事例173
情報Ⅰを少しだけ見据えた「データの分析」の授業実践 RE:2020
神奈川県立横浜翠嵐高校 三井栄慶先生
1.「データの分析」授業の流れ~序盤・中盤・終盤

本日は、「データの分析を教えたことがない」「表計算ソフトの技能を授業でやりたい」「生徒へ向けて授業でプレゼンをやりたい」という、先生方の希望に応えられるような授業実践についてお話していきたいと思います。
まず、今回の実践を大きく三つに分けて考えます。
●序盤 分析の初歩を学ぶ
何はともあれ、表計算ソフトを使えないことには、分析がなかなかスムーズに進みません。使い方についてはある程度こちらで教える必要があるでしょう。
次に、実際のデータ、例えばe-Stat(※1)のデータや、生徒が実際に集計したデータについて分析を行い、考察をしてみるということを行います。

●中盤 自分の問題にあててみる
実践の中盤に当たる部分です。生徒が疑問に思っていること、問題に思っていることをテーマにして、相関分析を行います。ただ、自分自身でテーマを設定すると、どうしても外れ値が生まれてしまいます。そこで、6番目のデータクレンジングの手法について、あらためて勉強しておきます。
その知識も踏まえながら、7、8で分析しやすいように加工したり、それをまとめたりといった作業を行います。

●終盤 自分の考えをまとめる
最後に、自分の考えをまとめるというフェーズになります。少し難しい段階ですが、順を追って行いますので比較的スムーズに進みます。
すなわち、いきなり全体発表を行うのではなく、グループの中で発表したあと、クラス全体に向けて発表を行うのです。

こういったアウトプットを通して、最終的にデータの分析について学びを深める、という仕組みになっています。
では、それぞれの段階について、具体的に見ていきましょう。
2. 実際に行った実践授業
(1) 表計算ソフトウェアを使って調査・分析・考察する
比較的シンプルなSUM関数、AVERAGE関数、引き算などを、自分でしっかりできるように教えておく必要はあると思います。
本校では、スプレッドシートで指導していますが、エクセルでも、ほぼ同じ指導ができるのではないでしょうか。このように数字が埋まっている状態を、生徒が自分で関数を使って計算できれば、この部分はクリアと見なしてよいと思います。

次の段階では、ただグラフを書くのではなく、相関分析に必要なヒストグラム、相関係数等を求められるようにするという内容になっています。
今、お見せしているのは、スプレッドシートの例になりますが、最新のエクセル、もしくはスプレッドシートでは、ヒストグラムを描くグラフの機能もついているので、簡単にグラフを起こすことが可能です。

では、実際のデータを使ってご紹介していきます。e-Statのデータを少し整理して生徒に渡し、膨大なデータの中から2種類のデータを選択して相関係数を求め、散布図を描き、分析を行うという作業です。
こちらは、中学校3年の学力調査正答率と、最終学歴が大学・大学院卒である割合の相関について、調べたものです。相関係数は0.18、分布の度合いも散布図の通りということで、それほど強い相関は見られないということが分析できます。
※クリックすると拡大します。
そして、今度は生徒たち自身でデータ収集を行います。
学習時間とスマートフォンの使用時間ですが、この部分については、Googleフォームを使って、生徒がデータを集計しました。集計したデータを先ほどと同じ要領で、調査・分析していきます。
この課題からは、生徒が自分で入力をする生のデータになりますので、だいぶ取り組みの度合いが積極的な方向に変わってきていると感じます。

(2) 生徒たち自身の疑問をもとにテーマを設定
ここからは、5人一組のグループ学習とし、自分自身が疑問に思っていることをテーマにしました。
過去のテーマ一覧ですが、「牛乳を飲む頻度と身長について」「単語帳の数と小テストの点数について」といったものから、「納豆をかき混ぜる回数と握力について」など、学生らしいユニークなものまで取り上げられています。

続いてデータクレンジングの手法です。先ほどと同様にデータを渡し、箱ひげ図の書き方を少し学びます。箱ひげ図のひげが、箱の1.5倍に伸びるようなところであれば、外れ値と見なすことが多いという統計的な概念を踏まえ、上境界点・下境界点という値を出し、この部分を省いたらどう変化するのかといったことを学習しました。
こうすることで、生徒は値を適当に間引くのではなく、ある程度、目安を持って外れ値を取り除くことができるようになります。
※クリックすると拡大します。
最後に、自分たちが立てた仮説を分析・考察します。散布図を描き、近似直線を描くことによってどんな相関係数になるのか、また、データの散らばりはどのようなものなのか、ということを分析します。

その後、自分たちが立てた仮説、実際の数値の結果、それをどのように結ぶかという考察を組み立てる作業を行います。

(3) 発表を通して自分の考えを伝える
最初から全体に向けての発表にするとなかなか時間が取れないこともあり、今回の実践では、グループの中だけで発表の練習をすることを徹底して行いました。そうすることで、生徒たちみんなが自信を持って発表できるようになります。その練習が済んだら、今度はクラス全体に向けてグループの発表をするという形で進めていきました。
最後は、「データの分析で、どのようなことを学びましたか」という質問を生徒たちに投げかけ、その結果を、テキストマイニングのタグクラウドで表してみました。
『相関』『分析』『データ』『相関係数』『考察』というようなフレーズは、やはり出てきていますが、『分かる』『調べる』『できる』といった文言が目立っているのが特徴です。

また、実際の文章を要約したものがこちらになりますが、『一見関係なさそうなこと同士でも、関係があったりすることを学んだ』また『分析するときも読み取るときも本当にデータが正しいのか注意する必要があると思った』などのように、一連の学習を通して、生徒はさまざまなことに気付き、学習することができています。

こういった発表をすると、どうしても『先生にしかできない素晴らしい実践です』というようなお褒めの言葉をいただいてしまいますが、こういったありがたいお言葉よりも、今回の実践については『この一部分だけでもやってみたいと思います』と思っていただけると、よりうれしいです。むしろ、強気な姿勢で、『私だったらもっとこうします』といったように、どんどんこの授業で気付いたところがありましたら改善をしていって、ぜひ実践を重ねていっていただければと思っています。
神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告