事例129
「情報通信ネットワークとデータの活用」実践報告と課題
東京都立町田高校 小原格先生
本校は、東京都教育委員会指定の進学指導特別推進校で、進路指導に力を入れています。授業は45分7時間、土曜日は基本的に授業はありません。
昨年度から1年生と2年生は全員iPadを持っています。情報の授業はコンピュータ教室で実施していますが、生徒はiPadを持ってきて、メモを取るなど自由に使っています。
東京都の情報科は専任制で、本校では私だけです。学校の科目としては、必履修の「情報の科学」を1年生に2単位、3年生に自由選択科目を2単位置いています。
情報の授業では、思考力・判断力・表現力を重点的に指導したい思いがあり、問題解決をかなり丁寧に扱っています。本校の生徒は、問題発見が苦手に感じている生徒が多くみられるためです。自分で問題を発見して動ける、自主自律ができるようになってもらいたいと思っています。
また、2年生の総合的な学習の時間「調査研究活動」とも連携しています。こちらは来年2月に発表会を行ないます。授業についての詳細は、「情報科準備室~小原研究室」をご覧ください。
「情報I」に向けて、データベース・データの活用・プログラミングの改編をやってみた
新しく「情報Ⅰ」が始まるにあたって、いきなり情報Iの授業を始めるのはかなり難しいと感じているため、従来の取り組みをすこしずつ発展させる形で移行するようにしています。昨年は、情報デザインを丁寧にやってみました。今年はデータベース、データの活用、プログラミングに取り組んでみたいと思っています。
そのために、まずは年間計画を変更しました。例えば従来の1学期の「理論と問題解決の基礎」では、問題解決やモデル化のシミュレーションなどを行っていましたが、今回は問題解決を行ったあと、ネットワークのしくみや情報セキュリティを行いました。
2学期の「問題解決の実践」では、情報デザインなどを行っていましたが、今年は先にネットワークやデータベースを行った後に、情報デザインやコミュニケーションを行います。今日お話しするのは、赤枠の部分です。
3学期は、従来は総合実習を行っていましたが、今年度1年生で「総合的な探究の時間」が始まるのを機に、総合的な実習については探究の時間で行えばよいということにし、今年度からは、プログラミングやモデル化とシミュレーションの内容に時間を多く配当する予定となっています。
2018年度の実践:Excelを使ってデータベースを作ってみる
具体的な授業の内容についてお話しします。
こちらは昨年度のデータベースでの授業で、データベースの仕組みの話をしたときの図です。
データについてですが、ダミーデータを無料ですぐに作ってくれるサイトがあり、それを利用して約1000件のデータを作りました。ちょっと手を加えて、わざとキャリアを変えてみたりしてあります。
ソフトはExcelを使いました。Excelでも簡易的なデータベースの機能について学ぶことができるため、並べ替えをしたり、抽出してフィルターを掛けさせたり、といったことをした後、4人1組のグループで、メンバーが最近購入したものを基にデータベースを作る実習をしました。
データベースを作成するという取り組みは、データベースを学ぶ上でとても有意義だと考えています。生徒は、よくこの図のような「表」を作ってしまいます。
見た目は良いのですが、同じ内容のフィールドが複数にまたがっているため、とても扱いづらいものになっています。それに気づかせるため、例えば「菓子パンを買った人をフィルターにかけるにはどうする?」という質問で気付かせます。
また、生徒はこのような形式のものも作ってしまいます。これでは、1つのセルの中に属性が複数入ってしまっているので、これも非常に扱いづらくなっています。
また、真面目な子が、全員の名前をレコード一つひとつに正確に入力することがあります。例えば、コード番号や出席番号などで数値化しておけば、入力する際も手間やミスが減っていいよね、と言いたいところですが、自分で気づいて欲しいために、わざとそっとしておきます。
現行の指導要領にも、データベースを作るという項があります。実際に作らせてみて、自分で作らないとわからないことがあることがよくわかりました。生徒たちが作ってしまった失敗例を見せながら、ここをこうするともっとわかりやすくなるよと伝えると、とても理解が深まります。
こういった作業を通して、正規化やリレーショナルデータベースとはどのようなことかを学びます。
2019年度:ネットワークを利用したデータベースのためにAccessを使う
今年度からは、データベースの扱い方を少し変えました。「情報Ⅰ」では、「情報通信ネットワークとデータの活用」としてネットワークを意識したデータベースになっているので、そこを取り入れるために、Accessを使うことにしました。
生徒はAccessを使うのは初めてなので、こちらの図を見せて、裏でデータベース同士が連携していることを説明しました。
今年度は、ExcelとAccessの一番の大きな違いを説明するために、データベースを設計するところを実際に見せ、生徒に設計をさせるとともに、そのデータベースに入力をさせることにしました。
Excelだと「とりあえず入力する」という所から入ることもできますが、データベースの場合は、最初に、このようにフィールドの設定をしっかりおかないと途中から安易に変更できないこと、また、データ型をしっかりと設定しておくことで、効率的なデータ量とすることができること、などを説明します。ここでデータの「型」を意識させることで、プログラミングでの変数の型についての説明にもつなげることができます。
そして、教員がサンプルで作ったデータベースのデータをネットワークの共有フォルダに置き、全員にダブルクリックで立ち上げさせます。共有フォルダには、Excelのデータも置いておきます。Excelの方は、全員がダブルクリックで立ち上げようとすると、2人目からは「読み取り専用」のエラーが出てしまいます。生徒は「先生、変な表示が出ました!」とワイワイ言い出します。Accessの方をダブルクリックさせると、一つのデータベースに全員が同じようにアクセスでき、読み書きができます。新規にデータを入力させると、買ったもののデータがどんどん積み上がっていきます。生徒からは歓声が上がります。
この様子を見せながら、「今回は直接データベースを立ち上げて入力しているから、他の人のものも見えて、データが溜まっていく様子がわかるけど、多くの場合は書き込みだけを行うような形でデータが蓄えられていくんだよ」と話します。データベースマネジメントシステム(DBMS :database management system)が働いていて、全員が干渉しないように入力ができる形になっている、ということも実感できます。
クロス集計を使った分析の実習を行う
もう一つが情報分析です。これは毎年行っています。アンケートの結果などを、縦横の「表」ではなく、フィールドがしっかりと意識されたデータベース形式で作成しておくことにより、このように簡単に集計することができる、ということを強調します。
ここでは、Excelのピボットテーブルという、複数系列を同時に集計する機能を使います。Accessでもできますが、集計になるとやっぱりExcelのほうが生徒にとってとっつきやすいので、こちらを使います。
クロス集計は、2次元の表を簡単に作ることができますし、単に集計させることだけもできます。さらに、例えば、問1で「1」と回答した人が、問2でどのような回答をしたのか、ということもわかります。これは、いわゆる「正の字の集計」ではできません。単純な集計ですが、分析する上では有用であると思います。
また、コンピュータはこのような集計自体は得意だけれども、集計されたこの結果を「解釈」し、意味のある「情報」にするのは人間の仕事であることも強調します。
この集計の方法の練習をした後、実際に3人グループで実習をします。実習の内容が下図です。
あるクラスで、睡眠時間と勉強時間に何らかの関係がありそうだ、という予測をもとに、クラス40人について、性別、睡眠時間、勉強時間のアンケートを行ったという想定です。それをデータベース形式で入力されたExcelデータを配布します。
3分間で、3人が出席番号別にそれぞれ別々のクロス集計を行い、その内容の解釈を行います。時間がきたらグループ内で発表をします。発表は各自1分、集計表を見せながら行います。1人の発表が終わったら他のメンバーがそれに対するコメントを行い、互いの解釈について議論を行う、という形で、3つの内容を共有します。
出席番号が3で割ったら1余る生徒の課題がこちらです。何となく、睡眠時間が長いと勉強時間が短い、といった傾向が見えてきますが、当然、例外もあり、あくまでも傾向です。生徒は「こうだ」と言い切ってしまいがちなので、「こうらしい」とか「こう思われる」とかという言い方をしよう、という話もします。
3で割ったら2余る生徒の課題はこのようになります。この表からは、男子は睡眠時間が長くて、女子はあまり寝ていない、という傾向が見られることが良く指摘されます。それをより説得力があるように説明するにはどうしたらよいかを考えさせます。
ここで、少ない層、中間層、多い層に丸めて考える「層別」という考え方を簡単に説明し、層別に数値で表現させると説得力が高まる可能性があることを指導します。
3で割り切れる生徒の課題は、わざとバラバラなデータを使っています。男女の勉強時間に、差があるともないとも言えるように見えます。これらの差で「差がある」と言うためには、数学的な「検定」の考え方が必要だよ、ということを説明します。来年度は、検定まで踏み込んでやってみたいなと思っています。
データベースをネットワークの文脈で学ぶ意味と、数学との連携の課題
今回のまとめです。データベースをネットワークの文脈で行うのは面白いと思います。皆で書き込ませることで、DBMSを意識させるのに有効な活動です。
また、生徒たちはExcelもAccessも似たようなソフトだと思っていますが、それぞれに特徴があり、今年度は、データベースはネットワーク越しに皆で書き込んで皆で活用するというところにメリットがある、というところに注目させました。
クロス集計は、「考えさせる」上ではとてもよい内容であり、また、人間とコンピュータの役割の違いを意識させるにも適した教材だと思います。難しい人にとっては難しいとも思われますが、グループ活動で学ぶことで、わからなければ、グループの他の人からのフィードバックをもらうことで解決できると思います。
この後、アンケート実習として自分でアンケートを取ることをしますので、クロス集計は、アンケートを集計したものを分析する前段階の練習としても使えます。また、簡単に集計できるので、集計された表からグラフ作成にもつなげられるようになります。
今後の課題としては、数学的な内容にどこまで入っていくのか、ということです。授業の中であまり深いところまで踏み込むことはできませんし、目的を見失わないようにする必要があります。新しい情報を生み出したり、情報の扱い方を学ぶためであって、検定を教えることが目的ではありません。その意味で、数学科との連携内容も考える必要があります。
また、単元の履修順序も検討の余地があります。今年は「(1)情報社会の問題解決」の後すぐに「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」をやって、その後「(2)コミュニケーションと情報デザイン」「(3)コンピュータとプログラミング」の順に進めましたが、(1)→(2)→(3)→(4)でもいいのかなと思い始めています。
【質疑応答】
Q1高校教員:データベースでは結合が重要ですが、Accessではしなかったのでしょうか。
小原先生:最初の方のクラスでは、Accessで選択、射影、結合についてやっておりまして、概ねできていました。しかし、今回は時間数の関係もあり、ネットワーク越しにデータを収集するということを重視したので、後のほうのクラスでは、「こうやるといいよ」と私が実際にやって見せる程度で行いました。
Q2高校教員:データを作らせるだけではなくて、説明させないとだめだ、という意見もあり、先生の場合は生徒にしっかりと発表させている点が良いと思います。一方で、生徒の発表をどう評価されていますか?
小原先生:全員を一度に見るのは難しいですが、ほぼ100パーセントの生徒が、十分説明できています。「すごい分析をしている」というところまで達する生徒はほとんどいませんが、逆に全く説明できない生徒もほぼいません。
第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会(和歌山大会) 分科会発表より