事例169
情報I・IIの情報コンテンツ制作に向け簡易ペルソナ作成してみた ~あなたの学校に入りたい生徒のペルソナを作ろう
神奈川県立茅ケ崎西浜高校 鎌田高徳先生
「人間中心デザイン」を授業に取り入れてみる
私からは、文部科学省から出ている高等学校情報科教員研修用教材の資料にて記載されている『ペルソナ』を生徒と一緒に作ってみました、というお話をします。これは、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の情報デザインやコンテンツ制作に向けて、「あなたの学校に入学してみたい生徒のペルソナを作ってみよう」という設定で、ペルソナの中でも比較的易しい『簡易ペルソナ』というもの作ったという事例です。
私のことについて簡単に自己紹介します。私は宮崎県出身ですが、神奈川県の情報科教員として採用され、11年目になります。これまで様々な情報科に関する活動をやらせていただいていますが、今回の実践事例報告会も、6、7年前からずっとメインで企画運営をしています。今年はオンラインという形ですが、県境を越え、全国の情報科の皆さんの力を結集して、いい実践事例報告会になればと思っています。
今回の私の発表は、こちらの4つのステップで進めます。初めに、
(1)なぜこのペルソナの授業を行ったのか。
(2)そして「人間中心のデザイン」とは何か。
(3)今回作った「簡易ペルソナ」とはどんなものか。
(4)そして最後に、「私たちの学校に入学したい生徒って、どんな生徒か」。
というペルソナを実際に作ってみた、という流れです。
最初に、授業のねらいです。そもそものこの実践の始まりは、「人間中心デザイン」というものに高校の授業でチャレンジしてみたかった、ということでした。実は、私の大学院の修士論文が、この「人間中心デザイン」に関するものだったので、13年ぶりにここに戻ってくるのか、と思いながら今回の事例を作りました。今回の「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の教員研修用資料の中には、「人間中心設計」として登場しています。
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「人間中心設計」「人間中心デザイン」というのは、1990年にドナルド・ノーマンが出した『誰のためのデザイン?』という本に出てきます。彼は、その中で「ユーザ中心の設計」ということを提案しました。
「ユーザ中心の設計」とは、時代が進むとともに、デザイン、つまり設計された道具が、人間にとって複雑な操作を要求するようになった、つまり道具に人が支配されているということに対する反論です。
ハンマーを例に取ってみましょう。もともとハンマーでものを叩く時には、人が振り下ろしたら、道具であるハンマーも連動して、叩く動作をしていました。
それが、時代が進んで叩く道具が開発されると、今度は回転させたら下にあるものを叩くという動作になったり、さらにボタンを押すと叩くようになったりと、人の動きと道具の動きが異なるようになりました。
さらに、時代の流れとともにどんどん技術革新が進み、デザイン(設計された道具)が、人間に複雑な操作を要求するようになってきました。人が道具に接したときにどのように使うのか、道具が人間に要求するようになったのです。そうなると「誰のためのデザインか」、ということになります。ノーマンは、「人がデザインに要求されることなく使用できる人間中心のデザイン」を進めて行こう、という主張をしていったのです。
「私のためを思って作られたデザイン」と思ってもらえるために
人間中心のデザインの目標を、私はコンテンツを使用したユーザが、「このコンテンツは自分のことを思って作られている」と実感できる設計をすることと考えています。例えば、クリスマスプレゼントもらったときに、「私のことを思って、このプレゼントを買ってくれたんだ」と思えるクリスマスプレゼントって、嬉しいですよね。それと同様に、「これは私のことを思って設計してくれたんだ」とユーザが思うことができるデザインを生み出すことが、人間中心デザインの目標になります。
それでは「人間中心デザイン」の授業の流れを説明していきます。「情報I」の高等学校情報科教員研修用教材では、このスライドのように1から7のステップで示されています。今回は、実際にデザインに入るまでの、要件定義のところをやりました。つまり、デザインの対象を見つけて、情報収集し、要件を定義するところです。
対象のユーザが喜ぶために、どのような要件を定義すればよいのか。その中にペルソナ手法、シナリオ手法とありますので、今回はこのシナリオ手法のところまでを実際にやってみました。
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この「ペルソナ」とは、『仮想の人物像』のことです。例えば、学校に入学したい高校生のペルソナであれば、実際にこの研修資料のペルソナのようにいろいろな設定をします。そこで作ったペルソナが、学校に入って幸せになるようなストーリーを書いていく。これを『シナリオ』と言いますが、書いていくことで、仮想ではあるけれど、実際にいそうなユーザを作る。そして、そのペルソナを満足させるストーリーを仕上げて、そのストーリーを実現するためには、どんな要件を設定した上でデザインをしたり、コンテンツを作ればよいかを考えたりする、というのが人間中心のデザインの基本的な流れとなっています。
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ただ、要件定義のためにペルソナを作るのは、なかなか難しいのです。私も授業の中で作ってみようと思いましたが、実際に作ろうとすると、たくさんのデータを扱わないといけないし、制作にとても時間がかかります。勉強すればするほど難しくなり、私も今回やってみて、「そもそもペルソナって何だ」ということになってしまいました。そこで今回は、いきなり本格的なペルソナを作るのではなく、簡単な「簡易ペルソナ」を作ってみることにしました。
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Small stepから始めよう~「簡易ペルソナ」を作ってみる
「簡易ペルソナ」はこの図のようなもので、プリントを渡されたらすぐ書けるような、簡単な設計になっています。
簡易ペルソナにしたのは、ここに書いてあるように、新しい事例に取り組む際には、まず、Small Stepで簡単な事例から作っていこうという理由からです。
一般的なペルソナを作る際は、まずアンケートを採ったり、インタビューをしたり、とユーザの調査を綿密に行ったうえで作っていきますが、簡易ペルソナでは、いきなりペルソナを書かせます。
今回の実践でも、生徒にはまずペルソナを書かせました。書かせた上で、調査をして、ものを作って検証するのですが、今回は、この「(2)調査」のところまで行って、要件定義まで進めました。
授業の流れについて、説明します。この1から5のステップで、2時間から3時間かけて、簡易ペルソナを作って調査を行い、最後に発表を行いました。行ったのは3年生の選択の授業、116名程度のクラスです。
まず一つ目の簡易ペルソナを作る作業です。
まずこのプリントを配ります。「顔と名前」、「背景や行動」、「属性」、「ニーズやゴール」を記入することになっています。生徒に、「君たちが3年前の中学校3年生の頃、茅ケ崎西浜高校に入りたい生徒でした。その姿をイメージして、この高校に入りたいと思うのはどんな中学生だったと思いますか」と訊いて、簡単にペルソナを書いてもらいます。
「属性」は、年齢や性別、行動の背景となる要因などです。「15歳」とか「男」とか「長女」とかいうことですね。
「背景や行動」は、ペルソナが持っている前提がどのような行動につながるのか、ということです。本校は自転車通学が多いので、自転車で通えるか、といった要件が書かれています。「ニーズやゴール」は、ペルソナがこの高校に入ってから、どのようになったら幸せになるか、ということです。この生徒は「情報に力を入れている学校に行きたかった」ということを書いています。
この3つを書いた上で、最後に「名前と顔」を書いてもらいます。
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Jamboadでユーザ調査→学校要覧の定量データ分析で意外な特徴が見えてくる
この簡易ペルソナを書いた後、全員でブレインストーミングを行いました。KJ法をやりたかったのですが、コロナの影響もあったので、Jamboardを使いました。茅ケ崎西浜高校に入りたい生徒について付箋に記入し、議論しながらまとめる、という形でユーザ調査を進めていきました。
その上で、各学校に必ずある学校要覧を使って定量データ分析を行いました。学校要覧には、在校生がどんな中学校から来ているか、最寄りの駅はどこかなど、様々な情報が載っています。
私はこの学校に6年間いるのですが、この学校要覧のデータをじっくり見ると、意外に気が付かなかったことがあります。
例えば、本校の生徒がいちばん多く来ているのは茅ケ崎市で、次に多いのが平塚市だと思っていたのですが、実は藤沢市なのです。このように、身近な正確なデータを集めて、意外に知らない学校の特徴を捉えることができます。これをじっくり分析させた後、わかったことをGoogleフォームのアンケートに入力させて、全体で共有をしました。
「半構造化インタビュー」で「どうしたらユーザが幸せになるか」を聞いていく
その後ペアになって、「半構造化インタビュー」を行いました。インタビューでは、「エンドゴール」「エモーショナルゴール」「ライフゴール」という3つのゴールを設定して、元ユーザであった生徒たちが本校に何のために入ってきたのか、入ることを決めたときどんな感情や気分だったか、そして入ってどのようになったら幸せになれるのか、ということを、実際にシナリオ法に記載したい内容に沿ってインタビューをします。
そして、ユーザ、つまり仮想のペルソナが、こんな行動を取って、こんな生活を送ったら幸せになる、ということを聞いていきます。これらのインタビューをスマホのボイスレコーダーで録音して、わかったことを箇条書きにまとめるという活動をしました。
最後に、簡易ペルソナと要件定義の発表です。
今までまとめたデータを全部出して、
1.目標
ペルソナに、どうなってほしいのか。
2.対象
ペルソナが具体的にどんな対象を持って西浜高校に入ろうとしたのか。
3.使用するメディアの選択
入りたい中学生に対してどんなメディアを使えばよいか。これについては生徒の方から、「SNSの活用や塾にチラシを置いて宣伝する」など、私たちがなかなか気付かなかった方法による広報の方がもっと効果があるのではないか、という意見が出ました。
4.どんなコンテンツを載せれば、ペルソナは満足するか。
ここでは「情報系の授業が充実していますよ」とか「最新の授業をやっている先生がいますよ」といった意見が出ました。このように、実際にコンテンツの制作に入っていく前の要件定義のところまでを行いました。
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「人間中心のデザインとは何か」に気づく
今回、この簡易ペルソナ制作をやってみてわかったのは、ペルソナを作ることによって、「人間中心のデザインとは何か」ということに、先生も生徒たちも気づくことができることです。そして、私自身が一番感じたのは、この活動の流れには、「ユーザのために、ユーザを幸せにするために、どのようにコンテンツを作っていけばよいか」ということを気づかせてくれる活動が詰め込まれていたということでした。
まだ始めたばかりの事例ですので、生徒のプロダクトなど、まだ分析しきれていませんが、今後この事例を積み重ねていって、生徒たちが学んだことや感じたことも配信していけたらと思っています。
今回、この簡易ペルソナ制作をやってみてわかったのは、ペルソナを作ることによって、「人間中心のデザインとは何か」ということに、先生も生徒たちも気づくことができることです。そして、私自身が一番感じたのは、この活動の流れには、「ユーザのために、ユーザを幸せにするために、どのようにコンテンツを作っていけばよいか」ということを気づかせてくれる活動が詰め込まれていたということでした。
まだ始めたばかりの事例ですので、生徒のプロダクトなど、まだ分析しきれていませんが、今後この事例を積み重ねていって、生徒たちが学んだことや感じたことも配信していけたらと思っています。
神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告