事例153

多様なオンライン授業の実現を目指して~生田東高校の取り組み

神奈川県立生田東高校 大石智広先生

キーワードは「双方向」「同時」「文字・映像・音声」

2017年神奈川県情報部会 実践事例報告会より
2017年神奈川県情報部会 実践事例報告会より

本日は、本校の取り組みとして、対話的で深い学びをめざした、オンタイムオンデマンド授業についてお話しいたします。

 

オンライン授業を行うにあたり、私たちの学校では「オンラインで授業をする」ことではなく、「オンラインで良い授業をする」ためにはどうしたらよいかを課題として考えました。

 

良い授業とは、先生が一方的に話すのではなく、生徒が考察や探究する場面があること、生徒同士の対話がある授業だと言われています。そうすると、良いオンライン授業に求められるのは、「双方向」であることや「同時」に行うというキーワードが見えてきます。


 

また、MOOCs(Massive Open Online Courses、大規模公開オンライン講座)などの経験から、映像を一方的に視聴するような授業だと、生徒の多くが途中で脱落してしまうことがわかっています。そのため、生徒が一緒に学んでいることが実感できること。また、どのような理解の仕方が得意かは、生徒により様々ですので、多様な生徒に合わせて、多様な理解の仕方を提供することが必要だと考えられます。


 

すると「文字・映像・音声」を使った授業や、生徒が「同時」に受ける授業といったキーワードが見えてきます。ここまでのお話を整理すると、良いオンライン授業に求められるのは、「双方向」、「同時」、「文字・映像・音声」に対応することとなります。

 


 

オンデマンド型と同時双方向型~一般的ではあるが、問題点も

これら3つのキーワードを実現する授業の型について考えてみましょう。世間一般には、事前にオンラインで配付した資料・動画に生徒が自分のタイミングで取り組む「オンデマンド型」と、オンライン会議システムを使って教師が映像と音声をリアルタイムに配信する「同時双方向型」があると言われています。

 

オンデマンド型授業は、文字や音声、映像を使用することはできますが、同時性という点では難があります。さらに、一方的に映像を見ることになりがちで、双方向、特に生徒同士の繋がりを作ることは難しいと考えます。

 

 

一方、同時双方向型授業は文字・音声・映像は使用することができます。ただ、逆に「同時」の縛りがきつく、例えば生徒が5分遅れで授業に入ったり、一時的に機材トラブルで授業に参加できなかったりしたとき、授業後に見返すこと、つまりタイムシフトができないという問題点があります。

 

 

また、「双方向」とは謳われていますが、本当に生徒同士の双方向型の学びを作ることができるかについては、疑問を感じます。

 

もちろん、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使いこなせば可能ですが、そこまでのスキルが現時点で生徒や教師にあったのかというと、これは難しかったというのが実感です。

 

3つのキーワードを実現する「オンタイムオンデマンド型授業」

こう考えると、オンライン授業の型として一般的に言われている「オンデマンド型」と「同時双方向型」では、3つのキーワードを実現するのは難しい、ということがわかります。そこで今回、「オンタイムオンデマンド型授業」という新しい授業の型を考えました。

 

「オンタイムオンデマンド型授業」とは、教師がオンデマンドで配付した資料や動画などの課題に、生徒が一斉に取り組むというものです。ここに、生徒同士の意見の共有をリアルタイムで行う活動を取り入れ、さらに、生徒と教師の質疑応答もリアルタイムで行うという形です。

 


 

先ほどの、オンデマンド型と同時双方向型の中間的な位置に入るようなイメージで捉えています。

 

 

この授業を、G Suiteを活用して実施する方法についてお話しします。

 

生徒にリアルタイムで意見交換させたり回答を共有させたりすることは、Classroomの「質問の投稿」という機能で行うことができます。これは生徒が回答を投稿すると、他の生徒の回答結果を生徒同士見ることができ、お互いにコメントもできます。

 

 

そのほかに、スプレッドシートやスライドの共同編集機能でも可能です。

 

教師は、スプレッドシートの行ごとに出席番号を入力しておき、生徒には自分のセルに意見を入力してもらいます。そうすると、他のセルには他の生徒が意見を入力するので、お互いの意見を共有できるというわけです。また、生徒と教師のリアルタイムの質疑応答は、「クラスのコメント」や「限定公開のコメント」の機能で行うことができます。

 

生徒どうしの意見や考察したことの共有

タイムシフトへ対応することができる

この「オンタイムオンデマンド型授業」の良いところは、「同時」「双方向」「文字・映像・音声」3つのキーワードを実現することができる点に加えて、生徒同士の意見や考察したことを共有することができる点、さらに、例えば生徒が数分遅れてきても、何の問題もなく授業に参加できる点です。場合によっては、1時間丸々は参加できなくても、後日参加して他の生徒の考えも見ることができるなど、タイムシフトへの対応に強いという利点があります。


 

ただし、本校でオンライン授業を行うときは、先生方に「オンタイムオンデマンド型授業をやりましょう」とは提案していません。「科目や授業に合わせて様々な取り組み方ができますよ」「これらの授業方法は排他的なものでなく、それぞれできることが重なっているので、柔軟に組み合わせて取り組んでみましょう」と提案しました。

 

 

オンタイムオンデマンド型授業の実践例

次に、オンタイムオンデマンド型授業の実践例をご紹介します。

 

まずこちらは情報科「社会と情報」で情報モラルを扱う単元の例で、国立教育政策研究所の2019年度教育課程研究指定校事業の研究授業を、オンライン授業に置き直したものです。もともと対面型でどのような授業を行っていたかは、本校のWebページに研究成果報告書が掲載されていますので、そちらをご覧ください。

 

■国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業(共通教科情報) 研究成果報告書

https://www.pen-kanagawa.ed.jp/ikutahigashi-h/tokushoku/2010kokkenn_top.html

 

 

まず、私ともう一人の先生で対話をしながら、情報モラルを学ぶことの必要性を再確認する動画を投稿します。次に、生徒が動画を見終わった頃、教員は次の動画・プリントを投稿して、前時にGoogleスライドで生徒に入力させた「SNSあるある事件簿」の内容から、例えば誤解されやすさ・広がりやすさに関連するような事例を抜き出して紹介します。

 

 

その後、生徒が見終わった頃に、教員が「ネットワーク上の特徴はリアルで話している時とどう違うのか」などを問いかける質問を投稿します。生徒は「かなり広がっちゃう」「いつまでも証拠が残っちゃうね」など回答してくれます。

 

その後、この回だけですが、その場で非常勤の先生に、生徒の質問への回答をまとめた動画を投稿してもらいました。それを生徒が見終わった頃に、ネットワーク上の情報にはどんな特徴があるかを解説する動画を投稿します。これらの情報の特徴を受けて、生徒にスライドの共同編集機能で、今後SNSを利用するときに心掛けることは何かを入力させ、最後にGoogleフォームで振り返りをして授業終了という流れにしました。

 

Classroomでは、1回の授業で課題が下から順番に投稿されていくようになっています。 

 

 

質問については、下図のように生徒が質問に答えると、他の生徒もその回答を見ることができ、意見を共有することができます。

 

 

 

また、Googleスライドの共同編集では、下図のように出席番号を振ったスライドを生徒の人数分40枚準備して、自分の出席番号が記載されたスライドに意見や考えを書き込むという形で共有しています。

 

 

この授業時の生徒の反応は、「みんなの意見を見ながら取り組めるのはすごくいい」などが多かったですね。また、動画での解説はもともと非常に評判が良かったです。この授業を行なって、オンライン授業は楽しいという感想を得て、大きな手応えがありました。


 

このような授業は情報科だけではなく、他の教科でも取り組んでいます。

 

公民科「倫理」のイスラエル民族と一神教の単元では、スプレッドシートの共同編集機能を利用して、「十戒」の内容をもとにユダヤ教の神様はどのようなイメージかを答える課題に取り組ませています。

 

 

この先生はとても工夫されていて、スプレッドシート上部の行に先生の発言欄を作成し、固定表示することで、生徒が回答する様子をリアルタイムで見ながら、ヒントや指示を出したりして、できるだけ実際の教室に近い形で授業に取り組んでおられます。

 

 

ほかにも、地理歴史科「日本史A」の大日本帝国憲法の制定の単元では、青い部分で他の生徒との意見を共有する活動を組み入れています。

 

 

国語科「現代文B」でも、生徒の意見を一旦フォームで集約後、再度生徒に意見を入力させる取り組みをしています。

 

 

英語科「英語表現Ⅰ」の事例がこちらです。文法を学習した後に、その文法を利用した英文を一人1つずつ作って、それを共有するという活動を行っています。

 

 

学校全体の取り組み~「オンライン授業のためのクイックガイド」作成と校内研修

このように多様なオンライン授業を行うためには、時間割が必要になります。

 

本校では、5月11日から毎日90分×3コマの時間割を作成し、オンライン授業を発表時点でも実施しています。6月8日分散登校が始まってからは、オンライン授業と対面授業を並行実施し、生徒から見ると、毎日40分×3コマの時間割で、登校日は3時間の対面授業、登校日ではない日はオンライン授業を毎日3時間受けるという形で取り組んでいます。 これは一部の教科ではなく、全科目で実施しています。

 

 

こうした取り組みが可能になったのは、4月3日からオンライン授業をめざしたプロジェクトチームを作り、校内研修用資料「オンライン授業のためのクイックガイド」を作成し、校内研修を行なってきたことがあります。

 

本校のオンライン対応特設ページには、本日ご紹介した内容以外にも、「オンライン授業のためのクイックガイド」や、本校のオンライン授業の取り組みを動画で紹介するページを公開しておりますので、ぜひアクセスしてご覧いただければと思います。

 

 

[生田東高校のオンライン対応を紹介します!]

https://sites.google.com/gl.pen-kanagawa.ed.jp/onlinezyugyou/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0