事例174
今こそ情報科の不易流行を考えよう~指導主事・管理職の視点から
神奈川県立川崎北高校 柴田功先生
本日の「実践事例報告会」のテーマは、「情報科、今こそチャレンジする時だ!」です。私は校長ですので、実際に情報科の授業を行っているわけではありませんが、長いスパンで、今まで情報科にどのように取り組んできたのかということをお話ししたいと思います。そこで今回の私のテーマは、「今こそ情報科の不易流行を考えよう~指導主事・管理職の視点から」ということで、お話ししたいと思います。
教科「情報」の立ち上げ時と、その後の指導主事としての経験から
まず、私の自己紹介です。数直線で2000年から2020年の分を抜き出してみました。なぜ2000年からかというと、教科「情報」が動き始めたのが2000年だったです。私は今も川崎北高校ですが、当時も川崎北高校で情報科の教諭として働いており、全国で教科「情報」が始まる前に、先行実施という形で情報の授業を行ってきました。
その後、12年間教育委員会で指導主事を務めました。さらに副教頭、副校長、教育委員会の課長職、そして今は校長ということで、実は教科「情報」の授業をやったのは、もう17年も前です。ずいぶん昔の話ですが、その経験を基にずっと指導主事をやってきました。自分で授業をしない代わりに、多くの先生の授業を見ることができたことが、私の強みかなと思います。 今日は、それを踏まえて、幾つか提案をしたいと思います。
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時代とともに教科の内容が変わっていくのが「情報」の魅力
今日の発表のテーマは、「情報科の不易流行を考えよう」ということです。「不易」と「流行」というのは、反対語のようですが、よく調べると、「新しいもの・流行をどんどん取り入れて、新しい不易になっていく」という意味のようです。ですから、情報科というのは、どんどん新しいものを取り入れて、それが新しい不易になっていくと言えます。
そう考えると、昔の情報科の内容が、だんだん全教科に行き渡り、教科「情報」としてのアイデンティティではなくなっているのです。例えば、昔は「プレゼンテーションやっていれば情報科だ」とか、「パソコンを使っていたら情報科だ」と言われていたのが、今はどの教科でもプレゼンテーションをするし、パソコンも使うので、教科「情報」のアイデンティティではなくなっているのです。その代わりに、今はプログラミングやデータ活用という新しい流行が、どんどん教科「情報」の中に入り込んできています。時代とともに教科の内容が変わっていくというところが、教科情報の魅力ではないかなと思います。
特に、私が注目しているのはGIGAスクールです。1人1台パソコンがあって、個別最適化学習とか言われています。それから、学校でもクラウドが前提になっていること。それが、新しい流行になり、やがて情報科の不易、当たり前になっていくということを、しっかり踏まえる必要があると思います。
1人1台端末が行き渡ることで、課題作りは青天井になっていく
まずこの中で、「流行」についてお話をします。
1人1台端末をBYOD(Bring Your Own Device)として、個人で買うか、学校、あるいは自治体が買うか。どういう方向になるか分かりませんが、クラウドも当たり前となるでしょう。そのうち、パソコン教室にサーバがなくなることも考えなければいけないと思います。
そこで何が大きく変わるかというと、自宅学習が変わるのではないかと思います。今までは、パソコンがある家庭とない家庭があるので、教科「情報」の自宅学習で、パソコンを使った作業や、授業の続きをやるような課題を出すことを遠慮していた部分があります。しかし、今後は自宅でも続きをどんどんやってもらうという授業作りが大事になる、と思います。プログラミングの続きやグラフ作成などを家でやるというのが当たり前になってくる。学校と家庭の境目がなくなる、いわばシームレスです。
そうすると、課題作りはもっと青天井にしていく必要があります。「ここまでやればいいよ」などという目標を設定してしまうと、生徒は物足りなさを感じるかもしれないので、できる人はもっとどんどんやってもいいよ、という課題設定にすることが大事になると思います。
学校内の「教育の情報化」にも目を向けてほしい
それから、情報科の先生に提案したいのが、教科「情報」と「教育の情報化」、特に授業におけるICT活用の問題です。意外に情報科の先生は授業におけるICT活用に興味がない場合があります。なぜなら、パソコン教室には、1人1台パソコンがあるし、プロジェクターも何でもあるので、普通の教室で授業をやっている他の教科の先生のICT活用の問題に、距離を置いてしまっている情報科の先生が実は多いのです。
校長目線でお話しすると、他の教科で、黒板にプロジェクターで何かを投影したり、普通教室にパソコンを持ち込んで授業をすることに苦労している問題に、もう少し興味を持ってほしいです。それをやってください、とは言いませんが、興味を持っていただきたい。教科「情報」の先生は、学校全体を見渡すと、やはり一番ICTに詳しいのですから。全部をやる必要はありませんが、リーダーシップはぜひ発揮していただきたいな、と思っています。
題材の工夫・学習活動の工夫・評価の工夫という三つの「不易」
今、流行の話をしましたが、今度は「不易」の部分の話をします。不易として、時代と共に変わらないものが、私は三つあると思います。
一つは、題材の工夫について。教科「情報」の授業の題材は、先生方の腕の見せどころです。ぜひ、ここはこだわってほしいです。教科書に載っている題材やデータをそのまま使うのでは、生徒は興味がないかもしれない、と考えてください。
問題解決学習の題材の工夫には、三つのキーワードがあると思います。
「その題材が身近なものか」。「その題材が、切実なものか」。そしてもう一つは、「その題材・問題が解決可能か」。授業で解決できないかもしれない大きすぎる問題をやっても、なかなか興味が湧かないと思います。このいずれにも当てはまらないようなテーマを選んでしまうと、その授業は、問題解決学習としては、生徒が食いつくのはけっこう苦しいと思います。逆に、このうちのどれかに位置付くというのが、題材選びのコツかな、と思います。
特に私がこだわりたいのは、教科「情報」で他の教科と連携するのはいいのですが、例えば、フローチャートを書くのに、料理のレシピを書かせたりする場合、どんどん料理の作り方に入り込んでしまうと、家庭科の授業になってしまいますよね。あまり他教科の幅広い題材を取り上げると、「総合的な探究の時間」の問題解決学習と、区別が付かなくなってしまいます。教科「情報」そのものにもいい題材がありますから、やはりそこでは情報社会をテーマに、題材を作るのがよいのではないかと思います。
もう一つが学習活動の工夫、授業のやり方です。これはすでに皆さんも意識していらっしゃると思うのですが、たまに見かけるのが、「活動あって、学びなし」という授業です。何だか楽しそうにやっているけれど、これは何のための活動なのかな、というものです。
まず個人でしっかり考えさせた上でグループ活動をする、グループ活動をした後に全体で共有する、最後に個人で振り返りをする、といった考え方というのは、普遍的に変わらないものであると思います。
大事なのは、単元全体の見通しを持って授業に取り組むことです。急に「今から発表するよ」と言われて、生徒が慌てた、という授業を見たことがあります。生徒は発表するつもりでいなかったのに、急に発表会をするよ、と言われても困りますよね。そういうことがないように、きちんと授業を設計しておくことが大切です。
三つ目は評価の工夫です。教科「情報」では、ポスターを作ったり、プレゼンテーションをしたり、webページを作ったり、プログラミングをしたり、といろいろなものを作ります。こういった、ペーパーテストで成果を測れないものが、たくさんあります。そのときに、皆さんはルーブリックをきちんと生徒に示していますか、ということです。
例えば、S、A、B、Cという評価基準があって、評価Bが全員が達成してほしい評価基準であるとすれば、この目標に達成するように授業作りをするわけですが、この評価基準を、あらかじめ、生徒に示しておくことが大事です。「こういうことができていればAだよ。ここまでできればSだよ」ということを、生徒にあらかじめ示して、授業に入っていくことが重要です。
ルーブリックをあらかじめ提示して、例えばワークシートの中にルーブリックを書いたりして、生徒自身が常に意識できることが重要かなと思います。このルーブリックを評価の4観点全てで作ると、けっこう大変です。新しい学習指導要領では3観点になりますが、3観点のうち「思考力・判断力・表現力」の部分だけでもルーブリックを作るのがよいのではないかと思います。
ペーパーテストで最も測りにくい「思考力・判断力・表現力」の観点を、ルーブリックをあらかじめ作って生徒に示し、「さあ、プレゼンテーションをしてみよう」「webページ作りましょう。ここまでできたら評価は○○だよ」ということを示す授業作りが大事であると思います。
私のテーマは、「今こそ、情報科の不易流行を考えよう」ということでしたが、新しいものをしっかり自分のものに取り込み、変わらないものをしっかり大事にしていくこと。教科「情報」の先生に、ぜひこの辺りを意識して、これからの魅力ある授業づくりに取り組んでいただきたいと思います。
神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告