事例132
生徒が作成した情報モラル標語のAI分析結果の考察
千葉県立八千代東高校 谷川佳隆先生
テキストマイニングツールを使って情報モラル標語に使われた単語の傾向を分析
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新しい学習指導要領の情報Iの目標は、「情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ,情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し、情報社会に主体的に参画するための資質・能力を(次のとおり)育成することを目指す」とあります。
ここでいう「情報技術」には、当然AI(人工知能)が入ってきます。そこで、今回は無料で利用できるAIによるテキストマイニングツールを使用して、生徒の情報モラルに関する意識の変化を分析してみた結果をご紹介します。
私の授業では、毎年生徒に「情報モラルセキュリティコンクール」の標語部門(※1)に参加しています。
情報モラルセキュリティコンクールは、IPA(情報処理推進機構)が実施するもので、学校単位の参加となっています。情報の定期考査の時間中に標語を考えさせ、取りまとめて応募しています。今回は、この標語で生徒が使った言葉をAIで分析して、彼らの関心がどのように変化しているかを調べました。
※1 https://www.ipa.go.jp/security/event/hyogo/2019/hyogo.html
今回分析に使ったツールは、User Local(※2)という無料のWebサイトです。
※2 https://textmining.userlocal.jp/
解析したいテキストを入れると、ディープラーニングを用いた「感情分析AI」によって、ワードクラウドや単語出現頻度だけでなく、「喜び」「好き」「悲しみ」「怖れ」「怒り」の5つの感情分析や、ポジティブ・ネガティブの推定等ができます。さらに、2つのテキストを入力することで、特徴語マップやネガポジマップで分析することができます。
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先ほどの標語をテキストデータにして、このUser Localに入れます。
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2014年と2018年を比較すると、「パスワード」「守る」のスコアが上昇
こちらが2014年度の430作品をワードクラウドで表したものです。
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品詞別の出現頻度とスコアを算出したのがこちらです。
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スコアは、その単語の重要度を 表す数値です(算出方法および定義は下図)。出現頻度では「ネット」が最多ですが、スコアは 「SNS」が最高になっています。
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一方、下図が2018年度の392作品の結果です。ご覧のように、「パスワード」が目立ちます。
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2014年と2018年を比較する(下図)と、「パスワード」「守る」のスコアが上がりました。さらに「再確認」という単語が登場し、送信前に確認しよう、という意識が出てきていることがわかります。
一方で2014年のデータでは、意外に「スマホ」という単語がありませんでした。この間にスマホが急速に普及し、SNSでの発信の頻度が上がったことが、上記の背景にあると思います。
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さらに、2019年度の調査になると、2018年と比較してパスワードのスコアが小さくなっています。また、中立的な感情が増え、ネガティブな感情が減っています。このことから、ネットやSNSを怖れるだけでなく、うまく使っていこうとしていることもわかります。
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ネガティブな感情についてさらに細かく見ると、2014年と2018年では大きな差はありませんが、「怒り」は少し増え、「怖れ」が減っています。
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2014年と2018年をそれぞれ作品内の感情の割合グラフ化したもので、作品を横に並べています。見た目で差異がわかりにくいのですが、感情ごとに色分けされているので、色(感情)ごとに面積を求め数値化すれば比較がわかりやすくなりそうです。
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このように、AIによるテキストマイニングを使うと感情分析を簡単に行うことができ、またデー タが肯定的か否定的かということも判断できますので、たいへん便利です。研究活動や探究活動以外にも、User Localを活用して、例えば小説や評論などのテキストを入れて分析したデータを使い、新たな授業活動も提案できるのではないかと思います。
第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会(和歌山大会) ポスター発表より