うので、自分たちだけの力では計算も限界があるため、プログラミングを使って行いました。Σの式はただでさえ複雑な上にプログラミングも難しいので、100%それらを理解するよりは、全体像を理解していただけたら嬉しいです。
■今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。
もともと数学の研究がしたかったのですが、指導してくださった先生が昨年の課題研究について説明をしてくださった時、公式発見をしてはどうかと提案され、興味を持ちました。当初私たちの中では、図形の性質について研究したいのと、公式関係で何らかの研究がしたいという二つの意見がありましたが、先生から提案をいただいて、自分たちの手で発見するということに魅力を感じてこの研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。
授業の中で行ったので、正味5か月です。昨年の5月から始めて、成果がまとまったのは今年1月でした。
■今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。
全員がプログラミングについて何も知らない状態から始めたので、まずプログラミングを理解して慣れるのに苦労しました。また、Σkn の公式を Σkn-1 の公式から導き、それを用いて3項間の関連公式が本当に成り立つかを手計算で証明するのもたいへんでした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。
(1)の式の3つの項のΣの係数a1、 a2、 a3 について、k=1の時は、Σkn =Σkm =Σkl =1となるので、 a1+a2+a 3=0 は必ず成り立ちます。そのため、プログラム上でa1+a2+a 3=0 以外の場合は表示させないようにしました。これによって処理が速くなり、大きい数でも処理できるようになりました。
■今回のポスター発表の感想をどうぞ!
・話が専門的なので、初見で何をやっているのかも理解してもらえず、研究の成果を伝えるのが難し
かったです。聞いている人全員に理解してもらうために、研究の内容と家庭を丁寧に説明できれば
良かったと思いました。でも、口頭発表とは違った方法で発表できて良い経験になったと思います。
(森本くん)
・すごく緊張しましたが、自分たちの研究を人の前で話すことは大学に入ってからもあると思うので、
それをこの時期に経験できたことはよかったなと思います。今後も、受験勉強をしつつ、今回の研究
をより発展させていけたらいいなと思います。(森岡くん)
・すごく緊張してしまって、説明もうまくできず、「良くわからない」という人がいて申し訳なかった
です。指導してくださった先生に「これはいい」と言ってもらえたのに、もっと多くの人にわかって
もらえるように説明したかったです。でも、他校の先生に「頑張ったね」「すごいね」とほめてもら
えたのは嬉しかったです! (高木さん)
この研究を指導された山下裕司先生にうかがいました。
■この研究はどのような場面で行ったものですか。
正規の授業で行いました。理数科の2年生を対象とした「課題研究」という講座です。4月当初に数学・物理・生物・化学・地学で研究対象を分け、生徒の希望を取り、班分けをしてそれぞれに担当教員がついて研究にあたりました。研究開始は5月、結果がまとまったのは年明けの1月です。1週間当たり1時間ですが 集中的に休日や放課後を使って、2~4時間を費やした日もありました。
■テーマの決定はどのようにされましたか。
私自身が、以前からコンピュータの高速大量な計算能力を利用すれば、多くの数値から関連性を見いだせると考えていましたので、いつかじっくり取り組んでみたいと思っていました。その考えを生徒に提示して研究対象の候補に挙げてみました。生徒4人が賛同して研究を開始しました。
■この研究に取り組んだ生徒のプログラミング経験はどの程度でしたか。
生徒は、プログラミング経験はほとんどありませんでしたので、まずプログラミングの学習から始めました。また、今回の研究で扱った∑という記号もまだ数学では学んでいない状態でした。やってみて、Σとプログラミングは親密性が高いと感じました。
■先生からはどのような場面でアドバイスをされましたか。また、研究を通して生徒がいちばん苦労していたのはどんなところだったと思いますか。
∑記号の初学者だった彼らが、教科書の範囲を超えた∑の公式を準備するのに苦労していたようです。教科書では Σk、Σk2、Σk3 までが扱われていますが、今回の研究で必要となった Σk7までは彼らが準備しました。私からは、今回の研究で使用するプログラムの導入と、パソコンの計算能力の限界から、調べる範囲を制限する必要があることをアドバイスしました。
■プログラミングを使った公式発見の可能性として、他にどのような分野の可能性があると思われますか。
今回の公式発見体験によって、生徒はこれまで以上に発想の広がりを持てるようになると思います。何かの問題解決にあたるときや課題への対策を模索するときに、大量の数的処理が必要となりそうと思って、発想をそこで打ち切ってしまうといったことがあるとすれば、とても残念なことです。今回の手法を体験することで、分野を問わず、計算処理による限界を定めることなく発想を広げることができると思います。いわばComputational Thinking が身についたのではないかと思います。
山口県第1回探究学習成果発表大会ポスター発表より