事例227

教員南極派遣プログラムにおける情報科教育の可能性

日出学園中学校・高等学校 武善紀之先生

まず自己紹介です。私は千葉県市川市にある私立日出学園中学校・高等学校で情報科の教員をしています。また、情報に加えて、年度により数学や公民、技術も担当しております。「情報Ⅰ」に関しては教科書の編集にも携わらせていただきました。

 

今までの私の実績はwebページにまとめていますので、こちらもよろしければご覧ください。

 

スライドに「好きなもの ○○○○」とありますが、これはこのあとすぐ明らかになります。

 

[武善先生のwebページはこちら]

 

突然ですが、私は昨年の11月から今年の3月にかけて南極に行ってきました。こちらは南極昭和基地で撮影した写真で、iPhoneではちゃんとGPSデータを拾って「南極大陸」という文字、そして南極のマップ上に画像が打たれています。

 

 

これはもちろん旅行で行ったというわけではなく、南極からZoomで授業をするという、あるプロジェクトの一環で行ったものです。

 

 

本日は、このプロジェクトである「教員南極派遣プログラム」のお話、そして南極のお話を少しして、このためにどのような準備をしたか、どんな授業をしたのかというところを紹介したいと思います。

 

情報科の人間として話す機会はなかなかないので、今回は教員、特に情報科の視点でどのような教材や授業を作ったか、というレシピ集のようなものもお見せしたいと思います。

 

教員南極派遣プログラムとは

 

まず、私が南極に行くことができた「教員南極派遣プログラム」という制度の話をします。

 

これは国立極地研究所(極地研)と日本極地研究振興会が共同主催する2009年から続いているプロジェクトで、極地の科学や観測に興味を持つ現職教員を南極昭和基地に派遣する、というものです。

 

教員は日本南極地域観測隊(JARE)に同行し、衛星回線を利用した「南極授業」を行います。これは観測隊の広報活動の一環でもあります。このスライドの写真も、南極で私が撮ったものです。

 

 

派遣予定人数は2名で、例年10月下旬から1月上旬までが募集期間ですので、間も無く次々隊の募集が始まることになります。

 

おそらく、皆さんの学校にも毎年、公募の書類は毎年届いていると思われます。また、極地研のウェブページにも、かなり詳細な応募状況が公開されています。

 

[教員南極派遣プログラム]

 

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しかし、私がこのプロジェクトを知ったのは、公募書類ではなく、大好きなペンギンがきっかけでした。趣味は全国のペンギンに会いに行くことで、過去には生徒が、「三度の飯よりペンギンが好き」と私の似顔絵を描いてくれました。全高情研和歌山大会のときは、もちろんアドベンチャーワールドにも行きました。

 

そんな私が毎年欠かさず参加しているイベントに、ペンギンに関する学習大会「ペンギン会議」があります。このイベントが、教員派遣プログラムとの出会いとなりました。ある講演の中で、過去の南極観測隊の方が、「例えば学校教員の方であれば、教員派遣という制度で南極に行くことができますよ」と質疑応答の中でおっしゃったのです。これが全てのきっかけとなりました。

 

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私がたどったスケジュールです。2019年12月に応募、年明けすぐに選考があり、有難いことに初応募で候補者内定をいただくことができました。しかし、ちょうどコロナ禍の緊急事態宣言のタイミングとぶつかり、ここで1回派遣が見送りになりました。今回の参加は、そこからのスライドです。今年は多くの隊員が、2年越しの思いで南極に行ったということになります。

 

1次の書類審査では南極に関する授業案を2本提出する必要があり、私はかなり情報科に寄せた授業案を提出しました。その後の2次審査では、歴代の隊長・副隊長経験者の方々と面接があります。今までの派遣者の多くは理科の先生で、情報科の教員は私が初とのことでした。

 

また、観測隊候補者は原則全員、「冬期総合訓練」というものに参加する必要があります。この訓練では雪上歩行だったり、ルート工作だったり、クレバスの脱出訓練で木登りしたりと様々な訓練が実施されます。私は、この訓練にも2度参加することができ、かなり稀有な例になれたのかなと思っています。

 

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(ほんの少しだけ)観測隊・南極の話

 

ここからは、ほんの少しだけ観測隊と南極の話をします。

 

観測隊は、南極観測船「しらせ」で南極に向かいます。しらせは、11月10日に日本を出発、大体40日程度かけて現地へ向かい、12月末頃に現地に到着します。「しらせ」の運航は海上自衛隊に任されており、船内の食事も自衛隊の方が作ってくださいます。毎週金曜日はしらせカレーが出ていました。

 

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「しらせ」が南極と日本を往復するのは、年に一度だけです。南半球にある南極は、日本と季節が逆になり、日本の冬の時期に夏となります。夏の間は南極の氷も薄くなり、この期間を利用して、「しらせ」は11月に南極へ行き、翌年2、3月に戻ってくる、といったスケジュールで運航しているのです。1年に1度きりの往復なので、随分と前から準備を重ねます。

 

また、派遣教員も含む夏隊は、翌年3月には戻ってきますが、越冬隊の方々は、基地を維持するために南極に残ります。まさに今も、私たちと一緒に行った方が昭和基地に残られています。そして、今年の11月に次の船が迎えに行って、その船に乗って来年帰って来る、というのが観測隊のスケジュールです。

 

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観測隊の船に乗っている気分になっていただくために、道中の動画を少しご覧いただきます。

 

 

荒波を越えたり、氷を割ったりしながら南極に向かいますが、道中は先ほどのスライドのような氷山が見られたり、白夜になったり、オーロラが見られたりしました。それからペンギンにもたくさん会えて、非常に有意義な経験ができたと思います。

 

続いて南極について。皆さんは南極というと、どのようなイメージがあるでしょう。昭和基地に着くと、目の前には土ぼこりが舞う茶色い大地が広がっていました。これはイメージと随分異なるのではないでしょうか。まるで工事現場のような光景です。

 

もちろん、冬の間はここにも雪や氷が積もりますが、夏の間は平均気温が1、2度まで上がる日もあります。また、紫外線が強いので、とにかくサングラスをかけていないとつらいです。

 

この夏の間に、昭和基地の建物の修繕や新しい観測の準備を集中的に行うので、私もいきなり授業準備をするというよりは、まずは基地支援でトラックを運転したり、建物を解体したり、除雪作業を手伝ったり、といったことが続きました。たまに出てきてくれるペンギンが癒やしでした。

 

また、昭和基地でもインターネットが常時使えます。ただ、計測できるときでも18Kbps程度で、日本のように使うというには難しい環境でした。

 

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南極の野外には、まさにイメージどおりの場所もあります。ヘリコプターで移動するのですが、露岩帯といって岩がごつごつ露出している場所もあれば、雪や氷の世界もあります。そして、念願だったペンギンの繁殖地(ルッカリー)に行くこともできました。

 

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こういった経験をしながら授業を作り上げたのですが、南極の話をあと一つ。

 

この写真で、ペンギンがどこにいるか、わかりますでしょうか。この矢印のあたりです。写真集などでは、こういった引きの絵ではなく、アップのペンギンが写っていますが、自然界にいる動物はだいたいこんな感じです。見渡す限り何にもない所にぽつんといるというのが多いです。この感覚は「ポケモンGO」に近くて、あれはバーチャルの世界としてよくできているのだなということを、南極で改めて実感することができました。

 

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ここからが“教員派遣”の話~国内準備・事前授業

 

次に、いよいよ南極授業の話をしていきたいと思います。僕の南極授業のコンセプトは、まず「技術」でした。情報科と南極観測の絡みについて、情報科の先生方は、何となくイメージがつくことと思います。ただ、情報科以外の方々宛てには、こんな説明をよくしていました。

 

こちらは全て今回私が南極で撮影した写真です。理科的な、自然のイメージに溢れています。

 

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しかし、これもまた全て私が南極で撮影した写真です。我々は情報科でプログラミングやデータサイエンス、ネットワークといった技術を教えますが、実は、南極で自然を観測するとき、人間は必ずこのような技術を使います。プログラミングで観測装置を作ったり、採取したデータをデータ分析技術で調べたり、といったことが毎日のように行われています。また、南極という過酷な環境で生き抜くためにも、技術を使います。

 

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情報科はこの技術を扱う教科であり、ある意味であらゆる教科の中で、もっとも南極観測に関わりの深い教科であるとも言えるのです。

 

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技術に加えて「共感」と「身近」を授業の軸に

 

もう1つ大事にしたコンセプトとして、高校の教員としての実感を含みました。「技術」が「何を」の部分に当たるならば、こちらは「どのように」に当たります。

 

高校生は、小学生と比べると、どうしても現実を見つめて、冷めたところがあるように思います。南極観測をテーマにした『宇宙よりも遠い場所』というアニメにも、高校生の様子がうまく描かれていました。「子どもの頃は憧れていたけど」とか「それって頭のいい人たちの話だよね」というように、面白い話題であっても、自分ごとには捉えられなくなってしまうのですね。

 

これがちょっともったいないな、と思っていて、観測隊員が「すごそうな人」から「自分の将来像」になる(共感)、南極が「遠いところ」から「身近なところ」になる(身近)ということに今回はこだわってみました。

 

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「技術」「共感」「身近」の3軸による事前準備

 

当日の授業の前に、現地派遣前の準備として、「技術」「共感」「身近」の3軸をもとに、行った授業準備を3つ紹介します。

 

 

1つ目の準備は「自作環境計測装置の作成&事前授業」です。「観測隊に共感できる体験」を提供するため、環境計測装置の作成を、2学期の授業時間を使って行いました。南極で装置が不調になったときは、自分で直すしかありません。つまり、南極に行く研究者は、皆がエンジニアでもあります。計測の体験ではなく、計測装置を設計する段階から体験する、という授業にしてみました。

 

具体的には、micro:bitを使って、接続したmicroSDに明るさや温度、湿度、気圧を記録する環境計測装置を作成しました。完成作品は実際に南極へ持って行って、環境計測にも使いました。計測センサとしてはBME280をmicro:bitにつなぎましたが、拡張機能ブロックがmakecodeに用意されているので、ブロックだけで全てのプログラムを組み上げることができます。

 

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また、非常にニッチな話ですが、授業実践としてはこういうものも役に立つかと思います。作成した装置の構成です。

 

単純な装置ですが、困ったことはいくつかあります。例えば消費電力が少な過ぎて、モバイルバッテリーが切れてしまうことがその一つです。これはいろいろ試して、最終的にはIoT用のモバブーを使いました。また、micro:bitのV2は自動省電力モードに入ってしまって復帰しないので、これはたくさん買っていたV1を活用することで逃げ切りました。ただ、V2は今標準でデータロガーモードがあるようなので、今後作る場合はそちらを活用していくことになると思います。

 

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このような仕組みを使って、1時間目は4人1組(配線、組み立て担当2人とプログラムを書く担当2人)で装置を作って、学校のあちこちに設置してデータを収集する、ということをやってみました。このデータを取り出して、後日Excelで解析してみると、明るさなどは非常にわかりやすく、朝と夜の差も明確に出ます。

 

ただ、これが短時間の測定だと、生徒たちは「ふうん」で終わってしまいます。そこがミソで、「ではこれを長期的に取ると何が起こるか」ということで、気象庁のwebページから気象データを取ってきて、気温の変化の分析をやってみました。50年分の計測データを使ってグラフを書いて、回帰分析をして、将来の予測をしてみたりしたのですが、まさにこれが、南極で気象観測を長期間続けていることの意義そのものなのです。

 

実際、現地でも同じようなことが行われています。現地では、スライドにある「おんどとり」という装置が、南極の露岩のあちこちに隠れて設置してあります。右下の写真は、ペンギンのルッカリーのそばに設置されていたものを回収している様子ですが、岩の間に入ったおんどとりを取り出して、中のデータをパソコンに移して、また元の場所に戻すという感じで、置き型の観測装置がリアルに使われていた場面でした。

 

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ここでコラム的なお話をすると、気象庁のウェブページの「過去の気象データ」には、都道府県と並んで「昭和基地」というのがぽつんとあります。

 

63次隊でも、越冬隊31名のうち5名は気象庁から来ていて、実は気象観測というのは南極観測の中でもかなり重要な部分を占めています。

 

[気象庁 過去の気象データ]

 

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また、ちょうどこの年は中学2年生の総合学習の授業を持っていたので、その中で「南極を体験する」ということで、micro:bitの無線機能を使った計測の体験を1時間だけ行いました。

 

左上の丸いものはラジオゾンデといって、南極で気球を飛ばして、上空の気温や湿度といった観測データを取って、地上に電波で送るという観測装置です(国内でも使われています)。

 

無線でデータを送り続ける装置を体験するために、2人一組で、micro:bitの温度センサ機能を使って、冷凍庫に設置したmicro:bitの温度変化をパソコンで受け取るという実験をやってみました。これは構成が単純ですし、中学2年生で反応が良かったというのもあったかもしれませんが、右上に書いてあるように、先ほど紹介した実践以上に多くの疑問が生徒たちから出てきました。

 

これらはまさに、南極で多くの隊員が試行錯誤して取り組んでいることです。いい疑問をたくさん持ってくれたかな、と思います。

 

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2つめの準備は「日本―南極IoT実験」です。これは、インターネットを身近に感じる教材として、いわゆるIoTを試そう、ということでやってみました。

 

外出先などから、遠隔で家にあるAlexaのような装置を動かす仕組みですね。実際に日本と南極という距離でもできるはず、ということでやってみました。

 

日本側で、「Alexa、南極の電気つけて」と言うと、南極のAlexaが「はい」と言って実際に電気が点く、ということをやってみたのです。南極側と学校の会場にカーテン・TV・照明・ディスプレイを置いて、双方向で操作しました。

 

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当日、学校の会場もけっこう盛り上がって、これはよかったなと思っています。日本に帰ってきてからも、学校のパソコン室にAlexaを設置して照明やエアコンを操作しているんですが、生徒の受けも良いです。

 

実際この装置を作るときも、構成は単純ですが、何せ行ったこともない場所で動かさなければいけないので、ネットワークが実際に通るか、あるいはどの構成が一番安全か、予備策をどうするか、といったことを、ポンチ絵を描いたりしながら考えました。

 

南極のインフラを支える通信技術

 

この南極授業は、LAN・インテルサットという隊員の方にかなり協力をいただきました。

 

ここで南極観測隊の構成のお話をします。皆さんは、観測隊というと当然研究者の方がたくさん行くイメージがあると思いますが、実は構成員の半分ぐらいは「設営」というインフラを支える方々で構成されています。

 

 

昭和基地は水・電気・料理・車輛管理と、あらゆる業種のスペシャリストが1人ずつ集まっているような環境です。これは全てのインフラを現地にいる隊員だけで回さないといけないためで、「昭和基地は、1つの街」とも言われます。

 

当然、通信も重要なインフラの1つです。昭和基地でのインターネット通信には、インテルサットという人工衛星を使いますが、この日本側の窓口がKDDIの山口衛星通信所となっています。その関係でKDDIの方が毎年1名来てくださっています。南極授業の動画で私の隣に立っている方がKDDIから来られた方で、一緒に授業作りも協力してくださいました。

 

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この関係で、夏休みの間に南極や通信に関する取材もいろいろ行いました。実際に山口衛星通信所を訪問して、一緒に訓練に参加させてもいただきました。南極からの電波を受け取るアンテナ(左側の丸いもの)の写真を撮ることもできて、情報科的な楽しい経験でした。

 

また、KDDIは東京にKDDI MUSEUM(※)という通信の博物館を持っています。これは情報科の先生方にぜひお薦めしたい所で、ものすごく楽しいです。

 

※ https://www.kddi.com/museum/

 

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さて、最後に3つ目の準備として「南極クラブの立ち上げ」を行いました。情報と関係のないところでも、南極を身近に共感できるものにするために、学校内に有志生徒で構成される南極クラブを立ち上げました。この生徒たちと行ったのが「日本南極交換日記」です。校内SNSのClassiに全校のグループをつくって、この南極クラブの生徒たちと私の間で、毎日当番を決めて交換日記をしました。私からは、写真を載せて「南極ではこうこうだよ」、生徒たちは「日本では今、期末試験です」といったやりとりをしたのですが、やはり双方向のやりとりはいいものだな、と思いました。今も生徒たちとけっこう日記の話をしています。南極クラブの中の更に有志の生徒たちには、私の南極授業の前に、プレ南極授業も行ってもらいました。

 

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準備の最後に、余談です。なぜ気象観測や通信をテーマにしたかと言いますと、実はもともとは、ペンギンの体にロガーを付けて海の中での行動を調べる研究、バイオロギングを詳細に扱おうと考えていました。このために、学校のうさぎにmicro:bitを巻き付け、動作試験もしていたのですが、今回は生物系の研究者が不在ということで、3月下旬に路線変更する必要が出てきました。その結果が、気象観測と通信テーマです。後になってみると、「つなぐ」というテーマで、通信はよい選択だったかなと思っています。

 

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情報科教員だからこその南極授業をやってみた

 

最後に、南極授業の話をします。南極授業は、1月29日と2月2日の2回、日本と南極をつないで行いました。当時はちょうどまたコロナの感染状況が思わしくない時期だったので、YouTubeでライブ中継を行って、スマホからSlidoで質問やコメントをする、というハイブリッド型の授業を作ってみました。この動画もYouTubeで見られますので、よろしければぜひご覧ください。

 

[南極授業(外部授業)]

 

[南極授業(内部授業)]

 

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授業作りの環境はなかなか厳しいものがありました。空き時間もないし、作業場所もないし、インターネットも使えない。たまにブリザードで行動制限がかかるときもありました。自分の予定が崩れる分には自己くなったり、出演していただく予定の方が出られなくなったりということが、前日まで、機材の変更に至っては1時間前まであったりして、この辺りがなかなか大変でした。

 

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ただ、その中でもやはり一番頑張る必要があったと思うのが、授業設計です。南極は、実際何を題材にしても面白いですし、魅力的な切り口がいっぱいあります。しかし、教員がわざわざ南極まで行って授業する意味とは何か、と考えてみるとこれがなかなか難しいのです。越冬隊員は自分の母校に対して「南極教室」といって、南極授業のようなことを通念でやっていますし、極地研も文科省管轄ということもあり、GIGAスクールとのコラボでGoogleフォームを使ったクイズ型の授業のようなものを既にやっています。

 

 

そこでいろいろな言葉をいただきながら、「南極授業は、『授業』というより一つの『作品』だ」という感覚で授業を作ることにしました。自分が現地で一番楽しかったことは何だろう、と思うと、やはり情報科っぽいところだったのですね。いろいろなガジェットをたくさん試してみたり、試行錯誤してみたりする経験をそのまま授業で伝えたい、と思って、「おもちゃ箱」のような時間を作ろう、というのが授業のコンセプトになりました。

 

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授業の流れとしては、まず南極についての話をしてから、「いよいよ情報科らしい南極授業だよ」ということで、昭和基地を題材にし、「目に見えない設備」として「通信」を紹介しながら、先ほどのIoT実験をしてみました。

 

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ただ、この実験で実際にカーテンなどが動いても、「だから何?」という感じになるので、さらに無線通信を使うことによって、遠隔のデータを取って来たり、また遠くの装置に命令をしたりすることで成立している観測もある、ということを紹介しました。

 

実際、自分はスイッチサイエンス(※)の作例をモデルにしながら、南極の気象データをクラウドに送る装置も作って現地に持っていきました。実物を交えながら、こういった観測が南極でもたくさん行われているんだよ、という話をしました。

 

※ https://pages.switch-science.com/letsiot/temphumidpress/

 

 

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機械の観測にも人間の思いがこもっていることを伝える

 

でも、そうすると「じゃあ機械が勝手にやってくれるじゃないか」ということになってしまうので、実は機械による観測と人間がする観測を組み合わせ、協調することでどんどん精度が良くなる、という話や、機材のメンテナンスの重要性といった話につなぎました。

 

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最後に、実は皆がmicro:bitで作った装置で取ったデータと気象庁で計測したデータは、かなり近い値が出るんだよというような話をした上で、実際に自分で開発した重力計を南極に持ってきて南極で試している方に、装置の実演をしていただきながら、「好きなものを追求することが大事だ」という話をしていただきました。

 

そして、その後は40年以上技術者として働き、南極観測に4回参加しているという方に、機械には設計者の思いがこめられていること、大人になった今でも悩みながら続けていること、といった話をしていただきました。

 

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生徒ファーストで「おもしろいこと」を見つけるきっかけを作る

 

結局私がたどり着いた答えは、「南極ファースト」ではなくて「生徒ファースト」で考えることだ、というところです。実際に自分が見ている生徒は、コロナ禍で本当にたくさん我慢をしてきたり、夢と現実の間でいろいろなことを諦めかけたりしている子がけっこう多いのです。ですから、あらためて「頑張ろう」「真剣に」「○○のために」「責任感」みたいなことを伝える必要はないだろうと、とにかく楽しんで取り組んでいこう、というところをかなり強めに出した授業にしました。南極の魅力や崇高さというのは、既にいろいろな方がたくさん伝えていますが、「技術」およびこの視点の授業は、今までにあまりない形を提供できたのではないかと思います。

 

また、右の写真は、Pythonでプログラミングしたドローンを持ってきて飛ばしていた隊員の様子です。これは1万円くらいで買うことできるものです。最初に南極の景色が「ポケモンGO」の感覚に似ている、というお話をしました。南極は確かに特別な場所ですが、いろいろな技術に興味の目を向けてみると、日本にも面白いものが実はたくさんあるのです。南極まで行かなくても、実は楽しいものは身近にある。これもまた、伝えてあげたいことでした。

 

事後アンケートからも、そういったところにうまく共感してもらえたかな、と思っていて、これは情報科の教員としても大きなカタルシスを得られる授業になったと感じています。

 

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情報科と南極

 

最後に、演題とした情報科と南極をどのように絡められるか、ということにつきまして。

 

南極授業の中でもたくさん実例を挙げることができましたが、他にも、国際的な気象ネットワークの話、気象のシミュレーションをしている話、海に沈めた装置にpingを送ってみたり、GPSで地面の移動量を測ったり、ズレを使ってオーロラや電離層の観測をしたりとか、まだまだ本当にたくさんの情報科ネタが南極にはあります。

 

取り上げることができませんでしたが、Rocket Telemetry棟という建物もなかなか面白いものでした。人工衛星に取って代わられる前は、ロケットを打ち上げて大気の観測をしていたのだそうです。そのときの名残がまだ残っていて、技術の移り変わりという意味でも、昭和基地は本当にネタの宝庫でした。授業で出せなかったネタについては、「教員派遣ブログ(※)」というブログにたくさん載せてありますので、よろしければご覧になってください。

 

※ https://nipr-blog.nipr.ac.jp/antarctic-teacher/

 

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悔しかった思いもけっこうありました。本当は、南極で取った計測データを、途中で日本に送って、子どもたちに分析してもらうこともやりたかったのですが、正直意味のあるデータがあまり取れなくて、これは実現しませんでした。IoTに関しても、動機付けとしては面白く機能したと思っていますが、本当はIoTそのものが問題解決になるはずで、隊員の日常生活の中で何か役に立つことができたりすれば理想だったかな、と思っています。

 

ただ、今回の派遣で、南極界隈で情報科の知名度は少し上げられたかなと思います。今は高校で全員が情報科を学ぶことや、授業はWordとExcelだけではないというところを理解していただくことかできました。

 

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 今後も教員派遣というプロジェクトはまだまだ続いていくと思います。情報科で2人目の観測隊員がいつか出ることを夢見て、今回ここに発表として、派遣記録を残させていただきました。最後にこちらは私が南極で全て撮影してきたペンギンの写真です。本当にたくさんのペンギンに会うことができました!

 

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第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 動画発表より