事例175

これからの情報科の話をしよう~九段中等教育学校の事例から~

千代田区立九段中等教育学校 主任教諭 須藤祥代先生

東京都立富士高等学校附属中学校 副校長 田崎丈晴先生

 

自己紹介

高校教科「情報」シンポジウム2014秋より
高校教科「情報」シンポジウム2014秋より

田崎先生

平成21年度から平成26年度まで九段中等教育学校に勤めておりました。今回は、現在九段中等教育学校で勤務されている、須藤先生の前任者という立場でお話しします 。

 

ご本人提供
ご本人提供

須藤先生

九段中等教育学校で5学年、すなわち高校2年生の担任をしています。教科は情報科です。併せて、5学年までの総合的な探究の時間や総合的な学習の時間のカリキュラムやコンテンツを作ったりもしています。今回は、その前期課程(中学校)の総合的な学習の時間、後期課程(高校)の総合的な探究の時間と、情報科の関わりなどもお話できたらと思います。

 

中学校1年から高校3年を通して生徒を育てる「九段自立プラン」

 

須藤先生

総合的な探究の時間と総合的な学習の時間のカリキュラムは、「九段自立プラン」(※1)というものを基に構築されています。九段自立プランは、中学校1年生から高校3年生までを縦並びにし、どのように生徒を育てていきたいかを学校として決める取り組みです。

 

まず、前期課程では様々な可能性を広げます。そのために、総合的な学習の時間では、いろいろなツール操作や知識を固める土台作りにつながる活動に取り組んでいます。

 

例えば、1年生では、企業訪問で、企業からオーダーをもらって課題解決をします。また、自分たちでアポイントメントを取って、職業人インタビューをしたりします。

 

 

 

その後、2年生の校外学習では、グループでテーマに基づいた調査研究をして、実地調査やフィールドワークをします。職場体験でも、生徒が実際に自分で職場体験先にアポイントメントを取って実施したり、経験したことを職業として見た際の分析などを行います。大使館訪問では英語でプレゼンテーションを体験します。

 

3年生では、「Kudan World Report」として、海外研修でオーストラリアに行き、現地調査や現地でのインタビューを行い、最後に一つの論文にまとめて前期課程を修了します。

 

後期課程の4年生(高校1年生)からは個人での探究活動になります。今まで視野を広げてきた中から自分はどのようなものに興味があるか、どんな学問をもう少し深めたいか考え、個人で課題を決めます。問いを立て、調査研究、文献調査、そして実地調査をします。

 

5年生では、社会に還元する活動「ソーシャルアクション」を行います。

 

6年生は、それらを基に、ダイアログにつなげていくことを現在計画中です。

 

 ※1 「九段自立プラン」については、学校ホームページ

http://www.kudan.ed.jp/

の「九段自立プラン」のページをご覧ください。

 

 

田崎先生

1年生、2年生、3年生が土台作りとありますが、ここで学ぶのは課題解決の方法やものの見方、調べ方など、九段中等教育学校のホームページの「九段自立プラン」のページにある「学び方スキル」にあたる部分かと思いますが、情報活用能力を身に付けさせるためのスキルのトレーニングは、今も続いているのですね。

 

須藤先生

はい。ICTスキルとしてのコンピュータの使い方は1年生の前半や3年生の後半で学びますが、「学び方としてのスキル」は、技術科の時間だけではなく、総合的な学習の時間の中で培っており、担任の先生方を中心に、技術科や情報科など、全教科かつ全学年で取り組む形を取っています。学校内の「キャリア教育部」が全体のバランスを見ながら、各学年と打ち合わせをして進めています。

 

田崎先生

まさにカリキュラムマネジメントですね。高等学校学習指導要領(平成30年告示)総則 第6款「学校運営上の留意事項 」の1アには、校長の方針の下に、校務分掌に基づき教職員が適切に役割を分担しつつ、

相互に連携しながら、各学校の特色を生かしたカリキュラム・マネジメントを行うよう努めるものとする、とあります。これがまさに具体的な形となって、今も運営されているということが、このスライドからも分かります。

 

 

須藤先生

田崎先生がいらっしゃった頃からのものを、毎年バージョンアップしながら進めています。

 

下図が後期課程、つまり高校生が行っている、「総合的な探究の時間」の流れです。

 

4年生では、将来を見据えて選択するというところなので、自己理解をし、自分の学問テーマを決め、問い作りをします。その後にWebページや論文などの文献調査や、アンケートやインタビューなどの実地調査をした上で、中間発表をポスターセッションで実施することでフィードバックを得て、次の「ソーシャルアクション」につなげていきます。

 

5年生では、テーマの見直しと「ソーシャルアクション」を行います。調査結果をもとに、実際に自分で行動を起こします。それ結果を基に卒業研究発表会にてポスターセッションでプレゼンテーションをした後、論文にまとめます。

 

6年生では、それぞれ取り組んできたテーマを基にダイアログをするという流れを組んでいます。

 

※クリックすると拡大します。

 

「総合的な探究の時間」と「情報の科学」の連動で探究活動を充実させる

 

須藤先生

次に、「情報の科学」と「総合的な探究の時間」のカリキュラムの連動についてお話しします。本校で昨年度から「総合的な探究の時間」を実施することになったことと、新学習指導要領へ対応のために、「情報の科学」のカリキュラムを変更しました。

 

「情報の科学」では、問題解決学習とデータ活用を年度当初に取り扱うことにしました。そして基本的なスキルを、「情報の科学」の中でグループで身に付けた後、それを「総合的な探究の時間」の個人での探究活動に生かせるよう設計しています。「情報の科学」で学習するプログラミングや情報デザインなどは、「総合的な探究の時間」の「ソーシャルアクション」などに生かせるよう、「情報社会の問題解決」や「データ活用」が終わった後に実施しています。

 

「データの活用」については、調査や活動の結果をグラフ化して可視化したり、データを分類して分析したりしています。昨年の「総合的な探究の時間」の中間発表会で、外部講師の方にポスターセッションを見てただいたときに、その際、「仮説検定も入れてはどうか」というフィードバックをいただいたので、今年度からは統計的仮説検定も組み込んだ授業をしています。

 

田崎先生

統計的な仮説検定まで含めたことで、「情報Ⅰ」の内容と結果的に関わるようになったということですね。

 

須藤先生

はい。アンケート実習をしているため、生徒たちが生データを取ることを実践する中で、どのようなデータを取るか、外れ値はどうするか、などを考えさせています。また、統計では数学とも連携していて、理論的なところは「数学I」に任せ、実際に使うところは情報科で、というすみ分けをしています。

 

田崎先生

数学と情報と総合的な探究の時間が、まさに、教科横断的に連携したということですね。

 

須藤先生

はい。生徒たちも、数学で習っていることがこういうことで役立つのだということが、情報科や探究活動で分かったり、逆に「なぜこうなるのだろう」という疑問が数学の方で解決したりしているようです。

 

田崎先生

私がいた頃にはそこまで具体的に数学との連携はできていませんでしたので、ここ数年の発展的な取り組みという点が大変心強いです。

 高等学校学習指導要領(平成30年告示) 総則第2款「教育課程の編成」の2(1)では、「生徒の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、と問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科・科目等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする」とあります。九段中等教育学校では、このことが既に実行されているという、具体的な事例だと思います。

 

 

 

 

須藤先生

情報科の教員は私1人教科なので、いろいろな先生とお話しながら教えていただいたり、生徒たちが他の教科で取り組んだことを教えてくれたりしており、先生にとっても生徒たちにとっても、教科横断は良いなと思います。

 

田崎先生

数学以外の先生と連携して、情報との関連性を意識した指導はされていますか。

 

須藤先生

例えば、法律は中学校3年生の社会科で学びますので、どのように学んだのか、どの程度知っているのかを確認しながら進めています。他には、中学校で国語と連携した授業もあって、文章を構造化したり、読み取ったりすることを国語で学んだ後に、技術科の情報分野でそれをどう表現するのかをやったりして、3年生のKudan World Reportにつなげていきます。

 

また、英語では、英語合宿の際に手書きのダイアリーを書きますが、ライティングの質を高める目的でフィードバックの際には技術でICTを用いて書く練習をする、といった連携をしたりしていて、面白いです。

 

「情報の科学」の総合実習でスキルを磨き、「総合的な探究の時間」へ

 

須藤先生

もう少し詳しく見ます。「情報の科学」のアンケート実習は、PBL(プロジェクトベースドラーニング)の形での学習になるため、グループ単位で行っています。班ごとに大きなテーマを割り振って渡して、そのテーマの中から具体的にアンケートで取り扱いたい内容を選んで問いを作り、事前調査としての文献調査をして、アンケート実習をし、まとめます。

 

アウトプットは違いますが、基本的に、資料を作り発表するという点でこれに非常に近いのが、「総合的な探究の時間」で行う調査研究になります。本校では、「総合的な探究の時間」で探究のサイクルを2サイクル回しています。ただ調査して終わりではなく、調査したものを社会に還元する「ソーシャルアクション」を行うことで、もう一度文献調査や必要な調査をし、社会に向けての行動「ソーシャルアクション」を起こして、それを実地調査と検証をして発表するという流れをとります。

 

 

田崎先生

この「総合的な探究の時間」の調査研究→ソーシャルアクションの流れは、4年生と5年生の2年間の取り組みということですか。

 

須藤先生

そうです。

 

では「情報の科学」の「総合実習」と呼ばれるこのアンケート実習の流れをご紹介します。

 

本年度はコロナ禍ということもあり、生徒同士がある程度距離を保ちながら実施する必要があり、共有物を一緒に使わせることは困難でした。

 

しかしぜひグループ学習を行いたいという思いがあったため、本校は前任者である田崎先生が導入されたOffice365を活用し、Teamsベースでアンケートの計画を行い、アンケートの実施はFormsを使用、結果分析はExcelを使い、データは全てTeamsで共有する、という形で実施しています。

 

また、プレゼンテーションも、今のご時世では難しいところがありましたので、オンラインのFlipgridなどを使用し、記録したプレゼンテーションに対して、生徒たちがフィードバックを投稿するという形に学習デザインを変えて実施しました。

 

※クリックすると拡大します。

 

総合実習をもとに、5年生は休校期間中にFlipgirdでプレゼンテーションをシェアしたり、休校になる前は卒業研究の発表を通常のポスターセッション形式でブースに集まって聞いたり、という形で実施しています。

 

5年生は、コロナ禍に配慮して校舎のワンフロアを広く使いソーシャルディスタンスをとって卒業研究の発表を行いました。実際に作ったポスターがこれらで、今年度のオンライン文化祭でも後輩たちが見られるような形で展示しています。

 

※クリックすると拡大します。

 

田崎先生

総合実習のPBLというのは、情報の授業ですね。このテーマは、「総合的な探究の時間」とは別で、情報科独自のテーマということだと思います。そうすると4年生で勉強している「情報の科学」の一連の学習の中で、4年生と5年生の「総合的な探究の時間」に必要なスキルを養い、さらに自分一人で探究活動ができるように「情報の科学」でブラッシュアップして、「総合的な探究の時間」に還元しているということですね。

 

須藤先生

その通りです。ですから、あくまで総合実習は情報の単元の深い理解や発展的な学習にあたり、卒業研究は自分たちの興味のある学問を深める、という形をとっています。ですから、数学に興味がある子は数学を、経営学に興味がある子は経営学を、といったように、情報だけにとどまらない学びに広げています。

 

田崎先生

探究的な学びを取り入れた情報の授業が構成されていて、そこで培ったスキルが総合的な探究の時間に生かされているという素晴らしい事例です。

 

須藤先生:

実際に、「総合的な探究の時間」の取り組みだけではなく、本校ではソーシャルアクションとして、様々なWebページやアプリを作ったり、ポスターやYouTubeの学習動画を作ったりする生徒がいます。

 

 

情報の科学の中では、『Webデザイン』という授業を実施していて、企画書作りからユーザー分析を始め、それを基にWebサイトを作ります。作業はグループで行い、コーディングする生徒、デザインする生徒、ライティングする生徒、マネジメントする生徒といった役割分担をしながら進めます。

 

 

オンライン文化祭の実現を通して学習の成果が示された

 

須藤先生:

今年はコロナ禍で文化祭がオンライン開催になり、今まではなかった「エンジニア部門」が実行委員によって編成されました。学校から、「全ての人にオープンではなく、生徒と保護者のみが見えるような設定で行う」というオーダーが出され、ログインの認証画面のデータベースを作ったり、Webページのコーディングを1人ではなく複数名で行ったりしていて、すごいなと思いました。

 

私は全く手出しをしていませんが、Webデザインの授業とデータベースの単元などとミックスしながら取り組み、こういったところに生きるのだということを実感しました。

 

 

田崎先生:

すごいですね。オンライン文化祭の準備に関わった生徒は5年生ですね。まさに、前年に情報で勉強したことを通じて、生徒自身がやりたかったことを発案したということですか。

 

須藤先生:

生徒の発案です。

 

本校では、5年生が文化祭などいろいろな行事やイベントの中心になっていますが、これまでも通常通りというものはなく、2年生の校外学習にしても、去年のポスターセッションにしても、全て生徒に企画を作らせて、運営なども全部させています。

 

今年に入って生徒同士が直接対面で集まれない状態になった際も、生徒自治会総会も全て生徒が企画し、運営体制を作ってリハをして、オンラインで実施し…と、一貫して実現に移す姿勢が見えています。本当にすごいなと思いました。その一環としての、オンライン文化祭でした。「何とかして文化祭をやりたい。だったらオンラインでやれないか」と考え、コロナ禍の中もずっと動き続けてやっと実現して、この収録をしているまさに今、開催中です(※2)。

 

  ※2 令和2年12月5日(土)~12月18日(金)で実施。

 

田崎先生:

素晴らしいですね。そうやって生徒が主体的にやりたいと発案したことに応え、実現まで向けていくところには、先生方のご指導もあってのことですよね。

 

須藤先生:

生徒たちだけではできない部分もありました。サーバをどうするのか、法整備をどうするかなどです。しかしこのプロセスに関しても、今度はエンジニア以外の子たちが、YouTubeに動画を上げてリンクを貼る際の著作権についてウェブサイトを調べたり、文化庁に聞いたりして、また、上がったものが適切かどうか、全て要件があっているかなどのチェックも生徒たち自身でして、その後先生方にもチェックしてもらって…と取り組んでいました。生きた知識として、非常によく学んでいるなと実感しました。

昨年の授業の振り返りの際に、彼ら自身が社会に出てからも役に立つと言ってくれたのは、とても嬉しかったです。

 

田崎先生:

まさに課題解決ができているという事例でした。これからの情報科、特に新学習指導要領にどう対応していくのかという観点からも、要点がいろいろ確認できたと思います。

 

まず、学校の方針のもと、カリキュラムマネジメントの流れの中で、情報活用能力の育成を位置づけるという話題。そして、教科、学年が連携をして情報活用能力を育成していくための具体的なプランについても話題がありました。

 

「情報の科学」では、探究的な学びを年間指導計画に位置づけ、そこで培ったスキルを「総合的な探究の時間」などに生徒が主体的に活用できるよう、意図的に連動したカリキュラムを、数学などの他教科とも絡めて教科横断的な視点で組まれているということです。

 

そして最終的には、生徒が教科書もなく答えのないところで、オンライン文化祭を開催し、課題発見・解決能力や情報活用能力を発揮する場面があったということですね。

 

これから、新しい学習指導要領に基づいた教育課程を各学校がまとめなければいけませんが、九段中等教育学校の事例は、今後新学習指導要領で求められていることを充分に見据えた活動として、大変参考になる事例でした。各学校でもご参考になることがあれば嬉しいですね。

 

須藤先生:

私も試行錯誤なので、皆さんと情報交換しながら進められたらと思っています。また、田崎先生がしてくださった新学習指導要領総則の話を意識すると、私も他の教科と連携しやすく、ご理解も得やすかったりすると思いました。

 

田崎先生:

試行錯誤は大切ですね。言い方を変えると、改善ということだと思いますが、カリキュラムマネジメントは、今年の教育課程をもとに来年の教育課程を編成するとき、まさに改善できる点を探し、見直してブラッシュアップすることが求められます。ですから、試行錯誤し、皆さん同士でお互いに共有しながら、いい学校作りを目指していけたらと思います。

 

教科指導ももちろん大切ですが、情報科教員としてカリキュラムマネジメントという流れの中で情報活用能力をいかに育てるのかを考え、学校の中での情報科教員として今後ますます重要な役割を果たすことが求められていきますので、新学習指導要領の総則についてもご紹介しました。ご参考になれば幸いです。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告