事例168
GIGAスクールの情報科を考えよう!
神奈川県立川崎北高校 校長 柴田功先生
本日は、情報の授業をいかに充実させるかという現場の方法論と、学習指導要領後にすでに起きているGIGAスクール対応やコロナ対応におけるオンライン授業など、多くの変化にどう対応するかについてお話しします。
私の経歴は、これまで教員が半分、指導主事や行政が半分くらいで、行政の時期が長いです。
教科「情報」の指導主事を長く務めたことから、さまざまな先生方の情報の授業を見ることができたため、この経験に基づいてお話ししたいと思います。
現在情報科は「フェーズ3」という位置づけにありますが、私自身の経歴を見直すと、教科「情報」が正式に始まる前に先行実施をし、その際に15日間の講習で免許を取りました。その後、「情報A・B・C」がスタートした頃には指導主事をしていたため、いろいろな学校の授業を見回って指導や助言していました。また、「社会と情報」「情報の科学」が始まってからは、指導主事や管理職という立場なので、実際には授業を行っていませんが、多くの授業を見てきました。
川崎北高校の実践~2000年から2020年へ
こちらは、2000年に私が作った教科「情報」のホームページです。当時の川崎北高校の教科「情報」の実践をどんどん発信しており、多くの方に見ていただきました。こちらは今でも公開しています。
今年は加えてYouTubeチャンネルを立ち上げたところ、これもまた非常に多くの方に見ていただき、3週間で1万以上の再生がありました。どちらも川崎北高校着任時に行った積極的な情報発信なので、デジャビュのような不思議な印象を持っています。
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現況としては、多くの学校が本当に切実な課題を抱えながら、オンライン授業を頑張っています。
まず、私がこの4月に校長としてあらためて着任した川崎北高校では、現在は昨年度のうちに配布していたChromebookを使用して、クラスルーム通じた課題の配布や回収をしています。YouTubeでの動画配信も行いましたし、GoogleのMeetという機能で同時双方向型の授業も一部で実施しました。
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YouTubeでの動画配信は、わずか3か月の間に100以上行いました。こちらの一覧では限定公開のものとインターネットで公開しているものが混在していますが、このように動画を毎日何本か配信しています。
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また、課題の出し方も工夫をしました。
オンライン授業というと、課題として穴埋め問題を出した学校が多かったと思いますが、本校の特徴は積極的にパフォーマンス課題にも取り組んだ点だと思います。
まず家で課題に取り組み、それを動画や写真などでクラウドに提出できます。
社会と情報の授業でもスライドを作って提出という方法にとどめず、発表している動画を撮影し、それをクラスルームに提出という方法も行い、こんな方法の可能性も感じました。
「情報科3.0」10のキーワード
今回は、「情報科3.0」のスタートラインについて、校長の立場からと、情報科教員の立場からキーワードを10個ほど用意しましたので、これに沿ってお話したいと思います。
[校長として]
GIGAスクール~現状では高校は端末整備の対象外
まず、GIGAスクールについてです。
情報科の先生と話す中で、GIGAスクール構想を知らない方が多いことに驚きました。GIGAスクールの目的や、高校はGIGAスクールの端末整備の対象外になっていることなど、知ってほしいと思いました。
また、今年度中に多くの自治体で小・中学校が1人1台の端末整備をすることをご存じない先生もいて、驚きました。
来年度以降に入学してくるのは、このようなGIGAスクールに似た形態の中学で学んだ子どもたちですので、教科「情報」にとって非常に影響があります。この点について、もっと危機感を共有すべきだと思います。
つまり、今年度1人1台を実現しようすると、小中学校はタブレットですが、高校は個人のスマホを使うしかない状態です。
国の予算だけなら3人に1台になり、小中学校のように、1人あたり4.5万円の端末を買う予算は整備されていないため、保護者負担で整備するほかないのが現状です。
このままで良いはずもないため、おそらく文部科学省が動いてくれると期待してはいますが、情報科の教員からも声を上げる必要性を感じます。
クラウド~学校の続きを家でも学べる環境を作る
また、クラウドについては1人1アカウントを全ての生徒に渡すため、パソコン教室も同じアカウントでログインする形が良いです。
すなわち、場合によってはパソコン教室のサーバが必要ない可能性もあるかと思います。
家と学校で同じソフトウエアやデータを使えるということは、教科「情報」にとっては非常にありがたいことです。
授業内だけで作品やプログラムを作り上げるのではなく、家でも続きをできれば、先のことやもっと興味のあることをどんどん学べる環境が実現するわけです。
クラウドのアプリも同様で、実はOSに関係なく、それぞれ相互乗り入れをしているため、端末やOSが家と違っても続きができます。
この件に関してよく情報科の先生から聞くのは、「『情報Ⅰ』の内容を70時間だけで教えるのは無理」という声です。
これは教室の授業の中で全てを教えようとしていることの現れで、もっとGIGAスクール化が進むことで、自宅でも放課後でも、多くの場面で「学ばせる」ことができることに気づいてほしいと思います。「教える」という言葉から変えていくことが必要ではないでしょうか。
スマホ~授業の中で積極的に活用する
また、授業中にスマートフォンを生徒に渡すと遊んでしまうのではないかという声もよく聞かれますが、これは授業の進め方に課題があると思います。大人もパソコンとスマートフォンを併用するように、高校生もそれで良いのではないでしょうか。
イメージするのはこのような環境のパソコン教室です。置くものは、パソコン教室には良いスペックのものが一台、保護者負担で買ってもらうBYOD端末が一台、そしてスマホが一台という具合です。
オンデマンド~双方向型とオンデマンド型のそれぞれの良さを組み合わせる
次に、オンデマンドの話です。
先ほどもお話しした通り、本校は限定公開のYouTubeでかなり動画配信を行いました。一部はインターネットで全公開しています。
それを見たあるテレビ局の取材を受けたのですが、その取り上げ方に少し違和感を覚えました。
それは、「恵まれない環境の中、オンデマンドで頑張っている本校」というものでした。それに対比して紹介された別の学校は、時間割どおり同時双方向型オンライン授業ができている、というものでした。
これについて私が考えるのは、双方向型オンライン授業がオンデマンド型より優れているとは限らず、それぞれに教員側と生徒側のメリットデメリットがあり、それをコーディネートして使うのが良いのではないでしょうか。
特に、今年度作ったオンデマンド型の動画は、いつでもどこでも繰り返し学べるという点で、情報科のみならずさまざまな科目で来年の授業でも活用できる、非常に価値の高いものだと思います。
データダイエットという言葉もよく聞かれますが、双方向型授業のために静止画と音声だけを流すくらいなら、オンデマンド型の動画配信をしたほうが良いと思います。
スライドと声だけでの授業は、生徒からの反応も良くなく、先生の姿を見ながらアイコンタクトのある動画で授業を進められたのは良かった点です。
このようなことをこのコロナ禍の臨時休業期間に知りました。
Web公開~授業動画だけでなく、教材や年間計画も公開して共有しよう
Web公開についてです。
これが本校の情報発信の様子です。授業動画はインターネットからかなり見られます。私は毎日、「校長通信」を学校のホームページ上で更新しています。
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気になるのは、オンライン授業をした学校が多くある中で、授業動画は学校内に閉ざされていて、全く見ることができないことです。
2000年に私が教科「情報」のホームページを立ち上げた際にも同じことを言いました。「情報Ⅰ」の授業をより良いものにするために、自分の学校の中だけで完結せず、授業動画に限らず、教材や年間指導計画なども学校の枠を超えて配信し共有できなければ、非常にもったいない。この共有が進めば、「情報」という授業名で実際は数学の演習をやったりすることは、今後なくなるのではないかと。
[情報科教員として]
次に、情報科の教員としての気づきをキーワード毎にお話ししたいと思います。
題材~情報科のアイデンティティを考える
まず「題材」です。
情報科のアイデンティティとは何でしょうか。
少し前であれば、パソコンを使えば、プレゼンテーションをすれば、あるいは問題解決を目指せば、「情報科の授業です」と言えたかもしれません。今ならば、データ分析でしょうか。
このように、アイデンティティは、情報科のフェーズが1、2、3と進むにつれて変化していくもののようです。現在、プレゼンテーションをしたからといって情報科だと思う人はいません。
こういった変化の中にあるからこそ題材選びは重要で、情報社会に関連した題材をいかに見つけるかを考えるべきです。何でも良しとしてしまうと、総合的な学習、探求の時間との違いが出せなくなるからです。
イラスト~自作のイラストや写真を使うからこそ学べるものがある
イラストについても、思うところがあります。
某サイトのフリーのイラストを使っているプレゼンをあちこちで見ますが、私は疑問です。
特に、情報科の先生がそれを使うのは影響力が大きく、生徒もそれを安易に使うことをためらいません。お手本である先生の真似をすることで、自分で絵を描いたり、素材を作ったりする経験を失ってしまっているのです。絵のうまい下手ではなく、クリエイターとしての様々な可能性の芽を摘んでしまっていないでしょうか。
自作のメリットは著作者の立場を知り、自分のオリジナルの作品だからこそしやすくなる情報発信があるということです。そこで、私も今回あえて手書きをしてみました。
ICT推進担当課長が県立高校の校長に「学校には端末クラウドネットワークを整備します」ということを伝えているところです。
校長先生がたは「へえー」と聞いています。
その後、私が今度は校長として辞令を受けて、川崎北高校に着任しました。
ところが、着任しても生徒はいません。コロナ禍で臨時休校ですから。
生徒は元気なのだろうか、勉強しているんだろうか、すごく心配な日々。
じゃあオンライン授業で、やれることからやってみよう!と始めました。
準備に取り掛かろうとすると、以前に整備されたChromebookがぴかぴかだったことに気づきました。私が教育委員会にいるとき整備したのに、使われていなくて、驚きました。
ともかく、これらをまず先生たちに配りましょうとなりました。
配ってみたら、先生方が、「パワーポイントが入っていないじゃない!」と。Chromebookですからね。
まあまあ、その点はいろいろやれますので大丈夫です。まずGoogleスライドなども研修で学びましょう。
すると、「おお、これ結構使えるね!」となりました。これが、この4月に起こった出来事です。
いかがでしたか。
このように、自作のイラストで表現するほうが、その人の思いが伝わりませんか。
今後は小・中学校にはペンタブレットが入ると思います。それらを使って表現力を高めるプレゼンや、デザインなどをさせたら良いのではないでしょうか。
ポートフォリオ~作品をクラウドに保存して小学校から高校まで使えるのが理想
そしてポートフォリオです。
これまではパソコン教室のサーバにどんどんデータを置いていたのが、今後はクラウドになります。奈良県のように1年、2年、3年生とずっと使えて、場合によっては小学校から高校まで同じというのが一番理想です。
Googleサイトにまとめると簡単にポートフォリオになりますので、これを総合型選抜や学校推薦型選抜など自分の進路を切り開くことにも使えるのではないかと思います。
こちらは、オンライン授業を始めよう、ということで私が実際に作ったノウハウ動画集のようなものです。動画をどんどん作り、さまざまなアンケートやリンクを貼って、このような一つのパッケージにします。
このように、先生方は授業の一つの単元をこのGoogleサイトにパッケージとしてまとめます。生徒は、同様にポートフォリオとしてまとめます。こういったことが簡単にできるのです。
JEP(JAPAN e-Portfolio)がなくなってしまう代わりに、いろいろなクラウドにあるサービスを使って学習活動をしっかりまとめるが、情報科に限らず必要です。しかし、そこはやはり情報科の先生がリーダーシップを発揮しながら、教科横断的なポートフォリオ作りを進めていくことが良いと思います。
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青天井~「尖った生徒」を育てるために
次に、青天井というキーワードでお話しします。どのプログラミング言語がいいかの議論は頻繁にされますが、私が考える一番大切なことは、言語の選択ではありません。学校で学んだ続きを家でも放課後でも、どの端末でもプログラミングに取り組めること。それが青天井になり、プログラミング的思考に非常に長けた、「尖った」生徒を育てることにつながります。そのためにも、クラウドを使って自分の進捗を常に同期できる環境を用意することが肝要です。
そして、生徒が先生の知識を超えるのはもう当然だと捉え、教えるという感覚をいち早く捨て、生徒に学ばせるという感覚で授業に当たる必要があるでしょう。
ポスター発表~聞く時間と話す時間のバランスを取ることができる
次に、ポスター発表について提案します。
多くの学校でプレゼンテーションをしており、そのために2時間も3時間も費やして全員が発表しているようです。
情報処理学会でも「中高生情報学コンテスト」という形でもポスター発表を行っていますが、ポスター発表は一度に多くの生徒に発表させられるだけでなく、インタラクティブでもあります。多くの学校でどんどん取り入れていってほしいと思います。
例えば40人学級で1人1回ずつプレゼンすると、自分の発表は1回ですが、ほとんどの時間は聞いているだけになります。ポスター発表ならば、例えば3チームに分けて、聴く時間、聴く時間、発表する時間という具合にローテーションすることで、バランスの良い円グラフになります。ここをイメージして、プレゼンや発表の授業づくりをするのが良いのではないでしょうか。
ここまで、さまざまなキーワードについてお話してきました。情報科のフェーズ3がスタートするときにはこれらをしっかり意識して、より良い授業を心がけたら良いのではないかと考えています。
情報処理学会 高校教科「情報」シンポジウム2020秋 講演より