事例231
1人1台端末によって「できるようになったこと」と「できなくなったこと」
東京学芸大学附属高校 飯田秀延先生
1人1台端末になって新たな可能性がたくさん出てきていますが、一方で、「1人1台のコンピュータがあるのなら、これまでのようなコンピュータ教室は要らないのではないか」という話が一部で出ていると聞いています。私は昨年まで都立高校にいましたが、この4月から東京学芸大学附属高等学校に着任しました。そこで、1人1台端末が導入されている本校での「情報」の授業が、どのように行われているかを紹介しながら、今後の1人1台端末時代の授業の可能性をお話しします。
まず、本校の概要を説明します。東京都世田谷区にあり、1954年創立です。各学年8クラスの規模で、ほとんどの生徒が4年生大学へ進学します。
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今年で3年目の「1to1(1人1台PC)プロジェクト」
3年前から、本校では「1to1(1人1台PC)プロジェクト」という名称で、全ての教員がICTを活用した取り組みを積極的に行っています。今年で3年目となり、全校生徒に端末が行き渡りました。Google Workspace for Educationを活用しながら、全ての教員がさまざまな場面で活用しています。詳細につきましては、本校のウェブサイトで研究紀要(※1)を公表していますので、ぜひそちらもご覧ください。
「1to1( 1 人1 台PC)導入による成果と課題(2)」東京学芸大学リポジトリ
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こちらのグラフは、昨年の1年生が、どの教科・科目で、どのぐらい端末を使っているのかというものです。ほぼ全ての教科・科目で何らかの形で使用しています。生徒は、体育以外の授業では必ず端末を持参して授業を受けることになっています。こちらは昨年のデータで、今年は全員が端末を持っていますから、さらに使用率が上がっています。
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こちらは、授業の他にどのような時に使っているのか、という調査の結果です。今年度は全ての生徒が持っていますので、クラス活動、部活動の連絡、委員会活動などにも使っていて、使用率は100%に近いです。スライド右下は、ある生徒の画面です。個人差はありますが、おおよそ9~15程度のclassroomに属しています。
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今年でプロジェクトが3年目となったことについて、何人かの先生たちからどのような感じであるのかを聞いてみました。「アプリケーションの操作方法を教える必要がなくなった」というのが2、3年生の授業担当者からの声です。彼らは1年生のときに、いろいろな活用をしていますので、授業中に、「じゃあ、これこれを提出してね」と言うだけで、ほぼ全員できるようになったそうです。
「4月当初のclassroom作成数は500を超えていた」というのがClassroom管理者からの声です。また、「出欠や通知表もオンラインになったので、印刷や押印が不要になり、非常に楽になった」というのが学年教務担当者からの声です。このように、1to1になっていろいろな校務や情報共有も、非常に便利になったということがいえます。
1to1になって、「できなくなったこと」
ただ、一方で、1to1になったことによって、できなくなったこともいくつかあります。
こちらのスライドは、1年生の「情報I」の授業の様子です。視聴覚室というところに生徒が自分の端末を持ち寄って授業を行っています。教員の画面は前と後ろにあるプロジェクターで映しています。生徒は自分のPCを持ち込んで、私から提供される資料を見たり、教科書や配布プリントを見たりしながら授業を受けています。生徒の前にはiMacが並んでいて、充電がなくなったり、端末を忘れたりした生徒、あるいは、大きい画面が良いという生徒は使ってもよいとなっていますが、ほぼ誰も使っていません。
いわゆる「コンピュータ教室」にあって、この部屋にないものを青で示しました。学校によってはあるかもしれませんが、本校にはプリンタや書画カメラ、中間モニタがありません。そして、ネットが遅い、しばしば切れる、昼休みにつながらないという問題もあります。高性能な大画面のPCはありません。また、別途インストールが必要なソフトも使用できません。もしかしたら、今後、1人1台端末が広がってくると、こういった環境や、教室での授業は増えてくるかもしれません。
では、私がこの4月からどういう改善をしたのかを黄色い字で示しました。プリンタがないので、ネット上で提出する。書画カメラがないので、スマホをUSBケーブルでつないで映す。中間モニタがないので、できるだけ操作方法を配信してわかるようにするといった工夫をしました。ネットが遅いのは仕方がないので、あまりネットに依存しないような題材を選ぶようにしています。
また、インストールが必要なソフトについてはウェブで動作するようなものを探してきたり、別の方法で提供したりしました。そして、高性能な大画面PCがないのは諦める、ということで対応しました。
1to1になって、「できるようになったこと」
できなくなったことはありますが、一方で1人1台端末になって、できるようになったこともあります。
一つの例ですが、学習指導要領解説の39ページに、このような例が載っています。特に、この赤い太字で示した『グループウェアが提供する簡易的なもの、アンケートの作成、収集、分析などの機能を提供するインターネット上のサイトを使用する』。ここに対して、今回は1人1台端末になることによって、可能になった実習をご紹介します。
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アンケート実習について、私は以前、次のような流れで授業をしていました。まず、グループでテーマと仮説を決める。その後アンケート用紙をWordで作成をして印刷をする。それを配布、集計し、集計結果をExcelでグラフにまとめる。まとまったグラフを代表者がPowerPointを使って全体に発表し、それをお互いに相互評価をして、集計ソフトを使って集計する、といった流れです。
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それに対して、今回1人1台端末になって、どういった改善ができたのか示します。こちらが今回行いました実習の流れです。
まず、グループでテーマと仮説を決める。これはドキュメントを使って、お互いにブレーンストーミング等をやって、テーマを決めます。次にFormsの機能を使ってアンケートを作成します。集計は自由に任せたので、Formsを使うグループもあれば、スプレッドシートに写してグラフにしたり、Excelにエクスポートして集計したりするグループもありました。
次に代表者による結果の発表では、Googleスライドや、PowerPoint、あるいはKeynoteで発表するグループなどもありました。そして最後にFormsを使って相互評価をする、といった流れになりました。
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クラスに提供したclassroomの画面です。実習の説明や、中間評価も行い、グループ学習だけではなくて個人レポートも課しました。
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「実習の説明」画面の一例です。生徒はグループごとにこの画面を見ながら、全体のスケジュールについての説明を理解していきます。各時間でどういうことをやって、何を提出するのかも説明しています。
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評価のポイントがこちらです。この評価ポイントに従って、相互評価をすることを最初に示していますので、これに従って発表スライドを作成する流れになっています。
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こちらは、各班でテーマと仮説を検討している様子です。よく見てみると面白いのですが、手前のグループは真ん中を向きながら作業していますが、後ろのグループはみんな違う方向を向いて、誰も真ん中を向いていません。また、生徒がうろうろしながら進めているグループなど、グループごとにいろいろな様子が見て取れます。
各班のアンケートフォームの画面です。各班(1班~6班)が、それぞれアンケートフォームをまとめた後、ここに生徒がアクセスをして、アンケートに答えます。
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個人のレポートも簡単に課すことができるようになっていますので、並行して個人レポートを課しています。
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あるグループで共有しているファイルの例です。アイデア出しのフォームや、発表の原稿、Forms、スライドなどがあります。グループによってあったりなかったりしますが、このように活用しながら、今回、プロジェクトを進めてもらいました。
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こちらが各班で発表スライドを作成している様子です。リハーサルをしたり、お互いに講評したりしながら手直しをしています。
相互評価をするときに使ったフォームの一部の画面になります。今回、それぞれの班へ向けて、4つの評価項目に対する5段階評価をして、コメントも入れるという相互評価を行いました。
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授業の最後にフィードバックをした画面です。それぞれの4つの項目に対する5段階評価が、各班でどうだったかを、その場ですぐに示しています。最後にコメントをフィードバックして、今後の授業に生かしてください、という流れにしました。
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できる範囲で「やってみる」
今回の実習を行ってみて、まず、教員からの目線でいうと、紙が不要になった、あるいは資料・課題の配信が簡単になった、課題の採点も楽になった、相互評価の実施が楽になった、ということがあります。また、オンラインのおかげで、授業時数も、配布したり回収したり集計したりという手間が省けたので、2時間程度の短縮になっています。
生徒の目線からいうと、今回グループで「問題解決」をするという一連の流れを体験できました。本校は、SSHとして、探究活動もしていますので、その辺りでも今回の体験が相乗効果を表わしていると思っています。あと、グループで情報を共有する有効性を、生徒たちも実感しています。これは情報科に限らず、他の教科での課題にもどんどん波及しています。
今回、1人1台端末になって特に私が感じたことは、1人1台端末の環境だと、「走りながら修正」をするのが非常にやりやすいということです。いろいろ課題を出しながら生徒の反応を見て、その場で修正をする。なので、例えば1時間目に授業をやったものと、3時間目に授業をやったものとでも、微妙に変える、なんてこともやりやすい。
ぜひ、できる範囲でいいですので、とにかくやってみてください。やってみたら、生徒からいろいろな声が出てくると思いますので、その声を聞きながら、さらに工夫していく。そのことによって新しい実践が生まれますので、ぜひ皆さんも、どんどん積極的に新しいことをやってみて、やりながら修正するということを行っていただければと思います。
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今後の改善の方向性
今後の授業改善についてお話します。このスライドは、本校の地学の先生が取り組んでいる例です。
こちらの地学の先生の例がどういう内容かというと、『課題:「本源マグマ」から「結晶分化が進んだマグマ」はどのように変化しただろうか?説明するための資料を作成し、資料を用いて説明する様子をムービーに撮り、投稿しよう!』という課題でした。
本校は、授業実践研究会(※2)というものを年に1、2回開催しています。今年度は既に6月に開催し、これはその中で発表した内容です。授業実践研究会は無料ですので、ぜひご参加いただければと思います。
(※2)東京学芸大学附属高等学校 本校の研究活動 授業実践研究会
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ちなみに、今回の授業実践研究会は保護者にも公開して、多くの方が参加されました。特に1to1端末は高価ですので、それが授業でどのように活用されているのか、ということについては、保護者も関心が高いです。そのため、このような授業実践の公開は、保護者からも好評を博しています。
この例のように、他の教科でもいろいろな面白い実践があります。なので、今後の改善の方向性として、まず一つ目に、新しい形態の課題の取り組みをしたいと考えています。特にICTを活用したパフォーマンス課題というものを、どんどん工夫しながら取り入れていきたいと思っています。
二つ目に、特定のアプリに依存する教材は、環境が変わったときに使いづらいため、できるだけウェブ上で動作するものに置き換えたり、映像資料などに置き換えたりしてきたいと思っています。授業をやりながら、アプリを新たに作ったり探したりすることは、なかなか大変なのですが、今こつこつとやっている最中です。
三つ目は、CBTやIRTの検討をすることによって、新たな入試にも対応したいと思います。
四つ目は、観点別評価に関して、どう評価をするのか、あるいは納得性をどう得られるのか、さらに生徒の変容をどう表出させることができるのかということを念頭に置いて課題を出していかれるような授業を展開していきたいと思っています。
まだ私も実践途中ですので、いろいろ改善をしたいと思います。今後も結果が報告できるように引き続き頑張りますので、ぜひ皆さまからのご意見をいただければありがたいです。よろしくお願いします。
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[質疑応答]
Q1.1人1台端末の機種選定では、スタイラスペンが付属していないことが問題とされるほどタッチパネル機能が重視されていますが、MacBook AirはAir Barを付けないとタッチパネルにならなかったと記憶しています。タッチパネル機能、スタイラスペンの必要性についてはどのようにお考えでしょうか。また、iPadなどのタブレット型ではなくMacBook Airを機種選定した理由をお教えください。
A1.飯田先生 MacBook Airの機種選定については、私が4月に来たときに既に決まっていたので、検討の経緯を詳しくは知らないのですが、その辺りも十分検討したと聞いています。
今、来年度、再来年度以降の機種選定について懸案中の問題なのが、BYODについてはどうするのかということです。生徒からも、「家にWindowsマシンがあるのですが、Macを買わないといけないのですか」という話を聞きます。今年までは有無を言わさず一律、リースで買ってもらっています。ただ、いつまでもそうしているのは、保護者の負担も大変ですので、来年度以降は、BYODも視野に入れながら機種選定をしているところです。
Q2.生徒間でスライド等を共有して作成された際、スライドの共有は生徒自身に操作をさせたのでしょうか。それとも教員が共有用のスライドなどを、あらかじめご用意されていたのでしょうか。
A2.飯田先生 今回は、私は共有フォルダだけ準備しました。その班のグループのメンバーだけが読み書き可能なフォルダを作り、そこに自由に作らせるようにしました。実は全班が使ったわけではなく、いくつかの班は共有しないで進めているところもあり、そこも含めて生徒の自由に任せました。
Q3.アンケート機能が手軽に活用できるようになりましたが、アンケート調査をさせる際に先生が注意点として生徒にしている説明や、気を付けて取り扱っていることなどはありますか。また、相互評価や因果関係についてどのように説明されていますか。
A3.飯田先生 アンケートについては、並行して行っているSSHの探究活動でも、その辺を専門に研究している教員がいるので、そこでも詳しく説明をしています。例えば一つの設問には一つのクエスチョン、または、設問で誘導しないなど、いろいろ細かい説明はしています。私からも、ネットにあるサイトを紹介し、10分~20分ぐらい説明をしています。これらをまとめたスライドもあって、有名な某予備校のグラフや3Dの円グラフはあまりよくないといった話もしています。
あと、相互評価については、今年、日本文教出版の教科書を使っていますが、教科書の相互評価、相関関数のページなどを紹介したり、テキストマイニング使ったりしています。因果関係や相互評価については、あまり詳しくは突っ込んではいないですけれど、例えば、アイスが売れると水死者が増えるというような話を少しして、ふんわりと理解してもらうようにしています。最後のフィードバックのところで説明して、みんなが納得し、その後のSSHの探究活動にも、つなげていければと思っていってみました。
第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 分科会発表より