事例157

Teamsを活用した授業デザイン

千代田区立九段中等教育学校 須藤祥代先生

Office365をベースに教育環境を整備し、新型コロナによる休校にも対応

ご本人提供
ご本人提供

千代田区立九段中等教育学校は東京都で唯一の、区立の中等教育学校です。私は情報科を担当しており、現在は第5学年つまり高校2年生の担任もしています。本校では、Office365を導入しています。まず、この導入から現在までの歩みについてお話しいたします。

 

2014年度に 前任の先生によってOffice365が導入されました。生徒にガイダンスをし、先生方も活用できる方から順次使用を開始しました。翌年に私が着任した頃には、1年生でガイダンスを行い、生徒が使えるようにしました。授業は情報科、技術科、総合的な学習の時間を中心として使っていて、Outlookを中心にOneDriveで共有したり、授業ではFormsやExcel、PowerPoint、Word、OneNoteなどを活用したりしていました。

 

 

そして今年1月にTeamsの活用がスタートしました。情報の科学では、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)をしていたので、より効率よく学習を進める目的で導入し、1か月程にわたるプロジェクトを行いました。その終了後の3月初めに、突然新型コロナウイルス感染症に関わる臨時休校期間が始まりました。

 

休校中は、それまでTeamsを使っていた4年生はTeamsを、その他の学年はOutlookを使うことができたため、OutlookやOneDrive、Formsなどを用いて、少しずつできるところから学習を止めないための取り組みをスタートしていきました。

 

年度が替わり、4月も緊急事態宣言で休校になった際には、全学年でTeamsを活用し、オンライン学習を進めることになりました。Teamsを使ってFormsで学習の確認をしたり、ストリーミングで動画を配信したり、FlipgridやPowerPoint、Wordなどを活用した学習を進めました。

 

6月からは分散登校となりましたが、その後もオンライン学習とオフラインの対面の学習の併用となったため、ここでもTeamsを活用しながら学習を進めています。

 

先生方が安心してオンライン学習に取り組むための環境整備

 

まずは、休校前のTeamsの取り組みについてお話しします。

 

情報科では、Webデザインの授業をPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)で行っていました。導入目的は、情報共有やタスクマネジメントの効率化です。Teamsにはプランナーがあり、可視化されているため、進行管理がスムーズにできます。生徒たちの振り返りを見ても「作業効率が上がった」「主体的に学習に向かう態度が上がった」という声を多く見ることができました。この授業での経験を基に、Teamsでのオンライン学習がスタートしました。

 

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休校になったことで先生方がどのようなステップをたどったらオンライン学習で学びを進めていくことができるかを、学びのサイクルを意識して考えてみました。

 

まずは目標設定です。ここでは、「先生方がオンライン授業の授業デザインができ、Office365を使ったオンライン授業をやってみようと思えること」と目標設定しました。そのための現状分析をしたところ、先生方の気持ちとしては「オンライン授業がそもそもどんなものかわからない」「Teamsを使ったことがない」「不安でいっぱいだ」というものでした。

 

 

そのため、まずは先生方が安心して取り組める場づくりが必要だと考えました。これがチームの設計やシステムの設定につながっていきました。

 

設定や設計ができたら、次に先生方にガイダンスを1時間程度行い、Office365のサインインの方法やTeamsの簡単な使い方説明をし、実際に使っていただきました。それを基に、先生方がご自分の授業のオンライン学習のコンテンツをそれぞれ作りました。まずは、先生方がそれぞれ自分で取り組めそうなことから取り組んでいただくという形でスタートしました。

 

最初は教材のアップロードからスタートされた先生方が多かったです。プリントやご自身の講義動画を作るところからスタートし、徐々にビデオ会議を使ったオンラインホームルームなどの活動に発展していきました。

 

活動を続けるうちに、今まで対面でやっていたようなリアルタイムで対話的な授業をしたいという要望が先生方から寄せられることが増えました。そのため、チームやチャネルを作成したりといった仕組みを整え、アクティブラーニングのような対話的な学習をしたり、インタラクティブなオンライン授業を行ったりする活動が増えていきました。

 

最初は不安を感じられていた先生方も、それぞれのアプローチでオンライン授業をしてくださいました。

 

先生方が安心して取り組める場づくりとして、用意したものは次の通りです。

 

まずは、実験用のチームの作成です。つまり、生徒向けのチームに投稿する前に、練習したり、どのような動きになるかを考えたりする場で、これは今でも使っています。

 

また、先生同士の情報交換や助け合いのチャネルも作成し、困ったこと、やってみたらすごく便利だった機能などをシェアできるようにしました。このことにより、私が説明しなくても先生同士で話して解決することが増えました。また、先生方が全ての学年のチームに所属することで、他の教科や他の学年の取り組みを参考にし合えるように設計しました。

 

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■休校中のTeamsの取り組み事例

「オンデマンドだからできる学び」「ライブだからできる学び」の使い分けが可能に

 

具体的な先生方の取り組みをご紹介します。こちらは5年生の英語科です。

 

オンデマンド授業を中心に実施しており、こまめに生徒の振り返りをFormsで取りながら、コンテンツのブラッシュアップをされました。

 

特に印象的だったのが、「オンデマンド授業は自分のペースで理解しながら学習できたという声が多かった」という生徒からの振り返りがあった報告でした。「自分のペース」とは、例えば視聴しながら一時停止してメモしたり、わからない箇所は繰り返し見たり、知っていることは早送りで見たりなどです。このことが好評で、休校が終わった後も活用していました。アップロードは、文法などを中心に行い、学校では対話的な学びや深い学びを促すような、対面だからこそできる学びを提供するといった使い分けが可能になったことが収穫でした。

 

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ホームルームや学年集会でも使用しています。休校期間中は、朝のショートホームルームをクラスごとに行ったり、学年全体でのホームルームを開催したり、面談を行ったりしました。

 

通常登校の再開後も、学年全員が一堂に会することはできませんので、オンラインで学年集会をしています。

 

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学びが進むにつれ、先生方からは対話的な学びを希望する声が増えてきました。

 

そこで作ったのが、各クラスでブレイクアウトセッションができるチームです。全体のチャネルと、グループに分けられるチャネルを作り、ホームルームでクラス目標を作ることなどに使用しました。

 

全体チャネルで発信される先生からの説明をもとに、生徒がグループのチャネルに分かれてディスカッションをします。そこに先生が巡回し、話が滞っていれば介入したり、ファシリテーションをしたりして、グループで活動します。時間がきたら全体でシェアするために全体チャネルに戻ってきて、ディスカッションをしたりしました。ビデオはもちろんのこと、チャットなどのやりとりでもレスポンスをしていました。

 

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他にも、オンデマンドとライブを組み合わせた授業もありました。

 

5年生の数学は、基本的にはオンデマンド授業でした。それに対し生徒から「もっと詳しく聞きたい」「解説してほしい」等のニーズが上がってきたため、生徒から質問を受け付けて解説する対話的なライブ授業をするといった取り組みも出てきました。

 

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フィットネスをしていた体育科のライブ授業もパワーアップしていました。

 

オンライントレーニングをわかりやすくするために、複数のカメラを設定し、Teamsのライブイベントの機能を使った授業をしていました。また、参加できなかった人や繰り返しやりたい人のために、ライブイベントを録画し後日ストリームで配信しました。

 

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Flipgridを使って総合的な探究の時間の研究を進める

 

本校では、総合的な探究の時間に卒業研究を行っています。休校中もこの学びを止めないために、Flipgridを使ってプレゼンテーションをオンラインでシェアしました。

 

4年生の時にポスターセッションで中間発表していますが、去年見られなかった他の人の中間発表も見たいという生徒からの要望がありました。他にも、他の人の研究発表を参考にして、自分のものを更にブラッシュアップしたいというニーズや、5年生で新たにゼミを持っていただく先生たちに、研究内容を紹介するという目的に応えるために実施しました。それぞれ家でプレゼンテーションを実施してアップロードし、互いの研究を見ることで、実際に登校して卒研を続けるときにも生きる力をつけたようです。

 

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様々な先生方の実践で、教科の特性に合わせた学びのサイクルの授業デザインに刺激を受け、私自身も学びのサイクルを意識した授業を設計しました。

 

情報科の授業のオンライン授業では、まず初めに投稿で学習内容の流れや全体像を知ってもらった上で、学習内容をまとめた動画のストリーム配信でざっと理解し、情報を再構築して1枚にまとめるという課題に取り組んでもらいました。

 

その後、確認クイズで知識を整理し、クイズ結果を振り返ることで学びの質を高めるという仕掛けをつくりました。このリフレクションの結果から、何度もクイズにトライして学習をもっと進めたいという意見も出てきました。

 

個々の指導ができるというメリットと同時に、それぞれのペースで学習を深められるというオンラインならではの特性を活かすことができたと思います。

 

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理科では、休校後も学びの定着のために確認クイズを使いながら学習の定着を図ったり、記述の部分に対しても個々に添削してフィードバックする機能を使ったりして学びを深めています。

 

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他の生徒の解答を見ることがメタ認知につながる

 

また、1年生の数学科での休校中のTeamsの取り組みとしては、解が一意的に決まらないものや、解答のプロセスをシェアするような問いを教員が作り、それに返信する形で生徒が解答していました。

 

生徒が他の人の書き込みを見られるため、自分も頑張ろうという気持ちや、自分との違いや間違いへの気付きにつながるなどの効果が得られたそうです。

 

「いいね」の種類の多さを活用して、先生からは「いいね」の種類を変えて参考になるものに印をつけ、生徒にとっては確認ができることで、メタ認知をしながら学習を進められたと感じられたようです。

 

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この数学の取り組みの基となったのは、同じ学年の英語科の取り組みでした。

 

英語科では、教員が提示する課題に対して、生徒が返信欄に英作文で答えます。返信された英作文の全体をざっと見ることで、生徒が共通して間違えた部分を教員が把握することができます。それを生徒が見たり、他の人のコメントを見たりして、最終的な英作文をノートに書き、授業で生徒同士が相互添削します。

 

この取り組みでは3回リライト可能なので、何度も学び直しができ、質の向上につながると感じたそうです。

 

英語担当の先生から伺ったメリットは次の点です。

 

1.習熟度に差が大きな差のある本校において、その差にも対応できる。

2.生徒自身が他の生徒の取り組みを見られるため、興味関心を高く学習できる。

3.いつでもどこでも使えるため、隙間時間を活用することができる。

4.教員側は共通エラーを一気に見られるため、フィードバックが楽にできる。

つまり、個の指導が可能である上に最小限の指導で最大限の効果を発揮できると感じたそうです。

 

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登校再開後の授業にもオンラインの活動を効果的に取り入れる

 

休校中の他の先生の様々な取り組みに刺激を受け、私もそれまで行っていた総合実習のPBLをリデザインして、休校後にもTeamsを日常的に活用した授業に設計し直しました。

 

一人で学べる知識やスキルはオンライン上で個に合わせた学習を可能にし、対話的な学びはオフラインで、生徒たちが交流し合いながら学習できるようにしました。また、休校後とはいえグループ活動は感染対策をしながら行う必要があったため、よりTeamsを活用した授業にしました。

 

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休校後の総合実習のPBLの授業デザインを詳しくご紹介します。

 

まず、対面授業の主な活動である「得られた知識を基に思考、判断、表現する」部分では、全体チャネルで授業の流れや内容を投稿で確認し、それを基にグループで情報共有したり、共同作業したりします。そして、毎回この授業の流れをリフレクションで振り返り、学習の質を上げていくという活動をしました。

 

次に、知識を定着し、深い学びへといざなうために、オンラインで非同期の活動を設計しました。グループで単元のエキスパートグループをつくり、プレゼンをFlipgridにシェアしました。このプレゼンに対し、個人で同じ単元を1枚にまとめて情報を再構築します。その再構築した内容やプレゼンを見て、質問を考え、レスポンスで投稿しました。このレスポンスで投稿された質問を見て、グループでさらにプレゼンテーションをブラッシュアップし、アップロードし、最終的に個人で相互評価を行います。

これにより、同じ単元について何度も学び直すという学習デザインをしました。

 

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つまり、学びのサイクルを何度も回しながら学習を進めていきます。また、全体の様子を見つつ、個々が置かれた状況の見取りができることで、全体指導と個の指導の両立が容易になりました。生徒の振り返りを見ても、主体的に学習に取り組む態度がアップしたというリフレクションが多くありました。

 

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学びのサイクルの視点から学習の質の向上を振り返る

 

このように、生徒のオンライン学習は質が向上したと言えますが、どのように上がっていったのかを学びのサイクルの観点で見てみます。

 

もともとスタート時に目標として置いたのは、休校中・休校後を通して、オンライン学習の学び方を知り、ツールを活用でき、オンライン学習も行うということでした。

 

そのため、休校前にはオンライン学習がわからず不安な生徒たちもいました。そこで、まずは学びのサイクルの「解放」として、教員と生徒がつながることができ、学べる場としてのオンライン学習の存在を知ってもらい、安心してもらうというところから始めています。

 

 

入り口として、まずはOffice365へサインインし、Teamsの使い方やオンライン学習の方法を知ってもらいました。そして、実際に与えられた課題に取り組み、オンラインで課題を出したり、質問にレスポンスをしたりという活動を続けていきました。

 

その結果、応用できることが増え、オンライン上で生徒同士が学び合ったり、自分自身でオンラインツールを使った学習活動をしたりということが増えてきて、今では「自分たちはオンライン学習ができる」と認識していると思います。

 

生徒による具体的な取り組みをご紹介します。

 

自学用に作ったプリントを投稿し、そこにレスポンスを返すというものや、試験範囲表などを共同で作るといった動きが出てきました。

 

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また、今は学校の全校生徒が一堂に会することはできませんので、オンラインでの生徒総会が開催されました。

 

すべて生徒だけで企画、リハーサル、そこからの改善を経て、本番を実施しました。議長団が議事を進行し、チャットで各クラスからの質問や議決のレスポンスを取っていました。各クラスではビデオ会議をもとにホームルーム委員が進行し、マシントラブル等で聞こえないといった問題が発生すれば、エンジニアサポーターの生徒を呼んで相談していました。このように、企画をどう実現するか、オンラインをどう活用できるかを考えながら取り組む姿は、まさに学ぶ力が伸びていると感じられる場面でした。

 

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生徒の主体的な活動や学び合いの場が拡大する

 

ここであらためて、Office365を使った本校生徒の主体的な活動がどのように変わってきたのかを振り返ってみます。

 

導入当時は授業中心に活動し、一部の生徒が個々に授業内外で学び合いをしていました。

 

そしてTeamsを導入したことで、生徒同士で授業内外での学び合いが発生するようになりました。その後、3月に急きょ臨時休校になったことで、先生へ質問したり、一部の生徒がオンラインで学び合いをしたりという活動が生まれ、全校生徒がオンライン学習を始めるようになり、課題をオンラインで出すという活動が出てきました。

 

オンラインの授業デザインをすることが先生方の中でも増えてきたことで、学年全体でのオンラインでの学び合いが起こり、生徒たち自身が学習活動をデザインするオンライン生徒総会を実施できるまでになりました。

 

 

学習サイクルを回すことで、学ぶ力はアップします。また、学びに向かう力は観点別の評価でも、主体的に学習に取り組む態度を知識、技能、思考、判断、表現とともにバランスよく高めるために、オンラインでもオフラインでも授業をデザインすることの大切さを認識しました。

 

今後も全体指導と個の指導を両立し、学びに向かう力を高めていけるような授業デザイン、学習デザインの研さんを積んでいきたいと思います。

 

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第13回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 講演より