事例194

情報Ⅰが始まる前に

千葉県立八千代東高校 谷川佳隆先生

神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018 より
神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018 より

課題山積みのまま「情報I」へ?

 

まず本校における実践の背景についてお話します。 私が勤務するのは県立高校のため、さまざまな市町村から異なる環境・経験・内容で学んできた生徒たちが入学してきます。一方、2022年度から始まる「情報Ⅰ」は、現行の「情報の科学」「社会と情報」よりも内容が高度になっていると感じます。また、共通テストに「情報Ⅰ」が入るというニュースも耳にしています。

 

 

他にも本校のコンピュータ教室の入れ替えと、来年の「情報Ⅰ」の開始が同じタイミングと重なったため、どんな環境で「情報Ⅰ」を学べるのかへの不安がある中、「情報Ⅰ」になっても単位数は変わらず2単位なので授業時数は限られています。また、担当するクラス数が多い上に、教員の情報の免許の有無、専任か否か、来年私が「情報Ⅰ」を持てるかどうかも、来年にならないとわからないという状態です。

 

さて、話は変わりますが、高校入学までに小中学生が何を学んでくるのかを調べてみました。

 

小学校では、2020年度から新教育学習指導要領が始まっており、「基本的な操作技術の着実な習得」「プログラミングの体験」などを行うようです。

 


 

中学校では今年2021年度から新学習指導要領が始まっていますが、「計測・制御やコンテンツに関するプログラミングなど」「デジタル情報の活用と情報技術が中心に扱う」ということになっています。言葉だけではよくわかりませんので、具体的な内容については後ほど触れていきたいと思います。

 

新学習指導要領の「情報Ⅰ」の内容はこのようになっています。

赤く表示している文字の部分が重要な内容になってくると思います。

 

 


 

「プログル算数」で統計の基礎を確認する

ここで「プログル」(※1)の活用についてお話します。プログルは、2017年から「みんなのコード」さんが提供している小学校向けのサイトです。

 ※1 https://proguru.jp/

 

このサイトが高校の授業でも活用できるとわかったので、これを使った授業での実践例をお話ししたいと思います。プログルは、リリース当初、算数コースから始まり、現在は理科コースも用意されています。算数には「多角形」「公倍数」「平均値」「最頻値」「中央値」には5つのコースがあります。

 


 

授業では、「平均値」と「中央値」を利用しました。まず平均値は、30個ある卵の重さの合計を出して平均を出すというプログラムを、ブロックでコーディングしていきます。

 

 

小学生でもできるようにスモールステップで進められており、最初は10個、次は30個、次は100個というように、数を増やしながら同じ内容をやっていきます。

 

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次は中央値です。図書室で本を借りた9人の生徒がバラバラに並んでいます。これを右の図のように、借りた冊数順に並び替えできれば、中央の児童が何冊借りたかがわかるという話をします。

 

 

それだけではなかなかイメージがつかめない生徒もいるので、今度は右の図は見せずに左側だけの動画(※2)を作って、左右の人を比べて、今の人が次の人より大きければ右に持っていくことを繰り返すと、一番多い人が一番右にいきます。これを繰り返せば並び替えができること、並び替えたら真ん中の人を探すことで中央値がわかる、という話をします。

※2 プログル中央値コース (proguru.jp)

 

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左下のカメとウサギのバーをスライドさせることで画面のスピードを変えることができますし、毎回ステージクリアするごとにほめてもらえるので、楽しくプログラミングができると思います。

 

プログル算数で学べるのは下図にある通りです。統計の基礎である平均や中央値の意味の理解のほか、ほとんどの生徒は事前に経験済みかもしれませんが、ブロックコーディング学習の体験を共通で行えます。また、生徒にはなかなかハードルが高いソートプログラミングの体験もできます。プログラムを使うことで平均値や中央値が求められるという話もできるため、これを受けて「情報Ⅰ」の統計に関わる内容を2学期、3学期で行えば良いかなと思います。

 

 

「プログル技術」で双方向性のプログラミングを学ぶ

次にご紹介するのは、2020年度から用意された「プログル技術」(※3)です。

 

最初に教員として登録して生徒の人数分のIDを受け取り、生徒にIDとパスワードを配ってログインする形です。

※3 https://middle.proguru.jp/

 


レッスン内容はこちらの5つです。

 

サイトでは、8時間使ってゆっくり教えるという設計で作られていますが、高校では8時間も取れないため、説明を圧縮して、1と2を1日目、3と4を次の日に、という形で進めました。

 


 

こちらがレッスン1の画像です。

 

レッスン1では、チャットプログラミングのデザインを作っていきます。右にある通り、サイズを指定したり文字揃えをしたりして色やデザイン決めていきます。CSS形式で見ることもできます。

 

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ステージが終わるたびに内容を確認して、確認できたら提出します。教員側も誰がどこまで進んだか確認できます。

 

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レッスン2ではサーバと通信をするプログラムを作りますが、細かく解説する時間は取れないため、ここではプログラムを作るという点に特化すことで時間を節約しました。

 

サーバと通信する際に表示される挨拶のメッセージを、時間帯によって変えるプログラムを作ります。

 

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レッスン3では、レッスン1で作ったチャットのデザインを使って文字を送信したり、受信テキストを表示したりします。送信ができたかどうかは、サーバに送られてから表示するようになっています。

 

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レッスン4では、画像の送受信をします。

 

この画面は、ステージ8で画像を受信するプログラムを作る部分です。画面の制限があるため、画像を表示するにはサイズを変えたり、圧縮したりと設定を変えてから受信し、画面に表示します。

 

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これは試しに撮った画面なので表示が少ないのですが、実際の生徒の画面上では、新着メッセージがどんどん受信され表示されていきます。圧縮をかけているので画像のグラデーションが壊れていくのが見てわかりますが、ここでは詳しい説明はせずに生徒がどんどんやることを優先し、困っている生徒は私が助けにいく形をとっています。

 

「情報Ⅰ」で学べる内容の多くが網羅される

プログル技術で学べる内容は、多いと思います。

 

Webページのデザイン、簡単なチャットプログラミング、小規模な情報通信ネットワークの設計、簡単な画像処理、バックグラウンドの情報技術、プログラムの有用性などです。

 


この内容は、「情報Ⅰ」の中で情報デザインや情報デザインの対象とするものという部分に多く関わっているので、中学校の内容とはいえ高校でやってみてもとても良いと思います。来年「情報Ⅰ」が始まっても、この内容はしばらくやっていきたいと思います。

 

 

「情報Ⅰ」を始めるにあたって

小中学校で学んでくる内容を、情報科の教員も生徒も理解していることが大切だと思います。特に、中学校で学んでくる内容は「情報Ⅰ」の内容と重なる部分が多くあるためです。

 

また、この数年は新学習指導要領が始まったばかりということもあり、高校に入学してくる生徒が小中学校で経験してきたプログラミング学習がしっかり揃っていないことが考えられます。ですから、まずはビジュアルコーディングでプログラミング体験を揃えて、その後テキストコーディングを行えれば良いと思います。幸いオンラインでの学習環境がたくさんあるので、それらも有効に活用できればと思っています。

 

 

画像の引用元と参考サイトはこちらです。

 

第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会) オンデマンド発表より