事例120
中学校技術科の授業実践例
焼津市立小川中学校 西ヶ谷浩史先生
技術・家庭科の内容や扱いは時代によって大きく違う
私は公立中学校の技術科の教員ですので、専門としては技術教育です。技術科の情報分野、特にプログラミングに関しては、専門の方々からいろいろ教わりながら授業を行っています。
中学校の技術・家庭科のお話をしますと、まず何をしているのか、世の中の方にはなかなかわかっていただけてないですね。学習指導要領が変わるたびにころころ内容が変わっていますので、ご自分が中学校のときに勉強してきた技術・家庭科のイメージがそれぞれ違います。
下図に、戦後学習指導要領が変わることで技術・家庭科の内容がどのように変わってきたかをまとめてみました。
50代から60代の方は、男子が技術分野、女子が家庭分野と授業が分かれていたので、授業時間数がものすごくたくさんありました。この頃技術の授業を体験した方たちは、「技術科って、本立て・文鎮・ちりとりを作っているんでしょ」ということを言われますよね。実際、この当時、木材加工や金属加工に時間をかけてやられていた題材たちなので、この年代の方は今の技術・家庭科もそうだというイメージがあるんですね。
私が中学校の技術・家庭科の教員になったのが平成元年ですが、この年から男女共修になって、内容の構成が大きく変わり、授業時数も削減されていきました。この時初めて情報が「情報基礎」という名前で選択領域でしたが導入されました。今30代の方が中学生の頃の平成10年の改訂では、技術分野の内容が「A技術とものづくり」と「B情報とコンピュータ」と大きく二つに分けられました。この時は、具体的に何をやったらいいかわからないような内容だったので、正直なところ中身が薄められてしまったようなこともありました。
そして平成20年改訂、現行の学習指導要領では、技術・家庭科の内容は「材料と加工」「エネルギー変換」「生物育成」「情報」の四つの全てが必修になりました。授業時間数が増えなくて、それでも中身が増えて内容が細かく決められています。現行の学習指導要領では、「技術の評価活用」というのが特徴的なのですが、平成29年に出された新しい学習指導要領ではこれが「技術の見方・考え方」と言われるようになっています。このように技術科というのは、時代と共に内容や扱いが大きく変わっているのです。
10年前から文字データのやりとりのプログラミングを授業で扱う
下図は平成18年に私が研究授業を行ったときの発表スライドです。平成10年改訂の学習指導要領で、選択領域の「マルチメディアの活用」と「プログラムと計測・制御」で授業を考えて行ったものです。このときの授業では、単にソフトウェアを使うだけでなく、もっと社会の変化に主体的に対応したり、新しいものを生み出したりできる力を育てたいということを目指していました。
当時はちょうどパソコンや携帯電話等の情報端末が変化している時期で、インターネットの普及によって情報の流れが双方向になり、ネットワークがより身近になるだろうという時期でした。
ドリトルの中にはネットワークを使える機能が入っているので、それを使って、生徒同士で別々のパソコンから文字情報を送り合うことをやってみました。
これは、生徒が2人組を作り、片方の生徒のパソコンからもう片方の生徒のパソコンに文字情報を送るという4行程度のプログラムなので、この程度であれば中学生でも比較的簡単に、文字が送られる仕組みが理解できました。
このときの授業では、最初は「2人組でメールソフトを作ろう」という設定で始めて、その後はもう少し大きいグループの中でいろいろな人と自由にメールのやりとりができるようにしようということに発展させ、最終的にはネットワークを利用して音楽データを活用するシステムを作ろう、ということも行いました。
ドリトルでは音楽を作ることもできるので、アップロードボタンを作って、作った曲をアップロードしたり、逆にサーバからダウンロードしたり、といったことを行いました。こういった活動を通して生徒がインターネットの仕組みを容易に理解でき、また生徒自身の工夫も生かすことができました。
このように、実際に子どもたちがネットワークを利用したシステムを作る学習で、他の生徒と協力し合って作業を進めたりする、机上の説明ではなく自分で作る体験から、実感を伴った本物の理解につながったと感じています。
10年前に行ったこの授業で、今後の課題として挙げたのが下図です。プログラミングを利用したネットワーク学習が始まったばかりの時期でしたが、プログラミングが難しくて意味が理解できないものから、考えて構想する学習へ移行することを目指していました。これを応用して、生徒がふだんネットワーク上で行っているゲームやチャット、電子メールや掲示板とか音楽配信といったことを、プログラムを通して理解できるだろうということです。
現行の学習指導要領では、デジタル作品の設計製作を行うことになっていますが、ネットワークを利用したプログラミングも使い方、つまり目的もどんどん変化してきて、社会でも様々な問題が起きるようになってきています。そういったことに気づかせるためにも非常に有効で面白いので、このネットワークを使ったプログラミング学習は今までずっと行ってきています。
ネットワークの危険性や情報モラルについても扱える
下図が現在最近行っている内容です。基本的には先ほどご紹介したのと同じ内容で、2人組を作って送信する人・受信する人を決めて文字データのやりとりをします。
それから、双方向に送受信したり、グループ内で相互にやりとりしたりすることができるように、便利なソフトにしていきます。こうしていくと、生徒は机に向かって座っているより、友達の所に行って、相談したり情報を伝え合ったりとかということをやりながら進めていくようになります。
こういった活動を通して、ネットワークの危険性に気づかせたり、情報モラルについて考えさせたりする授業も同じようにできます。
さらに、この原理を利用するとネットワークの原理についても学ぶことができるので、様々な授業を行っていますが、あくまでも技術なので、ネットワークのプログラムだけやればよいというわけではありません。
モノづくりは技術の集合体であることを伝える授業
こちらは、6年前の研究発表会のスライドです。ここで私がお話ししたのは、現代社会というのは、誰もつくり方を知らないものによって支えられ、作られている、様々な技術の集合体であると。だから、技術・家庭科でも、そういった様々な技術を組み合わせるということを教えることが重要ではないかということでした。
この当時授業で扱っていたのが自立型ロボットの制御です。写真のように、コップの中に入ったピンポン玉を真ん中の塩ビ管のパイプの中に入れるというプログラムを作りました。ロボットを動かすためのプログラム作りと言うのは、活動としては面白いのですが、同時に欠点もある、というのがこちらのスライドにまとめてあります。
また、実際の製品は様々な技術が組み合わされているということを授業の中で扱うために、生物育成の単元で、メダカを使って養殖技術を学ぶ際に、『冬季メダカ増殖システムを作ろう』という題材を考案しました。
人工的に卵を産ませるためには、産卵条件が三つあり、これをクリアして冬でもメダカに産卵させるためには、水温の管理をどうするか、水質はどうするか、光はどうするか、餌はどうするかといったことを、コンピュータなどを使って解決します。こういった様々な技術の組み合わせを一つの教材で教えられるということで、このようなシステムをデザインする授業がよいのではないかと思います。
生徒たちは、保温のためにペットボトルウォーマーによる加熱方法を試したり、保温剤や毛布を使ってみたり、ハイパワーLEDで足りない日照時間を補ったり。水質センサーが実用に堪えるかを調べたり…といったことを検討しながら、自分たちのシステムを作っていきました。
新学習指導要領では、ネットワークを利用した技術の重要性ということが挙げられ、双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる解決とか、制作するプログラムとして「ネットワークの利用」「双方向性」が追加されました。さらに、様々な技術を組み合わせることの重要性、ということで、計測・制御のプログラムによる問題が解決する際に、プログラムだけでなくて、計測・制御システムも構想すること、とされています。これらが新学習指導要領の変更点の目玉とされていますが、実際我々技術科教師が、前から大事にしてきていたことが改めて明記されたような形になっているので、技術科の先生方は自信を持ってどんどん新しい教材を開発していけばよいと思います。
私が常に考えているのは、社会を支えていく大切な技術を教えていきたいということです。だから、複雑化した技術の原理的なところを教えてきたいと。根本的な原理というのは陳腐化しません。せっかく技術で教えた内容が、すぐ古くなって使えなくなってしまうのでは意味がありませんが、こういった根本的な原理がわかれば、問題や疑問が出たときにそこに戻って自分で考えることができるようになると思います。
先ほどご紹介した、ネットワークで文字を送るという授業は10年以上やっていますが、今も授業ができているということは、文字を相手のパソコンに送るための仕組みは昔から変わっていないからです。そういった原理を教えることで、仕組みの持つ危険性のようなものも同時にわかってくるのではないかと思います。
情報処理学会第81回全国大会 シンポジウム
「小中高で必修化されたプログラミング教育 〜高校は「情報I」「情報II」が新設へ」より