事例151
大和南高校の取り組み ~一般的な全日制普通科高校が「オンライン授業」をスタートするまでの取り組み
神奈川県立大和南高校 相馬臣彦先生
研究広報グループBYOD導入計画、新型コロナの影響で前倒し
まず、本校のBYOD(Bring Your Own Device)導入計画についてお話いたします。本校では新型コロナウイルス感染症拡大前、研究広報グループが2020年度の授業研究のテーマとして、BYOD、ICTを活用した授業を各教科・科目で考えてみようとテーマを設定していました。当初はスライドのような計画で、5月に職員向け研修を行ない、6月に各教科・科目での研究授業に取り組んでいこうと考えていました。
ところが、コロナの影響でまずオンライン授業を展開することが急務となったので、下のような形で導入計画を前倒しして進めてきました。
具体的には、5月の連休中には、Google Classroom(以下、Classroom)に全科目分クラスを作り、そのクラスに全生徒を登録。5月の連休明けから各教科・科目で運用できるよう準備を行い、準備ができた教科・科目からオンラインで課題を配信したり、動画を配信したりといった取り組みを行なってきました。
学習支援グループ
オンライン授業への対応を段階的に進める
本校のオンライン授業への対応は、具体的には、学習支援グループとして、STEP1からSTEP6の6段階で取り組んできました。
STEP1では、Google for Education、G suiteに私たち教職員が触れてみて、どういうものかを理解する。STEP2では、生徒へのアカウントの準備と、使用する際のルールを作る。そこまでできたら、STEP3では、生徒にアカウントを配付し、使用ルールを明示する。
STEP4では、教職員向けには、Classroomのクラス設定や生徒登録の方法、生徒が陥りやすいトラブルへの対応ノウハウを共有。生徒向けには、必要なアプリのインストールや基本操作を案内します。
そこまでの環境が整ったら、STEP5では、ClassroomやGoogle Meet(以下、Meet)を活用することを生徒に定着させます。教職員は、学習支援グループの教員だけではなく、各学年・各教科でキーパーソンを決めて、Classroomの運用・生徒アカウントの管理に対応できる体制を作ります。
そしてSTEP6は、現状はオンデマンド型が中心ですが、Classroomを活用してオンライン授業を実施するというように、オンライン授業に対応する体制を整備するよう計画を進めてきました。
情報科は生徒・教員向けの2つの方向でアプローチ、生徒向けにはサポート動画を配信
情報科としては、2つの方向でアプローチすることを考え行動してきました。一つ目は生徒に向けて、Classroomやフォームの活用が定着するよう操作をサポートすること。教員に向けては、Classroomで簡単に課題の配信や動画作成ができるのをアピール、または情報を共有・発信していくことの、2つです。
具体的には、生徒向けサポート動画を配信するため、本校ホームページから見ることができる「活用サポートページ」を作成しました。発表時では、対応する動画はまだ6つくらいですが、生徒が操作に戸惑いやすい点について、スライドのようにサポート動画を作成し、本校のホームページで誰でも見ることができるよう配信の設定を行い、生徒には困ったらそこを見るようにと伝えています。
教員向けには『裾野を広げる』活動、オンライン授業動画の作り方をホームページで共有
次に、教員向けのサポートについて。教員のスキルレベルを山に例えてみると、得意な人は周囲を引っ張る、対応できる人は得意な人に追随して動画を作成し課題を配信していくといったことが行われます。ただ、「これではまだオンライン授業への対応としては体制が確立していないのでは」「苦手な人や消極的な人にも取り組んでもらうことで、学校としてもっと大きな体制が作れるのでは」と、情報科の使命として『裾野を広げる』活動をすべきと考え、行動することにしました。
『裾野を広げる』ために目的を「オンライン授業」を「広く・手軽」に「誰にでもできる」と設定し、より簡単に、すぐできる、自分自身がまずやってみるという3つのテーマで取り組みました。
というのも、高度な技術を使用しても誰もができるわけではありません。「誰もができる」をめざすことがまずは重要でないか。オンライン授業を教員みんなが取り組む体制を作るには、「誰もができる」を実現することがキーポイントになるのではないかと考えました。
その取り組みとして、オンライン授業動画の作り方について、在宅勤務の先生方も校外から見ることができるよう、本校ホームページで情報を共有しています(※1)。オンライン授業や動画を撮影するノウハウを、いつでも気軽に見ることができるようにしました。
※1「情報科『社会と情報』 もう一つのコンピュータ教室」
https://sites.google.com/gl.pen-kanagawa.ed.jp/yamanan-infotech2019
まず気軽に始める方法として、黒板を使って授業する様子を、三脚や机、スマホを使用して撮影する方法を紹介しました。
さらに、黒板ではなくChromebookのみ使用して授業動画を作る方法も出してみました。
あとは、本校のパソコン室にあるELMO製のOHC(Over Head Camera、書画カメラ)をUSBでChromebookと接続して、ImageMate+C(※2)というWebサイトにアクセスすると、OHCで簡単に動画を作成することができるということも、情報として発信してきました。
また、Zoomも授業動画を作るツールになるということも発信していました。これまで取り組んできたことは、今回の資料のQRコードからアクセスしていただければ詳細が掲載されていますので、ご覧いただければと思います。
このように情報を発信してきたところ、本校でも「これなら私でも授業動画を作れる」という方法をそれぞれの先生方に見つけていただいています。
これは古典の授業動画を作成している様子ですが、国語科の先生や他教科の先生方にも、「相馬先生、こういうふうに動画を作るにはどうしたらいいですか」という質問も増えてきて、Classroomの活用が先生方にも定着してきたかなと、手応えを少し感じています。また、動画の撮り方が各教科に浸透した頃合いで、情報科の持つ技術をフルに活用して授業動画を作成するということもやってみました。
Meetで質問受付時間を時間割に組み込む、研修の様子も配信
また、本校では、Meetを活用しています。時間割を組み、各科目で担当者を決めて配付した課題の質問を受ける「質問受付時間」を作り、校内で各教科教員が協力して取り組みました。先生方の中には、ショートホームルームに活用したり、部活動のミーティングなどでMeetを活用したりして、生徒たちとつながる活動に取り組む先生方もいました。
もう一つ、Classroom研修では、先生方も活用できるように研究広報グループと協力して研修を行ないました。研修の様子をMeetで撮影して配信しながら、Classroomやフォーム、Meet、ドライブの簡単な使用方法など技術を活用する方法を伝える研修も行いました。
情報科の使命は、「自分ならできる」デザインパターンの提供
情報科はプロだからこそ、簡単をめざし、密かに本気を出す
最後に、まとめます。
本校では、校長主導で教員同士の意見交換の場を設けて、オンライン授業に興味のある先生方を中心に積極的な情報共有に取り組んだことが、オンライン授業に対応する体制を作ることができた一つの要因だと思います。
今後の課題として、授業動画を撮影するだけではなく、その後に続く授業につなげるためにどうしたらよいか。情報科はプロだからこそ、簡単に誰もができる方法をめざし、密かに本気を出すことが、私は重要だと感じました。
情報科の教員だから「高度なICT技術」「最新のオンライン教育法」ではなく、このコロナ禍だから、誰でもができる方法を提案し、教員が生徒へメッセージを発信できるようになる学校を目指すべきではないかと考えます。簡単にできる技術を提案することは難しい面もある。そういう部分や、やっていこうと思える環境を作る、見えないところを本気で支えることを情報科に今求められているのではないでしょうか。