事例166

半休校期間の授業の振り返り

名古屋高校 中西 渉先生

学校全体はYouTubeチャンネル開設 

情報科ではMoodleによる授業用サイトを活用

ご本人提供
ご本人提供

私からは、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための休校・分散登校期間での取り組みについて、お話しします。

 

はじめに、勤務校について簡単に紹介しておきます。名古屋高等学校は、学校法人名古屋学院が設置する私立の男子校で、同じ敷地に中学校を併設する、併設型の中高一貫教育校です。高等学校の規模は1学年12クラスで、高校2年生から進学希望により理系・文系に分かれ、割合はほぼ半々です。「情報の科学」は、高校2年生で2単位履修するカリキュラムとなっています。

 


新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴い、学校側でも様々な準備に取り組みました。1つ目がスタディサプリを導入し生徒全員に登録を案内したこと、2つ目が動画を利用して授業を行うことが予想されたため、授業動画アップロード用のYouTubeチャンネルを開設したこと、3つ目がZoomのアカウントを複数契約したことで、教員としては非常に助かりました。

 

 

本校では、例年生徒全員に情報教室のアカウントを割り振り、高校1年次にパスワードを設定しています。しかし、高校2年次に授業を始める際かなりの生徒がパスワードを忘れています。そこで、こうした生徒をフォローするために、Moodleによる授業用サイトでパスワードを遠隔で変更できるように設定を変更しました。通常は、生徒は情報教室でパスワード変更を行うのですが、今回のような臨時休校中、生徒たちが登校できないことを考慮し、用意したということです。

 

 

実際に、Moodleによる授業用サイト画面を見てみましょう。トップ画面の「マイコース」に、現在履修している授業「2020年度:情報」が表示され、それをクリックすると、序章から順に、授業プリントやスライドのファイルがアップロードされています。

 

 

「第1節コンピュータと情報処理」のリンクをクリックすると、ページ内に教科書の見開きの授業をまとめた、10分程度の動画がアップロードされています。生徒はこれらに見たあと、教員が作成した小テストに取り組みます。

 

 

休校中はパスワードを案内し、授業用サイトで学習

分散登校ではリアルタイム授業を他のクラスに配信 

休校期間から全員登校になるまでの取り組みをご紹介します。

 

まず4~5月の休校期間は、入学式・始業式は時差登校で実施したものの、生徒は登校できません。そこで、例年4月初めに配付する教科書や資料集など教材をすべて箱に詰め、生徒に郵送しました。

 

情報科は、そこにプリントを同梱し、パスワードを忘れたときは仮パスワード発行のため学校にメールで連絡し、授業用サイトで再設定すること、授業用サイトに授業動画や小テストをアップロードしたのでそれを見てプリントを進めるように、生徒たちに案内しました。5月後半から、理系・文系でカリキュラムや時間割を1パターンずつ決め、Zoomによる遠隔授業を始めました。

 


次の6月前半は半休校期間とある通り、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、生徒の5分の1登校から徐々に2分の1登校へ移行しつつ、分散登校を実施しました。理系・文系2パターンの時間割を作成して、登校日でない生徒は自宅で授業を視聴するといったスタイルで、授業を実施しました。

 

例えば、A組ではリアルタイムで授業を実施し、その授業をB~F組に配信するというように、生徒たちは他の教室で実施している授業をZoomで視聴しました。一方、登校してこない5分の4、あるいは2分の1の生徒たちは自宅でZoomを使って授業を視聴するという形です。また、授業動画を録画した先生方は、それを生徒たちに視聴させる形で授業を実施していました。

 


6月後半~8月中旬は全員登校が開始されました。ただし、情報教室については、当初、生徒全員がパソコンやキーボードを交代で使用することに懸念があったため、当面は使わず、7月第3週から使用開始となりました。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、消毒や換気など大変ですが、授業進度としては教科書の第2章から通常授業に戻ったというところです。

 


YouTube再生回数、授業用サイトアクセス数から

~定期テストが近づかないと勉強しない生徒たち 

こうして8月中旬には授業が一区切り付いたため、この期間の取り組みを振り返ろうと、YouTubeの再生回数、授業用サイトのアクセスログのデータを分析してみました。

 

ではまず、YouTubeの再生回数について。単元ごとの再生回数をまとめた表を見ると、「ガイダンス」や「序章 情報社会に生きるわたしたち」は多くの生徒が視聴するものの、第1章から次第に再生回数が減っていく状況が見て取れます。前述した10分程度の授業動画は、Moodleによる授業用サイトとYouTubeチャンネル両方にアップロードし、生徒たちには好きな方で見るように案内したため、授業用サイトで再生したのかもしれません。

 


しかし、再生回数がだんだん減っているのははっきりしています。ちなみに、分散投稿時などにリアルタイムで授業を視聴できない生徒のために、Zoomの授業を録画したものをYouTubeにアップロードしてありますが、こちらは本当に数回ずつしか再生されていませんでした。

 

次に、Moodleによる授業用サイトのアクセスログについて。授業用サイトに動画をアップロードして小テストを実施することを私はメインと考えていましたが、当初は簡単にしか案内していないため、4月時点のアクセス数は、かなり気の早い生徒が取り組んでくれたという印象です。5月は教材を郵送したため、それを利用してみた生徒が結構いたという感じです。6月には分散登校が始まったため、逆に減りました。7・8月のグラフのうち、色が薄いものは学内から、つまり情報教室からのアクセスに当たりますが、情報教室が使用開始となると、自宅から視聴する生徒は本当に少しだけになっています。ただし、8月に入ってアクセス数が増えているのは、定期テストが近いこともあって、生徒たちが閲覧してくれているものと希望的観測をしています。

 

 

また、小テストの受験回数に限ってみると、こうした傾向が非常に顕著です。ピンク色の2-1-1メディアの発達からが教科書第2章、情報教室でオフラインの授業を実施している部分ですが、生徒の一定数が小テストを受験しています。一方、オンラインで授業を実施していた第1章の受験回数をみると、最初は物珍しく受験してくれたようですが、次第に減少しています。最初これだけ受験できる環境があるにも関わらず、次第に受験回数が減っていくことから、定期テストが近づかないと生徒は勉強してくれないことを実感しました。

 

 

オフライン授業になってから感じたオンライン学習の課題

さらに、オフライン授業になってから課題と感じたことについて。例えば、5月パスワードを忘れた場合は仮パスワード発行・再設定を案内していますが、7月情報教室が使用開始となったときに、パスワードを忘れたという生徒が続出しました。5月時点も100~200件程度パスワード再設定のフォローをしたものの、それでもまだ残っていた生徒たちは、5~6月は何も取り組んでいなかったのだろうと思います。

 


また、試験範囲の授業を終えてから、オンライン学習で実施した第1章の復習に取り組み始めましたが、生徒たちからはものの見事に学習内容が抜けていました。もはや「この用語を聞いたことがある/ない」というレベルです。やはり自立的に学習することはなかなか難しかったようです。これは予想通りではありますが、「オンライン学習を実施しているから生徒たちはきちんとできる」ということではないと、改めて実感しました。

 

Moodleによる授業用サイトの活用 

~まとめ動画の作成は、今後も続ける

ただし、全員登校が可能になってからも、こうしたMoodleによる授業用サイトは活用しようと考えています。情報科では、2014年からMoodleを活用し、授業用サイトに授業プリントやスライドをアップロードしたり、小テストを実施したり、2学期は課題として生徒たちにスライドを作成・提出させたりする活動に取り組んできました。

 


2020年からは、解説動画を追加し、単元の学習内容を10分程度で解説するようになりました。これは様々な意味でよい働きをしたと感じています。というのも、動画作成のために一つの単元を10分程度に収まるよう話していたことで、オフラインで通常授業を行うときの話し方や学習のポイントの押さえ方などに、いい影響があったと感じているからです。生徒にとってみても、定期試験前に復習として見てもらうネタという使い方もでき、教員・生徒ともによい影響があったと思います。

 


オンライン授業を経験して 動画による勉強を見直す機会に

オンライン授業を経験し、私自身も様々な新しいソフトウェアの使用方法を覚えました。


例えば、今回のオンデマンド発表動画は「vokoscreenNG」という、画面キャプチャ用のソフトウェアで作成していますが、発表用スライドをフルスクリーン表示した画面に、Webカメラ映像をワイプ画面として重ねるPicture-in-PictureをLinuxでも使えるようにするなどの改造をして使用しています。

 

 

それ以外にも、動画編集ソフト「Kdenlive」、音声編集ソフト「Audacity」などを活用できるよう自分自身勉強すると同時に、今まで動画による勉強には懐疑的だったのですが,確かにありだと見直す機会にもなりました。実際に、この期間オンライン授業やYouTubeで授業映像を配信している方のイベントなどいくつか拝見しましたが、やはりそうした方は上手であると実感しました。こうした経験を通じて、自分自身、教員としての芸の幅が広がったような気がします。今後も、オンライン授業で身につけたことは、活用していきたいと考えています。

 

第13回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 講演より