事例159

創作活動から考察する授業のあり方について -ICTを活用した教育実践の普及を目指して-

東京都立つばさ総合高校 片江康裕 先生 (所属校は発表時。2020年10月より東京都立調布南高校)

私は、大学院工学研究科を修了後、民間企業のコンピューター関係の部署で数年間勤務した後、教員として働くようになりました。本日は、「創作活動」と「授業」の関わりから導き出される、ICTを授業に生かす方法について、実践してきたことを交えてお話ししたいと思います。

 

■創作活動の実践

 

ソフトウェアの創作

 

プレゼンテーションソフトや動画編集ソフトを使った創作活動については「情報と表現」という授業の中で行いました。

 

PowerPointを使って、生徒それぞれの自己紹介をプレゼンテーション形式で作ったり、川柳・紙芝居などを、動画や静止画で作成しました。また、グループ活動で、NHK全国高校放送コンテスト(※1)を参考にして、映像作品の創作も行いました。

     

(※1)Nコンweb:https://www.nhk.or.jp/event/n-con/hs/

 

 

ここでは、生徒が自分たちで担当を割り振り、ドキュメンタリーやドラマの台本を作って、撮影・編集を行い、映像作品を完成させました。私自身も「学校紹介」という映像作品を作りました。生徒たちの作品と、私の作った作品がこちらです。

 

 

これらの実習を終えてから、私が大学で実際に取り組んだソフトウェアの創作活動を参考に、創作活動とは、既存のアイデアの模倣により成り立つことを、「情報と表現」の最後の授業で説明を行いました。この創作したゲームについてまず説明を行います。

 

大学の授業では「ブロック崩し」というゲームを作り、その後、自分自身でオリジナルゲームを制作するという課題に取り組みました。オリジナルゲームの作成にあたっては、「ブロック崩し」を題材とした新しいゲームを作ろうと考えました。

 

 

「ブロック崩し」には、板の左右の動きやボールの反射といった動きがあるので、大枠として「何かを標的に当てるゲーム」という着想がわきました。そして、放物線を描く運動やインベーダーゲームのような左右の動きを取り入れ、制限時間は3分・砲弾の数は10発まで、という具合にいくつかの制限をつけ、ゲームの性能を高めました。ゲームに出てくるキャラクター等のイラストを描くのは大変だったので、フリー素材のサイトから拝借しています。

 

ゲーム中に一時中断もできますし、ヘルプ画面からゲームの操作方法やヒントも見られるようにしています。

 

 

「創造学」との関連性

 

創作活動の2つ目の例として、「創造学」により考案した、「自動床掃除機」について紹介します。「創造学」というのは、工学者の畑村洋太郎先生が考えた学問で、「創造物とは要素、構造、機能からなる」という考えをベースにしています。既存のものを模倣し、定式化して新しい機能を探求し、世の中になかった新しいものを作り出す、という考え方です。この考え方に倣って、私自身も創作活動を行ってみました。

 

 

実際に畑村先生の作られた「創造演算」にあてはめてみたところ、まず思考平面で介護ロボットを思いつき、そこから家庭用ロボットを作ろうと考えました。いろいろなことをやらなければならない家庭内で特に「家事だけ」、そして、その家事の中でも「床掃除」だけ、というふうに機能を限定していき「自動床掃除機」を発案することができました。

 

 

創造演算により創作した「自動床掃除機」は、既に世の中に出回っていた製品でした。これは、約10年前に行った活動の成果ですが、既に世に出回っていたものを創造できたということは、創造演算による創作活動の実用性が示されたと解釈しています。

 

 

■ICT活用と授業の創造

 

授業を組み立てていく手順

 

それでは次に、授業の具体的な組み立て方について考えてみましょう。授業前の準備段階として、科目や単元の指導内容、それから教材内容の確認、生徒の状況や学力等を確認して、使用できる機材や用具も調べておきます。

 

 

そこから、学習指導案の作成、配布教材の作成、板書計画、ICT機器が使えるかどうかの事前確認などの、具体的な作業に移ります。

 

このように、授業の構想を十分に練り、授業の空間に当てはめながら授業を実践しようとしますが、ほとんどの場合はきちんと当てはまらず、生徒の学力や意欲、態度といったところを考慮しながら柔軟に対応することになります。

 

 

展開や発問、板書内容も適宜、変えていかなければなりません。こういったことは、その教員の経験による判断で柔軟に行われるものです。やはり、実際の授業経験がないとなかなかうまく組み立てられないのが「授業」というものです。

 

また、生徒の対応への心構えとしては、平常心で接する、公平に接する、生徒の意志を尊重して強要しない、ということを常に心がける必要があります。

 

ICT活用と授業の創造

 

さて、ここで創作活動と授業との関係について考えてみたいと思います。

 

自動床掃除機というのは、創造演算によって考案した実現可能な創作物です。Tank Attackというゲームは、模倣と定式化によって創作することができました。この二つに共通するところは、ユーザーの使い勝手を意識して、ものを作ったというところです。「成果は出せるか」「効果が出せるか」といったところを意識しています。

 

 

これを授業に置き換えるとどうなるでしょうか。実は授業という活動も、受け手を意識して作られているものです。生徒のニーズに応えるためにどのように授業を展開したらよいのか、また、その背後にいる保護者のニーズは何か、さらに、社会から要求されているのは何か、そういった諸々のことを踏まえ、授業全体を構築していきます。

 

そのように考えていくと、創作活動と授業は本当によく似ているものだと思うのです。

 

授業には、教師の個性、生徒の状況、教材、ICT機器、教具など、いろいろな構成要素があります。つまり、その空間は構成要素によってさまざまに変化し、その空間独自のものが作り上げられることとなります。

 

ICT機器は、学校ではごく最近身近になったもので、授業の構成要素に加わってきた新たなものと言えます。ICT機器によって空間はより一層広がり、楽しむ教育が実現できるのではないかと私は考えています。

 

 

■情報技術基礎

 

ICT機器を使った授業の実践例として、昨年私が担当した「情報技術基礎」の内容を紹介します。と、言っても行ったのは普通教室で、生徒たちはパソコンを使えない環境下でした。座学のみなので、毎回配布教材を作成し、小テストを行うことによって、その配布した教材の内容の確認をするという形式をとりました。

 

 

この授業では、(株)ARROWS(※2)から提供された、Google社製の教材で学習を進めました。

 

(※2) https://arrowsinc.com/

 

 

課題は「インターネットの光と闇を自分の事としてとらえる」というもので、生徒に動画を見せ、その後に小学生向けスマートフォンの取扱説明書を作るという内容です。時間が限られているため、キャッチコピーや標語は生徒自身で考え、レイアウトは吹き出しを使って表す、絵柄と色彩は用意されたものの中から選択する、ということにしました。

 

パソコンを使うことはできませんでしたが、生徒はそれぞれ時間内に課題を仕上げ、達成感は味わえたと捉えています。このように、現場の状況や生徒の学力に合わせて臨機応変に授業を構成し、時間内に作業が終わらなくてもぎりぎりまで待つといったことも必要かと思います。

 

 

■最後に

 

私が、授業と創造について説明してきた背景には、教育のICT化という課題があります。これまでの授業は、教師が考え教室という空間で毎時間「授業」という活動を「創造してきた」と捉えれば、前向きであり、プラス思考に転じることができます。

 

 ICT機器の導入も、創造の可能性を広げたという意味でプラス思考です。そうすると、これまでの良さを生かして、新たな構成要素を機能させる授業を目指すことができます。これで、いつの時代も変わらない教師の資質を十分に発揮して、新しい時代の授業を行うことができるようになり、ICT化が苦も無く進められるのではないかと考えています。

 

 

文部科学省では、「主体的、対話的で深い学びの視点からの授業改善」や「情報活用能力や言語能力を育成する指導の充実」を課題として掲げています。能力として認定された情報活用能力、これを私たちは十分認識していかなければならないと考えています。

 

 

※参考図書

『創造学のすすめ』

畑村洋太郎(講談社)

[Amazonへ]

 


第13回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 講演より