事例170
一人一台タブレットPC導入成果と端末管理について
川崎市立高津高校 露木律文先生
1.本校が導入した通信端末と環境の整備
本日は、一人1台タブレットPCの導入成果と端末管理についてお話しします。
本校では、2018年度に進路指導部と英語科より一人1台タブレットPC導入の提案があり、BYODといわれる保護者の費用負担による導入を行いました。
費用は3年間で約14万4000円かかりますが、動産保険付きで限度額なら年何回でも修理ができ、リース期間満了後はタブレット端末本体を無償で譲渡できるようにしました。
導入機種はLenovoのD330(Windows端末)で、Office、GSuite、Classi を始め、いろいろな科目やさまざまな場面で活用できるように、多くのソフトを入れました。
また、通信環境はWi-Fiだけでなく、セルラーも入れてモバイル通信も使えるようにしました。
無線LANのアクセスポイントは、全ての普通教室と17の特別教室に入れました。2021年度のGIGAスクール構想で、今後は全ての特別教室に入れる予定です。タブレットPCは41台、教育用ノートPCが22台入っています。これは現在、教員用の端末として活用しています。
2. ICT教育のさまざまな活用
●本校における「ICT教育についての六つのテーマ」
本校には、ICT教育目標として『EdTechを活用し、Society5.0における自らの姿を意識できる生徒の育成』というものがあり、その下に6つのテーマを位置づけています。
(1) 情報活用能力の育成
まず、スキルの向上としては、タイピングを行います。基本的なことではありますが、タイピングによって非常に目に見えるスキル向上が見られます。
(2) 外国語教育
タブレット端末にEnglish Central(※1)というアプリを入れて、そのアプリを活用しながら英語科の学習を進めています。
※1 https://ja.englishcentral.com/browse/videos
(3) 探求活動への活用
探究活動で必要な、調べる・まとめる・発表するといった活動に、タブレットは大活躍しています。
(4) スタディ・ログ等の蓄積
ClassiやGoogle Classroomを使い、行事やテスト、提出物の予定・結果などについてデータを蓄積しています。さらに、自分の行ってきた活動をまとめ、そのままポートフォリオとすることができます。
(5) アダプティブラーニング
個に応じた学習、つまり自分の理解度に応じてウェブ動画授業、ウェブテストなどを受けることができます。情報科ではライフイズテック(※2)のプログラミング学習を導入しました。
生徒自身が、自分でどこまで理解しているか、時には戻って学習することもでき、自分のペースで学習を進められるようにしています。
(6) STEAM教育の推進
桜美林大学のディスカバ!(※3)というキャリア支援プロジェクトと連携して、キャリア支援教育を行っています。
※3 https://admissions.obirin.ac.jp/lets_go/discova/
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●G Suite for Educationの導入
コロナ禍の中、今年度に入って、G Suite for Educationを導入し、生徒が学校に来られない間は、オンライン授業で大いに活用しました。
その他、新1年生に対する部活の勧誘や、登校できない生徒に対して学校に登校している生徒がコミュニケーションをとるのに使ったり、文化祭に呼ぶことのできない保護者に対して、生徒たちが学校からライブ配信を行ったりもしました。登校に不安があるという生徒・保護者の三者面談に使うこともあり、非常に便利なツールとしてさまざまな場面で活用しました。
中でも呼ばれるテレビ会議システムのMeetは本当に便利でした。例えば、修学旅行の説明会では、職員室から校長が話をし、それを各教室にあるテレビで視聴した上で、疑問点を教室から直接職員室に向けて質問するということができます。
Meetは双方向の会議システムのため、説明に対する質問がリアルタイムでできるということで好評でした。それ以外にも、いろいろな場面で活用できるのではないかと感じています。
●タブレットPC活用の比較
では、実際この2年間で、日本ではどれぐらいの割合でタブレットPCが使われているのでしょうか。
こちらは、2018年に日本で行われたOECDのPISA調査(学習到達度調査)の中にある「学校外での平日のデジタル機器の利用状況」というものです。
これは、コンピュータを使って宿題をしていますか、とか、学校の勉強のためにインターネットを見ていますか、といった質問に対する結果(青色の部分)なのですが、OECDの平均が20%台なのに対して、日本では3%、6%といった1桁%という形での調査結果が出ていました。
これに対して、現在の本校はどうかということで、2020年12月にアンケート調査を行ったところ(赤色の部分)「コンピュータを使って宿題をする」に「はい」と答えた生徒は68.8%、「学校の勉強のためにインターネット上のサイトを見る」という生徒は84%いました。また、「関連資料を見つけるために授業の後にインターネットを閲覧する」に関しては43%、「学校のウェブサイトから資料をダウンロードしたりアップロードしたり、ブラウザを使ったりする」は76%、「学校のウェブサイトを見て学校からのお知らせを確認する」は86%でした。
最後の二項目に関しては、基本的にGoogle ClassroomやClassiを使っていたためなのでしょうが、それを差し引いたとしても、本校ではデジタル機器を非常によく活用しているということがわかりました。これも、タブレットPCを入れた成果だと考えています。
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3. 困りものの「故障」とその対策
このように、本校ではさまざまな場面で活用してきたタブレットPCですが、一方で非常に困っていることもあります。それは、故障してしまったときの対応です。本校では独自の書類を作ってPC担当の教員に渡し、その教員と業者との間で修理日程を決めるという方法を取っています。
ただ、業者に来てもらってすぐに端末が治るわけではなく、いったん本体を引き取るという形になると、生徒はタブレットPCがない状態で何日か過ごさなければなりません。
そうこうするうちに、2人目の修理依頼者、3人目の修理依頼者……というふうにバラバラと依頼が増え、担当教員は都度その対応をしなければならなくなって非常に忙しくなり、とても疲弊してしまうのです。
そこで、来年度からはこの方法を改め、週に一度校内に窓口を設置して、修理・交換の対応をしてもらうことにしました。代替え用の予備機を10台確保して、すぐその場で渡すことができるような対応もしていこうと考えています。修理品を直接業者に渡すことができるので、今まで担当教員が非常に大きな負担を抱えながら行っていた用事がなくなり、ICT活用の仕事に専念できるという状況が作れるようになるはずです。
4. まとめ
本校の場合、ICT機器に関しては、模索しながらではありますが、よく活用されている方だと思います。もちろんICT支援員がいれば非常に助かるのですが、今の状況でも生徒・教員ともにいろいろなアイディアを出しながら、活用の仕方を工夫していると感じます。
しかし、端末の動作が安定しないと、活用すること自体できなくなってしまいます。この問題を解決するためには、端末の管理等に関しては業者と連携したサポートの仕組みを整える必要があるでしょう。この仕組みができないと、安心して機器を使うことができないし、生徒たちにも使わせることができません。とにかく保守管理に関する教員の業務を軽減しないと、活用が進まないということを強く感じています。
この2年間、我々が取り組んできたことが、これからICT機器を導入する学校や自治体の参考になれば幸いです。
神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告