事例214
こんな問題 出題したら こうなった
岡山県立烏城高校 太田重成先生
今回の発表は、私が昨年度岡山県の初任者研修で講師を務めた際に行った「授業作りについての実践発表」からのものです。
このとき私は、「授業作りの三要素」として、「環境」「教材」「考査」を挙げました。つまり、「快適な環境」「工夫された教材」、そして「役に立つ考査」の3つの要素を固めることが重要である、ということです。
今回の発表では、この中の「役に立つ考査」について、私が実際に出題した定期考査の問題をご紹介し、皆様からいろいろな意見いただくことで、私も勉強させていただきたいと思います。
考査問題作成の6つのポイント
私が考査問題作成のポイントとしているのが、こちらの6つです。
今回はこの中の「『深い学び』を実現できる問題」、「実社会(生活)と結び付ける」、「出題意図の明確化」、「他教科との連携を図る」の4つのポイントを押さえた問題をご紹介したいと思います。
問題をご覧になると、実際に生徒たちはどれぐらいの正答率だったのかということが気になられると思いますので、実際に出題した2つの学校の正答率を一緒にご紹介します。
一つの学校、仮にA校とします。こちらは、約5%の生徒が東大・京大に現役合格、約20%の生徒が、いわゆる難関10大学に合格するという、県内でもトップクラスの学校です。
もう一校のB校は、約35%の生徒が国公立大学に合格しますが、難関大はちょっと難しいという学校です。
「深い学び」を実現できる問題
最初の問題がこちらです。平成28年度にB校の「社会と情報」の定期考査で出題をした問題で、上皿天秤用の分銅を作るという設定です。たぶん、生徒たちは「これがなぜ情報の問題なのか?」と思ったと思います。
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これは「最大300gまで、1g刻みで測る」という部分が、実は「300までの整数を2進数で表すためには何桁必要か」という問題と同じことになります。
要は、分銅を乗せるということが2進数の「1」、分銅を乗せないというのが「0」ということです。授業の中で私は、位取り記数法、つまり位取りをして2進数が0と1で成り立っていて、0を掛けたら整数は0、1を掛けたらそのまま残るという性質がある、という話をしていました。この部分の説明が、応用的に頭の中で考えられるかなと思い付いて、「この問題は絶対面白い。絶対受ける!」と思って作問してみました。
正解率は20%から30%前後で、我ながらいい問題を作ったなあ、と思っていたのですが、ネットで検索してみましたら、平成25年度の東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の入学試験問題に出題されておりました。オリジナルのいい問題を作ったなあ、とちょっと鼻高々でしたが、残念でした(笑)。
続いて、平成26年度にA校で「情報の科学」の定期考査で出題した問題です。
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いわゆるXOR(排他的論理和)を使って論理回路を作るという問題です。授業の中では、AND、OR、NOT回路しか説明をしておりませんでした。これらを丸暗記で覚えるのでなく、その考え方をきちんと応用できるか、ということと、論理回路の理解がきちんとできているかを問うために出題しました。大体、正答率が60%から75%ということで、なかなかやるなあ、と私も感心した問題でした。
実社会(生活)と結びつける問題
こちらは平成29年度にB校の「社会と情報」で出題した問題です。
皆さんは、この問題をぱっと見たらすぐに解けると思いますが、実はこの問題の正答率は16%でした。特に難しい内容でもないですし、基本的な知識さえ押さえていれば解ける問題でしたが、ちょうどこの頃他教科、特に理科から「生徒たちが単位の変換がなかなかできない」という話を聞きつけまして、情報でそういった問題を出題したらどうなるかな、と思って出題してみましたら、本当に散々な結果になった、という問題でした。
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これを出題した後で、生徒たちに、「YouTubeで動画ばかり見ていると、すぐこれぐらいになって通信制限がかかるんだよ。動画を見るのなら、自分の必要な動画をよく考えて見ろよ」と、生活指導もしておりました。今は非常に大容量だったり、YouTube無制限といったプランもあるので、こういった話題は使えませんが、当時はこういった形で、授業の中で生活指導の話までしていました。
続いて、平成27年度にA校で出題した問題です。3学期の期末考査は、大体2月中旬に行います。問題で使っている記事の日付からわかるように、その2、3か月前に出たばかりの、非常に新しい知的財産権の事例を使って出題しました。
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ニュースで紹介されている事例が、実際に知的財産権の中のどの権利に当たるかということを問う問題でしたが、正答率は50%から70%でした。この問題は、生徒たちに、知識を持っていると、いろいろなニュースや記事をより深く見ることができるという面白さを実感してもらいたくて、出題してみました。
こちらは平成25年度にA校で出題した問題です。
出題の内容としては、いわゆるシステムのフォールトアボイダンス【fault avoidance】やフールプルーフ【fool proof】の考え方をどのように出題するのがよいか、考えてみました。
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こういった専門知識、特に情報に関わるものは、実生活に結びついているものが非常に多いと思うので、それを生徒たちに知ってもらいたい、わかってもらいたい。専門的な知識として覚えるのでなく、そういった面白さを感じてもらいたいという思いで、この問題を出題してみました。
正答率は85%から98%で、非常に良くできていましたし、生徒も「面白かった」と言っていて、生徒からの評判も非常に良かった問題です。
そしてこちらが、平成29年度にB校で出題した問題です。過去に、人気ゲームのドラクエ(ドラゴンクエスト)のバグがありました。カジノで一定数以上のコインを買おうとすると、いわゆるビットの桁あふれが起こって、通常よりも安い値段で買えてしまう、というバグです。
このバグを論理的に考える問題を作ってみました。正答率は57%。生徒たちはやはりゲームが好きなので、自分たちがやっているゲームに実際に起きた不思議なことを、なぜそれが起きたのかということと結び付けてみると、非常に面白いのです。
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例えば、「どうしてこれの最大値って255なのか」とか、「何でここの最大値が6万5535なんですか」といったことが授業で学んだことと結びつくと、「やっぱり面白いな」と思ってもらえるので、こういったことを考える出題をしてみました。
問2などは、実際のゲームに合わせて「何ゴールドですか」という聞き方をしているので、試験監督の先生からも「これ、おもしろいですね」と言っていただけて、なかなか好評な問題でした。
出題意図を明確化する
次は、平成29年度にB校の年次末考査で出題した問題です。私は定期考査はマークシートで実施しているので、いわゆる間違った選択肢に何をいれるか、ということもよく考えました。
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この問題に関しては、位取りを間違った場合、1、2、4、8ではなくて、2、4、8、16とか、2、4、6、8、10とか取ったりしている生徒がどれぐらいいるのか、ということを読み取りたくて、出題しました。そして、誤答を分析して、間違った生徒にはフォローをしていく、そういった出題意図です。正解率は80%から90%と非常に良くできていた問題でした。
目指すべき授業づくりのために
こういった考査問題で私が常に心掛けてきたのは、独自問題、長文問題で知識を補充すること。実社会や実生活で知識の活用を提示すること。選択肢にも出題意図を持たせること。そして、生徒の進路を意識した出題であること、ということです。ですので、どうしてもボリュームが大きくなり、最大で試験問題が20ページくらいになったことがあります。
一部の学校では、「試験問題の配布が大変なので、問題用紙は2枚までにしてください」といった制限をしているところもありますが、私の学校にはステープル止めできる高速印刷機がありましたので、それを使って休日に2、3時間かけて、大学入学共通テストの冊子によく似た問題冊子を作り、定期考査で使っていました。
これが、生徒の進路を意識した、将来の大学入学共通テストに向けた問題、ということになります。
初任者研修の際に、「役に立つ考査」としてこのようなお話をいたしました。
そして、最後にまとめとして、目指すべき授業づくりのために、「意識」「型」「オリジナル」、そして「信頼」「経験」をつくり、常に最高と最新を求めてもらいたい、ということを語りかけました。
私自身も常に最新のいろいろな知識や指導法を求めて、この実践事例報告会の中でもたくさん勉強させていただいています。
これからもいろいろな授業実践をして、こういった場で皆さんにご紹介できたらと思っております。
神奈川県高等学校教科研究会情報部会情報科実践事例報告会2021オンライン オンデマンド発表より