事例182
理想の教室作ってみた⇒他教科にも大人気!?
〜新学習指導要領における情報科の役割〜
横浜市立横浜総合高校 康 允範(かん ゆんぼむ)先生
情報科教員の苦悩から生まれた理想の部屋
私たち情報科の教員は、パソコンのメンテナンス、1日何件もの問い合わせ対応(ほぼサポートデスク状態)、パソコン室の設計・整備にかかる高額な見積もり作成と導入時の対応など、パソコンに関わる非常に多くの業務に追われているという実情があります。
我々教員の本来の仕事は、授業や進路指導など、生徒の将来に直接的に関わるようなことであるはずです。しかし、現実には、なかなかそうはいきません。
だからと言ってあきらめてはいけないし、やらなければならないことはあると思うのです。そこで、私はいっそのこと開き直って自分の理想とする「授業がやりやすい教室」を作ってみようと思いたちました。すると、私自身はもちろん、生徒や他教科の教員からも「ハッピーになった」という声をいただくことができました。
私の理想とした教室は、『シンプル is the best!~コミュニケーションを取りやすく~』、とにかくこれを追求した部屋です。
そして、具体的な目標として『配線はスッキリほぼ無線で!』、『レイアウトは自由自在!』、『もちろん遅延は最小限に!』の三つを掲げ、教室を整備していくことにしました。
お互いの顔が見えるシンプルな教室作り
整備前の部屋は、左側の写真のようなレイアウトでした。この写真は商業科の部屋の写真なのですが、タイピングがしやすく、文書作成に関しては非常にやりやすいことがこの部屋のメリットです。
整備前の部屋の問題は、写真のようなデスクトップ型ではなく、右側の写真のような埃をかぶっているノートパソコンを使っていたということです。なぜ埃をかぶっていたかというと、セキュリティーワイヤーやLANケーブルなどが常時つながっていてノートパソコンとしての良さを失ってしまっていたからです。この状態ならデスクトップ型の部屋を使った方がいいじゃないかということで、今回整備した部屋は、整備する前の昨年度はまったく使われていませんでした。
このような状態から、下図の右の写真のような、「コミュニケーションがとりやすくてシンプルな構成で、誰でも使いやすい」部屋に整備したところ、教室稼働率は0%から約25%(4コマに1コマ)となりました。
具体的にはタブレットPC、そして、すべて無線。レイアウトは自由にできるもの、教材等の提示はシンプルかつ様々な方法を用いることができること、ごちゃごちゃといろいろなケーブルはつながず、必要なものは必要になったときに付ければよし、ということで、とにかくシンプルな仕様を心掛けました。
また、普通教室にも移動できるよう、アクセスポイントとタブレットは持ち運びができるものにしました。さらには、データ共有がしやすいように新しいNAS(Network Attached Storage: ネットワークに接続して利用するファイルサーバ。ネットワークを通してファイルの共有ができる)を導入しました。これまでは、30人少々が同時にアクセスするとNASが固まってしまうという状態でありました。
前述の部屋を整備したことによって、情報科には2種類の部屋ができました。一つは電算機室、もう一つはメディアセンターです。
下図の左の写真のように電算機室はロの字型に机を配置していて、パソコン演習時には生徒の画面が非常に見やすいのですが、生徒が背中を向けてしまうので、コミュニケーションがとりづらく、反応が分かりづらい、生徒が下を向いていってしまうという面があります。その点、右の写真のメディアセンターはコミュニケーションがとりやすいため、生徒が下を向いていってしまうといったことはだいぶ減り、私としては非常に授業がやりやすくなりました。
結果として、真ん中上部のグラフの通り、情報科の部屋への満足度としては、他教科の先生方も含め多くの方に満足いただけました。マイナス面として「インターネット回線が遅いのが少し不満」という声もありましたが、これに関してはGIGAスクール構想で後々改善されていくはずです。
授業の設計と他教科との連携
どのような単元でメディアセンターが有用であったかどうかを表しているのが下図です。以前の「社会と情報」の授業では文書作成も入っていましたが、それはもうカットして、問題解決を先に行うことにしました。というのも、文書作成や表計算から始めると、「なぜ情報の授業をやっているのか」という動機付けが難しく、結局「パソコンの授業ではないか」と生徒から思われてしまうからです(現行(2020年度現在)の高校の学習指導要領の共通教科情報科の中では、「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」を育むことを目標として捉えており、パソコンはこれらの目標を達成するためのあくまでも「ツール」であるという位置づけ)。
そこで、まずは情報モラルや情報社会の概要を学び、そのあとに問題解決を学習、そして表計算を行うという設計にしました。「問題解決をするために、表計算をこのように活用する」という流れになります。そして、後期にテクニカルな話をしていき、最後に集大成としてプレゼンテーションを行います。
私の主観ではありますが、表計算以外はメディアセンターを使った方がよかったと感じています。表計算については、細かい操作が必要になる点もあるのでデスクトップのメリットが出てきますが、それ以外は調べ学習にインターネット検索を使い、あとは(現行の「社会と情報」のカリキュラムにおいては)Office系のソフトを使うだけなのでメディアセンターで十分という印象でした。
このようにメディアセンターの機材や配置、使い方などを整えたことで、情報科の教員としては、シンプルにいろいろなことができるようになったのが良かったと感じています。
また、他教科の先生方にもメディアセンターをいろいろと使っていただきました。主に調べ学習や情報収集、さらにそれを分析してパワーポイントにまとめて発表したりレポートを作成したりといったアウトプットにもうまく利用していただけたようです。
写真は英語科の授業ですが、書画カメラを使ってこんな形で生徒が発表されています。
こういった様子を見て、パソコン等の情報機器も有効な学習ツールになり得ますが、まずは全ての教室に天吊りのプロジェクターとスクリーンを用意することによって手書きのもの(グラフ含む)でも情報共有したり発表したりすることができるようになるのではないかと感じています。
その一方で、こんな声もありました。「遠い」というのは、教室が5階の一番端にあるということ。「ネットが遅い」というのは、上述の通りGIGAスクール構想で解消されていくでしょう。「レイアウトはいつもグループワーク用にしておいてほしい」というのは、コロナ禍で難しい部分もありました。また、「タブレットPCがもっと欲しい」という声もありました。
それから、表計算や文書の作成やPCの基本操作、あるいはスライド作成やプレゼンの手法などが身についていないところが気になる、という声もありました。
これらのことから、環境面や教育内容の面において、学校全体で情報教育への需要は非常に高いということを感じています。
そういったことを踏まえて、他教科と連携することを考え、このような計画を立ててみました。次期学習指導要領の「情報I」に沿った内容になっています。まず、情報モラルと問題解決を学習し、プレゼン形式でアウトプットをします。そうすることで、問題解決とプレゼンの手法を他の教科でも生かすことができるようになります。
次に、情報デザインを学習する中でコンテンツ制作などを行っていったりすることになると思われます。その中で、コンテンツ制作をするためのテーマの内容は公共で学び、実際のコンテンツ制作・アウトプットは情報Iの中で行います。こういった手法は、数学・英語などでも実践できるはずです。
そして、最後のデータ活用のところでは、ネットワークやセキュリティーも含めた集大成として数学や公共などと連携して発表するという形にしてもいいのかな、と考えています。
ICTの活用で学校全体の「できる」を増やしていく
これから情報教育が進んでいけば、「情報モラル」や「ICT基本操作スキル」、「プログラミング」の基本的なところは小中学校で学習してくることが多くなるはずです。そうなればさらに高度な学びができるようになるので、先ほど私が提案したような内容もやがては変わってくると思います。つまり、情報科というのは、どんどん新しいことができる教科だということです。
今回、教室の環境を整えたことによって、情報科は学習内容もさまざまな工夫ができるし、他教科との懸け橋となることもできるというようなことを感じました。
まだまだフォローすることが多く大変な面もありますが、ICTの活用で学校全体の「できる」を増やしていくことが可能です。これが今の情報科の役割であり、使命であると考えます。
その意味でも、業務の効率化を図って授業内容に関して「“できる”を増やす」ことや、それを他教科に広めることに、注力できるようなっていって欲しいというのが、今の切なる願いです。
[教室の様子は、下記でも紹介されています]
・デスク・チェアについて(サンワサプライ(株)ホームページ)
神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告