事例134
「情報最新トピック集」の歴史からみる情報社会の変遷
東京都立立川高校 佐藤義弘先生
「情報最新トピック集2019」は、日経BP社発行、日本文教出版発売元の教科情報の副教材です。
私が、この「情報最新トピック集」に関わることになったのは、2006年に、日経BPさんから「高校用副教材について話を聞きたい」という申し出があったことがきっかけでした。教科書だけでは日々進化する情報技術のスピードに追いつかないと感じていた私は、情報の資料集を作りたいという意見を出し、制作に関わることになりました。
私がイメージしていたのは、高校生にも読めるわかりやすい内容で、最新の頻出単語が解説してある資料集でした。
初版は2007年ですが、年々新しいシステムが登場することで、情報を取り巻く環境は、目まぐるしく変わっていきました。以前は問題になっていたことが1年後には問題にならなくなっていたり、技術が進歩したことで廃れてしまったものがあったりと、その変遷はとても激しいものです。
情報科が設置された2003年度から次の学習指導要領が始まる2022年度まで、教科書は2回しか変わりませんがトピック集は技術の進歩と共に毎年改訂しています。また、Google、Apple、Microsoftといった固有名詞は教科書に載せられませんが、トピック集には載せることができ、生徒が具体的なイメージを浮かべることができます。そういったトピック集の移り変わりを見ていきたいと思います。
トピックスから見える情報メディアや技術の変遷
「情報は実習科目じゃない」「情報を受験科目にしよう」と言っているのに、教科書と教科書傍用問題集しかないのでは話にならない、というのが、この資料集を作り始めた当時の私の気持ちでした。
とにかく形にすることを目的に作った初版には、付録にWord、ExcelのeラーニングCDもつけました。
しかし、文字通り勢いで作ったので、文字が小さく読みにくかったり、別のトピックのところに同一の内容が載っていたりと、必ずしも十分に作りきれませんでした。
2007年版で得た教訓をもとに、2008年は追補版として内容のアップデートを図りました。トピックを初版の89項目にSNS・動画投稿・メディアリテラシーの3項目を追加しました。
SNSはmixiを中心に解説しました。この後、Facebook、Twitter、LINEなどに取って代わられますが、ちょうどmixiの利用者がピークを迎えていた時期です。
動画については、2005年に公開された動画共有サイトYouTubeを中心に記載しました。また、メディアからの情報を正しく見極めるメディアリテラシーについても、初めて解説しました。
第2版となった2009年版は、追補版で89まで増やしたトピックを、トピックの対象が狭すぎて、内容が難しくなっているのではないかという反省から、思い切って67に減らし、トピックごとの内容のまとまりを意識して、整理統合を図りました。
一つのトピックとしては内容が狭い、USB・ディスプレイ・プリンタ・マウス・プレゼンテーション・圧縮・色の表現(RGB・CMYK)といったトピックを整理統合し、動画共有・動画投稿・メディアリテラシーなどのトピックを追加しました。
また、トピック間の関連を示す図を入れたり、チェックリストを入れたりして、見やすくなる工夫もして高校生にもわかりやすい誌面作りを目指しました。
SNSの隆盛とクラウドコンピューティングの登場
2011年には、第3版が出されました。この年に話題となっていたのはmixiに続いて登場したtwitterです。SNSが大きく広がった時代といえます。
さらに、この時期に今では当たり前となったクラウドコンピューティングが使われ始めました。スマートフォンが登場したのも、この頃です。ライブ配信ができるUstreamも流行し始めました。
2012年に出版された第4版では、トピック数の変化はなく、文字サイズやレイアウトを工夫して、より読みやすくすることに注力しました。また、前年に起きた情報関連の事件や新しい技術を短く紹介する「注目トピックス」ページを追加しました。
SNSはますます盛んになり、新しくFacebookが現れました。twitterと違って、Facebookは実名登録をする必要があるため、知っている人とつながりが持てる、という点で、他のSNSよりも安心感があるのが、一つの売りだったと言えます。
第5版となった2013年からは、表紙に発行年を入れることになり、毎年改訂することが決定しました。
トピックの数は、70から68と、2項目減らし、「注目トピックス」は、2ページにして、社会の変化や新しい技術に対応しました。スマートフォンが広く普及するようになり、タブレットとともにWi-Fiも広がりを見せ始めました。
また、Ustreamは、トピック名から消え、YouTubeやニコニコ動画のトピックに吸収されました。
SNSの草分けとして初版から記載してきたmixiですが、Facebookの勢いが増し、利用者に大きな差がついた結果、2014年版ではトピック名から名称が消えました。それと機を合わせるように、LINEが広く普及しました。
テレビは地デジ化が進んだため「ディジタル放送」というトピック名は削除されました。また、「クックパッド」や「価格.com」「Q&Aサイト」などが、トピック名の中に新たに追加されています。
モバイルパソコンに合わせたメディアが普及、「ビッグデータ」の登場
巻頭の図解を簡略化して、引き続き、見やすさ、わかりやすさにこだわったのが2015年の第7版です。
ゼロスピンドルPCという、CDやDVDドライブを内蔵しないモバイルパソコンが流行したため、CD、DVD、Blu-ray DiscのトピックにUSBメモリなどを追加し、「リムーバブルメディア」として整理統合しました。この年に追加されたトピックは、「ネットワーク共有サービス」「センサーと計測制御」「4kテレビ」などです。
2016年の第8版では、図解を廃止して、各ジャンルにリード文をつけました。また、「資格の取得にチャレンジしよう/もっと詳しく調べるためのガイド」を付録にしています。
また、2000年代前半にはインターネットサイトの作成に欠かせなかったFlashもカットしました。「ワープロソフト」は「Officeソフト」に整理統合され、新たに「ビッグデータ」というトピック名を追加しました。
2017年の第9版には、アプリケーション開発やゲーム開発で使われるプログラミング言語JavaScriptと、視覚的・直感的にプログラミングができる子ども向けのScratchの実習ページを付録に追加しました。
また、新たな単語が続々と登場し、トピックの数も増えています。追加されたのは、「情報セキュリティ」「人工知能(AI)」「ロボティクス」「VRとウェアラブルデバイス」「サーバーとネットワークサービス」「論理回路」「コンピュータとシミュレーション」「データのモデル化」です。一方で、「表計算ソフト」「プレゼンテーションソフト」は削除されました。
第10版は、トピック名の変更は5つほどありましたが、大きな変化はなく、内容のブラッシュアップにとどめました。
Instagramが代表的なSNSとしてトピック名に入りました。今では「インスタ映え」という言葉が当たり前に使われるようになっています。
新学習指導要領に対応した第11版2019年
2020年度の完全施行に備え、新学習指導要領の「情報I」「情報II」に対応させたのが、2019年の第11版です。
それまで少し物足りなかった「情報デザイン」と「データサイエンス」を加え、「情報社会のあり方」と「情報の科学的理解」の内容を増強しました。
新たに登場したトピック、消えたトピック
トピック名の変遷を一覧にしたのが、下図の表です。青色がトピック集から消えた言葉、黄色が新たに登場した言葉です。色分けをすることで、パッと見ただけで、流れがわかるようになっています。
※上記の図は下記からダウンロードできます。
技術の変化はもとより、インターネットやリテラシーなどについてのトピックは多くなり、セキュリティ対策や古くなったメディアについてのトピックは減ってきています。
トピック集を作り始めた2007年から一貫しているのは「高校生に読んでほしい」ということです。そのために、毎年、高校生にわかりやすいよう、いろいろな工夫を重ねてきました。
基本的に、左ページは教科書レベル、右ページには少し難しい一歩踏み込んだ内容が書いてあります。左ページを読んで、右ページを読むことで知識が深まります。生徒の今までの活用状況や中学校の学習状況によって、情報の授業で扱う知識事項の理解度は大きく違います。授業に対応するページを示しておくと、理解の早い生徒は該当ページを読んでさらに知識を深めることができます。中には意外なほど「はまる」生徒が出てきます。
調べてまとめるアクティブ・ラーニング型の授業にも便利です。手がかりもなくすぐにインターネットで検索すると、どの情報を選択すれば良いか分からなかったり、専門用語ばかりのページしか見つからなかったりします。最初にトピック集で調べて基本的な内容を把握しておけば、情報の取捨選択もでき、いくらかの専門用語も読み解けるようになります。ぜひうまく活用していただければと思います。
第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会(和歌山大会) ポスター発表より