令和3年度神奈川県高等学校情報部会研究大会
導入テストの結果報告
神奈川県立住吉高校 山田恭弘先生
神奈川県情報部会が、毎年共通教科「情報」をはじめて履修する生徒を対象に行っている導入テストの結果についてご報告します。
このテストは、高校入学時に知っておいてほしい内容を基準に作成した問題となっています。概要はスライドの通りで、4択式の問題50問を標準40分で解くものです。
今年度は、多くの学校で取り組んでいただき、集計数は3082名になりました。神奈川県だけでなく、東京都の先生方にもご協力いただきました。多くの先生方のご協力のおかげで、導入テストの取り組みが続けられることができたこと、この場を借りてお礼申し上げます。
それでは本題の導入テストの結果報告です。4つの分類で結果をお伝えしたいと思います。
1つ目が、正答率が50%以下の問題。
2つ目が、正答率より誤答率が高かった問題。
3つ目が、正答率が80%以上の問題。
4つ目が、正答率が80%未満の問題です。
※以下、問題と選択肢・解答が掲載されているスライドは掲載いたしません。
全てのスライドはこちらからご覧ください。
http://www.johobukai.net/2021/20210624/20210624_1.pdf
正答率が50%以下の問題 ~知識不足の他に、問題文の読解力も影響するものも
まず、正答率が50%以下の問題は、次のとおりでした。これは、正しく理解している生徒の割合はある程度多いですが、ばらつきがあり、結果的に50%を下回ったものになります。
(7)・(8)の記憶媒体や周辺機器関係については、正しく理解している生徒は4割程度でした。光学式ドライブや、イーサネットハブといった用語の意味について、正しく理解できているかが気になるところです。
(11)の文書処理ソフトの余白、ヘッダー、フッターはどこかを答える問題についても、4割程度の理解でした。誤答も含めると、余白については9割の生徒が理解しているようですが、ヘッダーとフッターについては理解が不十分であることがわかりました。
(32)の著作権法の問題は、AからDの行為について、著作権法に違反するかどうかを判断し、正しい組み合わせを選ぶ問題です。正しい組み合わせを選べた正答率は38.0%でしたが、全て違反するという組み合わせを選んだ生徒が33.7%いました。引用や私的利用のための複製について、正しく理解できていないことがうかがえます。
(36)はHTMLの特徴で間違っているものを選ぶ問題で、正答率は37.0%でした。次に回答が多かったのが、「HTMLとは、ウェブページを作成する言語のことである」であることから、問題の内容とは別に、『間違っているものを選ぶ』という問題文の読解力が影響しているのかもしれません。これについては、昨年度も同様に、間違っているものを選ぶ問題において正答率が低くなることがありましたので、内容からは脱線しますが、重要なことかと思います。
(37)のドメイン名の運営組織を答える問題については、46.2%の正答率でしたが、約3割の生徒は「ne.jp」を、企業・会社と回答しました。
(38)のハイパーリンクの説明で正しいものを選ぶ問題は、正答率は47.6%で、回答のばらつきを見ると、用語として正しく理解してないことが感じられます。
正答率より誤答率が高い問題 ~拡張子の理解不足。アクチュエータの役割もわかっていない
二つ目は、正答率より誤答率が高い問題です。当然ながら、誤答率が高いということは、間違えて理解しているということなので、指導するにあたって十分留意することが必要な内容になるかと思います。
誤答率が高かった問題が下図です。抜粋して紹介します。
(6)はソフトウエア、ハードウエア、基本ソフトウエア、応用ソフトウエアの働きを答える問題ですが、正答率が17.1%で、誤答率が63.5%と最も高かったのは、基本ソフトウエアと応用ソフトウエアを間違えて理解しているものでした。
(9)拗音の入ったローマ字表記を正しく解答できたのは2割でい。ローマ字の入力方法は一通りではないので、この問題だけでは言い切れませんが、日々の授業を通して、生徒がキーボードやローマ字入力に不慣れであることを感じています。
(12)拡張子の意味を理解できたのは3割の生徒でした。こちらも、授業中にファイル名を変更したときに拡張子を消してしまう生徒がいることなどから、拡張子という存在自体を意識してない生徒が多いのではないかと思いますが、この問題はより日常生活に直結しますので、誤答率が高かった問題の中では、最も重要かと思います。
(17)は、情報モラルに関連する行動のうち、正しいものを選ぶ問題です。情報機器の便利な側面とは表裏一体の、情報の扱い方や電磁波の影響まで、授業でしっかり扱うことの重要性を感じさせる結果となりました。正解の選択肢は、『無断で』とあるところで、間違いだと思った生徒が多いのかもしれませんが、リンクを設定することは問題ありませんので、リンクについての理解が不足していることが感じられます。
(33)は、インターネットにおいて、情報の交通整理をする機器がサーバだと思っている生徒が64.1%、『ルータ』と答えられた生徒は、11.7%でした。
光の三原色についても、正しく理解しているのは37.3%で、「赤・青・黄」だと思っている生徒が49.5%いることがわかりました。
(41)電子メールで、TO、CC、BCCを正しく使うことができる生徒は、13.1%でした。7割の生徒は、真逆の選択をすることがわかりました。
(43)は、「ファイルの種類」と「ファイルの種類を識別する文字列」の正しい組み合わせを選ぶものですが、知っている文字列(=拡張子)から推測して回答していると思いますので、拡張子の種類自体を多く知らないということが推測されます。先ほどの別の問題からわかるように、そもそも拡張子という言葉自体を理解していた生徒は3割でしたので、正答率が低くなることは当然のことかと思います。
(48)計測・制御におけるアクチュエータの役割については、中学校技術科で扱う重要な内容だと捉えておりましたので、正答率が19.7%というのは驚きました。後ほど別の問題のときにも触れますが、中学校技術科で扱っている内容の情報収集が、これからも重要になってくるかと思います。
中学技術科との連携、学習状況の把握も、この導入テストの重要な観点ですので、継続して行っていきたいと思います。
正答率が高い問題 ~日常生活に関連したシチュエーションは理解度が高い
正答率が80%以上だったものは下図のとおりです。
(19)~(22)、(25)~(29)のように問題番号が連続していることからもわかるように、「社会と情報」のカテゴリーについては、正答率が高い結果になりました。
(19)の情報の扱いとして正しいものを選ぶ問題では、情報の収集と発信については、情報の信ぴょう性を疑うことや、望ましいコミュニケーションができるという生徒が多いことがわかります。同じく(20)でも、情報の信ぴょう性や、信ぴょう性を確かめる方法についても正しく理解していることがわかります。
(21)セキュリティ対策で正しいものを選ぶ問題でも、セキュリティ対策ソフトや、フィルタリングの重要性、ソフトウエアのアップデートについても、理解していることがうかがえます。
(22)パスワードについても、安全性を高める方法を理解しているようです。また、(25)犯罪を起こしたり、巻き込まれたりしないようにするための行動についても、理解できていることがわかります。この問題のように、犯罪に巻き込まれそうになっても、多くの生徒は正しい行動が取れるだろうと考えられますが、1割は間違った行動を取ってしまうかもしれないというのは、重く捉える必要があるかもしれません。
(27)SNSにおける個人情報の扱いについても、8割以上の生徒は理解していますが、SNSは生徒にとって身近なものであり、高校から新しいコミュニティが広がることも十分考えられます。そのような場合に、正しく理解していないと、個人情報の漏えいや、トラブルに発展する可能性があるため、気を付けて扱う必要がありそうです。この問題は、肖像権や著作権、個人情報が混在していますが、正答率が95.8%であることから、それぞれの特徴や注意点について理解していることがうかがわれます。この問題のように、日常生活におけるシチュエーションに関連したものは正答率が高い傾向にあります。
正解率が80%未満の問題 ~ここでも中学校技術科の内容がが意外にできていない
最後に、正答率が50%以上80%未満の問題は、下図です。ここに分類した問題をどう捉えるかが一番難しいと思います。カテゴリーで考えても、偏りはないようです。この中で、特に正答率が低い問題を取り上げてみたいと思います。
(3)デジタル化されたデータの特徴で適当でないものを選ぶ問題では、正解できなかった約4割の生徒は、デジタル化されたデータは、永久的に消えずに保存されていると誤解していることになります。(1)(2)(3)については、「情報I」でも、教科書の最初の方で取り扱う内容であると思いますので、要点を押さえておきたいところです。
(31)著作権がいつ発生するかについても、正しく理解しているのは54.4%で、授業でしっかりと扱いたいところです。こちらの問題は、実際に実習を通して経験することで正しく理解を促せるのではないかと思います。
(49)は、ある家電の働きが「計測」「判断・処理」「制御」のどれに当てはまるかを答える問題です。きれは、中学技術科の内容を参考に作成した問題ですが、正答率は52.6%でした。もしかしたら私たちが想定している中学技術科の学習内容と、中学技術科で実際に学んでくる内容には差異があるかもしれないと感じています。カリキュラムが新しくなることを踏まえて、中学技術科との連携も重要だと思います。
目に見えないもの・日常生活で意識しない言葉や内容に対する理解は今一つ
総括です。昨年度は、緊急事態宣言による自宅学習などにより、今回ほどのデータは集めることはできませんでしたが、それでも昨年度と今年度を比較しても、大きな変化は見られませんでした。
生徒にとって身近なことや、目に見えるもの、経験があることについては知識の定着が見られます。また、経験から考えたり、予測したりする問題の正答率も高かったです。
一方で、用語、ハードウエア、ツール、コンピューター内部の処理のような目に見えないものや、日常生活で意識しない言葉・内容に対する理解が乏しいことがわかりました。入学時までに身に付いておいてほしい内容についても、理解度はさまざまであり、情報モラルの面で正しい行動が取られてないという面もあったと思います。
令和3年度神奈川県高等学校情報部会研究大会発表より