事例219

3年目の「情報Ⅰ」型授業

東京都立立川高校 佐藤義弘先生

ご本人提供
ご本人提供

私は現在東京都立立川高校の情報科の指導教諭をしています。「情報科」という教科ができてからずっと情報科を担当しており、18年目になります。その前には、15年間数学の教員をしていました。

 

今回の学習指導要領の改訂もお手伝いさせていただき、教科書や副教材の作成にも関わらせていただいています。

 

今日は、私がこれまで3年間「情報Ⅰ」型授業というものを行ってきて、ヒントとして得られたこと、そしてよりよい「情報Ⅰ」のために、ということで授業の提案をさせていただきたいと思います。

 

 

3年間の「情報I」型授業を通した授業のヒント

 

2019年度から3年間、「情報I」型の授業をやってみましたが、今の段階では、現行の学習指導要領ですから、授業の内容としては「情報の科学」をやらなければなりません。

 

しかし、そこに『情報デザイン』と『データの活用』、そして『プログラミング』をちょっと手厚くすれば「情報Ⅰ」型になるのではないかと考えて、「情報の科学」をベースとした授業を行いました。

 

この授業を始めた2019年度と今年度(2021年)は、「情報Ⅰ」の学習指導要領の順に学習していく形で授業を進めました。授業の中身の計画については、東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)で提案されていた、ミニマムプラン(※1)に沿って行いました。

 

 ※1「情報Ⅰやってみた〜悪戦苦闘の実践報告〜」

神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2019

 

 

2020年度は、新型コロナの影響で急にオンライン授業が続いてしまったこともあり、学習者のことを考えると、教科書のページがあちこち行ったり来たりするのはやりにくかろうということで、「情報の科学」の順序に沿った形で、中身は「情報デザイン」や「データの活用」を追加した形で行いました。

 

こちらは2019年と2021年の授業の年間計画です。ご覧になっておわかりのように、ほぼ「情報I」の学習指導要領の内容が並んでいます。

 

 

「情報I」の授業のヒント~実践を通してわかったことから

 

実践を通してわかったことから、幾つかお話をしていきます。まず、ふつう教科書は学習指導要領の順番に作られていますが(一部あえて順番を変えているものもありますが)、「情報I」については、学習指導要領の順に行うのが、メリットが多いのではないかと思います。

 

学習指導要領では、「問題解決」が最初にあります。ここを最初に行うことの意味として、例えば公立高校では生徒はいろいろな中学校から入学してきます。そうすると、中学校で技術家庭科の技術分野の授業で、何をどのくらいやって来たかということの差が非常に大きいです。

 

「情報I」の学習指導要領の第1章での「問題解決」は、コンピュータを一人1台使って何かをやっていくわけではなく、グループの中にコンピュータが1台あれば十分活動ができるので、中学校までのスキルや知識の差が出にくいです。

 そして、グループ内で自然にコンピュータ利用が進んでいくとき、得意な子がちゃちゃっと操作するのを周りが見ていて、「ああ、こう使うんだ」ということが学べるという、学び合い・教え合いが生まれてきます。

 

また、「課題解決型の学習」は、他の教科でも使われる部分が非常に多いので、「情報」の時間に問題解決の手法や知識・スキルを学んでおくと、他の教科でも使うことができます。

 それによって、生徒たちに「『情報』という教科は役に立つんだな」というイメージをうまく植え付けられると思います。

 

ただ、この第1章の「問題解決」については、導入としてさらっとやっておいて、別の機会にもう一度、今度は問題解決を軸にした形できちんと行うことが必要であると思います。ここで力を入れ過ぎると意外に時間を取ってしまうので、全体の授業がなかなかうまく進まなくなるという恐れもなくはないです。

 

 

学び方としては、講義型を減らして、どんどんアクティビティ(実習)を取り入れていく、アクティブ・ラーニング(風)の授業が適していると思います。

 

厳密な意味でのアクティブ・ラーニングと言えるほどの細かい設定はしていませんが、「主体的・対話的で深い学び」につながるように、ブレーンライティングやグループディスカッション、口頭発表などを通して、何か取り入れたことをアウトプットする場面を作り、深い学びを目指していこうと考えています。

 

「総合的な学習の時間」は、新課程では「総合的な探究の時間」に変わりますが、これを「情報Ⅰ」の実習時間だと思ってもらえるような作りを、授業の中に仕込んでいくことも大事だと思います。

 探究で必要な問題解決の考え方やパソコンスキルといったことは事前に察知しておき、そろそろこういうことをやるのだろうなと思ったら、「情報」の授業の中で扱っておくとよいかなと考えています。

 

そうすると、「情報」で学んだ考え方やスキルが探究で活用できることになり、これによって、生徒たちはまた「あ、やっぱり『情報』は役に立つんだ」と思うことになります。他の先生方からも、「生徒はこう言ったら、すぐできるんだね」とよく言われますが。それは事前に「情報」の授業の中で教えてあるからです。そうすることが、学校の中での「情報」の地位向上にも役に立つところがあります。

 

 

プログラミングの指導で何を目指すか

 

次は新しい学習指導要領でよく話題になるプログラミングです。学習指導要領の領域で言えば、4つの領域が3つずつに分かれていますから、全部で12。プログラミングはそのうちの1つの項目ですから、12分の1でしかありません。

 

ただ、プログラミングにはどうしても時間をかけざるを得ないところがあって、総枠では10時間弱くらいは必要です。しかし、その程度ではなかなかプログラミングを書けるようにはならない、というのが正直なところです。

 

これは、今後小学校や中学校の授業での実践が進んできて、全体のレベルが底上げされれば変わってくるかもしれませんが、現時点では、全員がゼロからのスタートで「はい、プログラムを書いてください」と言っても、全く書けない生徒もたくさん出てくると思われます。

 

オンラインのプログラミング教材も、無償でいろいろ提供していただいて、本当に大変ありがたいと思っていますが、こういったものは夏休みの課題として使っています。これらは、大体がシナリオに沿って、何かを作るという設定で、ヒント付きの穴埋め形式になっています。生徒は、こういった形式の問題を解けるようにはなりますが、なかなかプログラムを書けるようにはなりません。

 

ただ、一方でプログラミングができる生徒は圧倒的にできて、私より得意な生徒はたくさんいます。そうすると、易しい課題だけでは、すぐに終わってしまう場合が出てきてしまいます。ですので、伸びしろのある生徒のためにレベルの高い教材を作っておいて、ふつうの生徒がレベル5までを目標にするなら、よくできる生徒はレベル10まで、それができた人は教室内を回って他の人を教えてあげてよいこととして、実際レベル15くらいまでを用意しておく、という構造にしておくとよいかなと思っています。

 

生徒のレベルの底上げをするためには、1回やって終わりのオンライン教材も大事ですが、オンラインドリルのように、同一レベルのものを何回も繰り返して定着を図るスタイルのものがあった方がよいのかなとも思います。

 

 

プログラミング言語は何を使う? 程度感は? 

 

プログラミング言語は何がよいかということについては、Pythonはやはり指導しやすいです。エラーメッセージが(英語ではありますが)丁寧に出るので、ペアワークなどで生徒の支え合いや教え合いができます。

 

また、先生方にとってのメリットは、指導すればするほど、典型的なエラーのパターンが見つかって、蓄積できることです。皆さんにも経験があると思いますが、プログラムを書かせていると、いろいろなクラスで必ず同じようなエラーが出てきます。

 

そうすると、指導する側のスキルも上がって、エラー発見が早くなります。Pythonは遠目に見てもエラーの部分がわかりやすいので、生徒の肩越しに見て、「ああ、やっぱりエラーが出ちゃったね。だったら、ここからこう直そう」という指導ができますし、生徒たち自身もだんだん慣れてきます。

 

 

プログラムの程度感としては、順次・分岐・反復の3つの制御構造を理解して、それらの組み合わせが書けることは必須です。レベル感としては、素数かどうか判定するプログラム、それから、ある数までの素数を表示するプログラム程度であれば、3つの制御構造の組み合わせになりますので、ちょうどよいのかなと思いますが、なかなかこれが書けるようにはならないですね。

 

本当は、関数なども作ってできるようにしたいところですが、関数を作るほど長いプログラムではないので、中に組んでしまっても同じ、という程度しかならないというのが、実際のところです。

 

 

「モデル化とシミュレーション」ではExcelとPythonを併用。PowerPointでシミュレーションの演習も

 

「モデル化とシミュレーション」では、確率的モデルと確定的モデルをやりました。両方ともExcelとPythonで全く同じ実習ができるものを用意しておいて、ExcelとPythonのどちらかをやってくださいね、という形で行いました。

 

そして、早く終わった人は、残っている方をやってもらって、プログラミングとExcelのそれぞれの良さを認識できるようにしました。

 

また、部屋のレイアウトのシミュレーションをPowerPointで行いました。これはもう鉄板ネタと言ってもよい題材だと思います。PowerPointは、サイズを正確に縮小できるという特徴がありますので、図形機能の使い方を学ぶことができます。

 

 

データの扱い、情報デザインの授業の工夫

 

「データの活用」では、数学で理論をやってもらってから、「情報」で活用するというのがよいと思います。「情報」を先にやってしまうと、生徒は数学で分散や偏差を手で計算するのが面倒だ、と言い出しかねません。

 

数学できちんと学んだからこそ、コンピュータでぱっと出るのがありがたい、と実感するためには、順番を間違えないよう、数学科と連携して授業をする必要があると思います。

 

ここでは、js-STAR(※2)というツールを活用しています。スライドに挙げたのは、正確2項検定/フィッシャーの正確検定ですね。この程度までできればよいかと考えています。

 

 ※2 https://www.kisnet.or.jp/nappa/software/star8/index.htm

 

 

情報デザインについては、何を教えたらよいのか、わかりにくい部分があると思いますが、私は生徒たちに、「情報デザイン」という視点を持たせる、と考えていけばよいと思っています。そういった視点を与えると、生徒たちもふだん見ていたものが違って見えてくるようで、「先生、あれは情報デザインが生かされてるんですね」と急に言い出したりもします。

 

 

よりよい「情報Ⅰ」のために

 

よりよい「情報Ⅰ」のために、ということについて言えば、毎回、授業の目標を最初に明示することであると思います。明示するということは、その目標は達成できなければならないので、毎授業、予定している内容はきちんと終わらせなければなりません。

 

授業をする側としては、想定外のトラブルもあったりするので、難しいところではありますが、この点を頑張るというのが、大事であると思います。

 

そして、毎授業で振り返りをさせます。GoogleFormやFormsなどを使えば、アンケートを容易に取ることができ、生徒がどのようにとらえていたかという様子がよくわかると思います。

 

ここで取った生徒の感想などから、授業の進度や難易度が適切かどうかを考えます。内容によっては、生徒が得意な場合もありますから、そういったところで生徒が活躍できる場面を作っておくのもよいかなと思います。

 

生徒は「情報I」を十分学べます。ですから、もし先生方が、「情報Ⅰ」に自信がないと思っても、「これ、やってごらん」と言えば足りることなのかなと思っています。勇気を持って、生徒を信じてやってみたらいかがでしょうか。

 

第84回情報処理学会全国大会 イベント企画 「初等中等教員研究発表セッション」 講演より